Kiss the Teacher~卒業編5

もうすぐ卒業式。
この一週間トニーと連絡がつかず、ペッパーは不安な日々を過ごしていた。
以前なら着歴があると必ず折り返し電話を掛けてくれていたトニーだが、忙しいのかメールすらも返ってこなかった。
(忙しいのに…あまり掛けても悪いわよね…)

声を聞けば元気をもらえるのに…。
トニー…寂しいの…。不安でいっぱいなの…。卒業式が終わったら、会いに行ってもいいわよね…。

あと二日…あと二日頑張れば、トニーの顔が見られる。抱きしめてもらえる…。でも、私が今出て行ったら…彼のスキャンダルを探しているマスコミに嗅ぎつけられるかしら…。生徒と関係を持っていたと言われるかしら…。彼はきっと拒まないけど、彼の評判は落ちてしまう…。
それでも会いたい…。会って抱きしめてもらいたい…。不安でいっぱいなの…。もう一人じゃ頑張れない…。
そうよ。彼とのことを唯一知っているバナー先生に相談してみよう。話を聞いてもらえば、少しは楽になるかも…。
ペッパーは涙を拭うと、お腹にそっと手を当てながら学校へ向かって歩き始めた。

授業らしい授業もなく、教室では明後日の卒業式に向けての準備が行われていた。
クラスメイトが楽しそうに準備をする中で、ペッパーは机に座り青い顔をしていた。
(どうしよう…気持ち悪いし、お腹も痛い…。赤ちゃん、大丈夫かしら…)

「…さん…ポッツさん?」
気がつくと、ロマノフが机のそばに立っていた。
「大丈夫?顔色悪いわよ?保健室に行ってきたら?」
心配そうに顔を覗き込むロマノフに向かって、ペッパーは笑顔を向け、立ち上がろうとした。
「先生…。大丈夫です…」
だが、突然眩暈に襲われたペッパーは、その場で倒れてしまった。
「大変!ポッツさん!しっかりして!」
ロマノフやクラスメイト声を聞きながら、ペッパーは意識を手放した。

***

夕方になり、会議が終わり自室に戻ってきたトニー。この一週間は特に忙しく家に帰る暇すらなかった。仕事が片付くのも深夜。ペッパーから何度も連絡があったのは分かっていたが、さすがに深夜に電話するのも気が引け、メールを返そうにもその前に自分が意識を失っており、一週間も連絡していなかった。
さすがに心配しているだろう。不安に思っているだろう。まだ夕方だ。電話してみるか…。いや、仕事もひと段落したし、会いに行ってくるか…。
疲れ切った身体をソファーに横たえ、そんなことを考えていると、ドアをノックする音とともに秘書が入って来た。
「社長、この書類にサインをお願いします。それと、この後の○△社との夕食会ですが…」
「あぁ…そうだったな…」
この後、会食が入っていたのを忘れていた。また連絡できない…。
トニーが小さく舌打ちしたその時、携帯がけたたましく鳴り響いた。
画面を見ると、ブルースからだった。彼から電話がかかって来ることは滅多にない。
(もしや、ペッパーに何かあったのか?)
不安になったトニーは、まだ何か言おうとしている秘書の方を振り返った。
「少し待ってくれ…」

ソファーから立ち上がったトニーは、窓際に行き通話ボタンを押した。
「忙しいところ悪いな」
「どうした、ブルース。何かあったのか?」
ブルースの声はうわずんでおり、トニーは嫌な予感がした。
「落ち着いて聞けよ、トニー。彼女が…ポッツくんが倒れた」

ペッパーが…倒れた?

携帯を握りしめたまま何も言えないトニーに、ブルースは言葉を続けた。
「授業中に倒れたんだ。すぐに僕の所に連れて来られたんだが…。眠っている間、君の名前をずっと呼んでいたから、彼女に聞いたんだ。彼女、妊娠してるぞ?」

妊娠?

頭が真っ白になったトニーは、何も言えず黙ったまま。トニーの心中を察してか、ブルースの声は優しかった。
「彼女、言ってたぞ。お前の負担になりたくないって。今、自分が会いに行ったら、お前がマスコミの餌食になるのは目に見えてるって。妊娠していることを知らせたい、君との子供だから産みたい…。だけど、誰にも相談できず悩んでいる。どうするつもりなんだ?このまま放っておくのか?」
「放っておくわけないだろ!彼女は…ペッパーは…俺の大切な…」
ブルースの言葉に声を荒げたトニーだが、言葉に詰まってしまった。
「そうだろ。君はきっとそう言うと思った。だったら、早く迎えに来てやれ。卒業式は明後日だ…」
電話を切ったトニーに、秘書が声を掛けた。
「社長、二日後の会議の件ですが…」

大きく息を吸い込んだトニーは、秘書の方を振り返った。
「その会議、延期してくれ。忘れ物をしたんだ…。大事な忘れ物を取りに行ってくる」

6へ…

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