He’s always with us.

教会から自宅に戻ってきたペッパーは、ドアを開けようとして思わず立ち止まった。

何と説明すればいいのだろう…。
あの子はまだ4歳で、父親がヒーローであることもよく分かっていない。あの子にとって彼は、ヒーローではなく父親なのだから…。

それでも、父親がもう二度と戻ってこないことを説明せねばと、何度も深呼吸をしたペッパーは、ドアを開けた。

***

両親が戻ってくるのを今か今かと待っていたモーガンは、車の音が聞こえると、ドアの前で待ち構えていた。

ママは朝ごはんの後、「パパを手伝ってくる」と、出掛けて行った。さっきお昼寝している間に、ママは帰ってきたみたいだけど、あたしが起きた時にはまたいなくなってた。でも、パパとはもう何日も会っていない。

『パパは大切な仕事をしてくる。その仕事が終わったら、パパはもうどこにも行かないし、ずっとモーガンとママのそばにいる。そうだ。帰ってきたら、動物園に行こう。モーガンの大好きな動物がたくさんいるぞ?それから遊園地にも行こうな』
パパは動物園に行こうと約束してくれた。ずっと行きたかった動物園。でも、今は動物さんもお休み中だからと、今まで行ったことがなかった。だから、早くパパのお仕事が終わって、パパとママと3人で動物園に行けますようにとお祈りしてた。ハッピーおじちゃんと、お菓子の箱と画用紙で動物園を作ったから、パパとママに見せてあげなきゃ!
そのハッピーおじちゃんは、あたしがお昼寝から起きてきてから、ずっと泣いている。どうしたのかと聞いても、ハッピーおじちゃんは何も言わなかった…。

そんなことをモーガンが考えていると、ドアが開き母親が姿を現した。

***

「ママ!おかえり!」
飛びかかってきたモーガンをペッパーは抱きしめた。
泣いてはダメ…と、必死で自分に言い聞かせたペッパーだが、部屋の反対側にいるハッピーは泣いていた。目を真っ赤に腫らし、肩を震わせ、声を押し殺して泣いていた。頼もしいはずのハッピーの背中は、酷く小さく脆く見え、ペッパーは込み上げてくるものを必死で抑えようと、娘の身体を抱きしめた。

「ママ、パパは?」
ママはパパを手伝いに行ったのに、どうして一緒に帰ってきていないのだろう…。パパのことだから、ママより先に飛び込んできてもいいのに…と、いつまで経っても姿を見せない父親を探すように、顔を上げたモーガンはドアの向こう側を見つめた。
そこで、何度か深呼吸をしたペッパーは、娘を見た。頬を撫で、何とか冷静に説明しようとしたが、無理だった。大きな琥珀色の瞳も柔らかな猫っ毛も…何もかもが父親に生き写しの娘に、トニーを思い出したペッパーの目には、みるみるうちに涙が溢れ始めた。
突然母親が泣き始めたのだから、モーガンは驚いた。
「ママ、だいじょうぶ?」
母親の頬を伝わる涙を小さな指で拭ったモーガンに、ペッパーはゆっくりと言葉を出した。
「モーガン…パパはね…パパは……もう…帰ってこないの…」
やっとの思いでそう告げると、モーガンは首を傾げた。
「パパ、おうちがイヤになったの?あたしがパパのおかし、たべちゃったから?」
首を振ったペッパーは何度も深呼吸をした。
「パパは、お家に帰りたくても帰ってこれないの。パパは…お星様になったから…」
こんな説明で伝わるはずがない。だが、今のペッパーには、これ以上の説明は無理だった。案の定、状況がよく分からないモーガンは、眉をひそめると首を傾げた。
『パパはもうお家に帰ってこない』
それだけは分かったモーガンは、唇を尖らせると母親に抱きついた。
「あたし…パパにあいたい…」

