Returning Home…

2023年12月25日。

今朝もペッパーは気分が悪くて仕方なかった。いや、この2ヶ月、ずっと気分は優れなかった。殆ど何も食べることも出来ず、眠ることも出来なかったから。
それは、トニーがそばにいないから…。
今までも、1ヶ月や2ヶ月程、離れ離れになったことはあった。だが、そんな時でも彼の存在は感じることが出来たし、声を聞くことも出来た。だが、今は声を聞くどころか、彼の存在を感じることは二度とないのだ…。
それでも昨日までは、何とか起き上がることが出来た。だが今朝は起き上がることすら出来そうにない。

今日はクリスマス。
『せっかくのクリスマスだ。楽しめよ』
トニーならそう言うだろう。だから今日だけはモーガンのためにも楽しいクリスマスにしようと決めていた。ケーキを作り、ご馳走を食べ、プレゼントを開けて楽しもうと…。

そんなことを考えていると、寝室のドアが開き、か細い声が聞こえた。
「ママ……」
モーガンだ。そっと部屋に入って来たモーガンは、ベッドのそばにやって来た。
珍しく朝になってもなかなか起きて来ない母親が心配になり、寝室まで様子を見にやって来たのだが、幼いモーガンの目から見ても、母親は体調が悪そうだ。
「ママ、だいじょうぶ?」
不安げなモーガンに、ペッパーは無理矢理笑みを浮かべた。
「大丈夫よ…」
だが、酷く顔色の悪い母親に、モーガンの目には涙が溜まり始めた。モーガンは不安でたまらなかった。2ヶ月前のあの日を思い出したから…。
「ママも……いなくなっちゃうの…?パパみたいに、いなくならないで……」
突然父親を失った…あの日からモーガンは、いつか母親も突然いなくなるのではという恐怖を、小さな胸にずっと抱えていた。
泣き始めた娘に、無理矢理起き上がったペッパーは、安心させるように娘を抱きしめた。
「モーガン…ママはどこにも行かないわ…。モーガンのそばにいるから…」
何度そう告げると、モーガンは泣きながら母親にしがみついた。

病院へ行こうと考えたが、めまいが酷く運転できそうにない。そこで、クリスマスなのに申し訳ないと思いつつハッピーに連絡すると、彼は飛んでやって来た。そして事情を説明すると、ハッピーは珍しく顔を真っ赤にしながら声を荒げた。
「どうして早く言わないんだ!ペッパー、君に何かあったら……」
『トニーにクビにされる』
思わず言いそうになった言葉を飲み込んだハッピーは、ローディに留守番を頼むと連絡をした。そして大慌てでやって来たローディにモーガンを託すと、ペッパーを連れて病院へ向かった。

***

「スタークさん、おめでとうございます」
診察を受けたペッパーは、医師にそう告げられ、言葉を失った。
「え……」
ポカンとしているペッパーに、医師は微笑んだ。
「妊娠されてますよ」
目を見開いたペッパーだが、みるみるうちに涙が溢れ始めた。

涙は止まらなかった。
あの戦いの数日前の結婚記念日。あれが最後にトニーと愛し合った夜だった。
彼はまた一つ大切なものを遺してくれた…。
そう思う反面…。
どうして今なのだろう…。もうトニーはいないのに…。この子は…父親を知らずに育つのに……。トニーはこの子のことを知らずに逝ってしまったのに…。

嬉しさとそして悔しさ、悲しみがどっと押し寄せてきたペッパーは、診察室を出ると、廊下の椅子に座り込んだ。

鞄の中からトニーの写真を取り出したペッパーは、そっと抱きしめた。
「どうして……。どうして…今なの……。トニー……どうして…。あなたに…あなたに教えてあげたかった…。この子のこと…あなたに……」
涙は止まらなかった。声を押し殺して泣き続けたペッパーだが、様子を見に戻ってきたハッピーは、泣きじゃくるペッパーに顔色を変えた。大変なことが起きたのか、ペッパーは重病なのかと、慌てふためき始めたハッピーに、ペッパーは首を振った。
「違うの……妊娠してるの……」
何度も瞬きしたハッピーは黙ってしまったが、しばらくして口を開いた。
「トニーの…子供か?」
何とも間抜けな質問だが、ハッピーらしい言葉に、ペッパーは少しだけ気分が良くなった。
「当たり前よ」
涙を拭ったペッパーもいつもの調子で答えると、ハッピーはポロリと涙を溢した。それはトニーの葬儀の後、『俺はもう人前では泣かない』と宣言していたハッピーが、ペッパーに初めて見せた涙だった。
「そうか…」
そう呟いたハッピーは、ペッパーの肩を抱き寄せると静かに涙を流し続けた。

お腹の子供はトニーからのクリスマスプレゼント…。『前を向いて歩いてくれ』という彼からのメッセージだと考えたペッパーだが、モーガンには安定期になってから告げようと決めた。

そこでペッパーは、その日から次第に以前の彼女と同じように振る舞いだした。トニーからの最後のプレゼントである子供を育てることが、彼女を奮い立たせたのだ。そんな母親の姿を見たモーガンも、少しずつ元気を取り戻していった。

***

数ヶ月、子供の性別は男の子だと分かり、ペッパーは涙が止まらなかった。
この子はトニーの生まれ変わりかもしれない…。トニーは私のところに戻ってきてくれるのかもしれない…。
ペッパーは嬉しくて泣いた。そしてその喜びを娘と分かち合おうと、その夜モーガンに告げた。弟が生まれるということを…。
お姉ちゃんになると知ったモーガンは、母親のお腹にそっと手を当てた。ゆっくりと何度も撫でたモーガンは、涙の浮かんだ瞳で母親を見つめた。
「ママ、あたしがママとあかちゃんをまもるから…。パパみたいに、あたしがまもるからだいじょうぶよ」
母親に告げたモーガンは、ニッコリと笑みを浮かべた。トニーが死んで以来、モーガンは初めて嬉しそうに笑った。

***

そしてトニーが好きだった向日葵の花が咲く頃、ペッパーは男の子を出産した。
父親に何もかもがそっくりな息子を抱きしめたペッパーは、息子の胸元にトニーの写真を置いた。
「トニー……おかえりなさい…。あなたの名前…もらうわね…」
こうして、エドワードと名付けられた息子は、ペッパーとモーガンの生きがいとなった。

***
***

僕はパパのことを知らない。パパは僕が生まれる前に死んでしまったから。僕より5つ上のお姉ちゃんも、パパが死んだ時は4歳だったからあまり覚えてないって言っていた。それでもお姉ちゃんはパパのことで覚えていることを僕に話してくれた。ママもパパの話を沢山してくれた。F.R.I.D.A.Y.はパパのビデオを見せてくれた。

でも僕は、パパという存在を感じたことは一度もなかった。
だって、パパは僕のことを知らないから…。

パパの最期のメッセージもママとお姉ちゃんに向けたものだし、僕がパパと一緒に写っている写真は一枚もない。

パパに会いたかった。僕がいることをパパに知らせたかった。

ママはよく『パパは息子が欲しいって言ってたから、あなたが生まれたことを知ったら、大喜びしたでしょうね』って僕に言う。
ママは一人でお姉ちゃんと僕を育ててくれた。色んな人がママに言った。『再婚したら?』と。でもママはパパのことが大好きだし、パパ以外のお嫁さんにはなりたくないと断っていた。
『ママにとってパパは人生そのものだから…。』
ママは僕にそう教えてくれた。

