トニーと通信が途絶えて早一日。
何とか連絡を取ろうと、ペッパーは携帯を片手に部屋をウロウロしていた。
が、その時だった。
辺りが不気味なほど静まり返った。
部屋には自分しかいないのに、一切の気配が消えたのだ。
「…トニー?」
トニーの声が聞こえた気がした。が、誰もいなかった。
トニーに何かあったに違いない…。
アベンジャーズの本部に行けば何か分かるかもしれないと、身支度を整えたペッパーは、急いで車に向かった。
***
***
その頃、地球から遠く離れたタイタンでは…。
トニーはサノスと対峙していた。が、長年の脅威であるサノスは強かった。武器をへし折られたトニーの腹部に、それが突き刺さった。息ができなくなり、血を吐き出したトニーの頭を掴んだサノスは、トニーを投げ飛ばした。地面に倒れこんだトニーは、立ち上がることができなかった。そんなトニーにとどめを刺そうと、サノスは石を起動しガントレットを向けた。
「スターク、お前は脅威だ。お前だけは消し去らればならない」
動くことのできないトニーは、どうすることも出来ず、目をキュッと閉じた。すると、目の前に誰かが立ち塞がった。
スパイダーマンだ。
「退け、小僧」
「嫌だ!」
ピーターはトニーの前に立ちはだかった。何としてもトニーを守らなければ…と、ピーターは必死だった。
「坊や、逃げろ!」
トニーは叫んだ。ピーター・パーカーだけは守らねばと、トニーも必死だった。だがピーターは退けなかった。サノスを睨みつけ動こうとしなかった。
すると、それまで黙っていたストレンジが口を開いた。
「石を渡す。だから助けてやってくれ」
何を言っているんだと目を見開いたトニーはストレンジを見つめた。が、ストレンジは小さく頷くと、石を取り出しサノスに渡した。石を受け取ったサノスは、ニンマリ笑うと姿を消した。
「スタークさん!大丈夫ですか!」
駆け寄ってきたピーターを制したトニーは、傷口を応急処置をすると、ストレンジを睨みつけた。
「どういうつもりだ…」
が、ストレンジは静かに答えた。
「これが唯一の方法だ」
すると、辺りが静寂に包まれた。
見るとガーディアンズの仲間たちが、次々と塵と化しているではないか。
「な、何が起こっているんですか?!」
ピーターはトニーの腕を思わず掴んだ。が、トニーは黙ったままだった。
ストレンジも姿を消し、ピーターは次は自分かと震えだした。
「スタークさん…」
相変わらずトニーは何も話さない。が、掴んでいたはずの腕がないことに気づいたピーターは、慌ててトニーを見つめた。するとトニーは他の仲間と同じように、消えかけているではないか。
「スタークさん!待って!消えないで!」
トニーを連れ戻そうと、ピーターは彼の身体に触れようとしたが、触れた部分は次々と塵と化している。
消えかけている自分の身体を見たトニーは、辛そうにピーターを見つめた。
「…ペッパーに………すまな…」
トニーの姿が消えた。
ピーターの手に残ったのは、塵だけだった。
***
***
アベンジャーズの本部に向かったペッパーは、暫くして戻ってきたローディとブルースたちから、事のあらましを聞いた。
彼らもトニーとは音信不通と聞いたペッパーには、トニーの無事をただ祈るしか出来なかった。
だが、いくら待てども、トニーたちからの連絡はなかった。
が、22日後。事態は急変した。キャプテン・マーベルが、宇宙船を連れて戻ってきたのだ。
ペッパーは大急ぎで外へ向かった。
だが、宇宙船から降りてきたのは、見知らぬ宇宙人の女性と、ピーター・パーカーだけだった。
スティーブがピーターに駆け寄った。ピーターは泣きながらスティーブに何か話しているではないか。
トニーは降りてこない。トニーの姿は見えない。
ペッパーの頭に最悪の事態が過った。
そしてあの日…世界の半分が消えてしまった瞬間に聞こえたトニーの声を思い出したペッパーは、ガタガタ震え始めた。
と、ピーターがペッパーに気づいた。見る影のない程窶れたピーターは、ペッパーの元にゆっくりとやって来た。
「…トニーは……」
必死で声を振り絞ったペッパーに、ピーターの目から新たな涙が溢れ落ちた。
「ごめんなさい…、スタークさんは…スタークさんは……。ごめんなさい、ごめんなさい…」
ポロポロと大粒の涙を流したピーターは、その場に座り込むと声を上げて泣き始めた。
(トニーは……トニーは…死んだの…)
目の前が真っ暗になった。
トニーはもう二度と帰って来ないのだと思うと、泣き叫んでもいいはずなのに、ペッパーはショックのあまり、涙の一つも流すことができなかった。
「そう……」
そう呟いたペッパーは、フラフラと歩き始めた。
「ペッパー?」
様子のおかしいペッパーに、ローディは慌てて駆け寄ったが、ペッパーの腕を掴んだ途端、彼女は意識を失い倒れた。
ペッパーが目覚めると、ローディが枕元に座っていた。
「大丈夫か?」
ローディの声に何度か瞬きしたペッパーは、あの悪夢のような瞬間を思い出した。
トニーは戻ってこない…。
何をしてもトニーとはもう二度と会えないのだ…。
顔を歪めたペッパーの目から、次々と涙が零れ落ちた。声を押し殺して泣くペッパーを、ローディも泣きながら抱きしめることしかできなかった。
家に戻ったペッパーだが、トニーはもう二度と帰ってこないと思うと、何もする気にならなかった。スターク・インダストリーズも社員の半分が消え大混乱だと、ハッピーが伝えにやって来たが、ペッパーはぼんやりとしており、ハッピーの言葉は耳に入っていないようだ。
「ペッパー…少し休むんだ…」
ハッピーに促され、ペッパーは寝室へと向かった。寝室には、3週間程前にトニーが脱いだままのTシャツが残されていた。Tシャツには彼の匂いが残っており、それを抱きしめたペッパーは、泣きながら眠りについた。
翌日。ペッパーは気分が悪くて堪らなかった。トニーを突然失ったという喪失感からか、食欲もなく、起き上がる気力すらなかった。
心配したハッピーは、ペッパーを病院へと連れて行った。するとペッパーは妊娠していると告げられた。
トニーは死んでしまったが、彼は大切な存在を遺してくれた…。
ペッパーは涙が止まらなかった。そして彼女は最後に公園で交わした会話を思い出した。あの時トニーは、夢を見たと言っていた。モーガンと名付けた子供がいる夢を…。嬉しそうに語っていたトニーを思い出したペッパーは、お腹の子供をモーガンと名付けることにした。そして彼の分まで精一杯子供を育てようと決めたペッパーは、翌日から彼の遺してくれたもう一つのもの…つまりスターク・インダストリーズを守ろうと、今まで以上にがむしゃらに働き始めた。
数日後。
ピーター・パーカーがやって来た。
トニーの最期の言葉を伝えに来たと告げたピーターは、目の下にクマを作り、すっかり意気消沈していた。
彼の叔母のメイも消えたと聞いていたペッパーは、トニーが息子のように親近感を感じていたピーターを守らなくては…と感じ、彼に提案した。