娘の背中を撫でたペッパーは、彼女を抱き上げると、車へと向かった。

***

教会は、葬儀の準備中だった。
モーガンを抱いたまま、ペッパーは真っ直ぐ棺へと向かった。
棺の中でトニーは眠っていた。彼の好きだった向日葵の花の中で、トニーは永遠の眠りについていた。
焼け爛れた顔の右側は花で隠されており、お気に入りのスーツを着たトニーは、ペッパーとモーガンがプレゼントしたネクタイをしめていた。ペッパーとモーガンの写真や、モーガンの書いたトニーの似顔絵、ハッピーとローディとの写真など、思い出の品に囲まれ眠っている父親は、いつもベッドやソファでぐーぐーいびきをかいて寝ている父親とは違い、身動き一つしていない。
「パパ……」
手を伸ばしたモーガンはトニーの手に触れた。
「パパ…あたしよ。モーガンよ…」
だが、父親の手は氷のように冷たく、モーガンは身震いした。父親の手はいつだって温かく、元気をくれる魔法の手なのに…。
「パパ……パパ、おっきして……」
何度呼んでも、父親は目を覚まさない。いつもならとっくに起き上がって、『モーガン、おはよう』と、キスをいっぱいしてくれるのに…。お髭が痛いと文句を言うと、わざとらしくしょんぼりするか、逆に余計にキスをしてくるかのどちらかなのに…。

「ママ……。パパ…おっきしない……」
モーガンはようやく理解した。
父親はもう二度と目を覚まさないのだということを…。もう二度と抱っこもキスもしてくれないのだということを…。それでもモーガンは認めたくなかった。父親が死んだという事実を…。
「どうしておっきしないの?どうしてあたしのこと、だっこしてくれないの?ママ、どうして?どうしてパパは、ねんねしたままなの!」
唇を噛み締めたモーガンは叫んだ。ポロポロと大粒の涙が零れ落ち、母親に抱きついたモーガンは声を上げて泣き始めた。
「モーガン…パパは…パパは天国に行ったの…。もう、あなたとママのそばにはいないの…。辛いけど…寂しいけど…。パパをゆっくり眠らせてあげて…」
小さな背中を抱きしめたペッパーも、泣きながらそう伝えたのだが、モーガンは首を乱暴に振った。
「ママ!どうして!あたし、パパのこと、だいすきなのに!パパとバイバイしたくないのに!パパとどうぶつえんにいくって、やくそくしたのに!ゆうえんちにもいくってやくそくしたのに!パパのうそつき!」
モーガンの悲痛な叫びに、教会のあちこちからすすり泣きが聞こえ始めた。娘の両腕を掴んだペッパーは、彼女を諭すように言葉を続けた。
「モーガン…パパはね…パパは、あなたと動物園に行きたかったのよ。遊園地にも行きたかった。本を読んだり、お話したり、ブランコに乗ったり、お庭で遊んだり…。パパは…あなたともっともっと沢山の時間を過ごしたかった…。だって…あなたは…モーガンはパパにとって、何よりも大切なものだから…。パパは、ずっとあなたのそばにいたかった。でもね、悪い人が沢山やって来たの。悪い人たちは、世界を壊そうとしたの。だから、パパは…あなたやあなたの好きな動物を守るために…命をかけたの…。パパしか……アイアンマンしか、出来なかったの…。パパしか…あの時、悪い人をやっつけることは出来なかったの…。あなたに何も言わずに…トニーは…パパはお別れを言わなければならなかった…。本当は、あなたに会いたかったのよ…。でも…出来なかった…。モーガン…パパのこと…許してあげて…。パパは…パパは最期まで…あなたのことを考えてた…。愛してるんだから…」

泣きながら説明する母親に、顔を上げたモーガンは顔を真っ赤にすると叫んだ。
「パパはアイアンマンじゃないもん!あたしのパパだもん!あたしだけのパパなのに!!」
足を踏み鳴らしたモーガンは、母親の身体をポカポカ叩き始めた。
「ママのうそつき!パパをたすけてくるっていったのに!!!いっしょにおうちにかえってくるっていったのに!うそつき!!パパもママも…うそつき!」

