Another World of 2012:NY…19

2日後、トニーは退院した。
自宅に戻ったトニーに、待ち構えていたモーガンが飛びついた。
「パパ!おかえり!」
キャーと歓声を上げた娘をトニーは抱きしめキスをした。顔中にキスをしまくる父親に、髭が痛いと文句を言おうと思ったモーガンだが、父親は静かに泣いていた。だからモーガンは何も言わず、黙って父親を抱きしめた。

その夜。2人きりになった寝室で、トニーはペッパーに告げた。
アイアンマンとヒーロー活動からは完全に引退すると…。
「もう私の出番は終わりだ。私の悪夢は終わったんだ。これからは、二度目の人生を…いや、三度目かな…どっちでもいいが、君とモーガンのことだけを考えて生きていきたい」
そう告げたトニーは、スッキリとした表情をしていた。ペッパーとしては、トニーがどんな選択をしても受け入れるつもりだったが、トニーの決断が嬉しくて仕方なかった。トニーが危険な目に合うのは…自分たちの元からいなくなるのは…そして彼が悪夢に苦しむのは、もう見たくなかったから…。
嬉しそうに頷く妻に、トニーも頬を緩めた。そして彼は先日の戦いで生き残ってから考えていたことを妻に告げることにした。
「そこでだ。ミセス・スターク、君に提案がある。もっと静かな場所に引っ越さないか?」
ペッパーは正直驚いた。トニーがそんなことを言い出すとは思わなかったから…。
確かに今の住まいは街のど真ん中だ。セントラルパークのそばにあるため、便利もいいが景色も良く、モーガンを連れて遊びに行くのも便利だ。だが、どこかせわしくのんびりとした雰囲気からはほど遠い。
ペッパー自身は田舎でのんびりと育ったため、モーガンも同じような環境で育ててみたいとはずっと思っていた。だが、トニーはNY育ちだし、彼はこの街で暮らしたいと思っていると考えていたからだ。
「でも…」
目をぱちくりさせているペッパーに、トニーは手を叩くとモニターを表示させた。
「いい場所がある。ここから遠くはない。だから君が仕事に行くにも問題ない」
映し出されたのは、森に囲まれた湖だった。透き通るように美しく、そして静かな風景をペッパーは一目で気に入った。
「素敵な場所ね…。気に入ったわ…」
囁くように告げたペッパーは、トニーの肩にもたれかかった。そして甘えるように彼の身体に腕を回した。

妻の身体の温もりがTシャツ越しに伝わった。笑みを浮かべたトニーは、彼女の頭にキスをした。
「それから…モーガンに妹が弟を作ってやらないか?」
「え…」
またしても思いがけない提案に、ペッパーは顔を上げた。戸惑いの色を見せる妻に、トニーは眉を吊り上げてみせた。
「そろそろ2人目を考えてもいい頃だろ?」
自分たちはエクストリミスに感染している。だから妊娠してもまたモーガンと同じような状態で生まれてくるだろう。
エクストリミスを生まれ持っているからと言って、モーガンが特段変わっているということはない。確かに彼女が1歳すぎるまでは、彼女のコントロール出来ない力をこちらもどうしていいのか分からず戸惑うことも多かった。だが、子育てをする上で、戸惑いがあるのは誰だって同じだ。
だが、モーガンの場合は、妊娠初期にペッパーが感染したのであって、次に生まれてくる子は、妊娠する時点ですでに感染しているという違いがある。だからモーガンと全く同じとは考えられなかった。
ペッパーもずっと2人目は欲しかったが、そう考えると、ペッパーはトニーに切り出せないでいたのだ。

黙ったままのペッパーをトニーはギュっと抱きしめた。
「モーガンを見て思ったんだ。確かにあの子はエクストリミスと共生しなければならない。だが、あの子は素晴らしい子だ。親の自分が言うのもなんだが…。君に似て強く優しく…思いやりのある…純粋な心を持った素晴らしい子だ。だから大丈夫…きっと幸せになれる…」
ペッパーは気づいた。
トニーはどんなことでも乗り越える強さを持っている。それはきっと彼が自分の運命に抗わず、全てそのまま受け止めているから…。自分に与えられた試練だと思い、乗り越えようとしているから…。そしてその運命を、より良い方向に変えようと努力しているから…。
自分のことだけではない。子供たちのことも、彼は全て受け止めてくれる…。
だから大丈夫…。彼となら…例え何があっても、乗り越えられるから…。

ペッパーは気持ちが楽になった。トニーに任せておけば大丈夫…最も任せられないことも多々あるが…。
「うん……」
トニーの胸元に顔を押し付けたペッパーは、Tシャツ越しにキスをした。
その胸元には、数日前まであったリアクターはなかった。彼にはもうリアクターは必要ないのだから…。
「では、早速…」
ニヤッと笑ったトニーは、ペッパーを抱きかかえると、シェルターに向かった。

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