Until now I have been looking for you.⑮

数時間後。
指定された場所でペッパーが待っていると、一台の車が停まった。すると、ドアが開き、中からトニーが現れた。
「トニー…」
立ち上がったペッパーはトニーに駆け寄ると抱きついた。
「よかった…無事でよかった…」
が、立ちすくんだままのトニーは何も言わない。そればかりか、虚ろな表情をしたトニーの瞳には何も映っていなかった。
「トニー?」
呼びかけてもトニーは返事をするどころか、瞬き一つしない。ホイットニーの話は本当だった。無表情で、反応のないトニーは、まるで人形のようだった。
(トニーの心は本当に壊れてしまったのかもしれない…)
不安がどっとペッパーの胸に押し寄せたが、兎に角話をしようと、トニーの手を繋いだペッパーは近くのベンチに腰を下ろした。
「トニー、聞いたわ…。彼女とのこと…」
トニーの手を握りしめたペッパーはそう切り出したが、トニーは黙ったままだ。
そこでペッパーは、彼に自分の気持ちを伝えることにした。
「ねぇ、言ったことなかったかもしれないけど、私は今のあなたが好きなのよ。自信過剰でわがままで…。でも、本当は優しくて、誰よりも思いやりのある人。そんなあなただから、私は恋に落ちたの…」
トニーは相変わらず遠くを見つめたまま、黙っている。今のトニーに自分の声は聞こえないかもしれない…。だが、きっと彼の心には届いているはずと、ペッパーは言葉を続けた。
「私のもね、同じなの。私もずっと一人ぼっちだった。誰とも打ち解けることができなかったし、いつも寂しかった。本当はお友達と遊びに行ったりしたかったけど、みんな私のことを遠巻きに見てるだけで…。だから私も心を閉ざしてた。でも、あなたに出会った。最初はいい加減なあなたのこと、苦手だったわ。でもあなたは、今まで出会った人と違っていた。私に普通に接してくれた。壁を作らず、接してくれた。本当はね、嬉しかったの。恥ずかしくて、つっけんどんな態度をとっちゃったけど…。私と同じ視線で世界を見てくれる人がいるんだと思うと、本当に嬉しかった。だからね、あなたと一緒にいるうちに、あなたのことが好きになったわ。私、あなたに初めての恋をしたの」
すぅと深呼吸をしたペッパーは、トニーの頬にそっと手を当てた。
「トニー、あなたは私のこと、見つけてくれたのよ。沢山の人がいる中から、あなたは私というちっぽけな存在を見つけてくれたの…」
と、トニーが何度か瞬きした。そして小さく声を出したトニーはゆっくりと顔を動かすと、ようやくペッパーを見つめた。その瞳に、少しだけ光が戻ってきた。いつものトニーの瞳が…。
「あなたはずっとひとりぼっちで孤独だった私を見つけてくれた。真っ暗な世界にいた私を、光の世界に連れ出してくれた。私に沢山のことを教えてくれた。私にも誰かを愛することができると教えてくれた。ありがとう、トニー。ずっと前にあなたは私に言ったわ。ペッパーに出会えてよかったって。でもね、私も同じなの。あなたに出会えて、本当によかった。私ね、心からそう思ってるの」
トニーの目に薄っすらと涙が浮かんだ。その涙を優しく拭ったペッパーは、トニーの頬をそっと撫でた。
「だからね、もう大丈夫。私はあなたのそばにずっといるわ。何があっても絶対にあなたの手を離さない。あなたが嫌だって言っても、絶対にね…。あなたのこと、全て受け止めてみせる。だから、あなたの苦しみ、私にも分かち合わせて…。今、あなたは暗闇の中でもがき苦しんでいる…。だけど絶対に私が助け出してみせる…。何があっても絶対に…。だからお願い。私のことは信じて…」
ペッパーの目から涙が溢れ落ちた。その涙は頬を伝わり、トニーの手に落ちた。ペッパーの涙の温もりが、トニーに伝わった。氷のように閉ざされた彼の心にも…。