だからママに、『パパに会って僕のことを教えてあげたい』なんて相談できなかった。だから僕はお姉ちゃんに相談することにした。
お姉ちゃんはもうすぐ16歳。パパに似て凄く頭がいいから、9月からはボストンの大学に通うことになっている。お姉ちゃんは会社の跡を継ぐって小さい頃から決めていた。パパみたいに世の中に役立つ物を作りたいから、パパと同じ大学に進んだんだって。
でも、お姉ちゃん家からいなくなったら、今みたいに何でもすぐに相談できなくなる。だから今がチャンスだと、僕はママが仕事に行くと、お姉ちゃんに相談した。

お姉ちゃんは黙って僕の話を聞いてくれた。
「そうか…もう11年になるのね……」
パパの写真を手に取ったお姉ちゃんは寂しそうに笑った。
「エディはパパに会ったことがないもんね」
「うん。パパも僕のことは知らないでしょ?死んじゃったパパに会うなんて、無理だろうけど…。でも、僕、パパに会いたい…。一度でいいから…遠くからでもいいから、パパに会ってみたい…」
僕がそう言うと、お姉ちゃんはうーんと首を捻り始めた。
お姉ちゃんはパパにもママに似ているけど、性格はパパにそっくりなんだって。そして僕はパパの生き写しだって、ママやハッピーおじちゃんやローディおじちゃんによく言われる。最近は仕草も似てるって、ママは嬉しそうに笑うんだ。
でも、僕はパパみたいに賢くない。お姉ちゃんはパパに似てとっても頭がいいけど、僕はお姉ちゃんみたいに賢くない。だから、学校で算数の問題が分からなかったら、
「本当にアイアンマンの息子なのかよ」
と友達に言われることがある。そういう時、僕は泣きそうになる。そうすると、友達は
「パパがアイアンマンっていうのは嘘だろ!弱虫!」
と、僕のことをいじめる。
僕はいつも自信がなかった。パパは今でもみんなのヒーローなのに…。世界を…宇宙を救ったヒーローなのに…僕はパパにちっとも似てないから…。
でもママはいつも僕に言うんだ。
「エドワード、あなたはパパにそっくりよ。悪戯好きで、楽しくて…。それからとっても優しくて…勇気があって…。パパはいるだけで、ママは幸せな気持ちになれたの。あなたもそうよ。モーガンとエドワードがいるから、ママはとっても幸せなのよ。それにね、パパは辛いことがあっても一人で我慢してたわ。パパのこと、悪くいう人は大勢いた。でも、パパは負けなかった。パパは負けずにパパの道を突き進んだのよ。だからあなたも負けないで…」
って…。

何やら考えていたお姉ちゃんは、何か思いついたのか、あっと小さく声を上げた。
「一つだけ方法があるわ。タイムトラベルよ」
首を傾げた僕にお姉ちゃんは説明し始めた。
11年前、パパたちが開発したタイムトラベル。それを使って、パパが生きていた過去に戻る…それがお姉ちゃんが思いついた方法だった。
「F.R.I.D.A.Y.、パパが開発したタイムトラベルの資料はある?」
『はい、ございます』
F.R.I.D.A.Y.は、僕たちの前のモニターに、データを映し出した。僕にはさっぱり分からなかったけど、真剣な顔でそれを眺めたお姉ちゃんは、ポンっと手を叩いた。
「よし!やるわよ!エディ、あなたも手伝ってね」
「え!僕が?」
僕は正直驚いた。だって僕はお姉ちゃんみたいに、何かを作ったことは一度もなかったから。だけどお姉ちゃんはふんっと鼻を鳴らした。
「言い出しっぺはあなたよ。それに、エドワード、あなたはパパの息子。だから出来ないことなんか、一つもないわ」
自信満々に言い切ったお姉ちゃんだけど、僕はとっても不安だった。僕にはきっと出来ないことだらけ。だからお姉ちゃんに迷惑をかけるんじゃないかって、すごく不安だった。
でも、僕が失敗しても、お姉ちゃんは絶対に怒ったりしなかった。ママもそうだけど、お姉ちゃんは昔からそうだった。僕ができるまで、辛抱強く見守ってくれた。本当に出来ない時は、そっと影から手伝ってくれた。

僕は楽しくて仕方なかった。何か作ることが、こんなに楽しいなんて知らなかった。放課後もお休みの日も、パパのラボにこもっている僕たちに、
「2人とも、パパにそっくりね」
と、ママは懐かしそうに笑った。

***

1ヶ月後。
ついにタイムトラベルの装置が完成した。
お姉ちゃんはタイムトラベル用のスーツを、僕が考えたデザインにしてくれた。パパのアイアンマンと同じ色のスーツは、僕の自信作。だから、声を掛けられなくても…遠くから見るだけでも、このスーツを着てパパに会えると考えると、僕はドキドキして仕方がなかった。
「エドワード、いい?遠くから見るだけよ」
僕の考えていることが分かったのか、お姉ちゃんは僕にそう念押しした。

どの時代のパパに会いに行くか…僕たちは決めていた。
僕たちのパパだった時代のパパに…あの事件が起こる前のパパに…つまり『2023年10月1日』…それが僕たちが決めた日だった。
「行くわよ」
装置を設定したお姉ちゃんは、僕に向かって頷いた。
「うん」
大きく深呼吸をした僕は、お姉ちゃんの手を握った…。

***

気がつくと、森の中に僕たちはいた。
湖のそばに建つ家は、今の僕たちの家より新しいけど、僕たちは間違いなく過去の僕たちの家のそばにいた。
すると、誰かが帰っていくのが見えた。
車が通り過ぎると、お姉ちゃんが小さく舌打ちした。
「パパの…アベンジャーズの仲間だった人たちよ」
お姉ちゃんは少しだけ怒っているように見えた。
「あの時のこと、何となく覚えてる…。パパ…あの日から…ずっと辛そうで……ママも辛そうで…。もしあの人たちが来てなかったら…パパのこと、連れ戻しに来てなかったら…パパは死なずに…」
口を閉じたお姉ちゃんは、首を振った。
「でも、そうなると、タイムトラベルの装置は完成してなかったし、世界はあのままの状態だったでしょうね。今みたいな未来の世界はなかっただろうし、パパは眠れない日をずっと過ごしていたかもしれないわ」
僕に顔を向けたお姉ちゃんは、寂しそうに笑った。
僕たちは見つからないように家に近づいた。そして木の影に隠れるように座り込むと、パパが出てくるのを待った。

30分ほど経った。
ドアが開き、小さな女の子が飛び出してきた。
「あ…」
お姉ちゃんが声を上げた。
「あの子……、お姉ちゃん?」
写真で見たことがある女の子に、僕はお姉ちゃんを見上げた。
「えぇ、そうよ…」
お姉ちゃんは懐かしそうに女の子を見つめた。小さなお姉ちゃんは湖のそばのテントに駆け寄ると、ゴソゴソとテントの中に潜り込んだ。
数分後、ドアが開いてまた誰かが出てきた。今度は男の人だった。
それは……。
「パパ………」
お姉ちゃんが泣きそうな声で呟いた。
お姉ちゃんの目から涙がポロポロと流れ落ちた。
その男の人は、写真やビデオでしか見たことがない、トニー・スタークだった。

あれが僕のパパ…。会いたくて仕方なかった僕のパパ…。
初めて見るパパに、僕は思わず身を乗り出してしまった。

ガチャン!

