Need You Now~絆編6~

幸いにもお腹の中の子供は無事だった。
「今日一日はおとなしくしておいて下さいね。ペッパー様に何かあったら、私がトニー様に怒られますから」
ベッドに横たわったペッパーに明るく話しかけたエミリーだが、ペッパーの顔色は悪く泣き出しそうな表情をしている。

ペッパーはどうすればいいのか分からなかった。もちろんトニーが裏切るなんて思ってもいない。だがあの写真を見て、ペッパーはトニーを信じられなくなっていたのだ。
チラリとエミリーを見上げると、彼女はペッパーを労わるように頭を撫でてくれた。
社長夫人と秘書という関係ではあるが、出会ってから数ヶ月、頼る者のいないLAで、一回り近く年の違うエミリーはペッパーにとって何でも相談できる姉のような存在になっていた。

「エミリーさん…私……彼のこと…」
震える声で言葉を絞り出したペッパーだったが、どこから話せばいいのか分からず、黙ってしまった。
真っ赤に腫れた目に新たな涙が浮かんだのを見たエミリーは、言葉を選びながら話し始めた。
「僭越ながら、写真を拝見しました。ペッパー様、あの写真に写っていることは、残念ながら事実だと思います。でも、あれはトニー様が望まれてしたことではありません」
キッパリと言い切ったエミリーだったが、それでもペッパーは素直に受け止められなかった。
「でも…でも…。トニーがあの女性と…したことに…代わりはないわ…。彼は私以外の女性と…」
大粒の涙が枕を濡らし、ペッパーはそばに置いてあったタオルで顔を覆った。ペッパーの手を優しく握ったエミリーは静かに話し続けた。
「トニー様は何があってもペッパー様のことを裏切ったりしません。この数ヶ月お二人をずっと見てまいりましたが、私はそれだけは神に誓って言えます。ト ニー様はペッパー様のことをいつも考えていらっしゃいます。時々トニー様は部屋で居眠りをされていますが、そんな時でもペッパー様のお名前を寝言で言われ ているんですよ」
「え…」
意外だった。家や二人きりの時には甘えた姿を見せてくれるトニーだが、一旦公の場に出ると、愛しているというアピールは勿論するのだが、どちらかと言うと年下の妻をリードする頼もしい夫という面しか見せないからだ。
目をパチクリさせているペッパーに、エミリーは笑みを浮かべた。
「私が初めてトニー様にお会いしたのは、トニー様が社長になられて間もない頃でした。開口一番に私を秘書に採用した理由を言われたんです。『君には婚約者 がいるそうだな?私もだ。だから君を秘書に採用した』って。いきなりそんなこと言われたんで、正直おかしくって…。それから事あるごとにトニー様はペッ パー様のことをお話になるんです。その時のトニー様は本当に幸せそうで…。ペッパー様が来られる数日前でした。大切な話があると呼ばれて行くと、トニー様 はいつも自分のスーツをオーダーされているデザイナーと話をされていました。ペッパー様のために洋服をオーダーされていたようです」
「あ…」
その話を聞いてペッパーは思い出した。あの日…マリブに来た翌日、トニーが買ってくれたワンピースのことを…。一目で気に入った訳だ。彼がペッパーのためにオーダーした世界で一枚しかないワンピースだったのだから…。
大粒の涙がペッパーの目に浮かんだのを見たエミリーは、タオルで優しく拭うと言葉を続けた。
「デザイナーが帰った後でトニー様は言われました。『もうすぐ彼女がこっちに来る。ペッパーは世界一大切な女性だ。ペッパーのおかげなんだ。今の私がいるのは…。彼女には今まで何度も救われてきた。だから、彼女のためなら私は命さえ惜しまない。そのくらい大切な女性なんだ。エミリー、もし私に何かあったら、彼女のことを頼むぞ?』と…。トニー様はペッパー様が来られるのをとても楽しみにされていました。だから、大丈夫です。トニー様はペッパー様のことを 本当に大事に思っていらっしゃいますから…」

(分かってる…。彼はいつだって私の幸せを考えてくれている…。どうして一瞬でも彼のことを疑ったの?私が信じなくて、誰が彼のことを信じるの?)
顔を上げたペッパー。その瞳にはもう迷いはなかった。ペッパーの手を優しく握ったエミリーは、腕時計を見た。
「ペッパー様、あの写真にはトニー様の居場所の手がかりになる物が写っていました。トニー様は州境の街にいらっしゃいます。今、ローズ大佐が救出に向かっています。もしかしたら誰かがトニー様の居場所を教えるために送ってきたのかもしれません…」

その頃、LAから遠く離れた州境の小さな街に、ローディは数名の部下を引き連れてやって来ていた。割り出した住所に向かったローディたちは、ビルの一室に突入した。

「いたぞ!」
目的の人物は部屋の中央にいた。身体を拘束され、ぐったりとし意識がない。
「トニー!おい!しっかりしろ!!」
左右の腕に何本も刺さる管を引き抜いたローディは、トニーの頬を軽く叩くが、トニーは反応しない。
複数のパックはいずれも空っぽ。部屋には何の手がかりもなく、トニーが何を投与され、何をされたのか誰も分からなかった。

「検査では異常はありません。ただ、救出された時にトニー様は薬物を大量に投与されていました。2、3日様子をみましょう」
病院へ担ぎこまれたトニーは、すぐさま検査を受けたが、結果に異常は見つからなかった。
トニーがキリアンに何をされたのかは分からない。ただ一つはっきりとしていること、それは彼が無事な姿で自分の元に戻ってきてくれたこと…。眠り続けるトニーの頬をペッパーはそっと撫でた。
「トニー…無事でよかった…」

7へ…

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