Need You Now~絆編4~

「遅いなぁ…」
いつもならとっくに帰宅する時間だが、トニーはまだ帰って来ない。窓から外を見ると、珍しく雨が降っている。
遅くなるなら連絡があるはず。心配になったペッパーがトニーの携帯に電話を掛けるが、電源が入っていないのか繋がらない。もちろん、トニーのオフィスに電話をかけても繋がらない。
(もしかして、何かあったの?)
不安になったペッパーは、秘書のエミリーに電話を掛けた。
大事な客だから近づくなと言われ控えていたエミリーは、トニーと連絡が付かないと聞き驚いた。慌てて社長室を覗くが部屋は、もぬけの殻。部屋には荷物もあり、駐車場に車もある。文字通りトニーだけが姿を消してしまったのだ。
至急調査するとエミリーに言われたペッパーは、ジャーヴィスに呼びかけた。
「ジャーヴィス?トニーの携帯に繋いで?」
だが、トニーの携帯は電源が切られており、さすがのジャーヴィスもどうすることもできなかった。
『ペッパー様、お繋ぎすることができません』
「それは分かってるの!何とかしてよ!」
苛立ち声を荒げたペッパー。
『ペッパー様、申し訳ありません』
ジャーヴィスの申し訳なさそうな声に、ペッパーはソファーに座り込むと震える身体を抱き締めた。

しばらくして、青い顔をしたエミリーがやって来た。
「ペッパー様…トニー様は行方不明です。防犯カメラにも映っていないんです。誰もお姿を見ていないんです…」
「そんな…」
ポロポロと涙を零し始めたペッパーは、エミリーに抱き着くと声を上げて泣き始めた。

「ん…」
目を開けたトニーは、自分が見知らぬ場所に連れてこられたことに気付いた。
手足はベッドに拘束されており、身動きが取れない。
服は脱がされているが下着は身に着けており、何もされていないことに安堵したトニーは息を吐いた。
「気が付いた?」
ふと横を見ると、一人の自分と同じくらいの年齢の女性が椅子に座っているではないか。
「君、私を解放してくれ」
きっとこの女性も仲間なのだろうが、念のため頼んでみたものの、予想通り女性は笑うばかりで何もしてくれない。
「ダメよ。それに…私の事覚えてない?また遊んでくれるわよね?」
頭をフル回転させてみるが、目の前の女性には見覚えがない。いや、正直なところ、ペッパーに話したことはないが、学生時代を含め教師になる前は散々遊んでいたため、一夜だけのオンナは山ほどいるのだ。
「すまないが、間に合っている。なぁ、帰らせてくれないか?妻が待っているんだ」
トニーの言葉にその女性は大げさに肩をすくめた。
「妻ねぇ。結婚したのよね?それも自分の生徒と。信じられないわ。あれだけ遊んでいた男が。一夜限りの女が星の数ほどいるのを奥さんは知ってるの?言える わけないわよね…。彼女、そういうことには疎そうだから。ねぇ、トニー。私は一夜限りのオンナじゃないわよ?覚えてるでしょ?」
一夜じゃないということは、付き合っていたということだろう。となると、ペッパーの前に付き合った女性ということだ。
その時、トニーの脳裏に一人の女性が思い浮かんだ。
トニーが初めて本気で恋をした女性。強い心と瞳を持ち、天才と称された美しい女性…それは…。
「…もしかして、マヤか?」
マヤ・ハンセン。トニーより5つ年上の彼女とは、短い期間だったが本気で愛し合っていた。だが、彼女は何も言わずスイスへ留学してしまった。それもトニーとは別の男性と共に…。
若かりし頃の苦い記憶を思い出したトニーは、頭を軽く振った。
「やっと思い出したのね?会いたかったわ、トニー」
立ち上がりベッドへ登ったマヤは、トニーの上に跨ると胸元に手を滑らせた。思わず顔を背けたトニーだが、トニーの頬を掴んだマヤは、強引に唇を奪った。
身体を捩り抵抗するものの、拘束されている手足のせいで、思うように動けない。
唇を離したマヤは、口を尖らせると服を脱ぎ捨てた。
「嫌なの?学生の時はよく二人で遊んだでしょ?ラボであなたに何度抱かれたかしら?そうそう、あなたが私のことをこういう風に縛ったこともあったわよね?何年ぶり?せっかく再会したのよ?楽しまなきゃ…」
トニーの身体に指を滑らせたマヤは、下腹部の膨らみをなぞり始めた。
「マヤ、よせ。君は俺を捨てたんだぞ?それに、今の俺の心には君ではない別の女性が住んでいるんだ」
無表情に答えるトニーだが、マヤはクスクスと笑った。
「私はあなたのことを忘れたことはなかったわ。あの後何度も別の男に抱かれたけど、満足できなかった…。あなたじゃないと満足できないみたい…」
股間をキュっと握ったマヤだが、トニーは表情一つ変えない。
「あら?妻以外には反応しないの?仕方ないわね…」
唇をペロリと舐めたマヤは、サイドテーブルに置かれた物を手に取った。
「これは使いたくなかったんだけど…」
目の前に掲げられたのは、鋭い針の光る注射器。恐怖に目を見開いたトニーの耳元で、
「大丈夫よ…楽しくなる薬なの…。楽にして…ハニー…」
と囁いたマヤは、トニーの首筋に銀色に光る針を刺した。
必死で抵抗しようとするトニーだが、目の前がゆらゆらと揺れ始め、マヤの代わりにペッパーが現れた。

(トニー…いつもみたいに愛して…)

「ペッパー……」

ペッパーの甘い香りを吸い込んだトニーはゆっくりと目を閉じた。

5へ…

マヤの設定は捏造ですが、トニーは飛び級でMIT入学しているんで、トニー16歳、マヤ21歳の時に同じ研究室で出会った設定です。

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