身を乗り出してトニーを凝視していたリンダだったが、あまりに見つめられ居心地が悪くなり始めたトニーが咳払いすると、しぶしぶ腰を下ろした。
「本当にあのトニー・スターク?」
「残念ながら本物だ。10年前、君が勝手にコーヒーを飲んでも、文句の一つも言わなかったトニー・スタークだ」
肩を竦めたトニーだが、目の前のリンダは卒倒しそうになっている。
先程からずっと繰り返されているやり取りに、ウンザリしたトニーははぁとため息を付くと天を仰いだ。
10年ぶりの再会だ。10年も経てば人はそれなりに変化する。
リンダのことはこの2か月、ヴァージニアの口から聞いていたが、実際に久しぶりに顔を合わせた瞬間、『あぁ、彼女も10年間苦労したんだな』と感じた。だが、そんなことは女性に対して言うのは失礼だ。そこで『やぁ、リンダ。久しぶりだな。10年ぶりか?相変わらず綺麗だな』と褒めたたえてみた。すると相手は口をぽかんと開けたまま動かなくなった。たっぷり30秒はそのままだった彼女だが、はっと我に返ると叫び声を上げ、今に至るわけだ。
確かに10年前と今の自分は少々違っているとは思う。
ヴァージニアにも言われたが『皮肉屋』になってしまったようだ。だが、実のところ、今の自分が本当の自分だ。10年前はヴァージニアが奔放だったため、仕方なくおとなしく振る舞っていた。気遣う相手もいなくなり、本来の自分をさらけ出した結果が今の自分だ。
だからリンダは仮面をかぶっていたトニー・スタークしか知らないのだ。
「リンダ、君が驚くのも無理はない。10年前、本当の俺を知ってたのはベッドの中のジニーだけだからな」
そう言ってやれば多少落ち着くかと思いきや、リンダは顔を真っ赤していて先ほどよりも狼狽しているではないか。
「もう、トニーったら。リンダをあまりいじめないでね?」
苦笑するヴァージニアにキスをしたトニーは、目をクリルと回すと
「はい、ミセス・スターク」
と、唇を重ねた。
「このキスは、10年前の俺と同じだろ?」
悪戯めいた瞳で見つめると、ヴァージニアはわざとらしく首を横に振った。
「同じね。残念ながら」
「じゃあこれは?今のジニーしか知らないキス」
眉を吊り上げたトニーは舌を突き出すと、向かい入れるように半開きになったヴァージニアの唇を割った。
やたらとキスばかりしている2人に、リンダとバンビは顔を見合わせた。
「信じられない…。やっぱり10年って人を変えるのね…」
うーんと唸るリンダに、バンビは驚いたように目を見開いた。
トニー・スタークの奔放さに毎日頭を悩ませているバンビにとって、目の前でデレデレしている姿は想定外にせよ、皮肉ばかり言い自信満々で我儘なトニー・スタークの姿は見慣れた姿だったのだ。だからリンダがそれに驚いていること自体が信じられなかった。
「うちの社長って、そんなに堅物だったんですか?」
ブツブツと言っていたリンダはバンビを見つめると大きく頷いた。
「えぇ、それはそれは。人にも自分にも厳しくて…。常に5分前行動が彼とのミーティングでは厳守でしたし。鬼のスタークという異名もあったんですよ!あ、でも、当時からヴァージニア様のことになるとムキになってましたけど」
と、バンビが素っ頓狂な声を上げた。
「嘘ですよね?!いつも5分以上遅れて行動する社長が?!」
立ち上がったバンビは呆然とまだキスをしているトニーを見つめた。
2人の視線に気づいたトニーは、膝の上に乗せていたヴァージニアを下ろすと、ふんっと鼻を鳴らした。
「おい、お前たち。さっきから失礼だぞ?ジニー、何とか言ってくれ」
助太刀を頼むようにヴァージニアを見つめると、
「仕方ないわ、トニー。10年前のあなたがこの場にいても、きっと卒倒するでしょうから」
と、彼女はクスクス笑いながらトニーの頬にキスをした。
※逆転パロ “On Your Side Forever“のトニペパ。