Everything Is For You②

もうすぐ学園恒例のダンスパーティー。出席したくばパートナー同伴というのが必須条件のため、生徒達は最高のパートナーを見つけるべく、日々奮闘していた。

「スタークくん、今度のダンスパーティーに…」
「悪いが相手は間に合ってる」
次々と声を掛けてくる女子生徒を片っ端から振っていくのは、ご存知トニー・スターク。目の前で玉砕しているのに、誰もが「もしかしたら…」と思うのだろうか。彼の後ろには女子生徒が列を作って待機しているが、結局誰1人願いが叶うはずもなく、多くの者は泣きながら走り去って行った。
(あー!もう!めんどくさい!)
取り巻きから逃げるように足早に立ち去ろうとするが、声を荒らげる訳にはいかず、トニーはムッツリと黙ったままだ。目に見えてイラついているトニーを、肩を並べて歩を早めるブルース・バナーはクスクスと笑いを零した。
「トニー、モテる男は辛いね」
友人をジロっと睨みつけたトニーは目をくるりと回した。
「そういうお前は見つけたのか?」
自分一人では参加したくないと、トニーはブルースを巻き込んだのだが、どうも奥手な彼はパートナーが決まっておらず、トニーは内心気を揉んでいたのだ。ところが何度か目を瞬かせたブルースは、恥ずかしそうに視線を伏せた。
「あぁ。僕はナターシャと…」
ブルースの言葉にトニーは目をぱちくりさせていたが、数秒経ってようやくことの重大さに気がついた。
「ナターシャって……。あの、ナターシャ・ロマノフか?!」
素っ頓狂な声を出したトニーは友人の襟首を掴んだ。
ナターシャ・ロマノフ。ロシアからやって来たという赤毛の美女は、謎めいており、実はスパイだという専らの噂だった。友人らしい友人はいない彼女は、いつもとある男子生徒と行動を共にしていた。てっきり2人は恋人関係にあると思っていたのに、ブルース・バナーをダンスに誘うとはどういうことなのかと、トニーは首を傾げた。
「トニー、言っておくけど、彼女が誘ってきたんだよ」
意外な組み合わせに驚いていたところへの、更なる爆弾投下に、トニーは目を白黒させている。
「おい、お前達、付き合ってるのか?!ロマノフにはバートンがいるだろ?!」
実を言うと、ナターシャとそういう関係になったのは数週間前からなので、今更何を驚いているのだろうとブルースは内心溜息を付いた。だが、最近そういう話を彼としていなかった…というよりも、この1ヵ月はトニーの惚気話を一方的に聞いてたので、話す機会もななったんだよな…と、ブルースは苦笑した。
「クリント・バートン?彼とは古い友人らしいよ。それにバートンには、ローラさんっていう彼女がいるし…」
自分が知らぬ間に、面白すぎる展開になっていたなんて…と地団駄を踏むトニーの肩をブルースは軽く小突いた。
「そういう君だって、あの……」
と、言いかけたブルースだったが、顔を上げたトニーは急に瞳を輝かせた。
「ブルース!また後で!」
と言うと、トニーはあっという間に走り去って行った。

***

「ということで、今週末のダンスパーティ、一緒に来てくれ」
校内を歩いているところを捕えたペッパーにトニーは週末のダンスパーティーについて話した。きっと彼女は喜んでくれるに違いないと思っていたトニーだが…。
「私が?!だって、あれは学生向けのものでしょ?だから参加出来ないわ!」
予想外の反応にトニーは目を丸くした。
「ポッツさん、俺は参加する。だけど参加するにはダンスの相手が必要だなんだ」
だが、ペッパーはまだモゴモゴと何か呟いている。フンっと鼻を鳴らしたトニーは、ペッパーの前で深々とお辞儀をすると上目遣いに彼女を見上げた。
「俺の相手はミス・ポッツ、あなたしかいません。ですから是非俺とダンスに参加してくれませんか?」
力強く煌めく瞳にペッパーはドキッとした。
(そんな顔するなんてズルイわ、スタークくん…)
学生ばかりのパーティーに参加するのは正直抵抗があった。だがその一方で、トニーとなら参加してみたいという気持ちを抑えることは出来なかった。
「分かったわ。でも、私、パーティ用のお洋服なんて持ってないわよ?」
そう返事をすると、目を輝かせたトニーは得意げに胸を叩いた。
「それは任せてくれ!早速今日の夕方、買いに行こう!」

