ペッパーが風邪を引いた。だが、ただの風邪だと思いきや、病院へ連れて行くとインフルエンザと診断された。
インフルエンザと知ったペッパーは、私と娘にうつっては大変と、病院から帰ったその足でゲストルームへ閉じこもってしまった。
ということで、マスクをし厳重に対策した私はゲストルームを往復しているわけだが、1歳になったばかりの小さな娘には状況がよく理解できているはずがない。母親の姿がないと気付いた娘は案の定あちこちを探し始めた。
『ママは熱があるから寝てる』と言ってはみたものの、果たしてどれくらい理解できているか…。
むしろ、家にいればうつるかもしれない。誰かに預けようかと考えたが…。頼みの綱のローディは任務中、ハッピーも風邪気味。ペッパーの両親は、余程縁があるのか同じくインフルエンザでダウン、双子の義妹は仕事で来られない。そうかと言って赤の他人に預けようという気にはならず、結局は同じ屋根の下に置いているのだが…。
ただ幸いなことに、1日目は大好きな父親である私を独占できるという喜びの方が勝っていたらしく、「パパ」と嬉しそうに連呼する娘との時間を私も楽しんだのだった。
2日後。ペッパーの熱が下がったのを見届けた私がリビングへ向かうと、手に持っていたおもちゃを放り投げたエストがよちよちと走り寄ってきた。
「パパ!」
マスクを捨てアルコールで手をさっと消毒した私はエストを抱き上げた。
「ママは?」
やはり気になるのは姿を見せない母親なのだろう。
「ママは病気だ。風邪だ。うつるからママが良くなるまでは会えないんだ」
昨日から何度目かの言葉を発してはみたが、限界だったのだろう。エストは口をへの字に曲げると目を潤ませた。
「ママ……」
まずいぞ。これは嵐の到来だ。早く手を打たねば…。
と思ったが、時既に遅し。
小さく嗚咽を漏らしたのを合図としたかのように、決壊寸前だった大きな瞳から大粒の涙がボロボロと零れ落ちた。
「いや!ママぁ~!!」
腕の中で身体を捩らせたエストは、ペッパーを求め泣き叫んだ。
仕方ない。3日も母親に会っていないのだ。エストが産まれてペッパーが家をあけたことはほとんどなかったし、こんなにも会っていないのは、生まれて初めてだろう。だが、うつすわけにはいかないんだ。いや、ペッパーと接触している私と触れ合っているのだから、もうすでにうつっているかもしれないが…。
そんなことを考えながら小さな身体を抱きしめあやしていると、泣き疲れたのかエストは眠ってしまった。
ソファーに寝かせ涙で濡れた頬を拭うと、
「パパ…ママ…」
と、可愛らしい寝言が聞こえてきた。
「明日にはママに会えるからな」
タオルケットを掛け頭を撫でた私は、ペッパーの様子を見るためにゲストルームへと向かった。