その後も2人はベッドの中で何度も愛し合った。
夜もふけた頃、トニーはペッパーを腕の中に閉じ込めると、ずっと考えていたことを口に出した。
「なぁ、ハニー。普通の暮らしというのはいいな…」
「急にどうしたの?」
今までトニーから出たことがない話題に、目を丸くしたペッパーは思わず彼を見上げた。
「いや、この数週間、寝込んでいたとはいえ、君とずっと一緒にのんびりとできただろ?やっと気づいたんだ。これが普通の暮らしなんだって…。正直、今まで知らなかった。普通の暮らしってやつが、こんなにも居心地の良いものだったなんて…。だから考えたんだ。私もそろそろ普通の暮らしをする時がやって来たのかも…と」
トニーの話を黙って聞いていたペッパーだったが、その目にはみるみるうちに涙が溜まり始めた。その涙を優しく拭ったトニーは、ペッパーの髪をそっと梳いた。
「だが、今はまだ無理だ。あいつを倒して…消えた人々を救うまでは…。だが、それが終われば…アイアンマンは辞める。今度こそ本当に…」
『あなたを失いたくないから、ヒーローは引退して』
何度も彼にそう告げようとした。だが、彼の気持ち…ヒーローとなるきっかけも続ける理由も理解していたので、強く言うことはできなかった。そのせいで、気持ちが離れ離れになりそうになったこともある。だがその度に、お互いの存在の重さを再認識し、絆はますます深くなっていった。それでも正直、彼にはヒーローとしてではなく、普通に生きて欲しかった。今回のことで、尚更そう思ったが、彼の気持ちは変わらないだろうと、彼のそばにいるために、そして彼を守るために、自分も彼と同じ道を進もうと決意した。だが、死を覚悟する状況に陥ったことが、トニーの気持ちを大きく変えたようだ。
ペッパーは言葉を続けることが出来なかった。何度も何度も頷いたペッパーは、トニーにしがみつくと、静かに涙を流した。
「こんな簡単なことが、ようやく分かったんだ。昔からずっと憧れていた暮らしなんだ。君がそばにいてくれれば、言うことは何もない…」
彼女の背中を優しく撫でたトニーは、ペッパーの顎を持ち上げた。
「ペッパー…。これからも君と永遠に共にいることを誓う…」
ペッパーの顔を両手で包み込んだトニーは、優しい優しいキスをした。
後に思えば、それは彼が最後の旅をペッパーと共に始める覚悟を決めた瞬間だったのかもしれない…。
ふぅと大きく深呼吸をしたトニーは、ペッパーの肩を抱き寄せると、明るい口調で話し始めた。
「よし、明日から始動だ。君のアーマーは約束通り作る。だが、まずは本部へ行ってくる。現状と今後の計画を確認してくる。そうだ、アライグマが仲間に加わったらしいぞ?本物のアライグマかは知らんが…。せっかくだから明日は君も一緒に行こう。喋るアライグマ、見たくないか?」
ベラベラ喋るトニーはいつも通りのトニーで、また無理をするのではないかと、ペッパーは少しだけ不安になってしまつた。
「トニー、お願いだから無理しないで」
するとトニーはご丁寧にもウインクをしてみせた。
「分かってるさ。まだ病み上がりだからな。だが、倒れたら君が付きっきりで看病してくれるだろ?それはそれでいいだろ」
「止めて」
可愛らしく睨みつけてきたペッパーにもう一度キスをしたトニーは、
「それから…」
と言葉を切ると、熱っぽい視線をペッパーに向けた。彼の言わんとせんことが分かったペッパーは、トニーの胸元に顔を擦り寄せた。
「そうね、モーガンにも会いたいわよね」
照れくさそうに瞬きをしたトニーは、ふと父親の言葉を思い出した。
『私が作り出した最高のものは、お前だ、トニー』
父親の年齢と近くなり、そして家族を持とうとしている今は父親の気持ちが少しだけ分かる気がする。そうかと言って、自分は父親と同じ道は踏みたくない。自分のような気持ちを子供には味合わせたくない。
だがきっと大丈夫…。不器用な愛かもしれないが、子供にはとびっきりの愛を与えられると信じているから…。それはペッパーがそばにいてくれるから…。
「私たちの最高傑作になりそうだ」
「あなたと私の子供ですもの…最高傑作に決まってるわ…」
顔を見合わせた2人は、ふふっと笑った。
この先、何があっても、もう二度と離れない…。きっと2人でなら、どんな困難でも乗り越えられるはずだから…。
固く抱き合った2人は、再びシーツの海へ溺れていった…。
【END】