モーガンは泣いた。母親のペッパーですら見たことがないほど、泣き始めた。涙は止まらなかった。娘を抱きしめたまま、ペッパーも泣いた。涙が枯れ果てるまで、母と娘は棺の前で泣き続けた。

***

翌日。葬儀には大勢の人々がやって来た。誰もが泣きじゃくり、トニーの死を悼んだ。

ペッパーは弔問客に挨拶をしたりと、慌ただしく時間は過ぎていった。が、どこかぼんやりとしたモーガンは、トニーが買ってきたウサギのぬいぐるみを抱きしめたまま、椅子に大人しく座っていた。

墓地に埋葬する時も、モーガンは何も言わなかった。
「モーガン、パパにお別れを言って…」
トニーに別れのキスをしたペッパーは、黙ったままの娘を抱き上げた。
「パパ…3000かい…あいしてる…」
蚊の鳴くような声でそう言うと、モーガンはトニーの頬にそっとキスをした。

家に帰り、皆でトニーの遺したホログラムを見た。
『前を向いて歩いてくれ』
まるでそう告げているようなトニーの最後のメッセージに、ペッパーは涙が止まらなかった。

が、同時に気づいた。
彼はタイムトラベルに向かうためにこのメッセージを遺したのだと…。あの戦いで命を落とすとは…あのような最期を迎えるとは、彼自身も想定外だったのだと…。

だから彼はあの時、最期に笑ったのだと…。『すまない、許してくれ…』というように…。

身が引きちぎられそうだが、受け止めるしかない…。彼は…アイアンマンは、世界を救ったヒーローなのだから…。

ペッパーは無理矢理自分にそう言い聞かせるしかなかった。

***

2人きりになった家は静かだった。
笑い声も何も聞こえなかった。
空腹ではなかったが、無理矢理夕食を食べた。トニーが冗談を言い、楽しかったはずの夕食が、苦痛でしかなかった。

***

それからの日々は、何もする気にならなかった。何を見てもトニーのことを思い出してしまったから。

テレビではやたらとアイアンマンとトニー・スタークの特集を放送しており、テレビを付ける気にもならなかった。

このまま、ただ悲しみが癒え、時が過ぎるのを待つしかないのだろうか…。いや、結局は現実を受け止め、これから先、生きていくしかないのだ。
が、大丈夫なわけなかった。ペッパーにとって、トニーは人生そのものだったから…。親友であり、夫であり、そして自分自身だったから…。

いつまでも悲しんでいるなんて、トニーはそんなことを望んでいないのは分かっている。いつかこの悲しみと苦しみを乗り越えなければならないのは分かっている。
だが、失ったものはあまりにも大きすぎた。
『アイアンマンは世界を救ったヒーローだ』と言われても、嬉しくもなんともなかった。ただ悲しみが増すだけだった。ペッパーにとって、トニー・スタークはアイアンマンではなく、ただのトニーだったのだから…。

***

いつまでもこのままでいる訳にはいかない。いい加減には前に進まなければ…と、2週間程過ぎた頃、ペッパーは仕事に復帰することにした。

ペッパーが仕事に出ている間、ハッピーがモーガンの面倒を見てくれることになった。が、モーガンはペッパーに抱きついて離れようとしない。
「モーガン、お話したでしょ?ママは会社に行かないといけないの。今日からハッピーとお留守して」
数日前から何度も話をして言い聞かせていたが、モーガンはいやいやと首を振った。
「いや!ママといる!!!ママも…ママもパパみたいにいなくなっちゃったらイヤ!!」
ポロポロと大粒の涙を流したモーガンの言葉に、ペッパーはハッとした。父親だけでなく、母親も突然失うのではないかという恐怖を、モーガンは小さな胸に抱え込んでいると気づいたペッパーは、震える娘を抱きしめた。
「モーガン、大丈夫よ。ママはどこにも行かない…。大丈夫だから……」
するとモーガンは、ペッパーの服をぎゅっと掴むと、消えそうな声で囁いた。
「ママ…やくそくよ…。どこにもいかないで…。あたしをおいて、いかないで…」