「パーカーくん、良かったら…うちで暮らさない?」
「え…」
ピーターは戸惑った。確かに唯一の肉親であるメイが消え、これからどうしようかと思っていた。が、まさかペッパー・ポッツからそんな提案をされるとは思ってもみなかった。戸惑うピーターにペッパーは悲しそうに微笑んだ。
「トニーがいたら…。彼ならきっとあなたのこと…放っておけないって言うはずよ…」
こうしてピーターは、ペッパーと暮らすことになった。
***
***
***
あれから5年が経った。
トニーそっくりな女の子を出産したペッパーは湖畔の家に移り住み、モーガンと名付けた娘を育てた。
ピーターは大学生になった。ピーターはモーガンを妹のように可愛がり、モーガンも彼に懐いていた。
ペッパーは娘に父親の話を沢山した。写真やビデオを見せ、トニーのことを話した。そのため、モーガンは父親がいつもそばで見守ってくれているように感じていた。
そんなある日のこと。
アントマンことスコット・ラングが5年ぶりに戻ってきたことから、ペッパーを取り巻く状況は慌ただしくなってきた。
スティーブとナターシャが、スコットを連れて家へとやって来た。
タイムトラベルを行い過去からストーンを集め、5年前に消えた人々を取り戻す…そのためには、ピーターの力…そして残されたトニーの技術が必要だと告げるスティーブたちに、ピーターは真剣に耳を傾けている。
ドリンクを4人の元に運んだペッパーは、邪魔をしないようにそのまま立ち去ろうとしたが、顔を上げたスティーブがペッパーに告げた。
「ペッパー、うまくいけば…スタークを取り戻せる」
トニーが戻ってくる…。トニーだけではなく、5年前に消滅したもの全てを取り戻せる…。が、期待して裏切られたら…と思うと、ペッパーは素直に喜べなかった。
無言で頷いたペッパーは、何も言わず家の中へと戻った。
その日から、ピーターはアベンジャーズ本部のラボ…トニーの技術が詰まったラボに篭った。何日も帰ってこないので心配になったペッパーは、5年前に訪れて以来足を運んでいなかった本部へと向かった。
一心不乱に何やらしているその背中はまるでトニーのようで、懐かしさが込み上げて来たペッパーは目元に浮かんだ涙を拭うと、ピーターに声を掛けた。
「ピーター、無理しないで。ピザを持ってきたの。少し休んだら?」
ペッパーに気付いたピーターはピザを受け取ると、食べ始めた。
懐かしそうにラボを見渡しているペッパーに、ピーターは告げた。
「スタークさんなら、きっと、何が何でもやり遂げると思うんです。だから僕も…」
「そうね…トニーなら…」
悲しそうに笑ったペッパーに、ピーターは2日前の偶然の発見を彼女に伝えることにした。
「ポッツさん、実は…」
そう切り出したピーターは立ち上がった。
「スタークさんがポッツさんに作っていた物を、見つけたんです」
ピーターは部屋の隅に向かった。そこにはトニーのアーマーと、そして見慣れない青色のアーマーが置いてあった。トニーの物と比べると細身のアーマーに、ペッパーは震えながら側に近寄った。
「5年前にスタークさんが作っていた…ポッツさんのアーマーです。どうしてこの色なんですかね?」
ピーターの言葉にペッパーは思い出した。トニーがアフガニスタンから帰還した後のチャリティーパーティーを…。初めて一緒に踊り、そしてお互いの気持ちを自覚したあの日着ていたドレスが、青色だった。
『あのドレス、最高に似合ってる』
後々トニーは何度もペッパーに言っていた。そしてその後も何度かペッパーは、二人きりのディナーの時にあのドレスを着ていた。つまりあの時のドレスは、二人にとっての思い出のドレスになっていたのだ。
「私たちの…思い出の色なのよ…」
愛おしそうにアーマーを撫でたペッパーの目から小さな涙が零れ落ちた。
トニーはどうしてペッパーにアーマーを作っていたのだろうか…。もしかしたら彼は…何年も前から宇宙の脅威を認識していた彼は、ペッパーが自身を守るためにアーマーを身につけ戦わなければならない未来を予見していたのだろうか…。
「どうします?このアーマー…」
「持って帰るわね」
アーマーをリアクターに収納すると、ペッパーはそれを大切そうに抱きしめた。
それから数日後。
タイムトラベルの装置が完成した、これからタイムトラベルを行うとピーターから連絡を貰ったペッパーは、何か起こってはいけないと、例のリアクターを片手にモーガンと家に篭った。
「ママ、パパの本、よんで!」
アイアンマンの絵本を手に、モーガンは朝食の片付けを終えた母親に駆け寄った。ソファに座ったペッパーは、娘を膝の上に乗せると絵本を読み始めた。
と、その時だった。
辺りが不気味なほどに静まり返った。それは5年前のあの時と同じように…。
『…ペッパー』
トニーの声が聞こえた気がしたペッパーは顔を上げた。だが、誰もいなかった。
顔を強張らせた母親をモーガンは不安げに見上げた。
「ママ?」
娘の声に我に返ったペッパーは、側に置いていたリアクターを手に取った。すると、外でガタッと音がした。
敵がやって来たのかもしれない。となると、娘を守るために、アーマーを装着し戦わねばならない…。
覚悟を決めたペッパーは、モーガンを見つめた。
「モーガン、ここでじっとしててね」
娘をその場に残し、ペッパーはリアクターを握りしめると、恐る恐る外に出た。すると庭には5年前、公園に現れた男…ストレンジがいるではないか。そして彼は誰かを肩に担いでいた。血塗れでボロボロになった男性を…。
それは…。
ペッパーは声を上げそうになり、口を押さえた。見間違えるはずがない。それは、ペッパーのたった一人の最愛の男性だったのだから…。
「トニー…」
奇跡が起こったのだ…。
目からは涙が止まることなく流れ落ち、ペッパーは嗚咽を漏らし始めた。
「トニー!」
ペッパーは叫んだ。5年間待ちわびた恋人の名を叫ぶと、ペッパーは走った。
が、青い顔をしたトニーは意識を失っており、グッタリとしたままではないか。
「何があったの?」
トニーを抱きしめたペッパーは、ストレンジを見上げた。
「詳しく話している暇はない。手短に言う。生き残った者たちが過去で集めたストーンを使ったことで、我々消えた者たちは皆戻ってくることができた。だが、スタークは5年前、サノスに刺され重傷を負った。その傷が元で、感染症を起こしている。一刻も早く処置が必要だ。このまま病院へ連れて行く」
ストレンジの表情から、トニーはかなり深刻な状態だとペッパーは悟った。
「待って…。娘を連れて来るから…」
頷いたストレンジは、トニーを担ぐと再びポータルを開いた。
家に飛び込んだペッパーは、鞄を掴むと何事かとポカンとしているモーガンを抱き上げた。
「モーガン、出かけるわ」
「どこにいくの?」
が、ペッパーは何も答えず、再び外に出ると、ストレンジに続いてポータルをくぐった。
