Avengers Academyの画像で、フューリーがトニーに『事務員のペッパー・ポッツくんに学園を案内させよう』と告げている場面があり、そこからペッパー年上説が浮上した結果の妄想話です。
やってることが何となく80年代風味なのは、ただ今私が80年代のRDJ作品を最初から見直しているせいです…(;´Д`)
ヒールの音を響かせながら早朝の校内を颯爽と歩く女性がいた。ペッパー・ポッツ。アベンジャーズアカデミーの事務員を務める彼女は非常に優秀だった。だが何事にも妥協を許さない彼女は、絵に描いたように真面目で堅物な仕事人間。それ故に美人でスタイルも良く『学園一の美尻の持ち主』と男子生徒からは密かに羨望の目で見られているのに、浮いた話の一つもない。総じて言うならば、男には興味の無い隙のない女性、それがペッパー・ポッツの評判だった。
そんな彼女に、校長であるフューリーがある頼み事をした。このアカデミーを支援しているスターク・インダストリーズの一人息子が入学したのだが、学園内の案内を頼みたいとのこと。飛び級で合格した天才児はまだ16歳。そしてスターク・インダストリーズの跡取りということを抜きにしてもLA界隈では超有名だった。LA中の女性…しかも年齢を問わず…と関係を持っていると噂のプレイボーイは、ハリウッド女優や有名モデルとの熱愛が毎日のように報じられ、最近では彼の名前をTVで見ない日がない程だった。
もうすぐ26歳になる自分よりも10歳近く年下の子供…それも住む世界が違う人間の相手をするなんて…と思ったペッパーだが、フューリーから直々に頼まれたのだ。嫌と言えるはずもなく、ペッパーはこうして待ち合わせ場所へと向かっているのだ。
指定された場所は正門近くの噴水のそばなのだが、その場に近づくにつれ、ペッパーはふと違和感を感じた。いつもは閑散としているのに、今日はやけに人が多い。その理由はただ一つ。噂の彼がいるからだろう。フューリーの横に洗練された少年が立っているが、皆から羨望の眼差しで見つめられていることころ見ると、彼が渦中の人物なのだろう。
「フューリー校長。お待たせして申し訳ありません」
軽く咳払いをしたペッパーがいつものように事務的な口調で声を掛けると、フューリーは眉を釣り上げた。
「いや、いつもながら時間通りだ、ポッツくん」
腕時計にちらりと目をやると、フューリーは隣に立つ少年に声を掛けた。
「スタークくん、彼女は我が学園一優秀な事務員だ。彼女に案内させる」
周りから聞こえる黄色い声に手を振り答えていた少年は、フューリーにつつかれようやくペッパーの方に振り返った。
「ポッツくん、こちらがスタークくんだ。アンソニー・エドワード…」
「その名前は嫌いだ」
フューリーの言葉を遮った少年は、一歩前に進み出ると手を差し出した。
「トニー・スタークです。よろしく」
トニーと名乗った少年はペッパーの姿を見ると軽く目を見開いたが、すぐに爽やかな笑みを浮かべた。チラリと見えた白い歯、琥珀色の煌めく瞳、洋服も靴も何もかもが高級ブランドの物で身を固めた少年は、女性の扱いにも手馴れているに間違いない。
(いかにもプレイボーイって感じの子ね…)
こういう人種はどうも苦手だ。軽くため息を付いたペッパーだが、目の前の少年はニコニコと笑みを浮かべている。
「ペッパー・ポッツです。よろしくね、スタークくん」
年上の女性の余裕を見せようと敢えて冷静さを保った口調で名乗ったペッパーは、トニーの手を握った。その途端、ペッパーは全身に電気が走ったように身体を震わせた。何故か分からないが、トニーと手が触れ合った瞬間、彼女は今まで感じたことのない何かを感じてしまったのだ。
黙ったままのペッパーを不思議そうに見つめたトニーだったが、このままこの場にいても埒があかないと思ったのだろう。手を繋ぎ直すと、ペッパーを引っ張った。
「ポッツさん?早速案内してよ」
「え…えぇ…」
ようやく我に返ったペッパーは、フューリーに軽く頭を下げると、トニーの後ろを追いかけて行った。
***
「ポッツさん!」
どんなに遠くにいてもトニーはペッパーを見つけると、笑顔で駆け寄ってくる。それは初めて顔を合わせたあの日からずっと続いていること。
