18.celebrity! au

トニペパ本に掲載した、ハリウッド俳優女優なトニペパauから。
***
トニーの新作映画は、西部劇風のアクション映画となった。西部劇ということで、馬に乗るシーンが山ほどあり、元々乗馬は得意なトニーだが、もっと上手く乗りこなしたいと、ヴァージニアの実家でソーに特訓してもらうことになった。
そこで2週間程、ヴァージニアの実家に滞在することになった。これを喜んだのは、ヴァージニアの両親は勿論のこと、ソーもだった。そして2つになったモーガンとレニーは、沢山の動物に大喜び。
「パパ!ママ!うさぎちゃん!」
ぴょんぴょん跳ね回るウサギを追いかけていたモーガンは、向こうからやって来たソーに気づくと、走り出した。
「ソーおじたん!!!!」
キャーっと歓声を上げたモーガンは、ソーに飛びかかった。
「お姫様、元気にしてたか?」
モーガンを軽々抱き上げたソーは、肩車をすると笑い声を上げた。

レニーはトニーに抱かれて、ヤギを眺めていたが、顔を上げた彼は何かを見つけた。
「あれ、なぁに?」
見るとアルパカの群れがこちらに向かってくるではないか。昔からアルパカはいたが、確か1頭だけだったはず…。それなのに、目の前にやってきたアルパカは、10頭以上いるではないか。
「アルパカが増えてない?どうしたの?」
さすがのヴァージニアもポカンと口を開けたまま両親を見つめた。するとポッツ氏は得意げに鼻を擦った。
「この間来た時、モーガンとレニーがアルパカが気に入って離れなかっただろ?だから増やしたんだ」
可愛い孫のためだと頷いている両親に、ヴァージニアは苦笑い。というのも、『モーガンとレニーが気に入ったから』と、2人が生まれて以来、様々な動物が増え続けているのだ。そのため、今では動物園のようになっている。だが、両親は勿論のこと、ソーやこの場で働いている全員が、モーガンとレニーのことを可愛がってくれるのだ。嬉しくなったヴァージニアはトニーと顔を見合わせると、ふふっと笑みを浮かべた。
見つめ合う2人に、ポッツ夫人はニヤリと笑った。
「ところで……」
トニーににじり寄った彼女は、彼の耳元で囁いた。
「3人目はまだなの?」
目をキラキラさせている義母に、トニーはははっと渇いた笑い声を上げた。
双子が2歳になり、3人目を…と考えているのだが、なかなか出来ないなんて、夫婦の性生活を義母に言えるはずはない。が、苦笑いしているトニーの肩をポッツ夫人はバシバシ叩いた。
「トニーったら、もっと頑張って頂戴!」
キャーキャー言いながら盛り上がる義母に、トニーは引きつった笑いを浮かべるしかなかった。

その夜。
モーガンとレニーは祖父母と寝ると言ったため、寝室にはトニーとヴァージニアの2人きりとなった。
「お義母さんに3人目はまだかと催促されたぞ?」
「えっ?!」
トニーの言葉に真っ赤になったヴァージニアは、ベッドの上で飛び上がったが、トニーは妻の身体をベッドに押さえ込んだ。
「期待に応えられるようにしないとな?」
ニヤニヤと笑ったトニーは、妻のパジャマを脱がせると、部屋の隅に向かって放り投げた。
「と、トニー!」
ここは家ではないし、2つ先の部屋には両親と子供たちが眠っているのだ。ますます顔を赤らめたペッパーは、トニーの身体の下でジタバタともがいたが、自分もパジャマをさっさと脱いだトニーは、妻の頬を撫でると耳元で囁いた。
「大丈夫さ。お前がいつもみたいなデカい声を出さなければ…」
これ以上ない程真っ赤な顔をしたヴァージニアは、顔を隠すようにトニーにしがみつくと小さく頷いた。

撮影は半年に渡り、中西部の町で行われるため、ヴァージニアも子供達を連れて滞在することになった。いつもの如く家を借り、撮影が休みの日には、子供たちを連れて近くの公園やマーケットに足を運んだ。撮影所の周りにはパパラッチが張り込んでいるが、街中ではあまり見かけなかったため、一家はのんびりと家族の時間を過ごすことができた。