ポータルを潜ると、そこはどこかの病院だった。顔馴染みがいるのか、ストレンジは誰かを探していた。すると、一人の女性が人混みを掻き分け姿を現した。彼女はストレンジを見ると、大粒の涙を流し、彼に抱きついた。彼女はストレンジにとって大切な女性なのだろうか。珍しく表情を崩したストレンジも、彼女をギュッと抱きしめたが、他のスタッフによりストレッチャーに乗せられたトニーの容態を彼女に説明し始めた。頷いた女性は、トニーを連れ、手術室へと向かった。後を追いかけようとするペッパーに向かって
「彼女に任せておけば大丈夫だ」
と告げたストレンジは姿を消した。
控え室に通されたペッパーは、医師から説明を受けた。
左腹部の刺し傷は身体を貫通する程深く、大量に血液を失っていること、そして傷が元で感染症を起こしているが、地球では見られない細菌によるもので、かなり深刻な容態であることを告げられたペッパーは祈ることしか出来なかった。
母親は先程からずっと黙ったまま震えている。何が起こっているのか分からないモーガンは、震える母親にギュッと抱きついた。
「ママ…」
泣きそうな娘に、ペッパーはトニーのことを伝えようかと思ったが、もし万が一のことがあったら…と考えると、伝える勇気がなかった。そこでペッパーはモーガンを抱きしめると、娘の背中を撫でた。
数時間後。トニーの手術が終わり、ICUへと搬送された。
ベッドサイドの椅子に腰掛けたペッパーは、モーガンを膝の上に乗せた。
5年前とトニーは変わりなかった。酷く顔色は悪く、熱でうなされているが、彼は間違いなくペッパーの愛するたった一人の男性だった。酸素マスクを避けるようにトニーの頬を愛おしそうに撫でたペッパーの目から、大粒の涙が零れ落ちた。
泣き始めた母親を見上げたモーガンは、ベッドで眠っている男性を見つめた。それは、写真でしか見たことがない、父親だと教わった男性だった。目を見開いたモーガンは、驚いたように声を上げた。父親は死んだと聞かされていたのに、自分の目の前にいるのだ。どうして父親が突然戻ってきたのか分からず、モーガンはペッパーを見つめた。
「そうよ、モーガン。パパよ…」
涙を拭ったペッパーは、娘に向かって笑みを浮かべた。
「パパ?…ホントに…パパなの?」
何度か瞬きしたモーガンは、父親を見つめると、再び母親に視線を移した。
「えぇ、モーガンのパパよ。神様がね、ママとモーガンのお願いを叶えてくれたの。パパは戻ってきたのよ…」
モーガンの目から小さな涙が流れた。そしてポロポロ泣き始めたモーガンは、父親の腕にそっと触れた。
「パパ…パパ…」
モーガンは泣いた。嬉しくて泣いた。
ずっと神様にお願いをしていた。パパを返してくださいと…。その願いが叶ったのだから、モーガンは嬉しくて堪らなかった。
声を上げて泣き始めた娘を、ペッパーは笑顔で抱きしめた。
「パパは…もうどこにも行かないわ…。だからゆっくり眠らせてあげましょ…」
その頃、アベンジャーズの本部では激しい戦いが繰り広げられていた。
2014年から、サノスが大軍を引き連れやって来たのだ。何時間にも及び死闘が繰り広げられていたが、トニーにずっと付き添っていたペッパーはその様子を知る由もなかった。
夜になりハッピーがやって来た。
「ボス…」
眠り続けるトニーに、ハッピーは大きな身体を縮こまらせて泣いた。暫くグズグズと泣いたハッピーは、鼻をかむと目を擦った。
「ニュース見たか?」
「いいえ。何かあったの?」
不思議そうに見つめてくるペッパーに、ハッピーはアベンジャーズの本部で大きな戦いがあったことを告げた。ニュースでも詳細は語られていないため、何があったのか分からないが、ローディからは無事だと連絡があったこと、明日トニーの見舞いに来ると言っていたと話すと、眠っているモーガンを抱き上げたハッピーは、ペッパーを残し病院を後にした。
翌日。やって来たローディから事の顛末をペッパーは聞いた。
ピーター・パーカーがタイムトラベルの装置を完成させ、過去に向かい石を集めた。そしてピーターがトニーの技術を用いガントレットを完成させ、ブルースが指を鳴らした。5年前に消えた全てのものが戻ってきたが、タイムトラベルの装置を使い、2014年の世界からサノスが大軍を引き連れやって来た。アベンジャーズの本部は大破し、かなりの劣勢だったが、ストレンジが5年前に消えたヒーローたちを集め戻ってきた。が、トニーの姿だけが見えなかった。するとストレンジが、トニーは5年前タイタンでサノスに刺された傷が元で、意識不明の重体だと告げた。だが、その場には数え切れないほどのヒーローたちがいたため、伝言ゲームのように伝わったストレンジの言葉は、いつしか間違って伝えられた。
そのため、ローディがトニーの消息について聞いた時には、トニーはタイタンでサノスに刺された傷が元で、結局はその場で命を落としたことになっていた。
「お前が死んだって聞かされてさ、俺はその場で卒倒しそうになったんだぞ…」
トニーの手を軽く握ったローディは、小さく笑みを浮かべた。
「サノスはどうなったの?」
ペッパーの方に顔を向けたローディは、トニーの手を握りしめたまま再び話し始めた。
「ガントレットをサノスに奪われた。そしてサノスは再び指を鳴らそうとした。が、ピーターがサノスに食らいついた。あいつ、必死だったぞ?スタークさんの仇を取るんだって…。そしてピーターは石を取り返した。あいつ、自分のアーマーを改良しててさ、石を嵌めれるようにしてたんだ。だが、あんな子供に責任を負わせられる訳ないだろ?結局ブルースが…一度使った自分なら、もう一度やれるはずだ、トニーの仇を討ってやると、指を鳴らした。勿論成功した。サノスたちは消えて、俺たちは勝利した」
「ブルースは?」
「無事さ。腕は使い物になりそうにないが…」
「皆、無事なのね」
ペッパーの言葉にローディが小さく首を振った。
「ロマノフが…。石と引き換えに…彼女は死んだ」
ナターシャが命を落としたと知ったペッパーは、小さく声を上げた。
彼女とは10年以上前に知り合い、5年前にトニーが消えた後、ナターシャは何かとペッパーに気を掛けてくれていたのだ。そのため、モーガンにとってもナターシャは、『大好きなナターシャおばさん』になっていたのだ。
「彼女が自ら選んだ道だ…」
ローディの言葉にペッパーは思い出した。ナターシャがこの5年間、いつも言っていた言葉を…。
『アベンジャーズのみんなは私の家族だった。勿論トニーも…。だから、家族を取り戻すためなら、私は何だってしてみせる。命を懸けてでも、皆を取り戻すわ』
ナターシャは言葉通り、命を懸けて皆を取り戻したのだ。彼女のおかげで、トニーは戻ってきた…。ナターシャには感謝してもしきれない…。
目を潤ませたペッパーに頷いたローディは、高熱で魘されているトニーの頬に触れた。
「あとはお前が目を覚ませばな…」
***
それから5日経った。
トニーが目を開くと、そこはあの忌まわしい宇宙の果てではなく、真っ白な部屋だった。
一体何が起こったのだろう。
確か身体が塵と化して消え…それから…。