気づかなかった。僕は足元にある植木鉢を倒してしまった。
大きな音にお姉ちゃんは顔色を変えた。そして僕を引っ張り地面に伏せた。
「誰だ!」
物音に気づいたパパが声を上げた。
「エディ!気づかれたらダメでしょ!」
お姉ちゃんが小声で僕を叱った。どこかに隠れた方がいいのだろうけど、僕たちは逃げるに逃げれない。
「誰か、そこにいるのか?」
パパの声と足音が近づいてきた。
お姉ちゃんが震えだした。目をキュッと閉じたお姉ちゃんだけど、涙を拭ったお姉ちゃんは、何度も深呼吸をすると立ち上がった。

突然現れた女の子に、パパは警戒するように身構えた。
お姉ちゃんは何も言わずにパパを見つめた。パパもお姉ちゃんを見つめた。
しばらく見つめあっていたパパとお姉ちゃんだけど、パパが目を見開いた。パパはお姉ちゃんが誰だか気づいたんだ。
「…モーガン?」
お姉ちゃんは小さく笑みを浮かべると頷いた。
「パパに会いたくて…11年後の世界から来たの。パパの作ったタイムトラベルの装置で…」
お姉ちゃんの言葉に、パパは目を見張った。
「タイムトラベル…。…成功するのか?」
「えぇ…」
すると、パパは少しだけ頬を緩めた。
「そうか……」
だけど、パパは気付いてしまったんだと思う。この後自分にどういう結末が待っているかを…。
「モーグーナ、お前が11年後から会いにきたということは…パパは……」
お姉ちゃんはパパの言葉を遮るように首を振った。
「本当はね、遠くからそっとパパの姿を見るだけにするつもりだったの。でも…パパを見たら…やっぱり会いたくて我慢できなかった…。ずっとずっと会いたかったから…。パパにもう一度会って…ずっとずーっと大好きだって言いたかったから…。私は大丈夫よって、パパに言いたかったから…。それにね、私だけじゃないの。パパに会いたくて仕方ないのは…」
小さく笑ったお姉ちゃんは、わざとらしく目をくるりと回した。
「言っておくけど、ママじゃないわよ。ママには黙ってきたから。タイムトラベルするなんて言ったら、過去を変えたらダメだって、ママはきっと怒るわ…。勿論、ママもパパに会いたいってずっと言ってるけど」
お姉ちゃんの言葉に、パパが小さく笑った。その場の空気が少しだけ軽くなった気がした。
「パパ。パパにどうしても会わせたかったのはね……」
お姉ちゃんが僕の腕を引っ張り立ち上がらせた。僕を見たパパは、そのまま止まってしまった。目を見開いたパパは唇を震わせてお姉ちゃんを見つめた。そしてまた僕を見つめた。何度も見比べているパパは、僕の目から見ても混乱していた。仕方ないよね。パパは僕の存在なんて知らないんだから…。
するとお姉ちゃんは、パパを真っ直ぐ見つめて告げた。
「パパ……エドワードよ」
お姉ちゃんの言葉に、パパは僕を見つめた。
パパの瞳はとっても優しかった。温かかった。
『エドワード、あなたは本当にパパにそっくりね』と、ママがいつも言っていたのは本当だった。
本当に僕はパパにそっくりだった。僕でもそう思ったんだから、パパはもっとそう思ったと思う。黙ったままじーっと僕を見つめていたパパが目尻を下げた。そして優しい声で言ったんだ。
「……エドワード」
って…。

パパが僕の名前を呼んでくれた。
僕はそれだけで十分だった。
パパは…パパは僕のことを知ってくれたんだから…。この後、僕が生まれてくることを…パパにも息子ができるってことを知ってくれたんだから…。
これ以上、僕が2023年のパパと接触したらダメだって分かってる。でも、僕は最初で最後でいいからパパに言いたかった。『パパ、大好きだよ』と…。

「パパ……」
声を出してしまった僕に、パパが一歩近づいた。僕は思わずパパに手を伸ばしそうになった。だけど、お姉ちゃんはその手を遮ると、タイムトラベルの装置を素早くセットした。
「詳しくは言えないわ。過去を変えるなんて、やってはいけないことだから…。でも……パパ。これだけは覚えておいて。何があっても、アイアンマンには…いいえ、トニー・スタークにはハッピーエンドが必要なの…。だって、アイアンマンは…宇宙一最強のアーマーを持ってるから…。どんな力にも絶対に負けないアーマーを……」
早口で告げたお姉ちゃんに、パパは小さく頷いた。
「パパ、3000回愛してる…。これからもずっと…」
最後にそう囁いたお姉ちゃんは、僕の手を掴むと装置を起動した………。

***

僕たちは元の世界に…つまり2034年の世界に戻ってきた。
無事に戻って来れたから、僕は安心したけど、床にしゃがみこんだお姉ちゃんは泣いていた。声を押し殺して…ポロポロと大粒の涙を流して泣いていた。
「パパに…パパに会えたのに…。せっかくパパに……」
お姉ちゃんは4歳の子供みたいに泣いていた。

僕はパパに会えて嬉しかった。僕が生まれることを知ってもらえて…それから、名前を呼んでもらえて…。
だけどお姉ちゃんは…。4歳で突然パパを亡くしたお姉ちゃんは、きっと本当はパパに抱きしめてもらいたかったはず…。僕だって本当は抱きしめてもらいたかったから。
お姉ちゃんは僕よりもずっとずっとパパに会いたかったんだと思う。11年間、本当は僕よりもずっとパパに会いたくて仕方なかったんだと思う。『パパに何も言えなかった』ってお姉ちゃんはずっと言ってたから…。パパに大好きだって最後に言えないまま、パパとお別れしないといけなかったのが、一番悔しいって、お姉ちゃんはよく言ってたから…。
だからお姉ちゃんにとって、過去のパパに会いに行ったことは、辛くて悲しいことで、本当は行きたくなかったのかもしれない。だって、過去を変えてもパパが戻ってくるはずはないから…。それなのに、僕は…。お姉ちゃんの気持ちも考えずに、『パパに会いたい』と我儘を言ってしまった…。

「お姉ちゃん…ごめんなさい…」
泣いているお姉ちゃんの姿に、僕は後悔した。僕のことをずっと守ってくれていたお姉ちゃんを苦しめてしまったって、僕は情けなくなった。でも、涙を拭ったお姉ちゃんは、首を傾げた。
「どうしてエディが謝るの?」
「だって……僕が…パパに会いたいってわがまま言ったから…」
口を尖らせた僕は涙が溢れそうになった。必死で我慢したけど、涙は止まらなかった。グズグズ泣き始めた僕を、立ち上がったお姉ちゃんは抱きしめてくれた。
「バカね。あんたが謝る必要なんてないわ。私も…パパに会えて嬉しかった。パパに愛してるってもう一度言えて、嬉しかった。それにね…あの世界のパパはきっと、エディにも会えたはずよ…」

