料理上手な姫はブラックウィドウに代わり、家事一切を引き受けることになりました。毎日美味しいと残さず食べてくれるのは嬉しく、姫は料理の腕前をどんどん上げていき、料理本でも出版しようかしらと考えていました。
そんなある日のことです。
「絶対に、絶対に、知らない人が来てもドアを開けてはいけないよ」
キャプテンたちが国境の警備のため、数日家を離れることになりました。今までは誰か1人が護衛にと残っていたのですが、今回は6人全員が不在…つまりヴァージニアは1人で留守番することになったのです。
何度も何度もしつこいくらい念押しするキャプテンに、ヴァージニアは笑顔で答えました。
「大丈夫です。決してドアは開けませんから」
キャプテンの言いつけ通り、ヴァージニアは新作の料理を考えたりと、家の中に篭っていました。ですが、そんな生活も3日もすれば飽きて…いえ、料理をしようにも材料が尽きてしまいました。庭には野菜や果物が沢山植えてあるのですから、森の中にさえ入らなければ大丈夫だとヴァージニアは考えたのです。
「お庭になら出ても大丈夫よね?」
そっとドアを開け辺りを見渡しましたが、特に変わった様子もありません。安心した姫は籠を片手に庭の畑へ向かいました。
「そこの可愛いお嬢ちゃん。美味しい果物はいかが?」
庭で野菜を採っていると、背後から声を掛けられ、ヴァージニアは飛び上がりました。
いつの間に来たのか、大きな籠を背負った一人の老婆がすぐ側に佇んでいたのです。真夏なのに漆黒のローブを被った老婆は、見るからに怪しい人物です。小さい頃から『知らない人と話をしてはいけません』と躾られているヴァージニアですから、彼女は老婆を見なかったことにしようと、無言で立ち上がり横を通り抜けようとしました。が、どこにそんな力があるのか、老婆はあり得ない程俊敏にヴァージニアの腕を掴みました。
「お嬢ちゃん、冷たいねぇ。でも、あんたは可愛らしいから、良いものをあげよう」
そういうと、老婆はポケットからイチゴを取り出しました。
「知らない方から物をもらってはいけないと言われているんです。ですから遠慮しておきますわ」
断っても老婆は掴んだ手を離そうとせず、イチゴをヴァージニアに食べさせようとします。
実はこの老婆、マヤ王妃が変装していたのです。ヴァージニアを始末し損なったキリアンは、やむを得ず動物の心臓を持って帰り、姫を始末したと告げたのです。これで自分が一番だと喜び勇んで鏡に尋ねた王妃ですが…。
『森の中でアベンジャーズと暮らすヴァージニア姫です』
とジャーヴィスは答えたのです。始末したと思っていたヴァージニアが生きている。怒りに震えるマヤ王妃はキリアンを呼びつけましたが、キリアンは仲間のサヴィンと共にとっくの昔に国外から逃亡していたのです。こうなったら自ら決着をつけに行くしかないと考えたマヤ王妃ですが、アベンジャーズのガードはなかなか厳しく、彼らの監視の目が緩んだ今日、ようやくこの場に来ることができたのです。
だから、絶対にしくじる訳にはいきません。
「いいからお食べ!」
大人と子供とでは適う訳もなく、老婆…いえ、王妃はヴァージニアの口に無理矢理イチゴを押し込みました。
口の中にイチゴを押し込められた姫は青ざめました。実は姫はイチゴアレルギーだったのです。必死で吐き出そうとしますが、マヤ王妃に手で口を塞がれ、息をすることすらままなりません。ジタバタと抵抗するヴァージニアですが、イチゴが喉に詰まってしまい、パタリとその場に倒れました。
動かなくなったヴァージニアの首筋に触れた王妃は、彼女の息が絶えたことを確認しました。
「ようやく小娘が死んだよ!これで私が世界No.1よ!!」
高笑いをしたマヤ王妃は、足早に森をあとにしました。
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