混乱している頭では何一つまともな答えはでそうにないが、考えをまとめようとトニーは目を閉じた。すると、誰かが右手を握りしめた。
「トニー……」
ペッパーだ。間違えるはずがない。この世で唯一の…たった一人の愛する女性なのだから…。ゆっくりと目を開けると、ペッパーは満面の笑みで手を握りしめているではないか。
「…ペッパー…」
掠れた声しか出なかったが、ペッパーは大粒の涙を零すと、ウンウンと何度も頷いた。
まだイマイチはっきりとしない頭を何とかしようと、トニーは鼻のチューブから何度か酸素を吸い込んだ。ぼんやりとしていた視界が次第にくっきりしてくると、トニーは自分が病院にいると気付いた。
「何が…あったんだ…」
ペッパーを見つめたトニーは困惑しきっている。何から話せば彼が混乱しないかしら…とペッパーは考えながら話し始めた。
「あなたはサノスが指を鳴らした時、消えてしまったの。それが5年前。つまりあなたは…」
と、トニーがギョッとしたように目を見開いた。
「5年前?!あれから5年も経ったのか?!」
口をポカンと開けたままのトニーに、ペッパーは頷いた。
「えぇ。あなただけじゃないわ。宇宙の半分の人…いいえ、人だけじゃなくて、動物も植物も何もかもが5年前に消滅してしまったの。生き残ったヒーローたちは、サノスを探したわ。そして見つけた。石を取り返して皆を元に戻そうとしたけど、サノスは石を破壊していたの。ソーがサノスの首を斬って…殺したの。石の手掛かりは消えてしまって…。それから5年間、何か方法はないかと皆必死だった。でもどうすることもできなかった…。そんな時、ひょんなことから、タイムトラベルの装置が出来上がったの。そこで皆は石を借りるために過去に向った。そして集めた石で5年前に消えたものを元に戻したの」
何度も目をぱちくりさせたトニーだったが、生き残った仲間のおかげでどうやら自分たちは生き返ることができたのだと、何となく納得した。が、どうして自分は病院に入院しているのだろうかと、トニーは首を傾げた。
「生き返ったのは分かった。だが、何故私は病院へいるんだ?」
「あなたは5年前にサノスに刺されたんでしょ?その傷が元で酷い感染症にかかって…。1週間、あなたは意識不明だったのよ」
ペッパーの言葉に、トニーはサノスに刺された時のことを思い出した。途端に左わき腹が痛み、彼は顔を顰めた。
「熱は下がったし、もう大丈夫だそうよ。でも、まだ1週間は安静にしておかないと…」
と、病室のドアが開き、可愛らしい声が聞こえた。
「ママ!」
突然見知らぬ小さな女の子がやって来たのだ。トニーは目を白黒させた。ペッパーを『ママ』と呼ぶあの子は一体誰なんだと…。
目を見開いているトニーに、ペッパーは笑みを浮かべた。
「トニー、紹介するわ。モーガンよ」
その名には聞き覚えがあった。5年前、『モーガン』という子供が出来た夢を見たと、ペッパーに話をした。夢の中では『モーガン』は息子だったはずだが…。
「君の… 娘か?」
何とかそう告げたトニーに、ペッパーはわざとらしく眉をつり上げた。
「ええ。つまり、あなたの娘よ」
トニーはモーガンを見つめた。栗毛色の髪の毛も、大きな琥珀色の瞳も…。鼻と口元はペッパーに似ているが、それ以外はモーガンは自分にそっくりだった。
黙ったままの父親に、モーガンは恐る恐る声を掛けた。
「パパ…?」
トニーはモーガンとペッパーを何度も見比べている。そんなトニーの手を握りなおしたペッパーは、モーガンを手招きした。
「5年前…あなたが消えた後、妊娠してることに気づいたの。あの時、あなたが見たっていう夢は…間違いではなかったのよ」
ベッドサイドまでやって来たモーガンは、相変わらず黙ったままのトニーを不安そうに見つめた。小さなモーガンの目から見ても、父親は混乱しているのがはっきりと分かるくらいだったから…。
ペッパーはモーガンを膝の上に乗せた。するとトニーはモーガンに向かって手を伸ばした。モーガンは恐る恐る父親の手に触れた。
小さな温かな手に、トニーの胸に初めての感情が押し寄せた。
ペッパーだけが世界の中心だった。守りたいものはペッパーだけだった。それが小さな温もりに触れた瞬間、トニーの世界は広がった。自分の血を分けた愛おしい存在もまた、トニーの世界の中心となったのだから…。
「モーガン…」
トニーは娘の名を呼んでみた。すると、モーガンは母親を見上げた。大丈夫なのかというように、まだ不安げな顔をしているモーガンにペッパーは頷くと、娘をベッドに座らせた。
モーガンはじっと父親を見つめた。父親は優しい瞳をしていた。そして父親の涙の浮かんだ瞳は、自分にそっくりだった。
ずっと会いたかった父親…。絶対に会うことが出来ないと思っていたのに、神様がお願いを叶えてくれ、会うことができたのだ。何度か瞬きしたモーガンの目から、涙が零れ落ちた。手を伸ばしその涙を拭ったトニーは、娘を抱き寄せた。腕の中に小さな愛しい存在を閉じ込めると、モーガンはシクシク泣き始めた。
「パパ……パパ…」
モーガンは泣きながらトニーにしがみついた。
「パパ…あたし…パパにずっとあいたかった…」
娘を力一杯抱きしめると傷口が痛んだが、その痛みすら自分が今この瞬間生きている証拠だと思うと、トニーは嬉しくて堪らなかった。
「モーガン…パパもだ。パパもモーガンに会いたかったさ…」
モーガンの頭にポツポツと冷たいものが降り注いだ。しゃくりあげながら顔を上げたモーガンだが、父親は大粒の涙を流して泣いているではないか。父親も自分と会えて嬉しくて泣いているのだと思うと、モーガンは嬉しくなり、再び父親に抱きついた。
「悔しいな…。こんなに可愛い娘の5年間を見逃したんだぞ…」
涙を拭ったトニーは、ペッパーを見つめた。ペッパーも泣いていた。真っ赤に目を腫らしたペッパーは、ベッドサイドに腰掛けると、トニーに抱きついた。
ペッパーも抱き寄せたトニーは2人を腕の中に閉じ込めると、奇跡が起こったことを感謝した。
***
それから1週間。
ようやく面会の許可が下りたと聞き、ピーターはトニーの見舞いにやって来た。
病室の前までやって来たピーターは立ち止まると何度か深呼吸をした。
5年前…トニーが消えてしまったのに、何もすることができなかった。その結果、モーガンは4年間父親を知らずに育った。タイムトラベルが成功し、全てが元通りになったからいいものの、もし失敗していれば…と思うと、ピーターはトニーに会うのが怖くて仕方がなかった。トニーが意識不明の間も、何度もペッパーから面会に来るよう声を掛けてもらっていたが、トニーと顔を合わせるのが怖かったピーターは、結局今日まで来ることができなかったのだ。
が、いつまでもこのままここに立っている訳にはいかないと、意を決してピーターが病室に入ると、トニーは診察中だった。ドアに背を向けているため、トニーはピーターに気づいていないようだが、ベッドに腰掛けた彼は、傷口を消毒してもらっていた。トニーの左脇腹には、背中にまで残る生々しい傷跡があり、ピーターは5年前のあの日を否応が無しに思い出した。トニーを失い、ずっと後悔と罪悪感しかなかったこの5年間のことを…。
