行為の後、すぐに眠ってしまったペッパーを腕の中に閉じ込めていたトニーだが、眠ることができず火照った身体を冷まそうと、シャワーを浴びるためバスルームへ向かった。
手早くシャワー浴びバスローブを羽織ったトニーが寝室へ戻ると、トニーがいないことに気付き目を覚ましたペッパーがシーツを身体に巻きつけ俯いていた。
「気がついたか?」
顔を真っ赤にして顔を逸らしたペッパーは、破瓜の証の残るシーツを指差した。
「ご、ごめんなさい。汚しちゃった…」
「いいさ。それよりも、身体は大丈夫か?」
「…」
無言で頷いたペッパーを気遣うようにそっと近づいたトニーは、ベッドの端に腰掛けた。
(怖がらせてしまったか?まだ早かったか…)
同意の上とはいえ、何も知らない彼女に無理をさせてしまった。何と言えばいいか分からず、トニーは戸惑っていた。
一方のペッパーは、行為の最中の自分を今さらのように思い出していた。
(どうしよう…。私…あんなに恥ずかしい声をいっぱい出しちゃった…)
恥ずかしくてトニーの顔をまともに見られないペッパーは、黙ってベッドに腰掛けているトニーに背後から抱きついた。
「ぺ、ペッパー⁈」
急に抱きついてきたペッパーに戸惑いつつも、トニーは腹の前で組まれたペッパーの腕を優しく撫でた。
「トニー…は、恥ずかしいんだけどね…あ、ありがとうって言わせて…。すごく素敵な時間だった…。私ね…今ね…すごく幸せよ…」
幸せだと言われ、怖がらせたと思っていたトニーの不安は吹き飛び、自然と頬は緩んだ。
「そうか…よかった。ペッパー、君を俺のものにすることができて、俺も最高に幸せだよ」
身体の向きを変え、ペッパーと向かい合うように座ったトニーは、バスローブを脱ぎ捨てた。トニーの裸体を見てさらに顔を赤らめたペッパーからシーツを奪うと、トニーは彼女を抱きしめベッドに横になった。
***
日も暮れ薄暗くなった部屋の中で、ペッパーの白く美しい身体だけがやけにはっきり見える。
「腹減ってないか?」
トニーがおでこにキスを落としながら聞くと、ペッパーは笑った。
「ううん。何だか胸がいっぱいで、食べられそうにないわ」
「そうか。実を言うと…俺もなんだ」
顔を見合わせた二人はおかしそうに笑った。トニーの逞しい胸元に顔をすり寄せたペッパーは、ずっと疑問に思っていたことを口に出した。
「ねえ?トニーって、あのスターク・インダストリーズの跡取りなんでしょ?どうして学校の先生をしているの?お父様の跡を継がれないの?」
ペッパーの質問に、トニーは一瞬顔を曇らせた。
そう、トニー・スタークことアンソニー・エドワード・スタークは、全米…いや世界屈指の大企業であるスターク・インダストリーズの社長であるハワード・スタークの一人息子だ。
幼い頃からその天才的な才能を発揮してきたトニーは、十七歳でMITを首席で卒業。生まれた瞬間からスターク・インダストリーズの次期社長として周囲の期 待を一身に受けて育ったトニーだが、仕事ばかりで自分のことを見てくれない父親に反発し、卒業後逃げるように訪れたこの地で教師を始めた。それ以来、両親 とは顔を合わせていない。母親とは時々電話で話をするが、父親とは昔からだが、話などしたこともない。それでも、会社の上役達は、トニーに戻ってくるよう 年に数回、説得にやって来ていた。十年もの間、逃げ続けていたが…さすがにそろそろ何とかしないと…。
黙っているトニーに、ペッパーはこんな質問をした自分を後悔した。泣き出しそうな顔のペッパーに気づいたトニーは慌てて話題を変えた。
「それよりも、君は卒業したらどうするんだ?」
「私は、この街を出るつもり。LAの大学に行って、もっと勉強したいってずっと思っているの…」
「そうか…」
ペッパーの言葉に再び黙ってしまったトニー。
「どうしたの?」
ペッパーが顔を覗き込むと、トニーは取って付けたような笑みを浮かべ、ペッパーの顔を自分の胸に押し付けた。
「いや…それよりも、さっきの君、かわいかった…。愛してるよ…ヴァージニア…」
「私も…愛してる…トニー…」
トニーのキスを顔中に受けながら、心地よい温もりにペッパーは再び寝息をたて始めた。
だが、トニーは…。ペッパーを抱きしめ、一人物思いに耽っていた。
言えなかった。
卒業したら結婚して欲しいと…。
ここに残って欲しいと…。
ペッパーはまだまだ将来のある身。
LAの大学に進学したいという彼女の夢を潰すわけにはいかなかった…。
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