2014年サノスが2014年のヒーローを殺して2023年にやってきた云々という脚本ズの話から。
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何の前触れもなく宇宙からサノスが大軍を率いてやって来た。
その少し前、キャプテン・アメリカの活躍で、S.H.I.E.L.D.にもヒドラが侵食していることが分かり、世間は暫くてんやわんやだった。
スタークタワーはアベンジャーズの本部として生まれ変わっていたため、2人はセントラルパーク近くのペントハウスに引っ越していた。が、ペッパーは相変わらずCEOとしてあちこち飛び回っており、トニーもヒドラの残党を追いかけ、ここ数日は仲間と共に行動していた。
一息ついたトニーがNYへ戻ると同時に、ペッパーも戻ってきたため、2人は久しぶりにゆっくりと過ごしていたのだが…。
突然現れた空を覆うほどの大軍に、ペッパーは震え上がった。2年前宇宙で目撃した脅威がやって来たと悟ったトニーは、拳を握りしめた。
「行ってくる」
言葉少なくペッパーにキスをしたトニーだが、ペッパーは涙を流しながら彼に抱きついた。
「トニー…」
震えるペッパーを抱きしめたトニーは、
「大丈夫だ。必ず戻ってくる」
と言い残し、戦いの場へ向かった。
が、サノスの軍は強かった。
仲間は次々と倒れた。
トニーもアーマーを破壊され、今や身体を覆うアーマーはほんの一部だ。
右手はとうに感覚がなく、ダラリと身体の横にぶら下がっているだけだ。
腹の傷から流れ落ちる血は止まらない。肺がやられたのか、息ができずトニーは血を吐き出した。
「くそっ…」
必死で起き上がろうとするトニーだが、両足が潰され立ち上がることができない。
と、隣にナターシャが倒れこんできた。
「ロマノフ…」
返事はなかった。彼女の首は妙な方向に折れ曲り、絶命していた。
バートンも、ブルースも…。
向こうでソーも倒れている。彼も時間の問題だろう…。
キャプテン・アメリカだけが戦っていた。世界一強固なはずの盾は半分姿を消していたが、それでもキャプテンは必死に戦っていた。何とか加勢しなければと、トニーは必死に動こうとしたが、もはやアーマーは役に立たない程破壊されているし、武器も何一つないのだから、どうすることもできない。
ふと誰かの気配がし、トニーは顔を上げた。すると目の前にサノスが立っていた。
「スターク…お前だけは私の手で始末せねばならない」
そう言うと、サノスはトニーの頭を掴み、身体を持ち上げた。
「お前は私が感じていた脅威だ。ここで摘み取らねばならない」
「光栄…だな…」
軽口を叩こうとしたが、そう言うのが精一杯だった。死にかけているトニーに最後のトドメをさそうと、サノスは拳を振り上げた。
「大丈夫さ。痛みなど一瞬だ」
サノスが拳をトニーの腹に打ち付けた。拳が身体を突き抜け、背骨が折れる音がした。
「お前のことを覚えている奴がいるといいな」
「スターク!!」
スティーブの絶叫が聞こえた。
ピクピクと身体を震わせるトニーから腕を抜いたサノスは、べっとりと付いた血を拭った。身体に空いた大きな穴から、引きちぎられた内臓や砕けた骨が地面に落ちた。それでもまだトニーは辛うじて意識があった。
サノスの言う通り、痛みを感じたのは一瞬だった。何も感じなくなった。辺りが霞んで見え始めた。
『……トニー……』
ペッパーの声が聞こえた。この場にいるはずはないペッパーの声が…。
結局泣かしてしまった…。幸せにすることができなかった…。何も残さず、永遠の別れを告げなければならない…。
もしも…もう一度やり直せるなら…今度こそ彼女を幸せにしたい…。彼女の幸せだけを考えて…生きていきたい…。
彼女が望むなら……ヒーローは……………。
「…ぺ……ぱ…」
必死で口を動かしたトニーが、最愛の女性の名を囁いた。
「しぶとい奴だ」
舌打ちしたサノスが、トニーを地面に叩きつけた。ちぎれかけていた身体が離れ、下半身が転がった。サノスがもう一度トニーの上半身を持ち上げた。
トニーの目にはもう何も写っていなかった。それでもこの脅威を完全に消し去ろうと、サノスはトニーの頭を握り潰した。
グシャと音がし、トニーだったものが地面に転がった。
……
話し声にゆっくりと目を開けると、見たことのない女性が微笑んでいた。
痛む身体をゆっくりと起こしたが、不思議なことに怪我はすっかり治っているではないか。
何が起こったのだろう…。
見ると、死んだはずのソーもブルースもナターシャもクリントも、周りに座り込んでいる。
「…天国か?」
思わずそう聞くと、女性は笑みを浮かべた。
「いいえ、まだ死んでませんよ」
優しげな笑みを浮かべた女性は、トニーに水を渡した。
「私はエンシェント・ワン。時を戻しました。あなた方が死ぬ前に…」
水を飲み干したトニーは、もう一度仲間を確認した。ナターシャは泣いていた。ブルースもクリントもソーも、暗い顔をしていた。が、いくら探しても、スティーブは見当たらなかった。
「キャプテンは…」
ナターシャが首を振った。そして何かを指差した。
指の先にはスティーブの身体があった。が、あるはずの首はなかった。
そしてサノスの軍も消えていた。
「あいつらは…」
震えだしたトニーに、エンシェント・ワンは告げた。
「彼らは2023年の世界にタイムスリップしました。キャプテン・アメリカの首を持って…。そしてそこで滅び去りました。2023年のあなたの犠牲によって…」
『犠牲』と聞いたトニーは顔色を変えた。つまり自分は2023年に命を落とすということかと…。するとエンシェント・ワンは首を振った。
「未来は変わりました。本来進むべき未来と、これから起こる未来は、別のものになりました。この世界は…キャプテン・アメリカの犠牲によって救われました。この世界の宇宙の脅威は去りました。あなたが2年前目撃し、ずっと感じていた脅威は…。尤も、別の脅威は起こるかもしれませんが…」
笑みを浮かべたエンシェント・ワンは、ナターシャたちにも視線を送った。
「さぁ、一先ず家に帰りなさい。愛する者が待つ家に…。これからもあなた方の力は必要となるでしょうが…。暫くは大丈夫です。ゆっくり休んで下さい」
するとソーが口を出した。
「ロキの杖を見つけなけらばならない」
エンシェント・ワンは、これから起こること全てを知っているのか、ソーを安心させるように頷いた。
「それも時が来れば見つかります。今すぐにではありません。未来は変わったんです」
腑に落ちない顔をしたソーだが、頷くと空高く飛び上がった。
ナターシャとクリントとブルースは、スティーブの遺体を抱き上げると、一先ずタワーに戻ろうと腰を上げた。トニーもその輪に加わろうとしたのだが、エンシェント・ワンがトニーだけを呼び止めた。
「スタークさん、これからヒーローは大勢誕生します。今この瞬間も誕生していますよ。あなたはこれからどうされますか?」
彼女の澄んだ瞳に見つめられたトニーは悟った。キャプテン・アメリカという犠牲は強いられたが、悪夢を見ることはもうないのだと…。だから、これから先は、ヒーローではなく、ただの男として生きろと…そう言われた気がした。
「あぁ、分かった。これからは自分の人生を大切にする」
頷いたトニーは、エンシェント・ワンに礼を言うと、仲間の元に向かった。