結局、何かあればいつでも駆け付けられるため、モーガンは会社の保育園に預けることにしたのだが…。夕方迎えに行くと、ぐずって部屋の隅でずっと泣いていたと保育士から聞いたペッパーは、胸が痛んだ。
が、これからは2人で生きていかねばならないのだ。トニーがいないという現実を、辛くても乗り越えなくてはならないのだ。

ペッパーは決めた。
モーガンの前では決して泣くまいと。
自分が悲しんでいると、モーガンは余計に悲しむと考えたから。

それからのペッパーは、モーガンの前では決して泣き言は言わなかった。涙を見せなかった。
モーガンが「パパにあいたい」と泣いても、ペッパーは涙一つ見せなかった。
その代わり、寝室で一人きりになると、トニーの遺品を抱きしめ、静かに涙を流した。モーガンには気づかれないように…。

ペッパーは今まで以上にがむしゃらに働いた。自分が頑張っている姿を見せることで、モーガンにも前を向いて歩いてもらいたかったから…。

が、モーガンは気づいていた。
母親が笑わなくなったことに…。

***

1ヶ月後。
朝になり、モーガンを起こそうと子供部屋に向かったペッパーだが、娘の姿はなかった。
「モーガン?」
ベッドはもぬけの殻で、トニー亡き後、彼女が毎日一緒に寝ているアイアンマンのぬいぐるみも姿が見えなかった。どこに行ったのかと、慌てて1階に降りたペッパーがふと窓の外を覗くと、モーガンはぬいぐるみを抱きしめ、トニーが作ったブランコに座っていた。
12月の寒空に、パジャマ姿で外にいるのだから、風邪を引いたら大変だと、ペッパーは毛布片手に慌てて外に向かった。

「モーガン、風邪引くわよ」
肩から毛布を掛けると、モーガンは空を見上げた。
「パパ…どこにいるかな……」
あまりに静かな声に、ペッパーは何事かと娘の横に腰を下ろした。すると母親に顔を向けたモーガンは、ポツリと呟いた。
「ママ、ないていいよ?」
「え……」
目をパチクリさせたペッパーは、思わず娘を見つめた。
「あたしがまいにちないてるから、ママはなかないでしょ?だからね、ないていいよ」
娘の言葉に、ペッパーは何も言えなかった。唇を震わせている母親から視線を逸らしたモーガンは、アイアンマンのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
「きのうね、パパがね、ゆめにでてきたの。パパはいないから、モーガンがママをたすけてあげろって。パパのかわりにママのことだっこして、チューしてって。パパね、いってたよ。ママとあたしのそばにいっつもいるって。まいにちみてるって。あたしがジェラルドのおせわをしてないのもしってるって。ないてママをこまらせてるのもしってるって。きのう、ママがかいしゃで、おこったのもしってるって…」

ペッパーは思わず息を飲んだ。
確かに昨日、会議中に一悶着あった。取引先がトニーのことを貶めるような発言をしたので、思わず声を荒げてしまったのだ。その話はモーガンにはしていないのだから、トニーは本当に毎日そばにいて、自分とモーガンのことを見ているのかと、ペッパーは思わず辺りを見渡した。

そんな母親をチラリと見たモーガンは、湖を見つめると話を続けた。
「パパね、あたしのこと、ギューっていっぱいだっこしてくれたの。ブランコであそんだし、おえかきもしたの。パパのかいたぞうさん、あしがへんなところにあったんだよ。だからあたしがわらったら、パパもおおわらいしたの。それからね、パパとママのおはなしもたくさんしてくれたよ。パパね、ママのことだいすきだし、ママがおよめさんになってくれて、よかったっていってたよ。あとね、どうぶつえんにいけなくてごめんっていってたよ。でもね、またあいにきてくれるってやくそくしてくれたの。ママのところにもいくっていってたよ。まいにちママのところにいくっていったからね、あたしのところにもきてって、パパにいったの」
その時のことを思い出したのか、モーガンは少しだけ笑みを浮かべた。そしてブランコから降りると、立ち上がった。
「パパはわらってるママがだいすきだって。だからね、ママがないてたら、パパもかなしくて、てんごくでないてるんだって」
モーガンは母親を見つめた。そしてすぅと息を吸い込むと、真剣な表情になった。
「あたしがママをまもる。パパのかわりに、あたしがママをまもる。あたしも、わらってるママがだいすきだから…」
トニーそっくりの瞳に見つめられ、ペッパーはハッとした。そこには確かにトニーがいた。モーガンの中にトニーは生き続けているのだと…分かっていたつもりなのに、受け入れることが出来なかったことを、ペッパーはその時、ようやく受け入れることができた。

