翌朝。
「ちょっと!ペッパーったら!」
「聞いたわよ!ついにトニーと付き合い始めたって!」
食堂へ入るや否や、ペッパーはナターシャとホープに捕まってしまった。
昨晩は帰りが遅く、誰とも顔を合わせなかったのに、どうしてトニーと付き合いだしたことを知っているのかと目を白黒させるペッパーを他所に、2人は勝手に盛り上がっている。
実はこの2人、以前からトニーと仲が良く、ホープに至ってはトニーが最初にペッパーに告白するずっと前から彼がペッパーに気があることを見抜いていたのだ。それ故に、ペッパーはトニーのことをずっと2人に相談していたのだ。
「で、どこまでいったの?」
「ど、どこって…。トニーがおススメのハンバーガーを食べて…」
「違うわよ!トニーのことだから、手が早いでしょ?つまりそういうことよ!」
一体この2人は何を期待しているのだろうか。妙にキラキラした目で見つめられ、ペッパーは引きつった笑いを浮かべた。
「手が早いって…。トニーはすごく紳士だったわ。だからあなたたちが期待しているようなことは…」
昨日の甘いキスを思い出したペッパーは思わず唇を触れたが、あのトニー・スタークが手を出さなかったという事実を受け止められない2人は顔を見合わせると叫んだ。
「うそでしょ?!トニーが紳士?!」
「あの送り狼みたいな性欲の塊の男が、ペッパーには手を出さなかったの?!」
先程からトニーに対して失礼なことを言っているような気がするが、彼の評判…すなわち、一夜限りの女性は星の数、LA中の女性は彼と一度は関係を持っている、所謂プレイボーイ…を考えると、仕方ないのかもしれない。だが、昨日実際に色々な話をしてみて、ペッパーは本当のトニーの姿を垣間見ることができた。彼は噂とは違い、優しく真摯でそして恥ずかしがり屋だった。いつも虚栄を張っているイメージしかなかったが、実際の彼はおそらく寂しがり屋で甘えん坊なのだろう。自分にだからこそ見せてくれた本当の彼の姿なのかもしれないが、そう考えると自分は彼にとって特別な気がして、ペッパーは嬉しくてたまらなかった。
「やだ、ペッパーったら。何ニヤニヤしてるのよ」
「どうせトニーのことでも考えてたんでしょ?」
ふと我に返ると、友人2人はニタニタと自分を見つめているではないか。
「そんなにあいつのキスってよかったの?」
「それとも本当はもうしちゃったとか?」
からかうような2人に、ペッパーは顔を真っ赤にすると叫んだ。
「だからそんなことないんだってば!」
と、ペッパーの携帯が軽快な音を立てた。
『おはよう、ペッパー。一限目、同じクラスだよな?待ってる。T』
昨日の別れ際は『ポッツさん』だったのに、今日は『ペッパー』に変わっている。途端に嬉しくなったペッパーは、急いで返事を送ると携帯を抱きしめた。
「おはよ、ペッパー」
寮を出るとトニーはすでに待ち構えていた。
「お、おはよ…。…スタ……トニー」
面と向かって『トニー』と呼ぶのはまだ恥ずかしい。顔を赤らめ俯いたペッパーは温かく大きなものにふわっと包まれた。トニーだった。気が付けばペッパーはトニーの腕の中に閉じ込めれていた。
「ペッパー…愛してるよ」
耳元でそう囁いたトニーは、ペッパーの頬を掴むとキスをした。朝から濃厚な蕩ける様なキスに、ペッパーは頭がクラクラしてきたが、周囲から聞こえる黄色い声に我に返った。
慌てて周囲を見渡すと、いつの間にやら大勢の生徒が集まってきており、こそこそと自分たちを見ているではないか。恋人になったのは昨日のことなのだから、これは大スクープだとばかりに、皆一斉にメールを送っている。となると、学校に到着する頃には、自分たちの関係は全生徒に知れ渡っているだろう。
「と、トニー、早く行きましょ!」
まだキスをしようとしてくるトニーを引っ張ったペッパーは、その場から逃げるように助手席へ座った。
学校へ到着すると案の定、歓声と悲鳴に迎えられた。泣き叫ぶ声は、トニーのファンによるものか、それともペッパーのファンによるものか…。
周囲の騒ぎを気にすることなく、トニーはペッパーの肩を抱き寄せ堂々と歩いているが、ペッパーは違った。こんなにも注目されるのは生まれて初めてなのだから、どうも居心地が悪い。
「スターク君…ううん、トニーは気にならないの?」
小声で尋ねると、トニーは眉を吊り上げ鼻を鳴らした。
「俺は生まれてからずーっとこういう中で育ってきたから、別に気にならないさ。ただの雑音だと思えばいいんだよ。ペッパーもそのうち気にならなくなるさ。それに俺と結婚したら、こんなの日常茶飯事になるし」
(けっ、結婚?!)
昨日の告白もそうだが、どうやらトニーは本気で自分と結婚するつもりらしい。
真っ赤に染まった顔を隠すようにペッパーはトニーの肩に顔を埋めたが、それをペッパーが抱き付いてきてくれたと勘違いしたトニーは、鼻の下をでれっと伸ばした。
→③へ…
アベアカはアントマンがスコットなので、ワスプはホープちゃんにしています。