結婚後、2人はチャリティー活動にも力を入れ始めていた。それぞれの映画の撮影に合わせて、協力してくれたファンを現場に招待したりと、精力的に活動しているのだが、今回もトニーは抽選で選ばれた1組のファンを撮影現場に招待していた。
その日は、トニー主催のランチ会が開かれることになっていた。トニーは馴染みのシェフを時折呼び、スタッフや共演者のためによく食事会を開いていたが、今日はファンの招待日ということもあり、撮影のないキャストも大勢参加する、賑やかな会になっていた。そのため、ヴァージニアも子供たちを連れて参加することになった。
今回の共演者の中には、以前ヴァージニアも共演したことのある、ジェーン・フォスターがトニーの恋人役としてキャスティングされていた。
久しぶりの再会に、ヴァージニアとジェーンは抱き合い喜んでいる。母親はすっかり話に夢中になってしまい、モーガンとレニーは父親の姿を探した。すると、少し離れた所で、誰かと話し込んでいる父親を見つけた。そこで手を繋いだ双子は、父親の元へと走り出した。

「パパ!」
招待したファンと話をしていたトニーは、双子の声に気づくと立ち上がった。そして走ってきた双子を抱きしめると、軽々抱き上げた。
ファンは、可愛らしい双子の姿に歓声を上げた。というのも、トニーとヴァージニアは双子を出来る限りマスコミから遠ざけていたため、2人の姿は一度も写真に撮られたことはなかったのだ。一度レニーが1歳になったばかりの頃、ヴァージニアの映画に参加したことがあったが、結局そのシーンはカットされたのだ。そのため、トニーとヴァージニアの子供はモーガンとレニーという名前であることは知れ渡っていたが、姿を見たものは友人や知り合いを除いて、殆どいなかったのだ。

「子供たちの写真は撮らないでくれよ」
そう念押ししたトニーにファンは頷いた。彼らもまた、トニーのプライバシーは尊重していたからだ。
そこへヴァージニアもやって来た。再び歓声を上げたファンは、スターク一家とランチを共にし、夢のような一日を過ごした。

あと1週間で撮影も終わる。
トニーの撮影が終わった後は、入れ替わるようにヴァージニアの新作の撮影があるため、次はNYへ滞在することになっている。そろそろ荷造りをしなければ…と、双子を昼寝させたヴァージニアは、片づけ始めたのだが…。
そこへ、ハッピーから電話がかかってきた。
何と、トニーが落馬し、救急車で病院に運ばれたというのだ。
今日は馬で狭い路地を駆け抜けるシーンの撮影だった。トニーはほぼ全てのシーンをスタントマンを使わず自分でやっていた。というのも、彼の乗馬の腕前はスタントマンに匹敵する程だったからだ。
だが、今日のシーンは今までで一番危険だった。さすがのトニーも怯んだが、最も危険なシーンはスタントマンを使うことになり、それ以外は彼の腕前を見込まれて、トニー自身がすることになった。
撮影は順調だった。このまま何事もなく終わると思っていたが、真っ直ぐな路地をただ駆け抜けるだけの、比較的安全な撮影で、事故は起きた。物陰からエキストラの子供が飛び出してきたのだ。子供を避けようとしたトニーは、馬の手綱を急にきった。驚いた馬は暴れだし、トニーは馬から不自然な体勢で硬い地面の上に投げ飛ばされた。辺りにバキッという嫌な音が響き、トニーは悲鳴を上げた。その間にも馬は暴れ、倒れているトニーを蹴り飛ばした。

右肩と左足を骨折し、頭や腰も酷く打っており、驚いた馬に蹴り飛ばされ、肋骨も数本折れたというのだから、ヴァージニアは卒倒しそうになった。
双子を連れて慌てて病院へ向かうと、トニーは手術中だった。
暫く待っていると手術が終わり、病室へ通され、ヴァージニアは双子を抱き上げたままベッドの横の椅子に座った。
「パパ……」
「いたいいたい?」
頭や腕に包帯を巻き、左脚を吊った父親は青い顔をしており、双子は不安そうに母親を見上げた。
「パパはね、怪我をしたのよ。でも、大丈夫。すぐに元気になるわ」
そう言うと、双子はホッとしたように息を吐いた。