周囲の友達に何事か伝えたトニーは、彼らに手を振ると小走りで近づいてきた。屈託のない笑顔にペッパーの顔にも自然と笑みが零れた。
「スタークくん、どうかしたの?」
「いや、別に。ポッツさんの姿が見えたから」
最初は話し相手欲しさに顔馴染みとなった自分に声を掛けてくるのだと思った。だが、彼はすぐに大勢の友達に囲まれた。言い方は悪いが、女性は選びたい放題なのに、彼は周りの女性には目もくれず、いつも自分にばかり声を掛けてくる。
それは彼が自分に興味があるということなのだろうか…。それとも姉のような存在と思い、親しくしたいということなのだろうか…。
「ねえ、ポッツさん、今日の夕方、暇?」
楽しそうに午前中の講義の話をしていたトニーだったが、何か思いついたのか、急に目を輝かせた。
「特に予定はないけど?どうしたの?あ、分かったわ。先週締切だった講義の書類、提出してないんでしょ?」
予定を聞いたのにえらく事務的なことを言われ、トニーは頬を膨らませた。確かに入学したばかりの頃、書類を提出し忘れてペッパーが催促に来たことはあるが、それ以来提出日には細心の注意を払っているのだ。
「やだな、デートに誘ってるのに」
「はい?」
余程驚いたのか、目を白黒させているペッパーに向かい、トニーは大袈裟に溜息を付いた。
「いいじゃん。ポッツさん、こんなにいい女なのに。ねぇ、彼氏とかいないの?」
話が急展開すぎたのか、ペッパーは口をあんぐりと開けたままだ。
彼氏はいない。いや、最後に恋人という存在がいたのはいつのことだろうか…。
堅物だと言われるが、心がときめくような男性に久しく会っていなかった。だが、目の前の年下の彼には、出会った瞬間から何故か今まで感じたことのないものを感じていた。そして彼と共にいる時間こそが、今やペッパーにとって至福の時となっていることも事実だ。
いつまでも返事のないペッパーに業を煮やしたのか、トニーはグッと顔を近づけた。
「返事がないってことは…彼氏なしってこと?じゃあ、俺が立候補していい?」
(女を見れば口説きたいってこと?私はあなたよりも10歳も年上なのよ?大人をからかうのもいい加減にしなさい!)
そう言えばいいのだろうが、目の前の彼にはいつものおちゃらけた様子は見られない。もしかしたら彼は本気で言っているのかもしれないが、遊ばれているのなら後で泣くのは自分なのだ。
どうすればいいのか分からなくなったペッパーは、軽く咳払いをすると、事務的な口調で告げた。
「スタークくん、くだらないことを言ってないで、早く授業に行きなさい」
動揺を悟られないように邪険に扱ってみたが、顔は真っ赤なのだから隠しようがない。
それに気づいたのかは定かでないが、トニーはニコニコと手を振りながら走り去って行った。
***
夕方になり、ペッパーが帰宅しようとした時だった。ふと顔を上げると目の前に1台の車が停まっていた。こんな所に誰かしら…と首を傾げていると、車から降りてきたのは、トニー・スタークだった。
「ポッツさん、デートの約束だろ?」
「スタークくん?!」
ハッキリと約束した覚えはないのだが、肯定も否定もしなかったのだから、彼は了承したと捉えたのだろうか…。その場に立ちすくむペッパーに、あの輝くばかりの笑顔を向けたトニーは、彼女の手を握りしめた。
「ほら、乗って!」
助手席にペッパーを押し込んだトニーはそそくさと運転席に座ると、車を発進させた。
(ホントに強引なんだから…)
無理矢理連れ出されたのだから、帰ると言えば彼は家まで送ってくれるだろう。だが、ペッパーはこのまま彼と2人きりで過ごしたいという気持ちを抑えることができなかった。
(そうよね…少しならいいわよね…。スタークくんのことを知るいい機会かもしれないし…)
彼のことが気になっていたことは事実だ。それは初めて手が触れた瞬間から、隠すことのできない本心。だが、彼はまだ16歳。自分よりも10歳近く年下の学生なのだ。これは超えてもいい一線なのか、それとも破滅へ向かう道なのか…。
車内にはBruno Marsの歌声が流れている。ペッパーも好きな歌のため、彼女は暫し歌声に耳を傾けた。
(スタークくんも好きなのかしら?)
