100.甘い罠 

「トニー、バレンタインだからプレゼントです」
ペッパー・ポッツがトニー・スタークの秘書になって初めてのバレンタイン。
いつもお世話になっているお礼ですとペッパーが差し出した箱を、トニーは内心ドキドキしながら開けた。
箱の中にはネクタイピン。それもオーダーしたのだろうか。彼の名前をモチーフにした物だった。
「さすがポッツくん。センスがいい」
嬉しそうに笑みを浮かべたトニーは、身に着けている高級ブランドのピンを外すと、早速彼女からのプレゼントを身に着けた。
「なかなかいいじゃないか。明日の会議もこれを付けて行く。それから、ポッツくん。この後暇か?」
突然の申し出にペッパーは戸惑った。折角のバレンタインだが、残念ながら予定はない。だが、トニーは…。
「私は何も予定はありませんが…。社長は御予定がおありです。ミス・ペレスとディナーの約束が…」
そんな予定あったか?と首を捻ったトニーだが、秘書であるペッパーの言うことはいつも正しいのだからそうなのだろう。
「ララだったか?」
「いえ、ローラです」
要するに、名前すらもきちんと憶えていないということなのだろう。
ふんっと鼻を鳴らしたトニーは、
「急用ができたと断ればいい」
と言うと、ペッパーの手を取った。
「ということだ。お礼にディナーを御馳走するよ、ペッパー」
「え?」
彼女との約束を蹴ってまで私とディナーを?!と、戸惑うペッパーだが、トニーはペッパーの手を握りしめたまま車に向かうと、ペッパーを助手席に押し込んだ。
運転席に座ったトニーは、携帯を取り出すと件の女性に電話をかけ始めた。
「スタークだ。ララか?…失礼、ミス・パレ…いや、ぺレス。今日のディナーだが中止だ。急用ができた。…あぁ。君との約束よりも大切な用事だ。…埋め合わせをしろだと?いつかな。では、失礼」
電話を切ったトニーは、後部座席に放り投げた。
「それから、ペッパー。君にプレゼントだ」
内ポケットから細長い箱を取り出したトニーはペッパーに渡した。
箱を開けたペッパーは思わず息を飲んだ。というのも、中にはダイアの光るネックレスが入っていたから…。
「これ…」
目を丸くしているペッパーにトニーは笑いかけた。
「あぁ、君に似合いそうだろ?いつも世話になっているからお礼だ。バレンタインだからな?」
照れ臭そうに頭を掻いたトニーは、エンジンをかけると車を発進させた。
「それより何が食べたい?君の食べたいものを食べに行こう」
ペッパーをチラリと見ると、彼女は早速首に掛けたネックレスを嬉しそうに見つめている。トニーの視線に気付いたペッパーはどうしようかと思ったが、この半年で縮まった二人の距離がさらに近づいたと感じた今日は、やはりあれが食べたいと顔を輝かせた。
「あなたがおすすめのチーズバーガーがいいわ」
そんな物でいいのか?と笑ったトニーだが、欲のない純粋な瞳に見つめられると車をUターンさせた。
「分かった。少し遠いが美味い店があるんだ。その後、映画でも行くか?」
「えぇ、楽しみだわ」
嬉しそうに頷いたペッパーの手を無意識に握りしめたトニーだが、ペッパーもその手をそっと握り返したのだった。

二人が出会って間もない頃のバレンタイン。実は二人ともお互いが気になっていればいいなぁと。

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