と、その時。
「あの世界だけじゃない」
どこからもとなく男の人の声が聞こえた。
キョロキョロと辺りを見渡すと、見知らぬ男の人が突然開いた穴の中から出てきた。
「きゃ!」
小さく悲鳴を上げたお姉ちゃんを僕は守ろうと、咄嗟に腕を広げて立ちはだかった。
だけど、赤いマントを羽織った見知らぬおじさんは、お姉ちゃんと僕に向かって笑った。
「お前に会うのは初めてだな、スタークの息子。だが、モーガン、君には遠い昔何度か会ったことがある。覚えてないか?」
見知らぬおじさんをじっと見ていたお姉ちゃんは、何か思い出したのか、あっ!と声を上げた。
「もしかして…魔法使いさん?」
すると、魔法使いのおじさんは、不機嫌そうに顔を顰めた。
「その言い方はやめろ。ドクター・ストレンジだ」

ドクター・ストレンジ。
パパの仲間だったことがちょっとだけある、魔法の使えるヒーロー。
僕はパパの仲間だったヒーローに、会ったことがない。ウォーマシーンのローディおじさんは、パパの親友だったから、今でもよく遊びに来てくれる。だけど、他のヒーローには会ったことがないから、ウォーマシーン以外のヒーローを見るのは、僕は初めてだった。

「全くお前たちは、少し目を離した隙に……」
目を三角にしたストレンジおじさんに、僕は怒られると、ビクッとしてしまった。だけどおじさんはふっと小さく笑ったんだ。
「さすが、スタークの子供たちだな。お前たちは、過去を変えてしまったぞ」
僕はお姉ちゃんと顔を見合わせた。一体どういうことだろう…って。

「あの時のお前の言葉を、スタークは忘れなかった」
「つまり…」
お姉ちゃんが震え始めた。
すると、ストレンジおじさんは手をかざした。
「自分たちの目で見ろ」

僕たちの目の前に映像が流れ始めた。
それはあの日の…パパが死んだ日の映像だった。
初めて見る戦っているパパの姿に、僕は釘付けになった。それはお姉ちゃんも同じだった。
パパは…アイアンマンはとってもかっこよかった。次々と敵を倒していった。パパもだけど、ママもかっこよかった。ママはとっても強かった。ママはあの時一度だけ戦っただけだって言っていた。でも、パパはママのために最強のアーマーを作っていたんだって、僕は映像を見ながら思った。
でも、サノスっていう敵は強かった。パパたちは負けそうになった。
そしてパパは…。パパはパパの命を奪った石をサノスから取り戻した。
お姉ちゃんが目をギュッと閉じた。パパが死ぬところは見たくないって、お姉ちゃんは首を何度も振った。僕は震えだしたお姉ちゃんの手を握り締めると目を閉じた。でも…。
「よく見てみろ」
ストレンジおじさんの声に、僕とお姉ちゃんは恐る恐る目を開けた。
パパが指を鳴らした。すると敵は全部いなくなった。大きく深呼吸をしたパパは、ボロボロになったアーマーを脱ぐと立ち上がった。
パパは沢山怪我をしているけど、笑顔だった。
『トニー!』
ママが駆け寄って来た。パパはママを抱きしめようと腕を広げた。ふらついたパパをママが抱きしめた。パパはママにキスをすると笑った。
だけどパパはそのまま気を失っちゃった。

次に僕たちが見たのは、パーティをしているパパたちの映像だった。
お姉ちゃんをおんぶしたパパは、ママと楽しそうに踊っていた。
そしてそれから次々とパパの姿が現れた。
お姉ちゃんを肩車して庭を走っているパパ。アルパカのジェラルドに追いかけられているパパ。クリスマスに大きなツリーを買って戻って来たけど、ツリーは大きすぎてお家に入らなくて困っているパパ。サンタクロースの格好をして、お姉ちゃんにプレゼントを渡しているパパ……。
そして…。パパに何かを見せているママが映った。するとパパはガッツポーズをすると、ママを抱き上げ顔中にキスをした。

「パパは…パパは勝ったんだ……」
僕がそう言うと、ストレンジおじさんは大きく頷いた。
「あの世界のスタークはお前たちと会った後、タイムトラベルの装置を完成させた。そしてアーマーを改良した。ストーンの力に耐えられるように…。宇宙一最強のアーマーなんだろ?トニー・スタークにもハッピーエンドは必要なんだろ?その言葉を、スタークは忘れなかったんだ」
ストレンジおじさんは、笑顔だった。
僕は嬉しくて涙が出てきた。お姉ちゃんは声を上げて泣いている。すると、おじさんのマントが勝手に動いて、お姉ちゃんを抱きしめた。動くマントに僕は驚いてしまった。ストレンジおじさんは、やっぱり魔法使いなんだっておじさんを見ると、ストレンジおじさんも僕を見つめていた。

すると映像が変わった。
パパは車の運転を必死でしていた。お姉ちゃんは後ろに座ってるけど、パパの乱暴な運転のせいで、目を白黒させている。
「パパ!スピードのだしすぎ!おまわりさんにおこられるよ!」
ほっぺたを膨らませたお姉ちゃんは、パパに向かって叫んだ。少しだけスピードを緩めたパパだけど、目をくるりと回すと溜息を付いた。
「はいはい、長官殿。だがな、パパはめちゃくちゃ急いでるんだ。ママがドーナツが食べたいと言うから買いに行ったのに、その間に…」
ぶつぶつと文句を言ったパパは、車を止めた。そしてパパはお姉ちゃんを抱き上げると走り始めた。
そこは病院だった。
廊下を全力疾走したパパは、ドアの前で立ち止まると、息を整えた。そしてドアを勢いよく開くと叫んだ。
「ペッパー!!!!!!!」
あまりの大声に、パパに抱っこされていたお姉ちゃんが耳を塞いだ。
ママはソファに座っていた。そして何かを抱いていた。
「トニー、ごめんなさい。生まれちゃったわ」
ぺろっと舌を出したママに、お姉ちゃんを床に下ろしたパパはわざとらしく鼻を鳴らすと腕を組んだ。
「ペッパー、君がこんな時に呑気にドーナツが食べたいとか言うからだ。全く…私は最高の瞬間を見逃したんだぞ」
ぷうっと頬を膨らませたパパにママはふふっと笑った。するとパパもすぐに笑い出し、ママの隣に座った。
「トニー、抱いてあげて……」
ママから受け取ったパパは、嬉しそうに笑った。
「また会えたな…エドワード…」
パパの目から涙が零れ落ちた。

僕が生まれた日……。
パパが生きていて、僕が生まれたことを喜んでくれている…。
僕も涙が止まらなかった。
パパは僕に会えたし、僕もパパに会えたんだから…。

泣いているお姉ちゃんと僕の肩を摩ったストレンジおじさんは、おじさんが出てきた丸く光る穴の方をチラリと見た。
「スタークは……」
言葉を切ったストレンジおじさんは、大きな声で言った。
「自分の口から言え、スターク」
すると、丸く光る穴から誰かが出てきた。
それは……。

