正門前での告白の後、拍手喝采で大盛り上がりの中を逃げ出した二人は、ペッパーの家へ向かった。
突然現れたトニーに驚くペッパーの両親の前で、トニーは頭を下げた。
ペッパーとは結婚を前提にずっと付き合っていたこと、彼女が卒業したのを機に結婚したいこと、そして妊娠していること…。
今まで隠していたことを謝罪しつつも、ペッパーのことを愛していること、これから一生守ると言うトニーの力強い言葉に、ペッパーの父親はトニーを一発殴った後で、娘を頼むと抱きついた。
隠していたつもりでも、薄々気付いていたようで、二人ともトニーをすっかり気に入り、泊まって行くように引き止めた。だが、仕事のため今日中に帰らないといけないトニーは、せめて夕食だけでも…と、食卓をともにした。
夕食時も、もっぱら二人の話題となり、二人は根掘り葉掘りいろいろ聞かれ、そのたびにペッパーは赤面した。トニーもペッパーの両親の温かさに触れ、久しぶりにリラックスした時間を過ごすことができた。
そしてトニーは、3週間後にまた迎えにくると言い残し、LAへ帰って行った。
***
「ねぇ、ママ…気付いてたの?」
キッチンで片付けをしていたペッパーは、隣で洗い物をしている母親に尋ねた。
「えぇ…。誰かいい人がいるのはだいぶ前に気付いていたけど…。相手がスターク先生かしら…って思ったのは、あの時よ。ほら、あなた、テレビを見ながら泣いていたでしょ?」
ニヤニヤする母親にペッパーは口を尖らせた。
(やっぱりママにはかなわないな…)
真っ赤になって布巾を捏ねくりまわしているペッパーに、母親は苦笑した。
「それにしても、大丈夫なの?ママ、心配だわ…。あなたがちゃんとトニーのことを支えてあげられるか…。心配だから、ママも一緒に行こうかしら…」
「え⁈」
母親の発言に思わず大きな声を出したペッパー。
「だって、トニー、カッコいいじゃない。ママが若かったら…」
ママったら何考えてるの⁈
慌てたペッパーは、母親の言葉を遮るように叫んだ。
「ダメ!トニーは私の旦那様なの!ママにはパパがいるでしょ!」
慌てふためく娘に母親は吹き出した。
「冗談よ。もう、本気にして…。でも、スターク先生はね、ママたちの間でも大人気だったのよ。だから、ママは鼻が高いわ。だって、あのスターク先生が、私の息子になるんだもの!」
そうなの?トニーったら、ママたちの間でも人気だったの?どうしよう…。分かってはいたけど…彼ってモテる…。きっとこれから先も…。
青くなったペッパーを見た母親は、少し脅かしすぎたかしら…と思いつつ、娘の頭を軽く叩いた。
「大丈夫よ、ヴァージニア。彼はあなたのことしか見えてないから…」
一人で慌てていたのが恥ずかしくなったペッパーは、話題を変えようと父親の姿を探したが、リビングには姿が見えないことに気付いた。
「ねえ、パパは?」
ペッパーの言葉に母親はため息をついた。
「パパ?やっぱりショックだったみたいよ。大事なあなたが急にお嫁に行くって言い出して…。しかも孫までできるんだから…。いろんなことが一度に押し寄せて、パパも寂しいのよ…」
父親はバルコニーにいた。
「パパ?」
寂しそうなその背中にそっと声をかけると、父親はにっこりと笑いながら振り返った。
「ヴァージニアか…」
父親の隣に並んだペッパーは、手摺に置かれた父親の手をそっと握った。
「パパ…ごめんなさい。黙っててごめんなさい…。でも、私…」
「お前も言いたくても言えなかったんだろ?パパたちこそ、気付いてやれなくてすまなかったな…」
「ううん…。でも、ありがとう。彼のこと許してくれてありがとう、パパ…」
「お前が選んだ男だし、ずっとお前とのことを考えてくれていたんだろ?順番がめちゃくちゃだが…」
苦笑した父親は、ペッパーの頭をくしゃっと撫でた。
「ところで、大学はどうするんだ?」
「そのことなんだけど…。大学には行きたい。もっと勉強したいって気持ちはあるの。でも…今はね、彼のこと支えてあげたいの。すごく大変な時期だから…。それが私の仕事よ。それに、赤ちゃんも産まれるし…。でも、いつかは行きたいわ…」
「そうか。寂しくなるな…。元気なお前がいなくなるのは…」
「うん…」
ペッパーの肩を抱き寄せた父親の声は、寂しさに溢れていた。父親に抱きついたペッパーは、目に浮かんだ涙をそっと拭った。
(パパとママの娘でよかった…。私ね、パパとママみたいな夫婦になるから…)
