Everything Is For You④

翌朝、眩い光の中で目覚めた2人だが、初めて共に迎える朝に恥じらいがあるのか、ペッパーはシーツの中に潜り込んでしまった。可愛らしい恋人の反応に小さく笑ったトニーはシーツごと彼女を抱きしめた。
「あなたのことを俺の物に出来たんだ。何かプレゼントを…」
それはまるで当然のことのように聞こえた。何かにつけて贈り物をしてくれるのは嬉しい。だが、彼は心を繋ぎ止めておくために高価な物を贈っているようにペッパーは感じたのだ。
(これはきちんと話し合ういい機会よね?)
世界一幸せな朝にする話ではないかもしれないが、そんな朝だからこそ、自分の本当の気持ちを伝えるチャンスかもしれない。シーツから顔を出したペッパーは、トニーの瞳をじっと見つめた。
「スタークくん、私はね、あなたと恋人になれたということが最高のプレゼントなの」
ペッパーの言葉の意味が分からないのか、トニーは目をパチパチさせた。
「でも、高価なプレゼントをするとみんな喜んでたし、ポッツさんだって嬉しいだろ?」
本気で首を傾げているトニーの頬にそっと触れたペッパーは、小さく首を振った。
「スタークくん、私はもう何もいらないわよ」
その言葉にトニーは顔色を変えた。
「何もいらないって…俺と別れるってこと?!」
「え……」
急に慌てふためき始めたトニーは、必死の形相でペッパーの肩を掴んだ。
「だって、今までみんなそうだった。俺が洋服やバックや宝石を買えば、俺のことを愛してると言ってくれたんだ。でも、もう何もいらないと告げられると、次の日にはみんな俺の元を去って行ったんだ!だから…ポッツさんも……」
唇を震わせたトニーは、潤んだ瞳を隠すかのように目をキュッと閉じた。
(まさかそんな事情があったなんて…)
彼がどうしてそこまで『プレゼント』に固執するのか、ようやく解けた疑問の答えは、予想だにしないものだった。そして同時にショックだった。今まで誰も本当の彼のことを見ていなかったのかと思うと…。
絶句しているペッパーに抱き付いたトニーは消え入りそうな声で囁いた。
「みんな、俺が金持ちだから近寄ってくるんだ…。誰も俺のこと…本気で愛してくれないんだ…」
腕の中のトニーは、小さく震えている。その姿は彼が16年間、1人孤独と闘っていたことを物語っており、どうしてこんなことになったのかペッパーの胸は張り裂けそうだった。同時にペッパーは心に誓った。そのままの彼を受け止められるのは自分しかいないのかもしれない。それならば、私はずっと彼のことを支えていこうと…。
涙をそっと拭ったペッパーは、小さく嗚咽を漏らしているトニーを包み込むように抱き寄せた。
「スタークくん…いいえ、トニー。私はあなたのことを本当に愛してるの。私が愛してるのは、お金持ちのあなたではなくて、16歳のそのままのあなたなの。だから私はお洋服も宝石も何もいらないわ。あなたが私の隣にいてくれる、それだけで幸せなの」
「本当に?」
顔を上げたトニー…あどけない顔をした少年は、目を何度も瞬かせると、不安げにペッパーを見つめた。そんな彼を安心させるかのようにニッコリ笑ったペッパーは、彼の胸元を突いた。
「私が欲しかったのはあなたの心。その心をあなたは最高の形でプレゼントしてくれたわ。だからそれで充分なの。私もあなたに心を捧げるわ。トニー、私の前ではそのままのあなたでいてくれていいのよ。思いっきり甘えてくれていいわ。私はね、どんなことがあってもあなたのことを受け止めてみせるから」
ペッパーの言葉、それはトニーにとって初めての言葉だった。今まで誰もそんなことを言ってくれなかった。彼女は地位や名声欲しさに近寄って来る今までの女性と違うとは内心感じていたが、それは間違いではなかったのだ。
(ようやく巡り会えたってことだよな…)
16年間求め続けてきた自分の居場所をようやく見つけることができた…。そう思うと、トニーは心の奥底に張っていた分厚い氷が溶けていくのを感じたのだ。
頷いたトニーは涙を拭うと、鼻をこすった。そこにいたのは、いつもの自信に溢れたトニー・スターク。
「お腹空いたでしょ?何かリクエストはある?」
ようやく笑顔を見せたトニーの腹の虫が騒ぎ始めたのに気付いたペッパーは、起き上がると床に落ちていた彼のシャツを羽織った。
「ハンバーガーがいい」
大きな欠伸をしたトニーは、再びシーツの中に潜り込んんだ。
「分かったわ。出来上がるまで待っててね」
目を閉じた恋人の額にキスをするとペッパーは寝室を後にした。

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