翌日、トニーは目を覚ました。
「ジニー…ごめん…」
開口一番謝罪の言葉を口にした夫に、ヴァージニアは首を傾げた。
「どうして謝るの?」
するとトニーは申し訳なさそうに頭を下げた。
「俺がさ、カッコつけて自分でやるって言ったばかりに、こんなことになって…。これからは、危険なことは絶対にしない。約束する」

幸いにも、残すシーンはほんの僅かだ。トニーの入院中は他のシーンを撮影することになった。トニーのシーンもスタントマンを用い撮影可能だったため、トニー自身が演じなければならないシーンは、彼が動けるようになり次第、撮影することになった。
撮影の方は何とかなるが、問題は自分たちの事だった。ヴァージニアは来週からNYで撮影が始まる。最初の数日は拘束される時間は短いが、2週目からは毎日一日中撮影がある。となると、子供たちの面倒を誰が見るのか…ということになる。トニーは暫く入院しなければならないし、退院後も撮影があるため、すぐにはNYに移動することはできない。だが、ヴァージニアの撮影を延期する訳にもいかない。

「俺が面倒みるよ」
最悪無理矢理退院して、家で安静にしておけばいいだろうと考えていたトニーだが、ヴァージニアは顔を顰めた。
「無理言わないで。あなたはまだ入院していないといけないし、退院しても一人で動けないわ。子供たちの世話をするのは無理よ」
妻の言い分は最もだが、双子が産まれた時に決めていた。子供たちはなるべくベビーシッターに任せず、自分たちの手で育てること、そのため2人同時に仕事を入れないことを…。
「だけど、君も無理だろ?」
自分が何とかするしかないと考えたトニーだが、ヴァージニアは首を横に振った。
「トニー、あなたはまず怪我を治すことが最優先。子供たちは私が連れていくわ。ママに手伝いに来てもらうから大丈夫よ」
トニーの手を握ったヴァージニアは、にっこり笑った。
「心配しないで。大丈夫だから」
そう言われると、トニーも頷くしかないので、結局、ヴァージニアは子供たちとNYへ向かった。

トニーのことはハッピーが甲斐甲斐しく世話をしてくれた。ヴァージニアに『トニーのこと、お願いね。ハッピー、あなたしか頼れる人はいないの』と言われたものだから、ハッピーはやたら張り切って世話をしてくれた。が、ヴァージニアや子供たちと会えないと、トニーはしょぼくれたままだった。

2週間後。
ギプスが外れ松葉杖を付きながら歩けるようになったトニーは、撮影に復帰した。本当はまだ安静にしておかねばならないのだが、残すシーンはあまり動かなくても良いシーンばかりだし、これ以上スケジュールに遅れが生じると、他のキャストやスタッフに迷惑がかかると、トニーは半ば強引に退院したのだ。
後ろ姿など顔が映らないシーンは代役で撮影済みだったため、顔だけの撮影とセリフの録音などを済ませ、残すは相手役の女優のジェーンとのキスシーンだけとなった。あの映画以来、やたらとキスシーンだけではなくベッドシーンを要求されるようになっていたが、ベッドシーンだけは勘弁してくれと、トニーは頑なに断っていた。

「スタークさん、ヴァージニアのご主人だから……何だか恥ずかしいですね…」
撮影直前に、トニーにはそう告げると真っ赤な顔になったジェーンだが、女優の顔を引っ張り出した。
「では、本番いきます!……用意…スタート!」
スタッフの声に、2人は演じ始めた。
椅子に座ったトニーの膝の上にジェーンは腰掛けた。本当は立ったままの予定だったが、トニーの左足はまだ万全ではないため、座ってのシーンになったのだ。
トニーの帽子を取ったジェーンは、首元のバンダナを引っ張った。トニーはジェーンの服の背中のボタンを外し始めた。するとジェーンはトニーの頬を掴むと口付けをした。キスを続けながらも、トニーはジェーンの服を肩までズラした。素肌を撫でられ、そのもどかしい感触に、ジェーンはビクッと小さく身震いした。唇を開いたジェーンは、トニーの口の中に舌を入れた。迎え入れるように彼女に舌を絡めたトニーは、ジェーンの背中に指を這わせた。
(ん…スタークさん……上手すぎ……)
本当に感じ始めたジェーンは、唇を離すと次のセリフを慌てて言った。
「ここで…抱いて…」
ジェーンの身体を持ち上げたトニーは、そのまま彼女を近くのテーブルに押し倒した。

