北部へ引っ越してきて以来、トニーは毎朝近くの公園をジョギングするのが日課になっていた。
それまでも、毎朝ヨガをしたり自宅内のジムにて鍛えていたのだが、NYの街中と違い緑に囲まれたこの地では、外に出るのも気分転換になると考えたのだ。
早朝の街は人通りも少ないため、誰の目を気にすることもなくトニーは一人の時間を楽しんでいた。
1週間ほど経った頃。
その日もトニーはジョギングに行こうと、そっとベッドから抜け出した。昨夜は、数日間LAへ行っていたペッパーが戻ってきたこともあり、つい数時間前まで愛し合っていたのだから、グッスリと眠っているペッパーが目を覚ましては可愛そうだと考えたのだ。
手早くジャージに着替えたトニーは、足音を忍ばせ玄関へと向かった。そしてドアを開け外に出ようとしたその時、背後からそのペッパーの声が聞こえトニーは立ち止まった。
「ねぇ、私も行くわ」
髪を手早くポニーテールにしたペッパーは、跪くと靴紐を結んだ。
「ゆっくり寝ていればいいのに」
目の下に隈を作っているペッパーは疲れた表情をしているのに、靴を履き終えた彼女は立ち上がると、トニーの手を握り玄関のドアを開けた。
「だって、少しでも長くあなたと一緒にいたいんですもの」
揃いのメーカーのジャージを着て走るなんて、今までやったことがない。先程のペッパーの言葉もそうだが、些細なことでも今の2人は楽しくて仕方なかった。
「あなたとこうやって走ってるなんて、新鮮よね」
「しかも、揃いのジャージ姿で」
肩を竦めたトニーはわざとらしく眉を顰めた。
「10代の若者じゃあるまいし、いい年して…だな」
文句を言っている割には嬉しそうなトニーに、素直じゃないわね…とペッパーは目をくるりと回した。
「あら?私は楽しくて仕方ないわよ」
と、ペッパーがクスクス笑い出した。それにつられてトニーからも笑みが零れた。
しばらく走っていた2人だが、少し休憩しようということになり、木陰のベンチに腰を下ろした。近くで水を買ってきたトニーは、ペットボトルをペッパーに手渡した。
「ありがと」
受け取ったペッパーは水を飲むと、トニーに手渡した。ゴクゴクと水を飲み干したトニーは、ふぅと息を吐くとベンチにもたれ掛かった。
「で、LAはどうだった?」
「帰ってきたのは昨日なのに、今聞くの?」
「昨日はそんな話をする暇はなかっただろ?」
悪戯めいた笑みを浮かべたトニーに、昨晩のことを思い出したペッパーは思わず頬を赤らめたが、ニヤニヤ笑みを浮かべているトニーの頬を軽く引っ張った。
「そうね。ゆっくり話をする暇なんてなかったわ。あなたが話す機会をくれなかったからよ」
そうでしょ?と言うように、ペッパーはトニーの頬を撫でた。所々無精髭の生えた頬は、今朝はまだ彼が髭の手入れしていない証拠。だが、こんなトニー・スタークを見ることが出来るのは、自分だけなのだ。優越感に浸りながらも、トニーのことが愛おしくてたまらなくてなったペッパーは、今朝はまだおはようのキスをしていないことを思い出した。そこで、トニーの顔を両手で包み込んだペッパーは、そのまま唇を重ねた。口付けは次第に深くなり、ペッパーの腰を引き寄せたトニーは唇を離すと彼女の耳朶を甘噛みした。
「帰って、シャワーを浴びよう」
甘い声で囁かれ、同じことを考えていたペッパーは軽く身悶えした。
「そうね」
小さく頷いたペッパーにもう一度キスをしたトニーは、手を繋ぐと家へ向かって歩き出した。