もし、IM2後結婚→アベンジャーズ→IM3 なら…
「トニー、あのね…妊娠したの」
想いが通じ合って二ヶ月。朝食兼昼食を食べながら最愛の女性からそう告げられても、トニーは驚かなかった。むしろ満面の笑みを浮かべた彼は、ペッパーの唇 を奪うとポケットから小さな箱を取り出した。
「結婚しよう」
手を差し出したペッパーの指に誓いの印を嵌めると、事は急げと二人は家を飛び出した。
教会へ向かう途中、スーツと白のドレスを、花屋でブーケを買った二人は教会へ向かった。
結婚指輪はまた後日…と、祭壇の前でトニーが差し出したのは、母親の形見の指輪だった。
「親父がお袋に贈った指輪だ。私がこの世で唯一愛する君に贈る…」
熱いキスと共に贈られた指輪の上では、ペッパーの目から零れ落ちた美しい涙が光っていた。
晴れて夫婦になった二人。
ペッパーを助手席に押し込んだトニーは飛行場へ向かった。
「どこに行くの?」
急すぎる展開に目を白黒させるペッパーにトニーはニヤリと笑った。
「NYだ。近過ぎてハネムーンにはならないか?例のクリーンエネルギー事業の一環だ。タワーはNYに建てる。住んでみたいと言ってただろ?」
そ う言えば、夢見心地で一度言ったことがある。NY生まれでNY育ちのトニーの幼少期の思い出に少しでも触れたいという気持ちもあったのかもしれない。何気 ない一言を覚えていてくれたことに対し、喜びを抑えられなくなったペッパーは、車を降りるや否やトニーに飛びついた。顔中にキスをし続ける新妻を抱き上げ たトニーは、機内のプライベートルームへと消えて行った。
それから半年ほど経った頃。
夜中に産気づいたペッパーは、その半日後、腕の中に可愛らしい男の子を抱いていた。父親と母親になったばかりの二人は、興奮気味にキスをし続けていた。す ると両親の長いキスに抗議するように、リチャードと名付けられた息子が小さな声を上げた。
「おい、リック。半日頑張ってお前を産んでくれたペッパーを…ママをねぎらっているんだ」
小さな息子の柔らかな頬を突つくトニー。父親として最初の一歩を踏み出した彼に微笑んだペッパーは、リックを押し潰さないように抱きついた。
「どうした?」
妻の甘い香りを吸い込んだトニーは、頭にキスをおとした。
「トニー、ありがとう。私にあなたの子供を産ませてくれてありがとう。私を母親にしてくれてありがとう…」
感謝の言葉を口にし続けるペッパーを抱きしめたトニーは、夫婦の証である指輪にキスを落とした。
「お礼を言うのはこっちだ。ありがとう、ペッパー。君は私に家族を与えてくれたんだ…」
トニーの力強い腕に抱きしめられながらペッパーは祈った。この幸せがいつまでも続きますように…と。
***
リックが生まれて数ヶ月後。
マンハッタンにそびえ立つ真新しいビルに三人はいた。
STARKの文字の輝くそのビルは、リアクターを動力したクリーンエネルギー開発の第一弾としてNYに建てられた。
成功を祝い、シャンパンで乾杯しようとした二人の元に、コールソンがやってきた。彼の差し出したデータを見たトニーは顔色を変えた。
「ペッパー…。リックを連れてマリブへ帰れ」
トニーの口調から、何か大変なことが起こると感じたペッパーは、傍らで眠る息子を抱き上げた。
「分かったわ。すぐに出発する。トニー、気をつけてね」
無事に戻ってこられるおまじないよ…と、甘いキスを残しエレベーターへ向かった妻の姿を確認すると、トニーはコールソンから渡されたデータを分析し始め た。
***
スタークタワーの上空に開いた大きな穴。宇宙へと繋がる道へと向かいながら、トニーは一人恐怖と戦っていた。
二度と戻って来られないかもしれない。パワーは残りわずか。これが片道切符となるのは分かっている。だが、この街を救うためだ。そしてこれが出来るのもア イアンマンだけ…。自己犠牲なんてものは、あのキャプテンの専売特許だと思っていたのに…。
トニーの脳裏にはペッパーとリックの姿が浮かんでいた。
最期に別れを言いたい。せめて最期に二人の声を聞きたい…。
ペッパーに愛していると…リックにパパはずっとそばにいると伝えたい…。気を利かせたジャーヴィスが連絡を取ろうとしたが、ペッパーは電話に出ない。
『トニー様…繋がりませんでした…』
非情にも通信が途絶え、トニーは漆黒と無音の世界に一人放り出された。
(ペッパー……すまない……。君にありがとうと伝えられなかった……)
目の前ではあの宇宙人の船が大爆発を起こしている。
それを見届けたトニーは、ゆっくりと目を閉じた…。
***
NYの一件以来、トニーは以前にも増してペッパーを求めた。
「トニー?リックもまだ手がかかるし、二人目は…」
「私は早く二人目が欲しいんだ」