放課後、トニーはペッパーを連れてロデオドライブへやって来た。高級ブランド店が軒を連ねる風景に、今まであまり訪れる機会のなかったペッパーは、キョロキョロと辺りを見渡している。
「す、スタークくん…こんなに高級なお店じゃなくてね…」
しどろもどろに告げるペッパーを無視したトニーは、CHA○ELのロゴの輝く店の前で車を停めた。店の入口のガードマンは、トニーに気づくと深々と頭を下げているではないか。勝手知った店のようにさっさと店内に入っていくトニーの後をペッパーも急いで追いかけたのだが、店の奥から飛び出して来た店長らしき店員が
「スターク様、いつもありがとうございます」
と、頭をペコペコと下げているところを見ると、彼は相当なお得意様らしい。
トニーが店長に何やら告げると、店員たちが慌しく動き始めた。何が始まるのかと静観するペッパーだが、何枚もの服を手にした店員が駆け寄って来たではないか。呆気に取られるペッパーを余所に、ズラリと並べられた服を眺めたトニーは、その中から1枚を手に取った。
「これなんかどう?」
コバルトブルーのカクテルドレスは、ペッパーの瞳と同じ色で、一目見たペッパーはそのドレスに一目惚れした。
「さすがはスターク様。そちらは最新の…」
と講釈を述べ始めた店員を無視したトニーは、ペッパーの手を引き更衣室へ向かうとドレスを押し付けた。
「早く着てみてよ。きっと似合うと思うな」
ニヤリと笑ったトニーはペッパーの唇にキスをするとドアをバタンと閉めた。
(スタークくんって、ホント強引よね。…そんなところも素敵なんだけど…)
はぁとため息を付いたペッパーは、服を脱ぐとドレスを試着した。
一目惚れしただけあって、ドレスはピッタリだった。
「…スタークくん?どう?」
ドアを開けこっそりと声を掛けたつもりなのに、トニーはパッと笑みを浮かべると、声を張り上げた。
「思った通りだ!それにしよう!」
ペッパーの同意を得ぬまま再び更衣室のドアを閉めたトニーは、靴とカバンも揃えるよう命じているではないか。
そうは言ってもこのドレスは気に入った。値段次第だが購入しようとドレスを脱いだペッパーは値札を見るなりひっくり返りそうになった。
(ひ、100万円?!)
予定していた金額よりも明らかに0が2つほど多い。たかがアカデミーのダンスパーティーなのに、トニーは一体自分をどう着飾らせようと言うのだろうか…。
(こんな高級なお洋服…手が出ないわ…)
身なりを整えたペッパーは、しょんぼりと更衣室を後にした。が、満面の笑みのトニーは、ペッパーの手を握ると出口へと向かった。
「さっきのドレスに合う靴とバックも買っておいたよ。それから、他にもポッツさんに似合いそうな服を何着か…。きっと気に入ってくれるはずだ」
後部座席に置かれている沢山の紙袋を見たペッパーは、ようやくトニーの言わんとせんことを理解した。つまり、トニーは先程の100万円のドレスの他に、靴にカバンにその他諸々、沢山の物をペッパーのために購入したということに…。
「で、でも!さっきのお洋服…」
(俺は学生だから、親の金で買ったと思っているのか?)
俺を誰だと思ってるんだ?というように、クルリと目を回したトニーは、ペッパーを助手席に押し込むと、急いでエンジンを掛けた。
ペッパーは慌てふためきながら、大量の荷物とトニーの顔を見比べている。
「俺からのプレゼントだ。俺の恋人になってくれたんだ。プレゼントくらいさせてくれ。それに俺、結構稼いでるんだ。アカデミーの警備システム作ったのも俺だし。他にも色々開発してるし…」
肩をすくめたトニーだが、ペッパーが気にしているのは金の出処ではなくて、高額なプレゼントをいとも簡単に贈られたこと。だが、一番気になったのは『恋人になってくれたからプレゼント』という言葉。彼の歴代の恋人は、高額なプレゼントを贈られ喜んだのだろうが、自分もそうだと思われているのだろうか…。彼が金持ちだから好きになったのではない。彼自身のことを好きになったのに…。そう思ったペッパーは一瞬顔を曇らせた。
だが、嬉しそうに話をし始めたトニーの笑顔は屈託なく、そんな考えは杞憂に過ぎないとペッパーは思い直した。

③へ(R18)

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