2人が関係を持ち1ヶ月が経った。
昼は会社で、そして夫が不在の夜はトニーの家で愛しあう…。誰にも知られてはいけない関係だったが、ペッパーは幸せだった。だが、幸せを感じれば感じる程、もっとトニーと2人きりで過ごしたいという想いは強くなっていった。
やはり、夫とは別れ独り身になった方がいいのかもしれない。そうすれば堂々とトニーと共にいられるのだから…。だが、ペッパーには自信がなかったのだ。ヒーローとしてますます多忙になっていくトニーのことを、何があっても支え続けるという自信が…。
そんなある日のこと。
「明後日からヨーロッパに出張になった」
出社するなりトニーから告げられたペッパーは首を傾げた。
「そんな予定あった?」
他国へ出張となると、それなりに期間もある訳で、予め予定に組み込まれていなければならない。だから今回のように急に決まるとは、到底考えられなかったのだ。
不思議そうな顔をしているペッパーに向かってトニーはくるりと目を回した。
「いや、なかった。だが、ドイツで展示会があるだろ?実は元々講演会を頼まれていた。面倒だから断ったんだ。それが何かの手違いで、私の講演会が組み込まれていると連絡があった。しかもチケットは完売だ。今更どうにも出来ないと、向こうが泣きついてきた。まぁ、今となっては、色々とありがたいオファーだと思わないとな。もちろん、君も行くんだぞ。君は私の大切な秘書だから」
そう言うと、トニーは楽しそうにウインクした。つまり、出張に託けて、2人きりで旅行をしようということだろう。
パッと顔を輝かせたペッパーはトニーに抱きつくと、頬にキスをした。
「期間は?」
「2週間だ。だが講演会諸々で縛られるのは2日だ。翌日にパーティーがあるから出席しろと、これも泣きつかれた。会社の連中も数人付いてくるが、展示会が終われば帰る。私はその後、10日ばかり休暇を取っている。もちろん君もだ。誰かが監視していないと、私は何をしでかすか分からない、しかも君でないと扱いきれないと、皆、君が付いて行かなければならないと、私を説得し始めた。こっちが言う前に言ってくれるなんて、ありがたいな。という訳で、君は私にベッタリ張り付いておかなければならない。一応部屋は2部屋取っているが、ハッピーも付いてくるし、君の部屋はハッピーに譲ってやれ。君は朝から晩まで私と一緒だ」
ハッピーは2人の関係を知っているのだから、実質2人きりの旅行と言ってもいいだろう。2週間も誰にも邪魔されず過ごせるなんて夢のようだ。
「休暇はどこに行くの?」
「スイスだ。中立国で他国から干渉されないし、私たちにはもってこいの場所だろ?」
ニヤッと笑ったトニーも心底嬉しそうで、にっこり笑みを浮かべたペッパーは喜びを隠しきれず歓声を上げると、何度もキスをした。
急な二週間もの出張…しかもその殆どがトニー・スタークのお守りという状況に、当然のことながらマークは渋い顔をした。だが、会社命令という印籠付きなのだから、結局はマークも了承せざるを得なかった。
そしてペッパーは、嬉々とした表情を隠し『あなたと2週間も離れるなんて寂しいわ』という表情を無理矢理貼り付け夫に別れを告げると、トニーと共にドイツへと旅立って行った。
講演会場でもその翌日のパーティーでも、2人は社長と秘書という立場を貫き、他の社員たちと行動を共にしていた。
今だに『ポッツくん』と呼ぶトニーと『何度言ったらいいんです?ポッツじゃありません』と笑うペッパーのいつものやり取りに、誰もこの2人が特別な関係にあると疑いもしなかった。
そして仕事を終わらせたトニーは、ペッパーとハッピーを連れてスイスへと向かった。
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