22:007.心とは裏腹に

一ヶ月に渡る入院生活も、クリントたちが頻繁に見舞いに来てくれたこともあり、寂しさを感じることなく過ごしたトニー。最も、ペッパーが毎日そばにいてくれたことが一番の理由だろうが…。
初めの一週間は、絶対安静のためベッドから起き上がることすら出来なかったトニーだが、二週目には起き上がりみんなと話ができるまでに回復し、日常生活が一応送れるようになった。そのため、まだリハビリで通院しなければならないものの、予定よりも早く退院の日を迎えることができたのだった。
だが、さすがに一ヶ月も寝込んでいたのだ。傷は治ったが体重も落ち足元もふらついているトニーをそのままボストンへ戻すわけにもいかず、リハビリもあるトニーはしばらくLAに残ることになった。そして、母親であるマリアも…NYへハワードをさっさと戻すと、そのままトニーとLAに居座ったのだった。

動きまわるとまだ傷口が痛む上に息切れがするため、その日もトニーはリビングのリクライニングチェアに座り本を読んでいた。
そこへやって来たのはマリア。手には紅茶と彼女お手製のお菓子がのったトレーを持っている。
「トニー、お茶にしましょ?」
椅子から立ち上がったトニーは、ソファーに向かって歩き出した。だが、未だおぼつかない足元では、なかなか思うように歩けない。
「さぁ、捕まって!」
手を広げトニーを支えようと…いや、抱きしめようとするマリア。そんな母親の手を振り払うと、トニーはゆっくりとだが自分の足でソファーまでたどり着い た。
「お袋、よせよ。気持ち悪い」
やたらと世話を焼きたがるマリアだが、そっけない息子の態度に頬を膨らませた。
「もう、いいじゃないの。ハワードもいないんだし…。それに、こんなに一緒にいるなんて、あなたが小学生以来かしら?」
マリアとしては、こんな機会でもなければトニーと一緒にいられないという思いと、今まで寂しい思いをさせてきたのだから…という思いがあるのだろう。だが、大学生にもなった息子にベタベタと纏わりつくのもやっぱりおかしいわよね…それにペッパーという恋人もいるのだから…と、これでも我慢しているのだった。
小難しそうな本から目を離さずにクッキーを摘まんでいる息子。
あの時、トニーを失いかけたハワードとマリアは、二度とこんなことは起こさせないと眠り続ける息子の前で誓ったのだった。あの時の誓いを思い出したマリアは、トニーに声を掛けた。
「ねぇ、トニー。今までごめんなさいね…」
突然母親に謝られたトニーは、顔を上げると目を丸くした。
「どうしたんだよ、急に?それに、何で謝るんだ?」
立ち上がったマリアは、トニーの隣に座ると手を握った。
「だって、何年もあなたのことを一人にしてきたのよ?あなたが眠っている時に、パパとも話し合ったの。もっと一緒にいる時間を作ればよかったって…。もし、あの時…あなたがあのままいなくなってたら…パパとママには後悔しか残らなかったわ…。だから決めたの。これからは、あなたとの時間を大切にしようって。もっとも今のあなたはペッパーちゃんと一緒にいた方がいいでしょうけど…」
そう言うと母親は寂しそうに笑った。
確かに小さい頃は不在がちな両親を寂しく思ったこともあった。だが、必死で仕事をする父親とそれを献身的に支える母親は、いつしか自分の目標になっていた。そして、両親が頑張るのも息子である自分のためだと思っていた。だから、傍にいなくても両親はいつも自分のことを愛してくれているとちゃんと分かっていた。心とは裏腹にいつもそっけない態度しかしてこなかった自分は、両親を恨んでいるように見えるのだろうか…。
黙ったままのトニーの肩を抱き寄せたマリアは、痩せてしまった息子の背中を撫でた。

そして、特に抵抗することもなくされるがままのトニーだったが、しばらくして母親が泣いていることに気付いた。
意識不明だった時には泣いていたらしい母親だが、病院で付き添っている時には涙を見せず、痛がる自分の腰をずっと摩り明るく振舞っていた。いつの間にか自分の方が大きくなってしまったが、幼少時には母親に抱きしめられるといつも安心していた記憶がある。
母親の背中にそっと腕を回したトニーは小さな声で囁いた。
「母さん…その…元気になったら…一緒に買い物に行かないか?」
今まで言われたことのないセリフ。小さい頃は一緒に買い物にも行っていたが、この数年は面倒だと見向きもしなかった息子の言葉に、マリアは飛び上がった。
「あなた、あれだけ嫌がってたのに、どういう風の吹き回し?」
耳を赤くしたトニーは照れ臭そうに鼻の頭を掻いた。
「別に…。たまには親孝行もいいかと思って…」
満面の笑みを浮かべたマリアは、トニーに抱きつくと顔中にキスをし始めた。
「おい!お袋!やめろ!」
バタバタと暴れるトニーだが、うっかり腰を捻ってしまい、小さく叫び声を上げた。
マリアに文句を言おうとしたトニーだが、ジャーヴィスが入って来たのに気づくと口を閉じた。
「トニー様、ペッパー様がいらっしゃいました」
ジャーヴィスの言葉に立ち上がったトニーは杖をつくと、玄関に向かって歩き出した。
「美味しいものを作っておくわね」
母親の言葉に手を振ったトニーは、ゆっくりと歩き出した。

23:105.運動不足解消法 

大学生トニー×高校生ペッパー。トニーとママの2月のお話。

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