***
一方のトニーは、ペッパーを迎え入れるべく、早速家の改装を始めた。何しろ、住み始めてから何も手を付けていなかったのだ。以前、ペッパーが語っていた理想の家を思い出しながら、仕事の合間をぬってトニーは楽しそうに業者と打ち合わせを行っていた。LAへ来て以来、トニーの笑顔を見ていなかった社員たちは、嬉しそうなトニーの様子を目を細めて見守った。
そしてもう一つ…。トニーが以前より行いたかったこと…。それは自分専用のラボを作ること。
幸いにも仕事がひと段落したため、早めに退社できるようになったトニーは、帰宅後その作業に没頭していった。
***
そして3週間後。
迎えに来たトニーと共に、ペッパーはLAへ向かった。
助手席に座ったペッパーの膝の上には、あのミッ○ーのぬいぐるみ。
「ねぇ、ミ○ーは?私があなたの家に行った時は、いなかったから…」
「あぁ、あれか…。留守番させている…」
なぜか言葉を詰まらせ赤くなったトニーをペッパーは不思議そうな顔をして見つめた。
数時間後、マリブにある一軒の家に車は停車した。
「素敵なお家!」
嬉しそうに家の中を見て回るペッパーに、英国訛りの男性の声が聞こえてきた。
『初めまして、ペッパー様。ジャーヴィスと申します。何なりとお申し付け下さい』
「え?」
どこからともなく聞こえる声に、ペッパーは目を丸くして辺りを見回した。
「ジャーヴィスだ。この家の管理をしてくれる、言ってみればスターク家の電脳執事だ」
「す、すごい…トニーが作ったの?」
「あぁ、以前からやりたかったんだが、やっと実行できたんだ。それよりこっちに来いよ」
まだ驚いているペッパーの手を引いて、トニーはバルコニーに出た。
「わー!すごい!海が見えるのね!」
「LAへ二人で来た時に言っていただろ?こんな海が見える所に住みたいって…」
はしゃぐペッパーの横顔をトニーはじっと見つめた。オーシャンブルーの瞳は目の前の海と同じくキラキラと輝き、その煌めきはトニーに安らぎをもたらしてくれる。トニーに見つめられているのに気づいたペッパーが、恥ずかしそうに振り返った。
「覚えていてくれてたの?」
「当たり前だ。俺を誰だと思っているんだ?」
頬にキスを落としたトニーは、ペッパーの手を握ると別の部屋に歩き出した。
二階への階段を登りながら、トニーは部屋の説明をしていった。
「二階は寝室や衣装部屋だ。あとは、子供部屋もあるが…内装はまだなんだ。二人でゆっくり決めていこうな」
「うん!トニー、ありがとう。素敵なお家ね」
腕を絡ませたペッパーの頭にキスを落としたトニーは、寝室のドアを開けた。
寝室には、クイーンサイズの大きなダブルベッドが置かれており、その枕元にはミ○ーが座っていた。
「あいつだけ、連れて来たんだ。親父とお袋が死んでLAに戻る時に。君を置いていくような気がして…」
ベッドサイドに座ったトニーは、ミ○ーの頭を撫でた。
「君と離れていた時、こいつに随分助けられたよ…」
「?」
不思議そうな顔をしたペッパーだが、寝室の片隅に置かれた自分の荷物からミッ○ーを取り出すと、ミ○ーの隣に並べた。
「よかったね。ミッ○ーもやっとミ○ーに会えたわね」
「そうだな…」
トニーに手招きされたペッパーは、膝の上に座った。背中に腕を回し胸元に耳をつけると、トニーの鼓動はいつもより早くリズムを刻んでいた。
「ねぇ、ドキドキしてる?」
上目遣いに見上げると、トニーはニヤニヤしていた。
「あぁ、君をこうするのも久しぶりだからな…」
ペッパーをギュッと抱きしめたトニーは、そのままベッドに仰向けに横たわった。トニーのシャツの裾を握りしめたペッパーは、襟元から覗く胸元にキスをしながらつぶやいた。
「私もね…ドキドキしてる…」
ペッパーの背中を撫でていたトニーだが、くるりと身体の向きを変えると、ペッパーを組み敷いた。
「ペッパー…これからはずっと一緒だ…」
「うん…」
甘くとろけそうなキスを受けながら、ペッパーはトニーと出会ってからのことを考え始めたが、次第に何も考えられなくなり、トニーに与えられるものに溺れていった。
寝室が甘い空気に包まれる中、枕元に置かれたミッ○ーとミ○ーも、久しぶりの再会を喜ぶかのようにパタリと倒れた。
【END】
→おまけ(R-18)
学園パロ。学園編は終わりです。おまけは、ペッパーの家へ行った時の合間のお話(R-18)です