「パパ………」
出てきたのは、何とパパだった。
さっき2023年の世界で見たパパよりも、髪の毛は随分と白くなってたけど、それは間違いなくパパだった。
お姉ちゃんがゆっくりとパパに近づいた。
「パパ………」
するとパパは腕を広げた。
「モーグーナ…」
お姉ちゃんは走った。そしてパパは駆け寄ってきたお姉ちゃんを抱きしめた。お姉ちゃんは声を上げて泣き始めた。
僕は足が震えて動けなかった。本当はお姉ちゃんみたいにパパに抱きつきたいけど、もしかしたらこれはストレンジおじさんの魔法で、パパに触るとパパが消えてしまうかもしれないと思うと、怖くて動けなかった。
するとパパが顔を上げた。パパも泣いていた。パパの目からは涙が止まることなく流れていた。
「エドワード…」
パパが僕の名前を呼んだ。僕はゆっくりとパパに近づいた。
「パパ………」
パパが僕の手を引っ張った。僕はパパに抱きしめられていた。

初めて触れるパパ…。
パパは温かかった。
これがパパなんだって…僕を抱きしめているパパは魔法なんかじゃなくて、本当に目の前にいるんだって、ようやく理解した僕は、パパにしがみつくと泣いた。

と、そこへ、バタバタと足音がした。
ママだった。
ママはパパの姿を見ると叫び声を上げそうになって、口を押さえた。だけど、ママの目からも大粒の涙が零れ落ちた。
僕たちから身体を離したパパは立ち上がると、ママに近づいた。
「ペッパー………」
パパはとっても優しい声でママの名前を呼んだ。ママは顔を歪めると、パパの胸に飛び込んだ。
「トニー…………」
パパは黙ってママを抱きしめた。ママはパパに抱きつくと、僕が見たことないくらい泣き始めた。
「トニー…本当に…本当にあなたなの?」
しゃくり上げながら顔を上げたママは、パパのほっぺたを両手で触った。
「あぁ。正真正銘、君の夫のトニー・スタークだ。靴紐も一人で結べない、トニー・スタークだ」
笑いながらそう言ったパパは、ママにキスをした。するとママも笑い声を上げた。

涙を拭いたお姉ちゃんが、ストレンジおじさんに聞いた。
「パパに何が起きたの?」
「全員揃ったから説明しよう。スタークも訳が分からないだろうから…」
頷いたパパはママの手を繋ぐとソファに座った。お姉ちゃんと僕も近くの椅子に座ると、ストレンジおじさんは話し始めた。

「まずは、マルチバースの存在について話しておこう。ややこしいからかいつまんで説明すると、世界は一つではない。色々な世界が存在し、色々な我々がいる世界が数えきれないくらいある。今、我々がいる世界は、2023年にスタークが死んだ世界だ。実は2023年に過去に戻りストーンを集めたことで、別の世界も生まれた。一つは、2023年に我々が戦ったサノスは2014年からやって来たサノスだったが、サノスはスタークの犠牲で滅びた。つまりサノスのいなくなった2014年の世界では、サノスによる襲撃は回避され、その後我々の世界で起こった事件は起こらず、スタークはずっと生き延びている世界だ。そしてもう一つは、2012年…つまりスタークたちがストーンを借りに行った世界だ。あの世界ではロキが逃亡したのだが…」
ストレンジおじさんはパパとママを見た。
「その世界のお前たちは、NY決戦後に結婚した。そしてモーガンを身篭っている時にキリアンの事件が起こった。ヴァージニア・スタークはエクストリミスに感染したままモーガンを産み、スターク自身もリアクターを除去するためにエクストリミスを投与したが、娘が感染しているからと、お前たちは除去しなかった。そのおかげで、あのタイタンの戦いで、エクストリミスの力を使い、スタークはサノスを倒した。だからその世界のお前も、それからずっと幸せに暮らしている」
すると、パパが顔を顰めた。
「ストレンジ。あの時お前は方法は1つしかないと言い切った。そんな世界があるなら…」
ストレンジおじさんは手を上げると、パパを遮った。
「あの時たった一つの方法しかないとお前に言ったが、我々の世界の未来は、本当にたった一つ…つまりスタークの犠牲という選択肢しかなかったんだ。だが…」
ストレンジおじさんは僕とお姉ちゃんを見た。
「モーガンとエドワードが過去に戻ったことで、予想外のことが起こった」
「つまり?」
パパは眉を釣り上げた。
「普通ならあり得ないことが起こった。過去に戻っても、その過去で変えたことは自分たちの世界の未来には影響しない。別の未来が生まれるだけだ。そしてその未来は、我々が生きている世界には影響しない。モーガンとエドワードが過去のスタークに接触したことで、スタークがあの戦いで生き残る世界が新たに誕生した。その世界は今でも存在するし、今この瞬間、その世界では、私はお前の家を訪ねてもないし、お前たちは呑気に昼飯でも食べている頃だろう。先程子供たちに見せたのは、その世界での出来事だ。ややこしいから、仮にAという世界としておこうか。Aの世界と我々のこの世界は元々同じ世界だ。だが、2023年10月1日…つまりモーガンとエドワードがタイムスリップした時点で、2つに分かれてしまった。1つは、スタークはエドワードの存在を知らず、数週間後のあの戦いで命を落としたこの世界。そしてもう1つは、スタークがモーガンとエドワードと接触したことで、あの戦いを生き延びた、Aという世界だ。そこまではいいな?」
ストレンジおじさんは僕を見た。僕が大きく頷いたのを確認すると、おじさんはまた話し始めた。
「本来ならば、我々の世界とAという世界は、別の世界なのだから、交わることは決してない。だが、どういう訳だか、モーガンとエドワードが元の世界に戻ってきた瞬間から、2つの世界はまた1つの世界に戻り始めた。つまり、2023年でスタークが死んだという世界は消え、生き残ったという世界だけが残ろうとしている。その証拠に、お前たちはあの戦いの後、盛大に結婚式を挙げた。実際には2度目の結婚式だったが…。その時、お前たちは2つ目の結婚指輪を交換した」
ストレンジおじさんの言葉に、ママは左手を見た。さっきまでは指輪はパパから贈られた婚約指輪と結婚指輪しかなかったのに、今のママの指にはもう1つ指輪が重ねて付けてあった。
「……いつの間に…」
ママは目をまん丸にすると、パパの左手を取った。パパの指にも2つ指輪が付けてあった。パパも驚いたように目を丸くして、ママを見た。2人とも、びっくりしすぎて、言葉を失っている。

