数ヶ月後。
ウェディングソングの鳴り響くクルーザーに、トニーとペッパーはいた。
大勢の仲間に見守られながら夫婦の誓いを交わした2人は、デッキの上から海を覗き込んでいた。
「こうすれば、きっと君の御両親にも花嫁姿が見えるだろ?」
ペッパーの大きくなったお腹を撫でたトニーは、幸せそうに微笑んだ。
「ありがと、トニー」
ブーケを海に投げ入れたペッパーは、トニーの肩にもたれかかった。
すると、突然水面に沢山の花が浮かんだ。海面を彩る沢山の花に、参列者からは粋な演出だと歓声が上がった。だがトニーとペッパーだけは気づいていた。姿は見えないが、これはペッパーの両親からの贈り物だと。
「あ!イルカよ!」
再び歓声が上がったため、トニーとペッパーが顔を上げると、何頭ものイルカが楽しそうに船の周りを飛び跳ね始めたではないか。
「凄いな。10頭はいるぞ?こんなに沢山のイルカは見たことがない」
感心しているトニーだが、あろうことかペッパーはクスクス笑い始めた。
「あれはお姉様たちです。お姉様たち、一度でいいからトニーに会いたいって言ってましたから」
目をパチクリさせたトニーはペッパーを見つめた。そして目元をゴシゴシと擦ったトニーはもう一度イルカを見た。何度見てもイルカはイルカだが、その様子を見たイルカたちは何やら楽しそうに鳴き声を上げた。
「お姉様たち、トニーが想像以上にカッコいいと、騒いでいますわ」
楽しそうに笑い声を上げたペッパーはイルカに向かって手を振ったが、トニーは口をポカンと開けたままだ。
「ペッパー、人魚はイルカに変身できるのか?」
暫く経ってようやく口を開いたトニーだが、ペッパーは首を振った。
「いいえ。出来ません。きっとお母様が魔法でイルカに変えたんです。あの姿なら、様子を見にきても不審がられませんから…」
実際目にした訳ではないが、ペッパーの母親は魔法を使えるらしいと聞き知っていたトニーは、納得したように大きく頷いた。
「なぁ、ペッパー。これからも時々海に来よう。お前の故郷のこの海に…。そうすれば、お前もご家族に元気な姿を見せることができるだろ?」
例え触れ合うことはできなくても、トニーとそして産まれてくる子供と、幸せに暮らしている姿を見せれば、きっと両親も安心してくれるだろう…。
「トニー、ありがと…。愛してるわ…」
キスをねだるように首を伸ばしたペッパーを抱きしめたトニーは、唇を奪った。
「ペッパー、愛してる…。永遠に愛してる…」
キスの合間に囁いたトニーは、妻の腰を引き寄せると、舌を絡めるようなキスをし始めたのだが…。
突然大きな波が押し寄せ、トニーはずぶ濡れになってしまった。
「ごめんなさい、きっとお父様よ…」
同じように波を被ったのに一つも濡れていないペッパーを、トニーは恨めしそうに見つめた。
「船の上ではほどほどにしておかなければ、いけないな…」
やれやれというように肩をすくめたトニーは、ペッパーの手を握りしめると、仲間の待つ方へ歩き始めた。
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