Until the last moment①

「社長。そういえば、ミス・ポッツを見かけましたよ」
退屈な会議も終わり、大きく伸びをしたトニーに、一人の社員がそう話題を振ったのは、ある雨の日だった。
と、トニーがピタリと動きを止めた。途端に会議室の空気は、まるであの極寒のシベリアの洞窟のように凍りついた。
「…そうか…」
やっとの思いで呟いたトニーは、目の前のマグカップを手に取ると、殆ど残っていないコーヒーを飲み干した。

目を閉じたトニーは、赤毛の女性のことを思い出した。
トニーとペッパーが別れたのは4年前。
あれだけ愛し合っていた2人に一体何があったのだと、しばらく世間はその話題で持ちきりだったが、トニーは頑なにその理由を語ろうとしなかった。
トニーの思いはただ一つだった。それは、ペッパーを守りたかったから。
自分といると命を狙われる、それならば、彼女は自分とは別の世界で生きていくべきだと考えたのだ。
別れようと決意したトニーは、何も言わずペッパーに別れを告げた。理由を言えば、きっとペッパーは拒絶するだろうから…。
案の定、何も言わず別れを告げたトニーにペッパーは猛烈に腹を立てた。
会社も辞めたペッパーは、行き先を告げることなく家を出て行った。
そしてそれ以来、2人は連絡すら取っていなかった。

あの時のペッパーの悲しみと怒りに満ち溢れた顔を思い出したトニーは、胸が苦しくなり始め、胸元を押さえた。が、先程の社員の言葉に現実に引き戻された。
「彼女、結婚されたんですか?可愛らしい男の子の手を引いて歩いていましたから…」

ガシャーン!!

トニーの持っていたマグカップが床に落ち、粉々に砕け散った。
「社長?!大丈夫ですか?」
真っ青になったトニーは、見たことがないほど狼狽し始めた。
そして、何も言わず、足早に会議室を後にした。

自宅に戻ったトニーはそのままラボに向かうと椅子に腰を下ろした。
暫く頭を抱えていたトニーだが、何度か深呼吸すると、F.R.I.D.A.Y.に命じた。
「ペッパーの近況を知らせてくれ…」
実はトニー、ペッパーと別れてからも、F.R.I.D.A.Y.に命じ、ずっと彼女の近況を調べさせていた。もし万が一、彼女に危機が迫れば自分に知らせるように…と。
『ボスとお別れしてからの4年間についてお話しすればよろしいですか?』
自分のいない彼女の4年間の様子なんて、聞けば聞くほど悲嘆にくれるに決まっている。小さく首を振ったトニーだが、結局のところ聞きたいことはただ一つだった。
「いや…今の様子を聞きたい。彼女は…その…結婚したのか?」
『ミス・ポッツですが、結婚はされていません。ですが、3歳の息子が1人います』
結婚していないと聞き、ホッとしたトニーだが、息子の年齢を聞いた彼はハッと顔を上げた。
「3歳…」
トニーが思わず頭の中で計算していると、F.R.I.D.A.Y.は1人の男の子の写真をモニターに映した。
トニーは思わず息を飲んだ。
ペッパーの息子は、自分の幼い頃にそっくりだったのだから…。
「おい…まさか…」
別れる際に、ペッパーは妊娠しているとは言わなかった。それならば、別れた後に分かったのだろうか。何故彼女は言わなかったのだろう…。4年経った今でも、何故何も言わないのだろう…。それとも、自分に似ているというのはただの過信で、他の男性との子供なのだろうか…。
確かめる術はただ一つ。
住所を確認したトニーは、アーマーを着るとラボを飛び出した。

②へ…

AoUの後、別れた設定です。

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