1週間経ち、トニーの容態が安定してきたため、NYの病院に移ることになった。搬送後もトニーは麻酔で眠ったままだったが、3日後には麻酔から覚醒させることになった。
そして数時間後、トニーの瞼がピクっと動いた。
「トニー……」
手を握りしめたペッパーが呼びかけると、トニーはゆっくりと目を開けた。
「気がついた?」
「ぺ…ぱ……」
視線を彷徨わせていたトニーだが、妻を見つけると嬉しそうに目を細めた。
「あなたの追跡装置のおかげで、助かったの。犯人たちも捕まったわ。だから安心して」
頷いたトニーは、ぼんやりする頭を覚醒させようと小さく首を振った。誰が助けに来てくれたのかと尋ねようとしたが、口の中がカラカラで、上手く言葉が出てこない。するとペッパーはストローで水を飲ませてくれた。
「ローディとピーターが助けに来てくれたの。それからモーガンも…」
娘の名前にトニーは少しだけ目を見開いた。
「あの子が作っていたアーマーが、役に立ったのよ。モーガンはやっぱりあなたの娘ね」
瞬きをしたトニーは、娘の姿を探すかのように視線を動かした。
「モーガンは寝てるわ」
ソファの上で丸くなって眠っている娘のそばに向かったペッパーは、彼女の肩を揺さぶった。
「モーガン、パパが目を覚ましたわよ」
「あと5分……」
寝ぼけた声で答えるモーガンを起こそうと、ペッパーは先程より強めに肩を揺さぶった。
「モーガン、起きて」
するとモーガンは、大欠伸をしながら起き上がった。まだ半分眠っているのか、目を擦っている娘の顔をペッパーは覗き込んだ。
「パパが起きたわよ」
ピタッと動きを止めたモーガンは、物凄い勢いで立ち上がると、ベッドのそばに駆け寄った。
「パパ!!」
左手を握りしめたモーガンは、トニーが笑みを浮かべているのを見ると、ポロポロと涙を零し始めた。そして、父親に抱きつくと小さな子供のように泣き始めた。
抱きつかれた瞬間、身体中が痛み、悲鳴を上げそうになったトニーだが、痛みよりも娘が腕の中にいる喜びの方が勝っていたので、左腕をゆっくり動かすと、泣き続ける娘の背中を撫でた。
***
翌日になると、トニーは話ができるようになった。
着替えを取りに家に帰っていたペッパーとモーガンが戻ってくると、主治医が状態を説明するとペッパーに告げた。そこでモーガンは先に病室に向かった。
トニーは目を覚ましていた。
「パパ、おはよ」
「おはよう…」
掠れた声だったが、昨日よりもしっかりとした声に、モーガンは安心した。
そこで、アーマーのことを聞いてみようかと思った。だが、父親はまだ話すのも辛そうなのだから、聞いていいものかモーガンが迷っていると、トニーが口を開いた。
「モーガン、ありがとう…。お前が…助けに…来てくれたんだろ?」
助けただなんてとんでもないと、モーガンは慌てて首を振った。
「私はただローディおじさんたちに付いて行っただけよ」
が、トニーは嬉しそうに目を細めた。
「だが…ペッパーが…喜んでいた。お前がそばにいてくれて…心強かったと……」
父親はどこか誇らしげだった。そこでモーガンは、父親に改めてアーマーのことを話すことにした。
「ねぇ、パパ。アーマーを作っていたこと、黙っててごめんね。それから…気づいてたのに、気づかないふりをしてくれててありがと。私ね、昔からずっとパパって凄いなって思ってたけど、自分でアーマーを組み立ててみて、改めて思ったの。パパって本当に凄いって。パパがこっそりヒントを出してくれたけど、私にはパパみたいなアーマーを作るのはまだ無理だった。こうしたいって色々アイデアは浮かんでくるんだけど、どうやったらできるのか、分からないことだらけだった。だからね、私、もっともっと沢山勉強しなきゃって気づいた。それから、パパにもっと色んなことを教えてもらわなきゃって…。勿論ママにも。ママの言葉を思い出したの。ローディおじさんたちに付いてパパたちを助けに行くべきか迷った時に…。ママ、よく言ってるでしょ?『迷った時は自分の心に従え』って。迷ってた私の背中を押してくれたのは、ママの言葉だった。私の目標はパパとママみたいになること…。小さい頃からそう思ってたけど、今回のことで、もっと思うようになったわ」
娘の言葉を黙って聞いていたトニーだったが、
「そうか…」
と一言呟くと、嬉しそうに笑みを浮かべた。
モーガンは小さい頃から『大きくなったら、パパとママみたいになる』とずっと言っていた。
今回の件で実感した。こうやって自分たちの思いは娘が受け継いでくれるのだと…。嬉しかった。決して完璧な親ではないが、自分たちの背中を見て娘は育ってくれたことが…。
そこでトニーは、娘に頼み事をすることにした。きっと彼女が喜んで引き受けてくれるであろう頼み事を…。
「なぁ…頼みがある。パパの右腕…モーガンが…作ってくれないか?」
するとモーガンが椅子の上で飛び上がった。まさかそんな重大なミッションを任せられると思ってもいなかったモーガンは、目を輝かせた。
「いいの?」
するとトニーは、大真面目な顔をして頷いた。
「頼むぞ、ミス・スターク」