そうこうしているうちに診察は終わり、ガーゼを取り替え採血した看護師は、ピーターに頭を下げると病室を後にした。
まだ傷口が痛むのか、顔を顰めながらベッドに身を横たえたトニーは、ピーターに気付くとわざとらしく眉を吊り上げた。
「明日ようやく退院だ。宇宙で刺されて、地球のものではない細菌に感染したとかなんとか言われて、チーズバーガーも食べることも出来ず、ずっと寝たきりだったんだぞ?この1週間、退屈で仕方なかった」
フンっと鼻を鳴らしたトニーは、黙ったままのピーターを見つめた。
この5年間、何があったのかは、ペッパーやハッピーから聞いた。そしてナターシャ・ロマノフの犠牲により自分たちが戻ってくることができた顛末と、本部での戦いについても、昨日やって来たローディから全て聞いた。
自分が消えたことに対し、ピーター・パーカーは5年間ずっと罪の意識を感じていたらしい。あの時塵と化し消えたことは、決して彼のせいではないのに…。
何も喋らずその場に佇んでいるピーターに、トニーは鼻を鳴らした。
「おい、パーカーくん。5年ぶりなんだぞ?感動的なスピーチはないのか?」
わざと茶化すように告げたトニーが、ふっと笑みを浮かべた。するとトニーはピーターが見たことがないほど優しい顔をしていた。
「ピーター…」
トニーに名を呼ばれた。聞いたことがないような優しい声で…。
その瞬間、ピーターの心の中に蜘蛛の巣のように張り巡っていた罪悪感や後悔がすっと消え去り、目から大粒の涙が次々と零れ始めた。
トニーが手招きした。それを合図とするように、ピーターはゆっくりとトニーに近寄ると、黙って抱きついた。子供のように泣くピーターは小さく震え始め、彼を安心させようとトニーは力一杯抱きしめた。暫くそのまま泣いていたピーターだが、顔を上げるとトニーを見つめた。
「ごめんなさい…。スタークさん…ごめんなさい…。僕…あの時…何も……」
トニーが首を振った。そしてそれ以上謝るなというように、ピーターの髪をくしゃっと撫でた。
「ピーター。ありがとう。5年間、ペッパーとモーガンを支えてくれてありがとう。それから…」
言葉を切ったトニーは、ピーターに向かって頭を下げた。
「ローディから聞いた。タイムトラベルの装置を成功させたのはピーターだと…。ピーターがいなければ、5年前に消えた私たちは戻って来れなかったと…。ピーター、生き返らせてくれて、ありがとう…。本当にありがとう…」
初めてだった。トニーから感謝の言葉を面と向かって言われたのは…。ピーターはトニーの言葉が嬉しくて、涙が止まらなかった。そしてトニーが戻ってきてくれたことが何よりも嬉しくてたまらなかった。
トニーも涙が溢れそうになった。だが、ピーター・パーカーの前では泣きたくないと思い直した彼は、顔を隠すように再びピーターを抱きしめた。
「言っておくが、これは正真正銘のハグだからな」
トニーの言葉に、数年前初めてチームに誘われてドイツから戻ってきた車の中で、ドアを開けようと身を乗り出したトニーをハグした時に、『ハグではない』と拒否されたことをピーターは思い出した。
あれから…いや、あのスターク・エキスポで出会った時から、アイアンマンはピーターにとって、たった一人のヒーローだった。そして実際に触れ合ううちに、アイアンマンだけではなく、トニー・スタークもピーターの憧れであり、尊敬すべき師匠というべき存在へとなっていた。
そしてトニーに直接言ったことはないが、彼のことをいつしか父親のように思っていた。その思いは胸に秘めていたはずなのに、ペッパーからトニーも自分のことを大事に思ってくれていたと聞き、なおさらトニーを取り戻そうとこの5年間必死だった。
「スタークさん…」
グズグズと鼻をすすりながら顔を上げると、トニーはにっこり笑みを浮かべながら、ピーターの頭を軽く撫でた。
「そろそろトニーと呼んでくれてもいいんだぞ?」
「え…」
戸惑うピーターの胸元をトニーは指で突いた。
「私たちはここで繋がってるんだから…」
トニーが自分の世界に受け入れているのは、ペッパーとローディ、そしてハッピーだけだと思っていた。が、トニーに言われ気づいた。彼は自分のこともずっと前から受け入れてくれていたのだということを…。
また涙が出そうになったが、ぐっと堪えたピーターは、袖口で乱暴に顔を拭った。そして頬を軽く叩くと、大きく深呼吸をした。が、トニーの笑みを見ると、やはり涙を抑えることが出来ず、結局ピーターは小一時間程、トニーに抱きしめられたまま泣いていた。
***
翌朝。
トニーは無事に退院の日を迎えた。
着替えを済ませ病室で待っていると、ペッパーからメールが届いた。
『大好きなパパへ!これから迎えに行くわよ!』
送られてきたのは、そう書き添えられたペッパーとモーガンの2ショット。
「パパか…」
5年ぶりに…自分の感覚的には本当に一瞬なのだが…戻ってきてみれば、娘が生まれていた。突然父親だと言われ、正直最初は戸惑った。確かに5年前、子供が生まれる夢を見たし、ペッパーとの間に子供を作ることも考えていたが、実際に目の前に現れると、自分は良い父親になれるのか…そして娘に受け入れてもらえるのかという恐怖が押し寄せてきた。
だが、この1週間モーガンと触れ合い、次第に父親としての自覚が芽生えてきた。というのも、娘は無条件で自分のことを愛してくれたから…。ペッパーが自分のことを愛してくれるように、娘は純粋に自分のことを愛してくれているから…。
自分の血を分けたたった一人の存在は、トニーの中で何よりも大切なものになっていた。
写真を見ながらそんなことを考えていると、パタパタと足音がし、病室に勢いよくモーガンが飛び込んできた。
「パパ!」
駆け寄ってきた娘を抱き上げたトニーは、頬にキスをした。
「迎えに来てくれたのか?ありがとう、モーグーナ」
ふふっと嬉しそうに笑ったモーガンは、トニーの肩に顔を埋めた。
しばらくすると、退院の手続きを終えたペッパーもやって来た。
「トニー、家に帰りましょ?」
ニッコリ笑ったペッパーは、トニーに向かって手を差し出した。
ハッピーの運転する車で、3人は家へと向かった。
街中から郊外に引っ越したと聞いていたが、郊外の森に囲まれた湖畔の家は静かで落ち着く場所だった。
「いい所だな」
辺りを散策していると、何かが向こうの方から突進してきた。ギョッとしたトニーが立ち止まっていると、それは何とアルパカだった。口をあんぐりと開けたまま立ちすくむトニーだが、アルパカは初めて見る人物に恐れおののいたのか、ウロウロうろつきながら鳴き声を上げた。
「ジェラルド、だいじょうぶ。あたしのパパよ」
モーガンが安心させるように撫でるとジェラルドと呼ばれたアルパカは、大人しくなった。
どうしてアルパカがいるんだと、トニーが口を開けたままペッパーを見つめると、彼女は肩を竦めた。