そう言うと、トニーはペッパーの身体に愛を刻み始めた。
彼には世界一愛されている…だが、愛され過ぎるのも不安だった。
ト ニーは何か隠している。あのNYの出来事以来、自分の気持ちをどこか押し殺している。あの時、電話に出られなかったことをトニーは責めなかった。むしろ 『出なくてよかった。あの時君の声を聞いていたら、全てを投げ出していたかもしれない』と笑っていた。でも、それは違う。それは今ここに彼がいるから言え ること。あの時…彼が帰って来られなかったら…私はあの瞬間の自分のことを一生許せなかっただろう。きっと彼もそれが分かっている。
トニーは何も語ろうとしなかった。何も語らず、ただひたすらに求め続けた。
(お願いします…トニーが遠くに行ってしまいませんように…)
トニーの身体にしがみつきながら、ペッパーは祈り続けた。
そして、トニーの願いが叶ったのか、ペッパーは二人目を妊娠した。
***
あの事件から一年。
年明けが予定日のペッパーは大きなお腹を抱えながら、歩き始めたリックとクリスマスの準備をしていた。
トニーはラボに籠って何か作っている。聞いても何も答えないため、ペッパーはトニーが何をしているのか知らなかった。
「トニー、何を作ってるの?もうすぐクリスマスなんだから、一緒に飾り付けをしましょ?リックもパパとやりたいって…」
夕食の時間になってもラボに篭りっぱなしのトニーに夜食を持ってきたペッパーは、雑然としたラボを見渡した。
黙々と作業をするトニーの横顔は酷く疲れ切っており、顔色も悪い。堪らなくなったペッパーは、背後からそっとトニーを抱きしめた。
「トニー…、お願いだから無理しないで。子どもたちがいるんだから…」
「…あぁ…」
ペッパーに気づかれないように息を吸ったトニーは、自分の胸の前で組まれたペッパーの腕を軽く叩くと、クルリと向きを変えた。
「なぁ、ペッパー。久しぶりに…な?」
ニヤりと笑ったトニーはペッパーの唇を飢えた獣のように奪うと、嬉しそう微笑んだ彼女を抱きしめ囁いた。
「先に寝室に行っておいてくれ。片付けてから行く」
ペッパーが階上へ上がったのを確認すると、トニーはため息を付き顔を覆った。
ペッ パーには言っていない。目を閉じると悪夢に襲われることを。あのNYでの一件以来ほとんど眠っていないことを…。神様だの宇宙人だの…非現実的なあの出来 事の前では自分はあまりにも無力だった。それ故に、未だに気持ちの整理がついていない。自分の中では、まだあの時の闘いが続いている。何度も壊れそうに なった。だが、ペッパーとリックがそばにいてくれるから、壊れずにすんでいる。またあいつらは…いや、自分には敵わない敵が襲ってくるかもしれない。その 時、標的にされるのは間違いなく妻と息子。ただ二人を守りたいだけだった。自分の命に変えても、妻と息子とそして生まれてくる子供は守らなければならない のだから…。
だが、そんなことはペッパーに言えなかった。言えば彼女は心配する…。妊娠中の彼女に、余計なストレスや不安を与えたくなかった。迷惑をかけたくなかっ た…。
心配そうに見上げるダミーとユーを撫でたトニーは、顔を叩くと寝室へと駆け上がって行った。
加減してくれているとは言え、求められ続け先に気を失ったのはやはりペッパーだった。妻の無邪気な寝顔をしばらく眺めていたトニーだったが、額に口付けす ると、起こさないように起き上がった。そしてトニーは再びラボへと降りて行った…。
数日後、トニーの20年来の友人であり、今やCEOであるペッパーのボディーガードを努めているハッピーが、マンダリンという男の手によって危険に晒され た。
意識のないハッピーを見つめながらトニーは心に決めていた。
何としても、ハッピーの仇は取ると…。
病院の前にはマスコミが待ち受けていた。マンダリンによるテロ攻撃。それが親友にまで及んだトニーは、気がつけばカメラの前でマンダリンに宣戦布告してい た。
「どうしてここの住所を言ったの!」
家に帰ると、荷造りをしたペッパーがトニーを待ち構えていた。
「成り行きだ。だが、ここは危険だ。君たちは安全な所へ避難しろ」
ブツブツと文句を言いながら避難の準備をしていたペッパーだったが、トニーの言葉にピタッと立ち止まった。
「君たちって……。あなたは?」
不安げに自分を見つめる妻の視線から逃げるように目を逸らしたトニー。
「私はここに…マリブに残る」
私にはやるべきことがある…と続けようとしたトニーだが、駆け寄ってきたペッパーがすがるように抱きついてきたため、口を閉じた。
「ダメよ!あなたも一緒に行くの!あなたが避難しないなら、私も残るわ!」
だが、顔色を変えたトニーは、ペッパーの肩を掴んだ。
