Je vous suis attaché.

小瑠璃さんの魔法学校パロに触発されて書いた献上品です。小瑠璃さんのサイト→ヘリオトロープ

ここはホグワーツ魔法魔術学校。
卒業後、教師として働き始めたペッパー・ポッツは、その日朝からそわそわしていた。優秀で冷静な彼女にしては珍しく、何事かブツブツと呟いたり、何か思い出したのか時折頬を赤く染める姿は、まるで最愛の男性を待ちわびる恋する乙女のようで、見たことのない彼女の姿に生徒たちは興味深く動向を伺っていた。

『一緒に来ないか?君なら出世も間違いない』
ここで教師となるのは在校時からの夢だった。それ故に、別れ際に差し出された彼の手を振り切ってしまった…。

トニー・スターク。
クリスマスのダンスパーティーで共に踊って以来、彼はペッパーの世界の中心だった。
血統も頭脳も申し分のない彼は、卒業後当然のように魔法省に就職した。いずれは魔法大臣に就任するであろうと噂の彼は、出世街道まっしぐら。
最初は頻繁に手紙のやり取りをしていたのだが、多忙なのかトニーから返事が来なくなったのは数か月前。どうして便りがないのか、何度も問いただそうかと思ったが、慣れない環境で一人頑張っているのだろうと思うと、そんなことは出来なかった。そしてただ一方的に送るのも辛くなり、ペッパーもいつしか手紙を書くことをやめてしまった。
それが1週間前、ふいに手紙が来た。
『来週、そっちに行く』
そっけない言葉の綴られた紙切れだったが、それは彼と疎遠になってから虚しさだけが広がっていたペッパーの心に火を付けた。

(1年ぶりよね…)
別れ際のキスの感触を思い出そうとペッパーはそっと唇に触れた。甘く柔らかい唇の感触は決して忘れるものではなく、彼女は無意識のうちに唇を噛みしめた。
(まず何と言えばいいかしら…。連絡くれなくなったこと、文句くらい言ってもいいわよね?)
ぼんやりと開口一番の言葉を考えていたペッパーの耳に、懐かしい声が聞こえた。
「ペッパー!」
振り返ると、目の前に彼がいた。会いたくて堪らなかった彼が…。
「久しぶり。元気にしてたか?」
茶目っ気たっぷりの瞳も、悪戯めいた笑みも、あの頃と何もかもが変わりなく、トニーの顔を見た瞬間、心の虚しさは全て吹き飛んでしまった。そして突然連絡が途絶えてしまったことも、再会したら文句の一つでも言ってやろうと思っていたことも、もうどうでもよかった。ただ、彼に抱きしめて欲しかった。ゆっくりと近づいてくるペッパーに小さく挙げた手をヒラヒラと振っていたトニーだが、いつしか小走りで駆け寄ってくる彼女を迎え入れるように腕を広げた。そして思いっきり飛び込んできたペッパーを抱きしめたトニーは、彼女を抱き上げたままその場でくるりと一回転。嬉し涙を流すペッパーの泣き顔を隠すかのように彼女の赤毛に何度もキスをしたトニーだが、しばらくして身体を離すと彼女を落ち着かせるように両腕を摩った。
「会いたかったわ…」
頬に零れ落ちたペッパーの涙を拭ったトニーは、2人きりの時にしか見せないような甘い笑みを浮かべた。
「僕もだ。この1年、君を抱きしめることも出来ず、寂しくて死んでしまうかと思った」
「だったらどうして連絡してくれなかったの?」
可愛らしく睨み付けてきたペッパーにトニーは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「すまなかった。今更言い訳がましいけど、親父を説得するのに必死だったし、それから書類整理や仕事の引継ぎで、流石の僕も頭がパンクしそうだったんだ。それがようやく片が付いた。だから今日、君の所に来れたんだ」
(お父様を説得?仕事の引継ぎ?一体トニーは何をしてたの?)
話の展開が全く理解できず、目を白黒させているペッパーをトニーは安心させるように再び抱きしめた。
「ペッパー、僕もここで働くことにしたんだ」
ここで働くとは魔法学校の教師になるということだろうか。せっかくN・E・W・T試験で学校始まって以来という超優秀な成績を修め、魔法省へ就職し、将来は安泰と言われていたのに、それを棒に振るというのだろうか…。
「でも、あなたはいつか魔法大臣に…」
震える声でようやく告げたペッパーだが、トニーは小さく首を振った。
「それは周りが勝手に決めたこと。僕はそんなもの興味ない。僕は君が隣にいてくれれば、それだけでいいんだ。それにお役所仕事は苦手だ。毎日会議会議で全く面白くない。あんな窮屈な生活、もうこりごりだ」
わざとらしく欠伸をしたトニーは、少々呆けた顔をしているペッパーの額に口づけした。
「で、感想は?真面目で優秀なポッツくんは、僕の奔放さはお気に召さなかった?」
気に入らないも何も、こんなに嬉しいことはない。正直なところ、嬉しさのあまり今にも踊り出したい気分だ。反応を伺うようにトニーは上目遣いで見上げてくる。それは自由奔放すぎて問題児と言われ続けた学生時代、騒動を起こす度にペッパーに怒られるだろうかと様子を伺っていた彼の姿を思い出させた。そんな反応も何もかもが懐かしく、そしてこうやって再び間近で見られるという嬉しさも合い重なったペッパーは、小さく笑うと彼の頬にキスを落とした。
「お気に召さないというよりも、色々唐突すぎて頭がついていってないだけよ。実を言うとね…私もずっと寂しかったの。教師になるのは夢だったけど、やっぱりあの時あなたについて行けばよかったかもって、何度も思ったわ。だからあなたが傍にいてくれる…こんなに嬉しいことはないわ」
その言葉にトニーはパッと顔を輝かせた。
「それはよかった。まぁ、想定内の答えだけど」
全身から安堵とそして喜びを滲ませているのに、トニーは得意げな笑みを浮かべ鼻を擦った。
クスクスと笑いだしたペッパーの頬を撫でたトニーは、今度こそ万感の想いを込めたキスを贈ろうと、彼女の赤く熟れた唇を奪おうとしたのだが…。

「スタークじゃないか?!どうしたんだ?」
素っ頓狂な声が聞こえ、2人は慌てて身体を離した。いつの間にか背後にいたのは魔法史教授のコールソン。
問題児のトニー・スタークが姿を現したと聞き、あいつはまた何かやらかすつもりかと慌ててやって来てみれば、1年前まで毎日のように見ていた光景が再び目の前で繰り広げられていたのだから、コールソンは卒倒寸前だった。
人の気も知らないでとはまさにこのことだろう。コールソンの顔を見るなり、トニーは「あぁ…」と期待外れな声を出した。
「何だ、コールソン先生か。僕はフューリー校長に用事があるんです。では、そういうことで」
と言うと、トニーはペッパーの手を掴み、早足で歩き始めた。
「トニー?校長先生に用事って?」
パタパタと必死でついて行くペッパーに、校長室のドアの前でようやく立ち止まったトニーはニヤっと悪戯めいた笑みを浮かべた。
「実はまだここで働きたいと言っていないんだ。まずは校長に許可を貰わないとね、一応。で、校長の信頼厚い君から口添えしてくれないか?」

「えぇぇぇ!!!!」

ホグワーツ中に響き渡ったペッパーの悲鳴に、こっそりと後を付けていたコールソンは、またあの楽しく賑やかな、それでいて頭の痛い日々がやって来るぞと、肩を落としたのだった。

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