「ペッパー…」
掠れた声で名を囁いたトニーは、ポロポロと涙を流し始めた。そしてペッパーに抱きつくと、声を上げて泣いた。

どのくらいそうしていただろう。泣き続けるトニーの背中をゆっくりと撫でていると、落ち着いたのか、トニーがしゃくりあげながら顔を上げた。彼の涙を拭ったペッパーは、手を握りしめた。
「帰りましょ?みんな、心配してるわよ。放課後、みんなであなたのこと、探し回ってるの」
「え……」
戸惑うトニーにペッパーはニッコリと笑いかけた。
「だって、トニーは大切な仲間ですもの」
トニーの手を握りしめたペッパーは立ち上がった。足元をふらつかせたトニーを支えたペッパーは、ゆっくりと歩き始めたのだが…。
「トニー、待ちなさい!」
血相を変えたホイットニーが、慌てて2人の元にやって来た。
「また約束を破る気?!本気で私から逃げられると思ってるの?あなたは私のもの。私だけのもの!一生私だけのものになるって、あなたは誓ったでしょ!証拠もあるわ!」
そう言うと、携帯を取り出したホイットニーは動画を再生し始めた。
ホイットニーに忠誠を誓う自分の姿を見たトニーが小さく震えだした。
「まだ分からないの?あなたは私がいないと、何もできない男なのよ!」
ペッパーがトニーの背中に手を置いた。まるで大丈夫というように、ペッパーはゆっくりと撫でた。
ペッパーの温もりに気持ちが落ち着いたトニーは、すぅっと深呼吸をした。そしてゆっくりとだが、ハッキリとした声でホイットニーに告げた。
「俺にはペッパーがいる。それに今は仲間が…友達も沢山いる」
トニーはホイットニーの目を見据えたまま話し続けた。
「あの頃の俺とは違うんだ。俺には俺のことを心配して、一緒に泣いたり喜んでくれる人が大勢いる。あなたは俺を束縛するだけだ。俺の身も心も、全て支配しようとする。間違った方法で俺に歪んだ愛を押し付けてくる。あの頃の俺は、あなたの愛が偽りだと気づかなかった。だけど、ペッパーが俺に本当の愛を教えてくれた。ペッパーは、ありのままの俺を受け止めてくれる。愛してくれる。だから俺にはあなたはもう必要ない」
ペッパーの手をギュッと握りしめたトニーは、そう言うと、息苦しくなったのか、何度も深呼吸をした。
悔しそうに唇を噛み締めホイットニーが、近づいてきた。トニーを守るように両手を広げて立ち塞がるペッパーを突き飛ばしたホイットニーは、トニーの手を掴んだ。
「そんなものどうでもいいの!あなたに愛なんて必要ない!こっちへ来なさい!二度と、二度と立ち直れないようにしてやるから!」
怯えたように目を閉じたトニーだが、パッと目を開いたトニーは、ホイットニーの手を払いのけた。
「俺に触るな!ペッパーにもだ!」
そう叫んだトニーは、地面に倒れたペッパーに駆け寄った。
ホイットニーがたじろいだ。初めてトニーが抵抗したのだ。だが、何としても彼を連れ去らねば…と、ホイットニーが再びトニーの手を掴もうとした時だった。
「息子に何をしたの…」
ホイットニーが振り返ると、ハワードとマリアが怒り露わに立っていた。
真っ赤な顔をしたマリアは、ホイットニーにズンズンと近づいた。
「あなた、うちのトニーに何をしたのよ!」
マリアがホイットニーを平手打ちした。何度も何度も…。泣きながらホイットニーを叩き続けるマリアを、ハワードが抱きしめた。
「もういい。後は警察に任せろ」
数人の警官がホイットニーに駆け寄り、手錠を掛けた。それを見届けたハワードは、トニーを救急車に乗せた。そしてホイットニーを睨みつけると、ドスの効いた声で告げた。
「二度と、二度と息子に近づくな」
何か言おうとしたホイットニーを一瞥したハワードは、車に乗り込むと、救急車の後を追った。

⑯へ…

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