僕は正直、ストレンジおじさんの話が全部は分からなかった。お姉ちゃんも訳が分からないと、口をぽかんと開けたままだ。
目が点になっているママとお姉ちゃんと僕を見渡したパパが、わざとらしくため息を付いた。
「ストレンジ。お前の話は相変わらずつまらないし訳が分からないな」
ストレンジおじさんは眉をつり上げた。
「あぁ、そうだろうな。実際のところ、私も訳が分からんからな。とにかく、スタークが生き返ったと知り、私は墓に向かった。すると、スタークの墓は消え、代わりにスターク本人が墓があった場所に座り込んでいた」
その時のことを思い出したのか、ストレンジおじさんは吹き出した。
「スタークのあんな顔は見たことがない。ポカンとしていて、穴が開くほど私を見つめて…。『随分老けたな』と開口一番言ったんだぞ」
笑い声を上げたストレンジおじさんは、とっても楽しそうだった。
「つまりだな…、スタークがあの時死んだという事実は、この世界でも消滅した。後で確認してみろ。何を読んでもそんなことは一言も書いてない。スタークは…アイアンマンはサノスを倒し宇宙を救ったヒーローだが、その後ヒーローは引退したとしか書いてない」
すると、黙っていたママが口を開いた。
「じゃあ、トニーが死んだことを覚えてるのは…」
ストレンジおじさんはママに向かって頷いた。
「お前たち家族と私だけだ。11年間の記憶は今はないだろう。だが、2つの世界が元に戻ろうとしているのだから、そのうち色々と思い出すように、頭の中に入ってくるはずだ。つまり、Aの世界で起こったことがお前たちに起こったことになる」
肩を竦めたストレンジおじさんは、立ち上がった。
「そろそろお開きの時間だ。私は帰る。何か分かったらまた知らせに来てやる」
ストレンジおじさんは丸い穴に向かって歩き出したけど、パパは立ち上がるとおじさんに向かって頭を下げた。
「ストレンジ、ありがとう」
お礼を言うパパに、ストレンジおじさんは首を振った。
「スターク、私は訳が分からない話をしに来ただけだ。礼なら子供たちに言え」
ウインクをしたストレンジおじさんは、丸い穴の中に消えていった。

ストレンジおじさんが消えると、鼻の頭を掻いたパパは、僕たちを見渡した。
「正直、まだ混乱している。最後に覚えているのは、ペッパーが手を握ってくれていたことだけだ。それが突然、戻って来れた…。奇跡が起こったとしか言いようがないな」
パパは口の端を上げて少しだけ笑った。でも、すぐに真面目な顔になった。
「ペッパー、すまなかった」
頭を下げたパパにママは首を傾げた。
「どうして謝るの?」
パパは顔を上げると、ママを真っ直ぐ見つめた。
「あの時、あの方法しかなかったと言え、何も言わずに死んでしまって、本当にすまなかった。苦労ばかりかけたに決まっている。それまでも散々苦労ばかりかけていたのに、私は君に苦労しか残さなかった…。本当にすまなかった。許してくれ…」
パパはお姉ちゃんにも頭を下げた。
「それから、モーガン。急にいなくなってすまなかった。寂しい思いをさせて、本当にすまなかった…」
頭を下げ続けるパパの手を、首を振ったママは優しく握りしめた。
「トニー、謝らないで。あなたをああいう形で失って、確かに悲しくて辛くて、死んでしまいたいって思ったこともあったわ。でもね、あなたはモーガンを遺してくれた。それからエドワードも…。あの子たちがいたから、あなたの存在を感じることができたの。それに、あなたは戻ってきてくれたのよ。それだけで十分…。あなたとまた一緒に歩いていけるんですもの…」
「そうよ、パパ。パパは戻ってきてくれた。それにね、パパ。私、パパのことずっと誇りに思ってた。パパは私の未来を守るために…命をかけて守ってくれたんだって、誇りに思ってた。パパに会いたくて寂しくて泣いたことも沢山あるけど、パパはいつだって私のそばにいてくれたって知ってるから…」
ママとお姉ちゃんの言葉に、パパは安心したのか、涙をシャツの袖で乱暴に拭った。そして頬を軽く叩いたパパは、深呼吸すると僕に顔を向けた。
「エドワード…。パパが一番悔しいのは…お前が生まれた瞬間を見届けられなかったことだな」
「パパ……」
パパはニッコリ笑った。パパの笑顔に、僕はまた涙が溢れた。
するとパパが手招きした。僕はパパの目の前にゆっくりと歩いて行った。
パパは僕の両腕をそっと摩ると、僕をじっと見つめた。
「しかし…本当にそっくりだな」
感心したように小さく唸ったパパに、ママは嬉しそうに言った。
「そうなのよ。瓜二つでしょ?それにね、最近は仕草もあなたにそっくりなの」
パパは僕のほっぺたを撫でた。そしてキスをしてくれた。僕は昔からお姉ちゃんが言っていたことを思い出した。
『パパのお髭はかっこいいし、お髭のないパパなんか想像できないでしょ?でもね、ほっぺたにキスされると、お髭がチクチクして痛かったのを覚えてるわ』
お姉ちゃんの言う通りだった。パパのキスはチクチクして痛かった。でも、僕はやっとパパにキスしてもらえたから、嬉しくて仕方なかった。僕もお姉ちゃんみたいにパパとのことをこれからみんなに話せると思うと楽しみでどうしようもなかった。

僕はパパに抱きついた。
僕のパパ。ずっと会いたかった僕のパパ。
絶対に会えないと思っていたパパが、僕の目の前にいて、僕を抱きしめてくれている。
今度はいくら抱きついても大丈夫。これは魔法なんかじゃないから…。

「パパ…大好きだよ…」
僕がそう言うと、パパは僕の背中をポンポンっと撫でた。そして頭をギュッと抱き寄せると、僕の耳元で言った。
「パパもだ。パパもエドワードのことが大好きだ…」

と、ママが、あ…っと声を上げた。
「どうした?」
僕を離したパパは、心配そうにママを見つめた。するとママは顔を輝かせてパパを見つめた。
「今日は…5月29日よ…」
不思議そうな顔をしているパパに、ママは楽しそうに笑った。
「あなたの誕生日」
僕はパパのお誕生日を知らなかったから、ビックリしてその場で飛び上がった。パパもお誕生日を忘れたのか、目をパチクリさせていたけど、恥ずかしそうに頭を掻いた。
「そうだったな。そうなると…私は誕生日の日に生き返ったのか?」
パパの言葉にお姉ちゃんは手を叩いた。
「本当だ!じゃあ、今日はパパの2度目の誕生日になったんだね!」
お誕生日に生き返ったなんて、奇跡だと僕たちが騒いでいると、またママが「あ!!!!」と声を出した。今度は慌てふためいている。
「どうした?!」
ママの様子に気づいたパパは顔色を変えた。
するとママはパパの手を握りしめると、ブンブン振り回し始めた。
「誕生日パーティーよ!」
「は?」
訳が分からないと、パパはポカンと口を開けたまま、僕とお姉ちゃんを見た。僕たちも何のことか分からないので、首を振った。
「おい、ハニー。分かりやすく説明してくれ」
顔を顰めたパパに、ママは肩を竦めた。
「もう!忘れたの?あなたの誕生日パーティーよ。あの事件の前まで、毎年盛大なパーティーを開いてたでしょ?世の中が平和になったんだから、きっとまたパーティーを開いていたはずよ!だから今日も…」