「モーガンがアルパカを飼いたいって言ったの。犬か猫にしてって言ったんだけど、実際見に行ったら、思いの外可愛くて…。それに…」
何度か瞬きをしたペッパーは、上目遣いにトニーを見つめた。
「何となくあなたに似てたから…」
そう言われ、トニーはペッパーとアルパカを交互に見つめた。
「…どこがだ?」
「あの瞳に見つめられたら…ねぇ…」
トニーは再びアルパカを見た。するとアルパカはまん丸な瞳でじっと見つめ返してきた。
アルパカに見つめられたトニーは思った。確かにこの生き物の瞳は何となく自分に似ているし、可愛らしいと…。だが、そんなことは素直に認めたくない気もしたトニーは、大袈裟に溜息を吐いた。
「私が消えていた間の出来事だしな…」
そう言ったトニーだが、その後誰よりもアルパカを可愛がり始めたのは、この時誰も知る由もなかった…。
***
それから1週間経った。
ペッパーは、元の家のラボにあったもの全てをガレージに移動してくれていたため、トニーはガレージを改造し自分のラボにした。そしてF.R.I.D.A.Y.のシステムも家に組み込んだ。
こうしてトニーは元のペースを守り戻すことができた。いや、正確には5年前と全く同じではなかった。長年の悪夢の原因は消滅したのだから、トニーはようやくぐっすりと眠ることができるようになった。そしてヒーロー活動から引退したトニーの仕事は、ペッパーが仕事に行く間、モーガンと家で留守番をすることになった。
その日、ペッパーを見送った後、朝食の片づけをしたトニーは、コーヒーを入れるとリビングへ向かった。
「パパ!ママがでてるよ!」
何やらテレビを必死で見ているモーガンの隣に腰を下ろすと、パパラッチに追いかけられているペッパーの姿が流れているではないか。何かゴシップネタでもあっただろうかとトニーが首を傾げていると、レポーターがペッパーに向かって質問した。
『ポッツさん、トニー・スタークはアイアンマンを引退したんですよね?会見を開く気はないんですか?』と。
トニーはハッと気づいた。彼女はまだ『ペッパー・ポッツ』なのだということに…。つまり、モーガンも『モーガン・ポッツ』だ。これからのことを考えると、きちんとしなければならないということに、トニーはようやく気づいたのだ。
カレンダーを見ると、もうすぐペッパーの誕生日。
5年間苦労をかけた彼女に、最高の誕生日プレゼントをするしかないと、トニーはハッピーに電話を掛けた。
緊急事態だと聞いたハッピーは、はぁはぁと息を切らしながら、ものの30分で姿を現した。
「何事ですか?!ボス!!!!!」
ドアを蹴やぶらんばかりの勢いで飛び込んできたハッピーは、膝の上にモーガンを座らせ絵本を読み聞かせていたトニーの横にどかっと座った。その反動で、モーガンはトニーの膝の上で数回跳ね上がり、彼女はぽかんとした顔でハッピーを見つめた。
娘を抱き直したトニーは、ハッピーに向かって眉を釣り上げたが、軽く咳払いをすると、声を潜めた。
「折り入って相談がある。実は…」
大きな目を見開いて見つめられるのだから、これは本当に深刻な事態なのでは…と、ハッピーはゴクリと唾を飲み込んだ。ハッピーの耳元に口を近づけたトニーは、モーガンに聞こえないよう小声で囁いた。
「ペッパーの誕生日に、結婚式を挙げようと思う。勿論サプライズで…だ」
ハッピーがトニーから身体を離すと姿勢を正した。そして彼の顔を30秒ほど凝視すると、不機嫌そうに眉をひそめた。
「はぁ?」
みるみるうちに深くなる親友の眉間の皺に、トニーは首を傾げた。
「どうした?」
「緊急事態じゃないんですか?」
不満げに唸るハッピーにトニーは目をくるりと回してみせた。
「緊急事態だ」
が、ハッピーはがっくりと頭を垂れると、大袈裟に溜息をついた。
「せっかくメイといい感じに…」
ぶつぶつと文句を言うハッピーに、トニーは目を見開いた。
「メイって……メイ・ パーカーか?!彼女のくるみパンはクソまずいぞ?」
数年前の初対面を思い出したトニーは思わずそう言ってしまったが、ハッピーは顔をしかめた。
「知ってます。食べたことはないですが、ボスが言ってたじゃないですか」
首を振ったハッピーは、再び大袈裟に溜息をついた。
「俺のことはいいです。それより、さっきの話ですが…」
モーガンがじっと見つめてくるのに気づいたハッピーは、トニーに向かって頷いた。
「その話は後でゆっくりと…」
その後、モーガンが昼寝をしている間、2人は詳細を打ち合わせした。大きな式にはせず、本当に親しい者だけを呼び、こじんまりとした式を挙げることにした。式の後はハッピーの友人が経営するレストランで細やかなパーティーを開くことにした。
翌日、モーガンはハッピーに任せて、トニーは家の近くの教会へ向かった。式の打ち合わせをした後、ペッパーのウェディングドレスを選びに行き、彼女のヘアスタイルに当日のヘアメイクを頼み、最後に結婚指輪を買いに行った。婚約指輪と同じハリーウィンストンの指輪を購入し、中に文字を刻むよう頼んだトニーは、チーズバーガーを買うと家へと戻った。
「パパ、おかえり!」
車から降りると、庭でハッピーと遊んでいたモーガンが駆け寄って来た。娘を軽々と抱き上げたトニーが頬にキスをすると、モーガンはトニーが持っているハンバーガーの袋に気づいたのか、顔を輝かせた。
「あ!ハンバーガー!」
くんくんと匂いを嗅ぐ娘にトニーは苦笑した。
「なんだ?モーガンもハンバーガーが好きなのか?」
ペッパーのことだから、娘には所謂ジャンクフードは食べさせていないのかと思っていたが、意外とそうでもないらしい。
「うん!チーズバーガーがすきなのよ!」
まさか自分と同じ物が好きだなんて…と、目をパチクリさせたトニーだが、ペッパーが言うようにどこまでも自分にそっくりな娘がますます愛おしくなったトニーは、彼女の髪をくしゃっと撫でた。
***
そしてペッパーの誕生日の朝になった。
ペッパーが目を覚ますと、隣はもぬけの殻だった。昨夜は散々愛し合っていたのに、トニーが先に起きるなんて珍しいわね…と思いつつ、シャワーを浴びたペッパーがキッチンに向かうと、テーブルの上には見事な朝食がセッティングされているではないか。トニーの料理の腕前はからっきしなのに、一体どうしたのかと呆然と佇んでいると、トニーがモーガンを連れて2階から降りてきた。
「ママ、おはよ」
「おはよう、ハニー」
トニーと娘からキスをされたペッパーは、目をパチクリさせると朝食を指差した。
「ど、どうしたの…あれ…」
「私が作った…のではない。ハッピーだ。あいつ、私がいない5年間で、料理の腕前がプロ並みになってたんだな」
鼻の頭を掻いたトニーは、まだ状況が分かっていないペッパーに向かって笑みを浮かべた。
「今日は君の誕生日だ。だからサプライズを用意したんだ」
トニーの顔を穴が空くほど見つめていたペッパーは、今日が自分の誕生日であることをようやく思い出した。そして5年前までは、イベント毎にトニーが毎回サプライズプレゼントを用意してくれていたことも…。
「これがサプライズ?」