チラリと運転席に目を向けると、トニーは鼻歌を歌っている。
「どこに行くの?」
あまりに気持ちよさそうに歌っているので邪魔するのも悪いと思ったが、行先を告げられぬままだし、会話の糸口になるかもしれない。
ペッパーに視線を送ったトニーは何も告げていないことにようやく気付いたのか、「あぁ…」と言うと頭を掻いた。
「サンタモニカに夕日を見に行くんだ」
意外にも定番のデートコース。プレイボーイと名高い彼ならば、もっと小洒落たデートをするものとばかり思っていたが…。
(あら?スタークくんって、噂とは違うのかも…)
軽く衝撃を受けたペッパーは思わず眉を吊り上げたが、幸いにもトニーは気付いていないようだ。
(サンタモニカで夕日ね…)
窓の外を見ると、見慣れた光景が見えて来た。
(まさかまたデートで来ることになるなんて…)
記憶の底に封じ込めた数年前の出来事が不意に頭を過ったが、トニーとの楽しい思い出を作りなおそうと、ペッパーは慌てて頭を振った。
***
「スタークくんって、意外とロマンティックなのね」
サンタモニカピアの桟橋で海に沈む夕日を見つめながら、ペッパーは道すがらずっと思っていたことを口に出した。
「俺のこと、何だと思ってるんだよ」
わざとらしく口を尖らせたトニーだが、その瞳は楽しそうに煌めいている。
「天才でお金持ちのプレイボーイかしら?」
肩を竦めたペッパーにトニーはやれやれというように首を振った。
「酷いなぁ。天才で金持ちは正解だけど、プレイボーイは間違ってる。俺、噂されてるほど、遊んでないから」
「そうなの?」
意外な一言にペッパーはまたしても眉を吊り上げたが、トニーは寂しそうに笑った。
「友達は大勢いる。だけど、その…心の底から好きだって言えるオンナには出会ってなかったんだ。でも……」
言葉を切ったトニーはペッパーをじっと見つめた。
ドキッとした。彼の丸い琥珀色の瞳には、自分しか映っていなかったから…。そして偽りのない真っ直ぐなその瞳に囚われし今、ペッパーはこの後起こるであろう展開に心を震わせた。
「ポッツさんに出会った時、感じたんだ。俺の理想のオンナについに出会ったって…」
「スタークくん……」
知らず知らずのうちにスカートを握りしめていたペッパーの手を取ったトニーは、優しく握りしめた。
「ポッツさん……俺……」
トニーの顔が近づいてきた。
あと数センチ…。
ペッパーがそっと目を閉じると、ついに唇が触れ合った。
甘く柔らかな感触に、今まで感じたことのない激情がペッパーの全身を貫いた。耳の奥でドクドクと血が流れ通い、目の裏では真っ赤な火花が散り始めた。
それは25年間生きてきて、初めて感じたものであり、そしてずっと求めていたものだった。
(あぁ…スタークくん…もっとあなたを感じたいわ…)
繋いでいた手を離したペッパーはゆっくりと腕を持ち上げるとトニーの頭を押さえ込んだ。トニーをリードするかのように、ペッパーは彼の唇の隙間から舌を侵入させた。迎え入れるように蠢くトニーの舌に自分を絡ませたペッパーは、トニーの身体にすり寄った。
ひゅう
口笛の音がし、薄目を開けると、酔っぱらった年配の男性が、にやけた顔で自分たちを観察しているのが目に入った。
公衆の面前であることを思い出したペッパーは、慌ててトニーから離れた。
「スタークくん……」
呼吸を整え、何とか彼の名前を口に出すと、トニーは真っ赤な顔をしながらもペッパーの目を真っ直ぐ見つめた。
「ポッツさん…あなたのことが好きです。俺と付き合って下さい」
彼の気持ちは先ほどのキスで十分分かっていた。そして自分もキスで気持ちを伝えたつもりだ。それでもペッパーの心に小さな棘が残っていた。それは彼とは随分年齢が違うこと。その棘のせいで、ペッパーは今まで自分の気持ちに気付かないふりをしていたのだから…。
「でも…私…あなたよりも…」
それ以上は言えなかった。なぜならトニーが唇を封じてしまったから…。
チュッと音を立てて唇を離すと、トニーは自分よりも少しだけ背の高いペッパーに抱きついた。
「年齢なんて関係ない。俺はあなたのことを愛してる。あなたもでしょ?」
耳元に掛かる甘い吐息はペッパーの棘を溶かしてくれたようで、すぅっと息を吸い込んだペッパーはようやく自分の気持ちに正直になることができた。
「スタークくんは何でもお見通しね。私も…あなたのことを愛してるわ…」
「俺は天才だからな」
笑いあった二人は再び唇を重ねた。
***
「じゃあね、ポッツさん」
ペッパーを家まで送り届けたトニーは、唇にキスを残して颯爽と走り去って行った。
走り去る車を見つめながらペッパーは唇にそっと触れた。
(私…彼のこと、どうしようもない程好きになっちゃったわ…)
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