③059.ヒミツの体験

付き合い始めて二週間。
あのトニー・スタークの恋人となったペッパーだったが、彼に憧れあわよくば付き合いたいと思っている生徒は数知れず。結局誰にも言えないまま、二人の関係は秘密となっていたのだった。
幸いと言うべきか、学年も違い授業の終わる時間も違うため、二人が校内で顔を合わせるのは部室でということが多く…と言いたいところだが、相変わらずトニーはほとんど顔を覗かせない。加えて、恋人になった翌日からテスト期間に突入したため、二人はあの日以来メールか電話でしかやり取りしていなかった。
そんな中でも、二人の関係は一歩ずつ前進していた。
トニーはペッパーのことを『ペッパー』と名前で呼ぶようになっていたし、ペッパーの方も今まで通り『先輩』と呼ぶことの方が多かったが、時折恥ずかしそうに『トニー』と呼ぶことも増えていたのだった。

ある日の放課後、帰宅しようとしていたペッパーは携帯が鳴っていることに気付いた。見るとこの時間にしては珍しく、トニーからのメールが届いたようだ。
『図書館で待ってる。3階の一番奥の書棚にいる』
ちょうど分からないところがあるのよね…と、教科書をカバンに詰め込んだペッパーは、友達に別れを告げると跳ねるように図書館へ向かった。

試験前ということもあり、図書館は必死な形相の生徒で溢れかえっていた。静まり返った図書館内に響き渡るペンの音。その間を縫うように指定された場所へ向かったペッパーは、一番奥の死角となった場所で壁に寄りかかって座り込み小難しい本を読んでいるトニーを見つけた。
「先輩?」
小声で呼ぶと、トニーは嬉しそうに顔を上げた。
「ペッパー。待ってたよ」
場所柄、囁くような声しか出せないが、それが返ってイケナイことをしているように思え、トニーの膝の上に座ったペッパーは恥ずかしそうに抱きついた。
「こんな場所があったのね」
本が好きなペッパーはよく図書館に来ていたが、人目につかないこんな場所があるとは知らなかった。
「そりゃそうだろ。高校の図書館で、軍備設備や兵器の本を借りに来る奴なんて、俺くらいしかいないさ」
澄まして言うトニーの言葉に辺りを見回したペッパー。トニーの言うとおり、英語ではない言語のタイトルがずらりと並んだそのコーナーは埃をかぶっている。先ほどトニーが読んでいた本もロシア語らしき言語で書かれており、トニーは一体何を勉強しているのかしら…と、ペッパーは目を白黒させた。そんな彼女の様子に気付いたトニーは苦笑い。
「うちは軍の武器を製造している会社だからな。…もっとも、これからは違う分野にも進出しなければならないだろうけど…」
「先輩…ちゃんと将来のことを考えてるのね…」
感心したように声を上げたペッパーだが、照れたように頭を掻いたトニーは慌てて話題を変えた。
「ところで、秘密の逢瀬にはもってこいの場所だろ?」
『逢瀬』と聞いたペッパーは、数々のトニーの噂を思い出し、眉をひそめた。
「それって…」
疑うような視線を向けたペッパーに、苦笑したトニーは彼女の頬にキスをした。
「違うさ。別にオンナを連れ込んでたわけじゃない。一人になりたい時にここでサボってたんだ。いい機会だから言っておくが…俺は噂されているみたいに遊んでないからな。付き合ったのは君が初めてだし、君と寝てからは他のオンナに触れてもいない。もちろん、学校内の生徒とは誰とも寝てない」
「学校内は…でしょ?ということは、他の学校の生徒とは…」
顔を曇らせる恋人。俺はどれだけ遊び人と思われているんだろう…と内心ガッカリしたトニーだが、彼女には真実を伝えようと必死だった。
「パーティーで知り合った一夜限りの年上のオンナばかりだ。それも向こうも似たようなものだから、俺の友達ともヤったようなオンナばかりで…」
どちらにせよ、過去にオンナがたくさんいたのは真実だ。もごもごと口ごもったトニーは、気まずそうに顔を背けた。
例え遊んでいたとしても、それは昔のこと。私と関係を持ってからは、一度も遊んでいないというトニーの言葉は事実だろう…。そう思ったペッパーは、トニー の唇にそっとキスをした。
「分かってるわ。先輩が私のことを大切に思ってくれてるのは。だから先輩の言葉を信じるわ。でもね…ここでは…イヤ…」
途中で、背中を這い回る手に気づいたペッパーは、顔を赤らめた。
「あぁ、そうだな。でも、二人きりになるにはもってこいの場所だろ?今日はキスだけ。試験が終わったら、あの日の続きをしよう」
「うん…」
思いがすれ違ったまま関係を持ってから、二人はキスしかしていなかった。恋人になった今、改めて関係を築きたいと思っているのはトニーだけではなくペッパーも同じだった。
顔を見合わせ笑った二人は、どちらともなく唇を合わせた。次第に深くなるキス。子供のようなキスしか知らないペッパーは、トニーに先導されるようにただ身を任せていた。
「んぅ…」
ぴちゃっと音をたてて唇を舐めたトニーは、薄っすらと開いた唇の隙間から舌を侵入させた。トニーの舌を迎え入れたペッパーの舌は彼のものに絡められ、飲み込みきれなかった唾液が口の端から流れ落ちた。
初めてのキスに頭がくらくらし始めたペッパーは、トニーのシャツをキュっと握り締めた。
息も出来ぬほどの激しいキスにペッパーの身も心もトロトロに溶け始め、お腹の奥が熱くなり始めたペッパーは、モジモジと太腿を擦り合わせた。
「と、とにー…」
舌足らずなその声に理性を必死で保とうとするトニーだが、少しだけなら…と、Tシャツの下に手を入れると素肌を撫でた。
「ひゃっ!!」
思わず大きな声を出したペッパーの口を慌てて塞いだトニーは
「しー…バレるぞ?我慢しろよ」
と、ニヤニヤと笑った。
「だ、だって…」
これ以上ないほど顔を真っ赤にしたペッパーは、潤んだ瞳でトニーを見つめた。
(さすがにこれ以上はマズイな…)
今日はこのくらいに…と、トニーが言おうとしたその時、賑やかな声が近づいてきた。
「誰か来たわよ?!」
「誰だよ…まったく…」
泣き出しそうなペッパーを立ち上がらせたトニーは、身なりを整えると転がっているカバンを持たせた。
「俺は大丈夫だから、向こうの棚から回って外に出ろ」
名残惜しそうにキスをしたペッパーが反対側の棚に身を隠すと、男子生徒が数名トニーの元へ近づいていくのが見えた。
「いたいた!トニー!頼む!先生にレポート出されたんだ。教えてくれよ~」
「なんだよ、クリントとスティーブか。せっかく一人で静かだったのに。仕方ないな。テーマは?」
楽しそうに話すトニーの声を聞きながら、ペッパーはそっと階下へと降りて行った。

④065.あの日の続き

高校生パロ。1月のお話。

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