時計を見ると、12時過ぎている。ママの誕生日パーティーは、いつも夕方からある。だからもしパパの誕生日パーティーがあるなら、きっと夕方からだろうし、用意しないと間に合わない。
パパは思いっきり顔を顰めていた。『パーティー?そんなもの出たくない』というように…。
「F.R.I.D.A.Y.、聞きたくないが…今日のこの後の予定は?」
それでも溜息を付いたパパが尋ねると、F.R.I.D.A.Y.は当然のように答えた。
『ボス、お忘れですか?今日はボスの64歳のお誕生日。ですからパーティーがあります。今年はペニンシュラホテルで開催されます。ゲストは…』
F.R.I.D.A.Y.は招待された人の名前を言い始めた。有名なハリウッドスターに、モデルさん、それから今人気のアーティストも…。
あまりに豪華なメンバーに、パパはあんぐりと口を開けたままだ。
「おい、F.R.I.D.A.Y.。誰がそんな豪華なパーティーに…」
『ボスです。ペッパー様が止められたのに、ボスは派手なパーティーにすると張り切っていらっしゃったではないですか』
どうやらF.R.I.D.A.Y.も、パパが死んでたことは覚えてないみたいで、呆れたような口調でパパに言った。文句を言いかけたパパだけど、自分がしたことらしいから、黙ってしまった。そんなパパを見たママも、呆れたように溜息をついた。

僕はお姉ちゃんを見た。お姉ちゃんも僕を見た。
これがパパがいるという生活なんだ。
ママが言っていた通りだった。パパがいるだけで、今まで以上に楽しくなるし、お家の空気がパッと明るくなったんだから…。
何だかおかしくなってきた僕とお姉ちゃんは、ゲラゲラ笑い出した。パパも笑い出した。ママも笑い出した。
僕たちは笑い転げた。こんなに笑ったのは初めてっていうくらい。これからは、こうやってパパとママとお姉ちゃんと僕と、家族みんなで笑えるんだって思うと、嬉しくて仕方なかった。
でも僕が一番嬉しかったのは、ママが笑っていたこと。ママは本当に嬉しそうに笑っていた。ママがこんなに笑っているのを、僕は初めて見た。ママはパパが死んでから、きっと心から笑ったことはなかったんだと思う。そのママが、涙を流しながら笑っている。パパがそばにいるだけで、ママはキラキラと輝いていた。
パパはいるだけで、ママを幸せにしてくれる。ママは僕がいるから幸せだって言っていたけど、パパがいるとママはもっともっと幸せなんだなって思う。

パパって凄い…。
僕もパパみたいになりたい。
パパみたいに、みんなを幸せにできる人になりたい…って思った。

そんなことを考えてると、ハッピーおじさんがやって来た。
ゲラゲラ笑っている僕たちを見たハッピーおじさんは、呆れたように肩を竦めると、時計を見た。
「てっきり準備し終わってると思って来たんだが…どうして笑い転げてるんだ?」
ハッピーおじさんに気づいたパパは、立ち上がると、黙っておじさんを抱きしめた。だってパパにとっては11年ぶりにハッピーおじさんに会えたんだから、嬉しかったんだよね。でも、ハッピーおじさんは、突然抱きしめられて、戸惑っている。
「トニー…。これは誕生日おめでとうと言って欲しいというハグか?」
目を白黒させながらハッピーおじさんがそう言うと、パパはおじさんのお腹をポンっと叩いた。
「いや、11年ぶりだろ?懐かしくてつい…。それにしても、お前…痩せたか?」
パパ…ハッピーおじさんは混乱してるよ。何言っているんだ?って顔に書いてある…。
「トニー…11時間ぶりの間違いじゃないか?確かに昨日は日付が超えるまで飲みまくったが…。まだ酔ってるんだろ?それに、昨日は『太った』と俺のことをからかってたじゃないか」
ハッピーおじさんは怪訝そうにパパを見つめた。パパは余計なことを言ってしまったというように、鼻の頭を叩いた。あまり喋るとまた変なことを言ってしまうと思ったのか、パパはママの手を取ると、僕とお姉ちゃんにも声をかけた。
「よし!用意しよう!遅刻したら大変だ!」

それから僕たちは大急ぎで準備をした。部屋には朝にはなかったはずの、パーティーで着る洋服が掛けてあった。棚の上の写真には、僕とパパが写っているものが沢山あった。
本当に、この11年間、パパが生きていたことになったんだと僕は思ったけど、早く準備をしないと大変だと、急いで着替えた。

急いで下に降りると、まだ誰も降りて来ていなかった。リビングも、さっきと違っていた。パパのラボの前の本棚がたくさんある所には、11年前までパパが使っていたテーブル…ホログラムが浮かんだりするテーブルで、お姉ちゃんや僕が遊んだり宿題をするのに使っていたテーブルがあったはずなのに、テーブルはなくなって、グランドピアノが置いてあった。
ママは勿論だけど、お姉ちゃんも僕もピアノは弾かない。誰が弾くのかな?と思っていたら、パパが2階から降りて来た。髪の毛を綺麗にセットして、タキシードを着たパパは、映画に出てくる俳優さんみたいにかっこよかった。
僕がパパに見惚れていると、ピアノに気づいたパパが目を丸くした。
「ん?ピアノがあるのか?モーガンかエドワードが弾くのか?」
「ううん。僕もお姉ちゃんも弾かないよ。さっきまでなかったのに、急に現れたんだ」
すると、パパはピアノに近づいた。
「それなら、死んでいなかった世界のパパが弾いていたのかもしれないな」
「パパ!ピアノが弾けるの?!」
驚いて飛び上がった僕にパパはわざとらしく顔を顰めた。
「おい、エドワード。パパの特技を知らないのか?」
椅子に座ったパパは鍵盤に指を滑らせた。
心地よい音がリビングに響いた。
「ママはな、パパのピアノが大好きだったんだぞ」
懐かしそうに笑ったパパは、ピアノを弾きながら歌い始めた。

聞いたことがない曲だった。
でも、パパの弾くピアノの音色とそして歌声はとっても優しくて、僕はこの曲が大好きになった。

パパが歌い終わると、拍手が聞こえた。
振り返ると、ママとお姉ちゃんが階段に座って拍手をしていた。
「パパ、素敵な歌ね」
目をキラキラさせて拍手していたお姉ちゃんは飛び上がるように立ち上がった。
「ママが大好きな歌さ」
ウインクしたパパは、ママのそばまで歩いて行くと、ママの手を取った。
「懐かしいわね」
嬉しそうに笑ったママは、お姫様みたいだった。パーティーがある時のママは、いつもドレスを着て綺麗だけど、今日のママはいつも以上に綺麗だった。そうか、パパはママの王子様だから、ママはお姫様みたいなんだな…って僕が考えていると、ママにキスをしたパパは、僕たちを手招きした。
「ほら、行くぞ。ハッピーに怒られる」

それから僕たちはパパの誕生日パーティーに出席した。
F.R.I.D.A.Y.が言った通り、有名な人が山程来ていた。みんなパパに「おめでとう」と声を掛けていたけれど、パパは11年間死んでいたんだから、相手が誰なのか全然分からなかったみたい。だからパパはママにずーっとくっついていた。でも、『11年間生きていたパパ』は、ママにいっつもベッタリくっついていたみたいだから、お客さんは『いつものことだな』というように、パパとママを見守っていた。