カットと声が掛かり、トニーはジェーンの手を引っ張り起き上がらせた。
真っ赤な顔をしたジェーンに
「大丈夫か?」
と尋ねたトニーだが、足が痛み、気づかれないように顔を顰めた。
「は、はい!」
手早く服を直したジェーンは、トニーが顔を顰めたのに気づいていたため、彼を椅子に座らせた。
と、監督やスタッフが拍手し始めた。
「お疲れ様でした!」
全てのシーンの撮影が終わったのだ。
駆け寄ってきたハッピーから松葉杖を受け取ったトニーは立ち上がると、迷惑を掛けたお詫びに今夜はパーティーを開催すると告げ、スタッフたちと談笑しながら、その場を後にした。

その夜、近くのレストランを貸切ったパーティーは大盛り上がりだった。酒が入った一同はどんちゃん騒ぎで、トニーは一滴も飲んでなかったが、久しぶりの賑わいに彼自身も楽しくて仕方なかった。
ふと気づくと、携帯が鳴っていた。見るとヴァージニアからだった。断りを入れテラスに向かったトニーが電話に出ると、急用が出来た母親の代わりに手伝いに来てくれているソーが、明日は空港まで迎えに行くという話だった。
電話を切り、テラスの椅子に腰を下ろしたトニーは再び携帯を開くと、ヴァージニアと双子の写真を見つめた。
3人には1ヶ月近く会っていない。
毎日電話で話をしているし、ヴァージニアは双子の写真や動画を送ってきてくれるが、直接温もりを感じられないため、トニーは寂しくて仕方なかった。

「スタークさん、お疲れ様です」
ジェーンの声が聞こえ、トニーは携帯をポケットに突っ込んだ。
「お疲れ様」
手に持っていたグラスの1つをトニーに渡したジェーンは、隣に腰を下ろした。

暫く他愛もない話をしていた2人だが、突然、バーン!という破裂音が数回響き渡った。
「キャッ!!」
驚いたジェーンは身を縮め、彼女を守るようにトニーは咄嗟に彼女を抱きしめた。
辺りは騒然とし始め、恐怖のあまり震え始めたジェーンは、トニーにギュッと抱きついた。
結局、タイヤの破裂音だったようで、落ち着いたジェーンはトニーに抱きついていることに気づくと、慌てて身体を離した。
「す、すみません!」
真っ赤な顔をしたジェーンは、トニーに平謝り始めたが、トニーは
「大丈夫だよ」
と告げると、中に戻ろうと、松葉杖を手に取り立ち上がった。足元は狭く倒れそうになったトニーを支えるように、ジェーンは彼の背中に手を回した。

パーティーは大盛況に終わり、一部のスタッフを除き、明日の飛行機で皆現場を離れるため、引き続き滞在先のホテルのバーで飲むことになった。トニーはバーには行くつもりはなかったが、退院後は同じホテルに滞在していたため、ジェーンと同じ車に乗り込みホテルへと戻った。

翌日。
トニーが荷物を片付けていると、土産物を買いにホテルの近くの店に行っていたハッピーが戻ってきた。
「トニー」
しかめ面をしたハッピーは、ベッドの上に何かを放り投げた。それはタブロイド紙だったが、何故か自分とヴァージニアの写真が一面を飾っているではないか。
「何かあったか?」
首を傾げたトニーはタブロイド紙を手に取った。