母親の目から涙が溢れ始めたのに気づいたモーガンは、小さな指でそっと拭った。
「だから…ママ、あたし、もうなかない。ひとりでおふろもはいるし、ひとりでねんねする。ベッドのしたにおばけがいても、なかない。あたしがアイアンマンになって、おばけをやっつけるって、パパとやくそくしたの。ママのベッドのしたのおばけも、あたしがやっつけるって…。なきむしはおわりにするって…」
深呼吸をしたモーガンは、もう一度ぬいぐるみを抱きしめた。
「ママ、パパはね、いなくなってないよ。いっしょにごはんをたべたり、あそんだりできないけど、パパはママとあたしのそばにいるんだから…。ずーっとずーっとそばにいてくれるんだから。だからね、あたし……もう、なかないよ…」
声を震わせたモーガンは、大粒の涙を流しながらも、無理矢理笑った。
それは、あの時のトニーと同じように…。

堪らなくなったペッパーが娘を抱き寄せると、モーガンは声を押し殺して泣き出した。
ペッパーも涙が止まらなかった。
「そうね…。パパは…トニーは…きっとモーガンとママが笑っている方が、喜ぶわね…」
小さな背中を撫でると、モーガンの震えが止まった。
「モーガン…今日は思いっきり泣きましょ?明日からは…パパが心配しないように、いっぱい笑って、楽しいことを沢山して…。今度パパに会った時、楽しいお話をいっぱいしてあげましょ?」
顔を上げたモーガンは、しゃくり上げながらも、笑顔で頷いた。
「でも、ママ…。パパにあいたくなったら、ないていい?」
上目遣いで見つめてくるその姿は、トニーにそっくりで、ペッパーは泣きながらも笑みを浮かべた。
「もちろんよ。ママもパパに会いたくなったら泣くわよ。だからモーガン、我慢しなくていいのよ。泣きたい時は泣いていいの。パパに会いたいって泣いていいの。そうしたら、きっとパパはモーガンの夢の中に飛んでやって来るわ…。だって、トニーはあなたのパパだから…」
小さく頷いたモーガンはペッパーの肩に顔を埋めると、再び泣き始めた。

小さな身体を抱きしめたペッパーは、空を見上げた。
今日だけは思いっきり泣こう。モーガンと2人で泣き続けよう。でも、明日からは…前を向いて生きていこう。笑って人生を楽しもう…。きっとトニーも、それを望んでいるから…。

(でも、トニー…。今日だけは泣かせて…)

と、その時だった。
ふわっと温かな何かにペッパーは包まれた。
それはきっと……。

「トニー………」
小さな声で名を呼ぶと、温もりはペッパーとモーガンを守るように包み込んだ。

トニーはいつだってそばにいてくれる。
例え姿は見えなくても、例え触れ合うことはできなくても…。これからもずっと、彼はそばで見守っていてくれる。いつの日か、再び会う時が来るまで…。

それに、モーガンの中にトニーは生きている。かけがえのない、大切な存在を、彼は遺してくれたのだから…。

だから大丈夫…。きっと大丈夫…。
これから先、何があっても、私たちは大丈夫…。あなたがそばにいてくれるんだから…。
だから、ゆっくり眠って……。

あの時告げた言葉…。あの時は、ただトニーを安心させたいがために告げた言葉だった。だが、ペッパーはようやく心の底から告げることができたのだった。

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