ハッピーに作ってもらった朝食がサプライズなら、トニーらしからぬサプライズだ。首を傾げるペッパーに、トニーは眉をつり上げた。
「そんな訳ないだろ?これは序の口だ」
ふんっと鼻を鳴らしたトニーだが、モーガンを床に下ろすと、ペッパーのために椅子を引いた。
朝食を食べ片付けが終わると、ハッピーがやってきた。
「よし、出かけるぞ」
腰を上げたトニーは、行き先も告げずにペッパーを車に押し込んだ。
「どこに行くの?」
ペッパーが尋ねてもトニーは笑うだけで何も答えない。そればかりか、行き先は秘密だとペッパーにアイマスクを掛けさせた。
暫く走っていた車が止まった。てっきりアイマスクは外してくれるのかと思いきや、トニーはペッパーを抱き上げると歩き始めた。
「何処なの?」
「もうすぐ分かる」
静粛な場所なのか、物音一つしない空間に、トニーの靴音が響き渡っている。見えない恐怖にぶるっと小さく震えるペッパーを安心させるように、トニーは頬にキスをした。
「着いたぞ」
ペッパーを床に下ろしたトニーは、ドアを開けるとアイマスクを外した。
眩い光に目を閉じたペッパーが再び目を開けると、目の前にはウェディングドレスが飾ってあるではないか。
「え…」
ドレスとトニーの顔を交互に見たペッパーだが、混乱しているのか目を白黒させ始めた。
「今年のサプライズプレゼントは、結婚式だ」
嬉しそうに笑みを浮かべるトニーを見つめたペッパーの目から涙が零れ落ちた。
「トニー……」
トニーに抱きついたペッパーは、シクシクと泣き始めた。
「ほら、泣くな。目が赤くなるぞ?」
ペッパーの背中を撫でたトニーは、キスをすると自分も準備をするため部屋を後にした。
支度が整ったペッパーはチャペルへと向かったが、そこにはハッピーとローディ、ピーターがいた。そして祭壇の前には、白の可愛らしいワンピース姿のモーガンを抱いたトニーがいた。
トニーに向かってゆっくりと歩くペッパーは満面の笑みだ。そしてウェディングドレスに身を包んだ彼女の美しさに、トニーは一瞬目を見張ったが、すぐに優しい瞳になった彼もまた笑顔だった。
「ママ、おひめさまみたい」
見たことがない程美しい母親の姿に、モーガンはコソコソと父親に囁いた。
「ママはパパのお姫様だからな」
そう返したトニーはモーガンを下ろすと、手を繋いだ。そしてトニーの隣にやって来たペッパーも、モーガンと手を繋いだ。
誓いの言葉を述べ、揃いの指輪が嵌った瞬間、ペッパーはこの5年間のことを思い出した。トニーを失い、自分も半分死んでしまった。モーガンがいたから、この5年間、笑顔で生きてこれた。だが、トニーがいない人生なのだから、心からの笑顔を作ることはできなかった。が、彼は戻ってきてくれた。そして自分もようやく心の底から笑うことができるようになった。辛く暗闇だった世界は、トニーがそばにいるだけで、明るく幸せに満ちた世界に変わったのだ。
(絶対に…絶対に、もう二度、彼の側から離れないわ…)
そう誓ったペッパーはトニーの唇を奪った。
式を終え晴れて夫婦になった2人は、パーティー会場のレストランへと向かった。レストランには大勢の人々が集まっていた。アベンジャーズの面々も集まっており、久しぶりのトニーとの再会に、誰もが笑顔だった。
あのスティーブ・ロジャースも例外ではなかった。彼は開口一番、数年前のあの決別した事件に対しての謝罪の言葉を口に出した。そして自分は明日過去に石を返しに行くため、これが顔を合わす最後になるかもしれないと告げた。
「そうか…」
スティーブの話を聞いたトニーは、彼の肩を叩くとポツリと呟いた。
「寂しくなるな」
と、そこへドカドカと足音を立ててソーがやってきた。トニーとスティーブを両手で抱え込むと、ソーは2人をぎゅうぎゅう抱きしめた。
「おい!」
ソーには随分と会っていないが、やたら恰幅の良くなった彼の腹に顔を押し付けられたトニーは、抗議するようにくぐもった声を上げた。ジタバタ喚くと、ソーはようやく2人を解放してくれた。
「久しぶりだな、スターク」
体型どころか、雰囲気まですっかり変わっているソーだが、心なしか涙目になっている彼の瞳は変わることなく煌めいており、トニーは彼の腹をポンッと叩いた。
「鉄の男は辞めるのか?」
ソーに問われたトニーは頷いた。
「あぁ。私の長年の脅威は去った。これからは、妻と娘のことだけを考えて生きていきたいんだ」
スッキリとした表情のトニーに、少しだけ寂しさを感じたソーだが、これも彼の決断なのだからと、大きく頷いた。
「俺はウサギたちと宇宙へ行くことにした」
「ウサギ?」
「あいつだ」
ソーが指差した方向にいたのは、アライグマ。どう見ても本物のアライグマだし、どこをどう見たらウサギに見えるのだろうかと、トニーは首を傾げた。いや、それよりも、何故アライグマが喋っているのかという根本的な問題もあるが…。が、一緒にいるところを見ると、踊りまくっているスター・ロードの仲間らしいから、宇宙では動物が話していても不思議ではないのか…と、トニーは首を振った。
そのアライグマの横には木が立っていた。いや、木は何とゲームをしているではないか。
訳が分からなくなったトニーは頭を抱えたが、モーガンが駆け寄ってくると、彼女はアライグマの手を握り締めた。
「アライグマさん!こっちきて!」
「俺はアライグマじゃない!ロケットだと何度言ったら分かるんだ?!」
モーガンに手を引かれたアライグマ…いや、ロケットは、嫌そうな素振りを見せながらも、嬉しそうだ。モーガンはロケットをバートン家の子供たちの元へ連れて行った。喋るアライグマに、バートン家の子供たちは歓声を上げた。
「これ、着ぐるみじゃないの?!」
「何でアライグマが喋ってるの!」
興奮している子供たちに、ロケットはげっそりしたように溜息をついた。
その場にいたクリント・バートンが騒ぐ子供たちを宥め始めたが、トニーの視線に気づいた彼は、小さく笑みを浮かべると手を振った。
すると、今度はブルースがトニーの元にやって来た。
「ハルクと呼ぶべきか?ブルースと呼ぶべきか?」
一体化したとは聞いていたが、どっちがメインなのか分からないと、トニーが目をくるりと回してみせると、ブルースは肩を竦めた。
「どっちでもいいよ」
そう微笑んだブルースは、右手を吊っていた。二度も石を使った彼の右腕は使い物にならなくなったと聞いていたが、彼のその犠牲のおかげで、自分たちは戻ってくることができたのだから、トニーは素直に礼を言うことにした。
「ブルース、ありがとう。君のおかげ……」
が、トニーは最後まで言葉を続けることができなかった。というのも、ブルースにギュッと抱き締められていたから…。
「トニー…よかった。本当によかった……」
小さく震えるブルースの背中を、目を潤ませたトニーはそっと撫でた。
次にやって来たのは、ティ・チャラだった。彼はよく似た女性を妹のシュリだとトニーに紹介した。
「スタークさん、シュリです。初めてお目にかかります」