『トニーとヴァージニア、離婚へ!』

「は???」
目をぱちくりさせたトニーは、顔を近づけてタブロイド紙を見つめた。が、何度読んでも自分たちは『離婚』することになったと書かれているではないか。

昨晩、ジェーンと抱き合う写真とホテルへと入っていく写真には、『トニー・スターク、共演女優と不倫』と書かれており、トニーは目を見開いた。
「何だって…。『トニー・スタークは新作の共演者であるジェーン・フォスターと撮影中、関係を持ち続けていた。関係者の話によると、2人は撮影当初から関係を持っていた。トレーラーで愛し合っている姿が毎日のように目撃されており、トニー・スタークの妻であるヴァージニアが自身の撮影のために現場を離れた後は、ジェーン・フォスターが毎晩トニー・スタークのホテルの部屋に入り浸っていた。一方のヴァージニアも、別の男性と不倫しており、トニーとヴァージニアは現在離婚調停中であるという情報も、一部関係者の話から浮上した』……。関係者って誰だ?」
事実無根もいいところだ。頬を膨らませたトニーは、ヴァージニアの『不倫現場』である写真に目を移した。
「これ、ソーじゃないか?」
買い物にでも行ったのか、ベビーカーを押すヴァージニアと並んで歩いている男性は、山ほど荷物を持っているが、どこからどう見てもソーだった。写真を覗き込んだハッピーは、ブッと吹き出した。
「ですね。ソーですね。しかも、どう見ても荷物持ち要員ですよね」
暫く2人きりの写真を撮られてなかったし、公の場にも一緒に登場していなかったから、離婚というネタを振りかけられたのだろう。
「もっとマシなネタはないのか?」
苦笑したトニーはハッピーに向かって肩を竦めると、タブロイド紙をゴミ箱に捨てた。

が、巻き込んでしまったジェーンには謝っておこうと、トニーは彼女に電話をした。するとジェーンは
「スタークさんとヴァージニアが離婚なんてするわけないじゃないですか。私は大丈夫です」
と笑っていた。

NYへ向かう途中、ヴァージニアに電話したトニーだが、彼女は撮影中なのか、電話に出なかった。
今回は短距離なので、トニーはプライベートジェットではなく、旅客機に搭乗したのだが、ビジネスクラスを予約したつもりが、手違いでエコノミークラスの席となっていた。
窓際の2つ並んだ席を前に、トニーはハッピーをチラリと見た。自分はいいが、体格の良すぎるハッピーには、この席は狭いのではないかと一瞬考えたトニーだが、生憎このフライトは満席なので、今更どうすることもできない。結局、窓際にトニーが、通路側にハッピーが座り、2人は何とか狭い席に身体を押し込んだ。
離陸して暫くすると、どこからともなく自分の名前が聞こえてきた。声の方に視線を送ると、前の席の女性2人が、自分たちの『離婚』の話で盛り上がっているではないか。

「やっぱり離婚ですって!」
「だって、トニー・スタークよ?彼女と結婚しても、不倫しまくってたらしいわ」
「子供も山程いるって話だし」
「でも、トニー・スタークに誘われたら、私でもOKしちゃうわ」
「そうよねぇ。カッコいいもん…」

(おい!俺はそんな浮気者じゃないぞ!)
文句を言うわけにもいかず、トニーは頬を膨らませた。が、ハッピーは笑いを堪えるのに必死らしく、真っ赤な顔をしている。
(全く…。俺はジニー一筋だって、見れば分かるだろ!)
ジロリとハッピーを睨み付けたトニーは、まだ笑いを堪えている彼の足を思いっきり踏みつけた。

結局ヴァージニアと連絡が取れないままNYの空港に到着したトニーは、出口で見慣れた男を見つけると、軽く手を上げた。トニーに気づいた男…つまりソーは、パッと顔を輝かせると手をブンブン振り回した。
「ト……」
大声で名前を呼びそうになったソーは、慌てて口を塞いだ。松葉杖を付きながら、ヒョコヒョコとソーのそばに向かうと、ソーはハッピーと荷物を手分けして持ち、車へと向かった。