パーティーは大盛り上がりで、僕たちは夜遅く家に戻ってきた。僕は眠くて仕方なかったから、シャワーを浴びるとすぐに寝てしまったけど、次の日の朝は、いつもよりも早く目が覚めた。だって、パパがいるんだから。
急いで着替えると、僕は階段を駆け下りた。でもキッチンにはママとお姉ちゃんしかいなかった。
「おはよう、ママ」
キョロキョロしている僕に、朝ごはんを並べ終えたママは、笑いながら言った。
「エドワード、おはよう。パパはまだ寝てるわよ。でも、朝ごはんが出来たから、起こしてきてくれる?」
「うん!」
パパを起こしに行くなんて、初めてだ。昨日までパパはいなかったから、当たり前だけど…。だからその大役を仰せつかった僕は嬉しくて、パパとママの寝室まで走って行った。
ドアをそっと開けると、パパは寝てた。
枕を抱きしめたパパは、グーグーいびきをかいて眠っていた。髪の毛はボサボサだし、昨日は綺麗にしていた髭も、無精髭が生えていた。どうやって起こせばいいのか分からないから、僕はパパの顔を突いてみた。
「パパ…」
でもパパは起きなかった。そこで僕はパパの耳元で大声で叫んだ。
「パパ!起きて!」
すると、パッと目を開けたパパは、何事かというように飛び起きた。そして、キョロキョロと辺りを見渡したパパは、僕に気づくと苦笑いした。
「おい、エドワード。ビックリするだろ」
パパは、笑いながら僕の髪の毛をくしゃくしゃにした。
「ごめんね。でも、パパ。朝ごはんができたよ」
僕がそう言うと、パパは嬉しそうに僕のほっぺたにキスをした。そしてベッドから出ると、そのままバスルームへと向かった。
僕は先にキッチンに戻ることにした。パパは何も着てなかったから、ちゃんと洋服を着て降りてきてくれますように…と祈りながら…。

***

それから僕は、パパとの『初めて』を沢山経験した。
パパと釣りをして、湖で泳いだ。映画を観に行ったり、買い物にも行った。家族4人でディズニーランドにも行った。

お姉ちゃんがボストンに行って、パパとママと僕の3人になった。お姉ちゃんは『私もパパと一緒にいたい!』って泣いてたから、毎週帰ってきてるけど。
僕を学校に送ってくれるのは、ハッピーおじさんではなくて、パパの仕事になった。
どうやら11年間生きていたパパは、あの戦いの後、アイアンマンを引退すると、スターク・インダストリーズの開発専門の会社を新たに立ち上げて、そこの責任者になったみたい。今まで開発部はあったけど、パパは今まで自分がアーマーのために開発した技術を使って、困っている人を助ける商品を開発する…そんな会社を作った。それを知って、僕はますますパパは凄い人だと思った。11年間でパパは沢山の物を開発していた。事故や病気で手や足を失った人のために、義手や義足を作ったり、リアクターやナノテックを使った技術…。それから、F.R.I.D.A.Y.みたいなA.I.を家で使えるようにもしていた。
パパは世界中の人たちの助けになる物を沢山開発していた。
だからパパは僕を学校に送って行って、そのまま会社に行く。そして僕の学校が終わると迎えに来てくれる。
パパは僕に勉強を教えてくれるし、一緒にロボットを組み立てたりもした。

僕は毎日楽しくて仕方なかった。
パパが戻ってきてから、僕は自分に自信が持てるようになった。勉強も前よりも出来るようになったし、パパにアドバイスしてもらったロボットコンテストで優勝もした。
「エドワードはパパが戻ってきてから明るくなったし変わったわね」
と、ママも嬉しそうだった。

でも僕はストレンジおじさんの言葉がずっと引っかかっていた。『11年間の記憶はいつの間にか頭に入ってくる』という言葉が…。

だから僕は、パパが帰ってきた日から、出来るだけ詳しく日記を書き続けた。パパとの思い出を忘れたくなかったから…。

***

パパが戻ってきてもうすぐ1年になる。
この頃になると、パパもママもお姉ちゃんも覚えているのに、僕だけが覚えていないことが起こるようになってきた。
今日も今度の夏休みにどこに行こうかと、僕はパパとママと話していた。僕は行ってみたい場所を挙げてみた。すると…。
「おい、エドワード。3年前に行っただろ?」
パパはそう言うと、怪訝そうに眉をひそめた。
その時、僕は気づいた。
パパは死んでいた11年間の記憶が全部頭に入ってきたんだ。パパだけじゃなくて、ママもお姉ちゃんも…。だからパパが死んでいたことを覚えているのは、もう僕だけなんだ…って。
でも、僕も時々忘れてしまうことがある。パパは死んでたっていうことを…。
そんな時、僕は1年間書き続けた日記を読み返す。そうすると、パパとやった『初めて』のことを思い出すから…。

でも、不思議なことが起こった。それは5月28日…つまり、パパが帰ってきて明日で1年になるという日だった。
明日はパパの65歳のお誕生日。去年以上に盛大なパーティにするのかと思ったら、今年は家族だけでお祝いするんだって。
お姉ちゃんも帰って来たから、ママとお姉ちゃんはパパの好きなものを沢山作るんだって張り切ってる。僕はパパと朝からお出かけして、パーティの準備が出来るまでパパを家から遠ざけておくのが仕事。
あれから1年経ったんだな…と、僕は日記を開いた。
だけど、日記は真っ白だった。
パパと僕のこの1年の思い出が、全部消えてしまったと僕は焦った。
だけど、次の瞬間、思ったんだ。
どうして僕は日記を付けてたんだろう…って。僕はこの日記に何を書いていたんだろうって…。

僕はアルバムを開いた。
そこには僕が生まれた時からの写真が沢山貼ってあった。パパと僕の写真も沢山…。

どうして僕は『パパは死んでいた』なんて思ったんだろう…。
パパは僕が生まれてから…ううん、生まれる前からずっと一緒にいるのに…。

アルバムを閉じると、さっきまであったあの日記帳は消えていた。消えたこと…ううん、その存在すら、僕は忘れていた。
でも、何か大切なことを忘れたことだけは、僕は覚えていた。
うんうんと頭を捻った僕は、ようやく思い出した。
「そうだ!明日の映画のチケット、予約しておかなきゃ!」
パパを家から遠ざけておくために、明日はパパと映画を観に行く約束をしているんだった。人気シリーズの最新作だから、きっと予約しておかないと、チケットは売り切れてしまう。そうしたら、映画を楽しみにしているパパは、しょぼくれてしまうに決まっている。
僕はパソコンを開いた。でも、丁度その時、パパが部屋に入ってきた。
「おい、エディ。明日の映画のチケット…」
「今から取る!」
パパを遮るように叫んだ僕に、パパはわざとらしく眉をつり上げた。
「お前が言っていた回は、もう売り切れてるぞ?そんなことだろうと思って、パパが1週間前に取っておいた。特等席だ。ど真ん中の、一番よく見える席だ」
得意げに鼻を鳴らしたパパに、僕は感謝しながらも、肩を竦めてみせた。
「さすがパパ」
するとパパは、口の端を上げてニヤリと笑った。
「お前のパパを何年やってると思ってる。もう11年だ。モーガンのパパは、16年もやってるんだぞ?お前たちのことは、全部分かってるさ」
笑いながら言うパパは、明日がお誕生日だからか、とっても楽しそうだった。

そんなパパを見ながら、僕は思った。
『パパ、戻ってきてくれてありがとう』って。
どうしてそんなことを思ったのか分からないけど。でも、きっと、12年前のあの戦い…アイアンマンにとっての最後の戦いで、生きて帰ってきてくれてありがとうということだろうって、思うことにした。

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