翌朝。
「トニー、いってらっしゃい」
目を潤ませたマリアだが、笑顔を作るとトニーに向かって手を振った。そしてトニーは迎えに来たペッパーと共に学校へと向かった。
トニーにとっては1ヶ月ぶりの登校。車で送ると母親は言ってくれたが、トニーは歩いていくと母親の申し出を断った。だが、大勢の中を歩きたくないと、授業中のタイミングを狙ったのだが、それでも誰とも顔を合わせたくないと、トニーは深々とフードを被っていた。
学校へ近づくに連れ、トニーの足取りが重くなり始めた。息遣いも荒くなり、汗をかいたトニーは震え始めた。
「トニー、今日はもう帰って、また明日にする?」
トニーの異変に気付いたペッパーはそう声を掛けた。が、ペッパーがいるから大丈夫と考えたトニーは首を振ると、再び歩き始めた。
結局、校内に入ったのは、2時間目も半分過ぎた頃だった。静まり返った廊下を2人で手を繋ぎ歩いていると、ペッパーが悪戯めいた笑みを浮かべた。
「私ね、今日が初めての遅刻なの。つまりね、1限目は無断でサボっちゃったの。授業サボったのって、あの時以来かも…」
小声で囁いたペッパーは、ふふっと笑った。
「でも、トニーと一緒だもの。ドキドキしてるけど、楽しくて仕方ないわ」
ペッパーの笑顔は出会った頃から何の変わりもなく、トニーは眩しそうに彼女を見つめた。
気づけば、教室の前に来ていた。
暫く立ち止まっていたトニーだが、何度も何度も深呼吸をすると、ドアをそっと開けた。
すると…。
「「おかえり!トニー!!」」
トニーが戻ってくるのを待ち構えていたクラスメイトは、立ち上がるとトニーの元に駆け寄った。
「トニー!無事でよかった!」
「誘拐されたって聞いたから、酷いことされたんじゃないかって、心配したんだぞ?」
「お前がいないと、学校中がめちゃくちゃ暗くてさぁ」
大勢の友達が歓迎の言葉を口にしている。中にはブルース・バナーのように、号泣している者もいるではないか。
騒ぎは隣の教室にも伝わり、廊下には大勢の生徒が飛び出してきた。
皆、ニコニコと嬉しそうで、こんなにも温かく歓迎されたことはなかったトニーは、驚くと同時に胸が熱くなってきた。
何もかも初めてだった。自分のことを心配してくれていることも、自分のことを本当に友達だと思ってくれていることも…。
もう大丈夫…。もう平気だ…。
こんなにも素晴らしい仲間が大勢いるんだ…。今までとは違う本当の仲間が…。
鼻をすすったトニーは小さな涙を流した。
「ごめん、心配かけて。でも、もう大丈夫だから」
袖口で顔を乱暴に擦ったトニーは、フードを脱ぐと笑みを浮かべた。
そこにはいつものトニーがいた。
(よかったわね、トニー)
楽しそうに友達に声をかけながら席に着くトニーを見つめながら、ペッパーもトニーの隣に腰を下ろした。
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