NYの滞在先であるペントハウスに到着すると、父親を待ち構えていた双子が飛び出してきた。
「パパ!おかえりなしゃい」
「ただいま、モーガン、レニー。パパはお前たちに会えなかったから、寂しかったぞ」
かがみ込んだトニーは双子を抱きしめた。2人は小さな手で父親の頬に触れるとキスを何度もした。小さな温もりにようやく気持ちが落ち着いたトニーは、妻の声に顔を上げた。
「トニー、おかえりなさい」
ニコニコしているヴァージニアに、トニーはあの記事のことを思いだしてしまった。すると彼女は、夫の考えを読んだのか、肩を竦めた。
「あの記事のことでしょ?ジェーンから連絡があったの。大きな音に驚いてあなたに抱きついちゃったのを、面白おかしく書かれただけだからって」
クスクス笑ったヴァージニアは、腰を下ろすとトニーの唇にキスをした。
「それに、私たちの離婚のニュースって、定期的に出てるわよ」
そう言われれば、半年に一度は出ている気がする。それも大体、他のセレブ勢のゴシップネタがない頃に…。
「そうだな」
頷いたトニーだが、今回は見当違いとはいえ、写真まで掲載されていたのだ。
「1mmも不安にならなかったか?」
そう尋ねると、ヴァージニアは頷いた。
「ええ、もちろん。トニー、私はあなたのこと信じてるし、あなたは私に夢中だって知ってるわよ」
と、両手に荷物を抱えたハッピーとソーが戻ってきた。
「ハッピーおいたん!!」
こちらも久しぶりに会うハッピーに、父親から離れた双子は彼を追いかけて行ってしまった。すると荷物を床に置いたソーが、ポケットから何か取り出した。
「見ろよ、トニー。俺とヴァージニアは恋人に見えるらしいぞ!」
ソーが取り出したのは、ヴァージニアとの写真が掲載された例のゴシップ誌。ニヤニヤと笑ったソーに、トニーもペッパーも苦笑した。
「そりゃよかったな」
得意げに鼻を擦ったソーは、トニーの背中を叩くと、笑いながら荷物を奥の部屋へと持って行った。

その夜。
双子を寝かしつけた2人は、寝室のベッドの上で抱き合っていた。
「1か月近く会えなかったから、寂しかったわ…」
甘えるように抱きついてきた妻を、トニーもギュッと抱きしめた。
「俺も。ジニーが恋しくて死にそうだった。だから、しっかり妻孝行させてくれよ」
「お願いね」
ふふっと笑い合った2人は、キスをしながらベッドに倒れ込んだ。

いつもは2日ほど経てば落ち着くゴシップネタなのに、今回は余程他にネタがないのか、落ちつく気配がない。
街中でロケをしているヴァージニアの元へもパパラッチは殺到しており、毎日のようにヴァージニアの写真がネット上には上がっていた。
離婚の理由も双方の浮気が原因から、撮影中のトニーが役になりきるあまり、家族との時間を蔑ろにし、ヴァージニアとの夫婦関係にヒビが入ったという、トニーに非がある報道へと変わっていた。
加熱する報道に、トニーもヴァージニアもいい加減うんざりしてきた。
「俺たちが2人で外に出て、キスでもすれば落ち着くか?」
ベッドの中で妻を抱きしめたトニーがそう提案すると、ヴァージニアは顔を顰めた。
「でも、逆に白々しいって書かれるかもしれないわよ?」
妻の言い分には一理ある。それならどうすればいいのかと、トニーが頭を捻っていると、
「それにね…」
と言いながら、身体を起こしたヴァージニアはトニーの身体に跨った。
「離婚の理由、あなたが家族との時間を蔑ろにしてとか出てるでしょ?事実無根もいいところよ。確かに撮影中のあなたは、役になりきっちゃうから、あなたはトニーなのか、その役なのか、家でも時々分からなくなることがあるわ。でもね、あなたと結婚する前から、それは分かっていたことだし、そういうところが私は好きなの。あなたを俳優として尊敬しているところでもあるし…。あなたは私や子供たちとの時間を何よりも大切にしてくれてるわ。家族との時間を持つために、あなたは出演する映画を選んでくれているのも、知ってるもの。だからね、世間がどう言おうが関係ないわ。あなたのことは私が一番分かってるんだから…」
「ジニー……」
妻の言葉に思わず目を潤ませたトニーは、彼女を抱き寄せた。
「俺は本当に最高の妻を娶ったんだな」
ヴァージニアの首筋に赤い印を刻みながら告げると、彼女はくすぐったそうに笑った。
「そうよ。今頃気づいたの?」
「そうらしい」
真顔で答えるトニーに、ヴァージニアは声を上げて笑った。

