Home~ペッパー視線

「ただいま…」
アイアンマンとして「出勤」していた彼が戻ってきたのはその日の夜遅く。
リビングで明日の会議の資料をチェックしていた私は、階段から降りてくる彼の姿に目を見張った。

「ちょっと…トニー!何があったの?!」
顔は傷とアザだらけ。
左足を引きずり、先ほど着替えたであろうTシャツはすでに右肩のあたりが真っ赤に染まっている。
「はは…少しばかりしくじってしまってね…」
慌てて駆け寄り、彼を支えソファーに座らせる。
「大丈夫なの?!とりあえずTシャツ脱いで!手当てしないと…」
不自由そうにTシャツを脱ごうとしている彼を手伝おうと胸元に手をかけると
「っ!」
息を呑み苦しそうに唸る彼。
見ると胸部は真っ赤に腫れ上がっており、肋骨が折れていることは一目瞭然。
右肩の創傷からも出血しており、とてもじゃないけど私の応急処置じゃ間に合いそうにない。
「トニー…大変!病院へ行きましょ?!」
電話をかけようとする私の手を握り遮る彼。
「ペッパー、大丈夫だ。それに明日は大事なプレゼンがあるからな。私が出席しないわけにはいかないだろ?」
「で、でも…」
大丈夫だと言うけど、顔は真っ青だし、全くもって大丈夫には見えない。
目に涙を浮かべた私を見て、さすがにヤバイと思ったのだろう。
「明日…プレゼンが終わったら病院に行くから…約束する。だから、とりあえず処置してくれないか?」

絶対に病院に行くよう念押しして、その日は鎮痛剤や睡眠薬を飲ませ、無理やり彼を休ませた。

翌朝、さらにひどい顔色をした彼の顔の傷やアザをメイクで隠し、一緒に出社。
会議の間、立ち上がるたびに苦痛に一瞬顔を歪める彼を見ながら、時間ばかりが気になっていた私は、会議が終わるやいなや、彼の元に駆け寄った。
「さあ、トニー。病院へ…」
そこへ一本の電話。
「スタークだ…あぁ…分かった。すぐ行く…」

嫌な予感がする…。
顔をしかめた私を見て、申し訳なさそうな素振りをする彼を見て…予感的中。
「ペッパー、予定変更だ。呼び出しがかかった。急いで行かな…」
「ダメよ!絶対にダメ!」
彼の言葉を遮り、大声で叫んだ私に、通りかかった人が振り返る。

慌てて近くの空き部屋に私を押し込んだ彼は、これも仕事だ、みんな待っているんだ…と、泣きわめく私を必死に説得。
「でも、そんな怪我しているのに…あなたに何かあったら…私…私…」
涙を流す私に
「今までもちゃんと愛する君の元へ帰ってきただろ?私一人じゃないんだ。大丈夫だから…」
甘いキスとともにそんなこと言うなんてズルい…。

屋上へあがると、彼が振り返りまだ不安そうな顔をしている私を抱きしめた。
「君が私を待っているように、アイアンマンを待っている人がいるんだよ」
無機質なアーマーを装着した彼に抱きしめられるも、温もりを感じられぬその体に不安の影が心を覆う。
温もりを求めるように、彼の頬を撫で、「必ず帰って来てね」と唇を奪った。

お願い…これが別離のキスになりませんように…。

***
「ミス・ポッツすまない…」
仲間に支えられるように戻ってきた彼。
あちこち血で赤く染まり、送り出した時よりも酷い状態。
アーマーにも無数の穴が開き破壊され…そして彼も…。

「…何があったの?」
やっとのことで声を絞り出すとスティーブが目に涙をためて話し出した。
「…私をかばったんだ。昨日もすでに怪我してたのに…なのにスタークは私をかばって…敵の攻撃が何度も直撃して…。本当にすまない…」
「いや、俺があの時仕留めてれば…」
「…ゴメンなさい…」

涙を浮かべながら頭を次々と下げる彼の仲間の姿を見て…責めることなんかできるはずがない。
彼もそれなりの覚悟があって闘っているんだもの…。

こぼれ落ちそうになる涙を必死に堪え…後からみんなに気丈だと言われたけど…頭を下げる彼らに向かって笑いかけた。
「大丈夫よ。トニーは大丈夫。だからみんな頭をあげて。それに彼は自分が正しいと思ったことをやり遂げる人よ。みんなが謝ったら、彼のやったことが無駄になっちゃうわ…」

彼の頬を撫でながら「ねぇ、トニー。あなたならそう言うでしょ?」と尋ねるも、目を閉じたまま微動だにしない。

その姿に、ずっと堪えていた涙が一粒、彼の唇に落ちた。

すると…
「ぺっぱー…」
閉じた目をかすかに開き、何かを探すように右手が彷徨い始めた。
「トニー…ここにいるわよ…もう大丈夫だから…」
彷徨う手を握りしめ耳元で囁くと、薄っすらと笑みを浮かべ、また目を閉じてしまった。

「トニー…戻ってきてくれてありがとう」
送り出した時と同じように頬を撫で、キスを一つ。

そう、私達に別離のキスはいらない。あなたが戻るべきは私の元。そしていつだって求めるのは、再会とそして再会できたことへの感謝のキスだから…。

トニー視線

トニペパ。トニーを送り出すペッパーはいつも心中穏やかではないと思います。

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