「トニー・スタークです。お越し頂きありがとうございます」
手を握り挨拶を済ませると、シュリはトニーの手を握りしめブンブンと振り回した。
「私!スタークさんとお話がしたかったんです!話したいことが山ほど!兄はあの通りで、ダサいサンダルを履いてても平気ですし、私の発明の話をしても全く通じないし…」
ぶつぶつと文句を言うシュリにティ・チャラは顔をしかめており、トニーは
「それは光栄です」
と言いつつ、苦笑するしかなかった。
その後もトニーの元には次々と招待客がやって来た。次第に見覚えのない者が増えてきたため、トニーは作り笑いを浮かべながらペッパーの姿を探した。すると彼女は1組の男女に捕まっているではないか。男性の方には何となく見覚えはあるが、残念ながら直ぐには名前が出てこない。
「失礼するよ」
自分に向かってベラベラ喋っている、これまた見覚えのない女性に断りを入れたトニーは、ペッパーの元へ急いだ。
「ペッパー」
何やら楽しげに談笑していたペッパーは、トニーの声に振り返った。
「あら、トニー」
ペッパーの頬に素早くキスをしたトニーが彼女の腰に手を回すと、女性の方が口を開いた。
「ホープ・ヴァン・ダインです。スタークさん、この度はおめでとうございます」
ダインという名字には聞き覚えがあった。確か父親と共にS.H.I.E.L.D.で働いていた男の妻がその名だったはず…とトニーは思い出した。
「ダインというと…ハンク・ピムの?」
そう尋ねると、ホープは大きく頷いた。
「はい、娘です」
と、男性の方が割り込むように身を乗り出した。
「スターク、おめでとう」
「…誰だ?」
首を傾げているトニーに、男は自分を猛アピールし始めた。
「スコットだよ!スコット・ラング!アントマンさ!ほら、ドイツの空港で…」
と、ここでようやくトニーは思い出した。あの時巨大化したアントマンが目の前の男であることを…。
「あぁ、デカくなった奴か」
納得したように頷いたトニーに、ようやく思い出してくれたかと、スコットは目をキラキラさせた。が、あの時の事を思い出したトニーは顔を顰めた。トニーの思いに気づいたのか、スコットは申し訳なさそうに鼻の頭を掻いた。
「あの時は悪かった…と言っておくよ。ピム博士からスタークの悪口を散々聞かされていたし、俺も状況が良く分かってなかったし…」
もごもごと口籠ったスコットに、
「済んだことさ」
と、フンっと鼻を鳴らしたトニーは、ペッパーの頬にキスをした。
大盛り上がりのうちにパーティーは終了し、皆に祝福されたトニーとペッパーは幸せだった。モーガンも、クリントの子供達やスコットの娘のキャッシーとすっかり仲良くなっており、お友達がたくさんできたと大喜びだ。
せっかくなので年に一度は集まろうと、再会を約束して会はお開きになったのだが、子供たちはすっかり夢の中で、トニーとペッパーも眠ってしまったモーガンを連れて、湖畔の家へと戻ってきた。
モーガンが寝かしつけたペッパーは着替えを済ませるとリビングへ降りてきたが、トニーの姿はなかった。
「何処へ行ったのかしら…」
ラボを覗いてもトニーの姿は見当たらず、あちこち探したペッパーは、湖の側にトニーが座っているのを見つけると、外へ出た。
「やあ、ミセス・スターク」
湖を見ていたトニーだが、ペッパーに気づくと顔を上げた。
「何だかくすぐったいわね」
慣れない呼び名にふふっと笑ったペッパーは、トニーの隣に腰を下ろすと、甘えるように彼の肩に頭を乗せた。ペッパーの腰に腕を回し身体を引き寄せたトニーは目を閉じると、妻の甘い香りを吸い込んだ。
暫くお互いの温もりを堪能していた2人だが、顔を上げたペッパーが口を開いた。
「ねぇ…」
「どうした?」
何度か瞬きしたトニーは妻を見つめた。するとペッパーはトニーの頬に軽く口づけすると、にっこり微笑んだ。
「私たち…今まで以上に幸せになりましょうね?」
ペッパーの言葉にトニーは頷いた。
「そうだな」
そう囁いたトニーはペッパーを抱きしめ地面に横になった。そして彼女の頬を撫でると、優しい笑みを浮かべた。
「ペッパー…君とモーガンのことは、絶対に幸せにする。だから、これからもずっとそばにいてくれ…」
ペッパーの頬を流れ落ちる涙を拭ったトニーは、唇を奪った。口づけは次第に深くなっていき、トニーはペッパーのTシャツの裾から手を入れ、素肌を撫でた。するとペッパーもトニーのズボンのベルトを外し、下着の中に手を入れた。
キスとその先の行為に夢中になっている2人は忍び寄る者がいることに気付いていなかった。
「パパ、ママ…」
頭上から声が聞こえ、2人は同時に顔を上げた。するとウサギのぬいぐるみを抱きしめたモーガンが、自分たちを見つめているではないか。顔を見合わせた2人は、父親と母親としての顔を引っ張り出すと、乱れた服を直しながら慌てて起き上がった。
「モーガン、どうしたの?」
ペッパーが娘に尋ねると、彼女は目をこすりながら微睡んだ声を出した。
「あのね…ベッドのしたにね、おばけがいるの…」
モーガンは怖い夢を見て目を覚ましたのだ。立ち上がったトニーは娘を安心させようと抱き上げた。ギュッと父親に抱きついたモーガンは甘えるように顔をすり寄せたのだが、娘の可愛らしい仕草に、トニーは彼女の小さな背中を撫でた。
「よし、パパが…アイアンマンがおばけをやっつけてやろう」
うんと頷いたモーガンはパッと顔を輝かせた。
「アイアンマンはカッコいいもんね」
娘にカッコいいと言われたトニーは嬉しそうに笑うと、ペッパーの手を握り締めた。
「そうだ。ママもアーマーを持ってるぞ?ママはレスキューというヒーローで強いんだ。だから、おばけはママとパパと2人でやっつけるぞ」
(え…レスキュー?)
自分のヒーロー名が『レスキュー』だと知ったペッパーは目をパチクリさせた。するとトニーは妻を見つめた。
「ママは、いつだってパパのそばにいてくれる。悲しい時や辛い時、ママは昔からパパのことを助けてくれたんだ。だからママはパパの『レスキュー』だ。ママはいつだってパパのことを救ってくれるヒーローだから…」
トニーが作ってくれたアーマーには、彼の思いがこんなにも詰まっていたのだ。思い出のあのドレスと同じ色にしたのも、レスキューと名付けたのも…。
目を潤ませたペッパーをトニーは愛おしそうに見つめた。出会った頃から変わらない、煌めく魅力的な瞳で…。
「トニー…」
大粒の涙を流したペッパーを抱き寄せたトニーは、ウインクすると家に向かって歩き始めた。幸せそうに見つめ合う両親に、モーガンは思った。
(パパが帰ってきて、本当によかった…。パパが帰ってきてくれたから、ママはいつも嬉しそうに笑ってるもん…)
ふふっと笑みを浮かべたモーガンは、父親の肩に顔を埋めると、明日はパパとママとジェラルドと皆んなで遊ぼうと考えながら目を閉じた。
素敵な物語をありがとうございます。
3人の幸せは永遠ですね!
しーもも様
ありがとうございます。
妄想の世界の中では、いつまでも幸せに暮らしていて欲しいです。