数週間後、ヴァージニアの撮影も終わり、一家はマリブへと戻った。トニーの怪我も治り、4人は庭やプールで遊んだりと、外には出かけないようにしていた。というのも、離婚報道はまだ収まる気配もなく、外出できなかったのだ。
そんな中、ヴァージニアが名案を思いついたとトニーに告げた。
「ナターシャの案なんだけど、私たちの公式SNSを開設したらどうかしら?」
「は?」
突然何を言い出すのかと、トニーはぽかんと妻を見つめた。
「ほら、TwitterとかInstagramとかよ」
SNSの意味が分からないと思ったのか、ヴァージニアは説明し始めたが、面倒だからやっていないだけで存在は知っていると、トニーは遮った。
「知ってるけどさ、俺がやるのか?」
うんうんと何度も頷いたヴァージニアは、溜息をついたトニーの横に腰を下ろした。
「私たちの会社の製作映画の宣伝もできるし、今の世の中、必要なツールよ。投稿するのは毎日じゃなくていいし。あなたが面倒な時は、私があなたの分を投稿してあげるから…」
確かに妻の言い分には一理ある。ネット社会の今、情報発信のツールは、SNSが主流なのだから…。
夫が納得したのを確認したヴァージニアは
「携帯、貸して」
と、手を差し出した。ヴァージニアに携帯を渡したトニーは、この件に関しては妻に任せようと、彼女の手元を覗き込んだ。
「とりあえず、Instagramだけでいいわよね」
そう言いながら、ヴァージニアはアプリをインストールすると、打ち込み始めた。
「アカウント名は何がいい?プロフィールに使う写真は?」
正直、何が何だかトニーはさっぱり分からない。
「適当にしておいてくれ。お前に任せる」
肩を竦めた夫に頷いたヴァージニアは、一番最近のポートレートで、彼女お気に入りのトニーの写真をプロフィール画像に設定した。
「はい、出来たわ」
トニーに携帯を返したヴァージニアは、自分の分もさっさと作ると、早速投稿しようとカメラを立ち上げた。
「じゃあ、記念すべき初投稿は…」
コーヒーを飲んでいるトニーに向けて携帯を向けたヴァージニアは何枚か写真を取ったのだが…。
「あ!これじゃ、ダメ!」
何やら叫んだヴァージニアに、一体何がダメなのかと、トニーは首を傾げた。
「どうしたんだ?」
彼女の携帯を覗き込んでみたが、ボヤけている様子もない。
「ちゃんと写ってるじゃないか?俺は相変わらずいい男だな」
茶化したように言うトニーを、ヴァージニアは軽く睨み付けた。
「ダメよ!これは、私だけのトニーなのよ!」
「は?」
頬を膨らませたヴァージニアだが、意味が分からないトニーは、ぽかんと口を開けたまま妻を見つめた。すると彼女は、唾を飛ばしながら夫に説明し始めた。
「前髪よ!前髪!家でしか前髪は下ろしてないでしょ?そういうあなたは、私しか見たらダメなの!」
目をパチクリさせたトニーだが、あまりにも可愛らしい妻の言葉に、腹を抱えて笑い出した。
「そんなに笑わなくてもいいじゃないの…」
口を尖らせたヴァージニアは、悲しそうに目を伏せた。
「ごめん」
しょぼくれている妻の頭を撫でたトニーは、謝罪の言葉を口にした。すると顔を上げたヴァージニアは手を伸ばすとトニーの前髪をかきあげ、手早くセットした。そして写真を撮り直したが、何度撮っても普段すぎるトニーしか撮れないのだから、結局写真を撮る事は諦めた。
代わりに写真のフォルダーを漁ったヴァージニアは、数年前の写真だがお気に入りの一枚…背中しか写っていないが、モーガンとレニーを抱っこしあやしているトニーの写真と共に、『私の宝物。世界一愛する旦那様と子供たちよ💞 VS』と、書き添えて投稿した。
「これで離婚報道は消えるわ」
満足げに笑ったヴァージニアに、
「じゃあ、俺は……」
と、妻の肩を抱き寄せたトニーは携帯を掲げた。そして唇を奪うと何枚か写真を撮った。
「トニー?!」
真っ赤な顔をしているヴァージニアを後目に何やら打ち込んだトニーは、ヴァージニアに携帯を差し出した。
「投稿したぞ」
ヴァージニアが確認すると、キスをしている自分たちの写真…それも、いい具合にぼやけているので、直接は見えない写真と共に、”My only one💋”と、ご丁寧にもキスマークが入っているではないか。
「これで俺たちには離婚なんて縁遠いって分かるだろ?」
ニコニコ笑ったトニーだが、2人のアカウントはあっという間に世間に知れ渡り、それと同時に離婚報道も消え去ったとか…。

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