キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャーの終盤ネタのためご注意を…。
マンダリン事件から10ヶ月。アベンジャーズの本拠地としてNYの自ビルを改装したトニーは、S.H.I.L.D.内部を揺るがしたあの事件発生時、NY にいた。
テレビでは仲間であり正義感の塊のような男を逃亡犯として報じており、傍らに寄り添うペッパーは彼を助けるよう涙を流し訴えていた。だが相手は S.H.I.L.D.なのだ。こちらから連絡を取れば、彼の居場所はすぐに突き止められてしまうだろう。何か目的があり逃げているに違いない。助けが必要なら、向こうから連絡が来るはずだ…。S.H.I.L.D.に事の発端を問いただしてもいいのだが、トニーは2年前のNYでの出来事以来、根本的には彼らのことを信用していなかった。NYで彼らは自分に死を命じた。それに1年前の事件の時は、自分どころかペッパーも苦しんでいるのに、何もしてくれなかったのだから…。
というわけで、テレビやネットから流れてくる情報を食い入るように見ていた二人だが、突然鳴り響いたけたたましいアラームに飛び上がった。
「どうした?!ジャーヴィス!」
『トニー様、S.H.I.E.L.D.の極秘データが流出しております』
ジャーヴィスの緊迫した声にタワーのセキュリティを緊急レベルに引き上げるように命じたトニーは、ペッパーに外に出ぬよう告げるとラボへと向かった。
ラボのモニターには大量の情報が溢れかえっていた。主にはS.H.I.E.L.D.内部の機密情報のようだが、自分の顔写真もあるところを見ると、アベンジャーズに関する物も含まれているようだ。だが、元々彼らが持っている自分の情報は掴んでいるトニーだったから、さほど心配することはないだろうと、他の情報を見始めた。
「ジャーヴィス、状況は?」
『トニー様に関する情報は、ほとんどありません。ただ…』
ジャービスが映し出した情報、それはS.H.I.E.L.D.創設者の一人である自分の父親の情報だった。
父親がS.H.I.E.L.D.の前身であるS.R.S.の一員であったこと、あのキャプテン・アメリカを生み出したスーパーソルジャー計画に関わっていたこと、そしてS.H.I.E.L.D.創設メンバーであることは知っている。だが、具体的に何をしていたのかはS.H.I.E.L.D.が隠していたし、トニー自身も知ろうと思わなかったため、調べたことはなかった。
「親父の情報か?今さら目新し…」
次々とジャーヴィスが映し出す情報を見ていたトニーだったが、とある情報に目が釘付けとなった。
それは、両親の事故に関する記事だった。20数年前の新聞記事。事故直後の車内でぐったりとしている父親の後頭部から肩にかけて、銃撃されたというマーキングがしてあるではないか。
20数年経ち明かされた両親の死の真相。
心の何処かでは感じていた。あの事故は単なる事故ではないかもしれない…と。だが両親の葬儀は国葬であったし、遺体と対面出来たのはほんの一瞬であり、詳しく調べることは出来なかった。それに検死官からも事故死だと報告を受けていたので、トニーはそうだと信じていたのだった。
「親父と…お袋は……殺されたのか?」
やっとのことで声を絞り出したトニーは、その場に座り込んだ。
『はい。ハワード様とマリア様の事故にはヒドラが関わっていたようです。ヒドラの一員であるDr.ゾラは将来ヒドラの危険分子となる人物を見分けるアルゴリズムを開発したようです。そしてヒドラはそれに従い大勢の人物を暗殺してきました。ハワード様もそのために殺されたようです。今の S.H.I.E.L.D.はヒドラに浸食されています。いえ、どうやらS.H.I.E.L.D.だけではないようですが…。それに、トニー様…リストの中にはトニー様のお名前も…』
両親はヒドラに殺された…。Dr.ゾラというやつが開発したシステムのせいで…。
今まで信じていたことは嘘だった…。両親の死の真相は隠蔽されていた…。
そして息子である自分も、ヒドラの『危険分子』にリストアップされている…。
ヒドラが自分の命を狙っている…。それもずっと昔から…。もしかすると…今まで闘ってきた敵は全てヒドラなのではないか…。いや、これからもヒドラは自分の命を狙い続けるだろう…。自分だけならいい。ペッパーも、そしていつの日か生まれてくるであろう子供も命を狙われ続けるのか?
突然、今までの出来事がフラッシュバックし、目の前には闘ってきた敵が現れた。敵は自分だけではなく、ペッパーにも銃口を向けた。
「じ、ジャーヴィス…ペ、ペッパーを…ペッパーを守るんだ…。は、早く…スーツを…よ、用意…」
パニックになったトニーの呼吸は乱れ始め、酸素を吸うことが出来なくなったトニーは床に倒れた。
『ペッパー様!トニー様が…』
ジャーヴィスの知らせにラボへ急いだペッパーは、床の上に倒れているトニーに気付くと顔色を変えた。
「トニー!」
床にうずくまったトニーは、息ができないのか胸元を押さえ苦しんでいる。
あの時と同じ…いや、それよりも酷いパニックに陥っているトニーを抱き起したペッパーは、まずは彼を安心させようと、背中をゆっくり撫で始めた。
「トニー、大丈夫よ。私はここにいるわ。ゆっくり息を吸って…」
ペッパーの腕を痛いほど掴んだトニーはゆっくりと顔を上げた。その表情は恐怖と怒りそして悲しみに満ち溢れており、堪らなくなったペッパーは彼の頭をぎゅっと抱きしめた。
そのままペッパーの胸元に顔を埋めていたトニーだったが、しばらくすると少し落ち着いたようだ。何度か深呼吸したトニーは、ペッパーから渡された水を飲むとそばのソファーに座り直した。隣に座ったペッパーを抱き寄せたトニーは、まだ小さく震えている手をギュッと握りしめると、ポツリと呟いた。
「…殺されたんだ…」
「殺された…?」
何度か深呼吸したトニーは話が見えず困惑するペッパーを見つめた。
「ペッパー……。親父とお袋は…事故じゃなかった…。殺されたんだ…」
トニーの両親は交通事故で亡くなったのは、公然の事実。それが『殺された』とはどういうことなのだろうか…。
「え…どういうこと…」
目を見開いたペッパーの声も震えている。彼女から視線を逸らしたトニーは、俯いたまま声を絞り出した。
「ヒドラに殺された。事故に見せかけて…。S.H.I.E.L.D.は知っていたはずだ…。それなのに何も言わなかった…。ペッパー…私が今まで信じていたことは嘘だったんだ…。全て嘘だったんだ!…もう誰も信じられない…」
目をギュッと閉じたトニー。まるで零れ落ちそうな涙を堪えるかのように…。
ペッパーは、何と言えばいいのか分からなかった。
20数年間信じていたことが嘘偽りだったのだ。当時を知らない自分でさえもショックを受けたのだ。当事者である彼はもっとショックを受けているはずだ。父親が作り、そして自分も少なからずその組織に身を投じているのに、最も重要なことを隠されていたのだから…。
トニーを見つめていたペッパーだったが、彼の頭を優しく抱え込んだ。
「トニー。私だけは信じて…。私のあなたへの愛は…。それだけは真実だから…」
ゆっくりと頭を撫でると、ペッパーの背中へ腕を回したトニーは何度も頷いた…。
拍手お礼再掲。The Pepperony 100 Challengeより