バタバタと色々なことがあったためか、トニーは体調を崩して寝込んでしまった。
「39度ですって」
珍しくダウンしてしまったトニーの額に冷たいタオルを置いたペッパーは、頬をそっと撫でた。
「疲れが出たのよ。ゆっくり休んで」
「あぁ…」
こくんと頷いたトニーは目を閉じると眠り始めた。
寝室のドアをそっと閉じたペッパーに、部屋の前で座り込んでいたルーカスが声を掛けた。
「ママ、パパは?」
立ち上がったルーカスは、腕に抱えているいくつもの画用紙の筒を落としそうになり、ぎゅっと抱きしめ直した。
今日は父の日だ。数日前に母親に教えてもらい、初めて祝う父の日をルーカスは心の底から楽しみにしていたのだ。
父親が喜ぶだろうと、何度も似顔絵や手紙を描きなおし、アイアンマンのメッセージカードを作り、Tシャツに絵を描き…と、毎日少しづつ準備を重ねていたのだ。
見るからに落胆している息子に、腰をかがめたペッパーは彼の背中を優しく撫でた。
「お熱が高いの。ゆっくり休ませてあげましょ?」
病気なのだから仕方ないと分かっているが、せっかくのプレゼントを渡したい。
「うん…」
唇を尖らせたルーカスは、そんな葛藤を母親に悟られないようにと、何度か頭を振ると、プレゼントの入った袋を持ち、その場を後にした。
***
夕食は外食する予定だったが、本日の主役が寝込んでいるのだから、取りやめになってしまった。
早々にお風呂に入り、ベッドに潜り込んだルーカスだが、目を閉じても父親のことが気になり眠れない。
そっとベッドを抜け出したルーカスは、母親を探しにリビングへ向かったが、途中バスルームから物音が聞こえ足を止めた。どうやら母親は入浴中のようだ。そうなると、父親の眠る寝室へ潜入するには今しかない。急いで子供部屋に引き返したルーカスは、プレゼントを詰め込んだ袋を掴むと、両親の寝室へと向かった。
そっと寝室のドアを開けると、部屋の灯りは半分落とされていた。
ベッドを覗き込むと、父親は真っ赤な顔をして横になっていた。
「パパ?」
遠慮がちに声を掛けると、トニーがうっすらと目を開けた。
「ルーカス…風邪がうつるぞ?」
ゴホゴホと咳き込んだトニーは、右腕を伸ばすと息子の髪をくしゃっと撫でた。
擽ったそうに目を閉じたルーカスは、トニーの右手を握りしめた。
「パパ、あのね。ちちのひだからね、ぼく、パパにプレゼントつくったの」
息子の言葉に、トニーはようやく今日が父の日だったことを思い出した。
「そうか…今日は父の日だったのか…」
もう何十年も縁のなかった父の日。
亡き父親が健在だった頃は、疎遠になりつつも毎年贈り物を送っていた。が、両親を失くした後は、自分には関係のない日だと、父の日の存在すらも記憶の隅に押しやられていた。そんな自分が父親として、今日という日を祝ってもらうことになるなんて…。
嬉しそうに目を細めたトニーに、ルーカスは袋をベッドの傍に置いた。
「あのね、プレゼント、いっぱいあるの。ぼくとママでつくったの。でも、パパ、おねつがあるでしょ?だからげんきになったらプレゼントあげるね」
内緒話をするように小声で囁いた息子に、トニーは目尻を下げた。
「そうか…楽しみだな。早く元気にならないといけないな」
軽く咳き込んだ父親に、そろそろ部屋に戻ろうと、ルーカスは手を離した。
「おやすみ、パパ」
「おやすみ…」
手を振りながら部屋を後にしたルーカスを見つめながら、父親というのはいいなと、トニーは笑みを浮かべると目を閉じた。