「ペッパー!ダメだ!リックはどうするんだ!危険と分かっている場所にあの子は置いておけないだろ!君は母親だ!私が一緒にいられない分、君だけは一緒に いてやれ!」
「トニー…」
真剣な眼差しをしたトニーだが、肩に置かれた手は小さく震えている。
「頼む…ペッパー…。頼むから、早く避難しろ…」
(ここに残り自分たちに何かあれば、トニーは苦しむことになる…)
目をキュッと瞑り大きく深呼吸したペッパーは、ゆっくりと目を開けた。
「分かったわ。すぐに出発する」
携帯を取り出したペッパーがプライベートジェットを用意するように連絡している間に、トニーは荷物を持ちガレージへと運び出した。
「荷物は必要な分だけ持って行け。すぐに片を付けるから」
恐ろしいほどの眼差しのトニーは、ペッパーを抱き締めキスをすると、ソファーの上で遊ぶリックの元へ歩き出した。リビングに散らばっているリックのおも ちゃや絵本をカバンに突っ込んだペッパーは、トニーに声を掛けた。
「ひとまずNYへ向かうわね。NYなら安全でしょ?無理しないでね?あなたも早く避難……トニー?」
真っ青な顔をしたトニーは立ち止まると、苦しそうに息をし始めた。胸を押さえ膝から崩れ落ちたトニーは、床にうずくまり動かない。
「トニー?トニー!どうしたの?!」
トニーの異変に慌てふためいたペッパーは、小走りで彼に近づくと背中を摩り始めた。
(こんな時に起こるなんて…最悪だ…)
ペッパーには見せたくなかった。しかも一刻を争うこの状況ではなおさらのこと。
何度も深呼吸をしたトニーは、ペッパーの手を掴んだ。
「だ、大丈夫…ほ、発作だ……。すぐに…落ち着くから……」
「発作って…。どこか具合が悪いの?!ねぇ!トニー!!一緒に逃げましょ!」
大丈夫だと言われても、真っ青な顔をし震えるトニーは、大丈夫そうには見えない。こんな状態のトニーを一人置いて避難するなんて、ペッパーにはできなかっ た。トニーの身体を支えるように起こしたペッパーだが、トニーはその手を振り切った。
「私はいいから!早く逃げろ!」
おもちゃで遊んでいるリックを抱き上げたトニーは、ペッパーの腕を掴むと、ガレージに向かい、二人を車に押し込んだ。
「いいか?何があっても振り返らず逃げろ。片が付いたら私も向かう。それまでは連絡も取るな?分かったな?」
(トニーは私たちを守るために戦おうとしている…。だったら、私たちは彼が安心して戦えるように、一刻も早く安全な場所に向かわなければ…)
零れ落ちる涙を拭ったペッパーは、せめて笑顔で送り出そうとニッコリ笑った。
「…分かったわ。愛してるわ…トニー…。気をつけてね」
ペッパーの目をじっと見つめたトニーは、何度も唇にキスを落とした。
「私もだ…愛してる…ペッパー」
もしかしたら、別れのキスになるかもしれない…。そんな考えが一瞬頭を過ぎり、ペッパーは頭を振ると車を発進させた。
「ママ…パパは?」
バックミラーには遠ざかるマリブの家と、後部座席のチャイルドシートで不安そうな息子の顔。
「パパは…お仕事よ。あなたはママと先にNYへ行くの。パパもお仕事が済んだら……」
その時だった。
ドーン!!
背後から大きな爆音が聞こえ、ペッパーは車を停車させた。振り返ると、先ほどまでいた自分たちの家は炎に包まれているではないか。
「そんな……」
何基ものヘリに攻撃され、崩れ落ちる家。
5分遅かったら、小さな息子はあの爆発に巻き込まれていたかもしれない。だが、あの家にはまだ最愛の人が残っている…。
「トニー……」
その場に泣き崩れたペッパーは、忍び寄る影に気付いていなかった。
「探したよ、ミセス・スターク?」
聞きなれない声に気付いたペッパーは顔を上げようとしたが、後ろから羽交い締めにされ気を失った。
「ママ?」
頬を触る柔らかな感触に目を覚ましたペッパー。小さな窓のある薄暗い見知らぬ部屋に自分がいることに気付いたペッパーは、ゆっくりと起き上がった。傍らに は、目に涙を溜めた小さな息子。リックに怪我がないことを確認したペッパーは、息子をぎゅっと抱きしめた。
「リック…大丈夫よ…」
お腹にそっと触れると胎動を感じることができ、子供たちが二人とも無事であることに安心したペッパーは深呼吸をした。
「パパは?」
父親と同じ目をした息子は、その目に見え隠れしている恐怖を必死に隠そうとしている。
最後に見たマリブの家の光景を思い出したペッパー。トニーは生きているかどうかも分からない。それに自分たちもどうなるのかは全く見当も付かないのだ。
「きっとパパが…助けに来てくれるわ」
息子を安心させるために…そしてきっとトニーは生きているという思いを込め、口に出した言葉だが、誰かの笑い声に遮られた。
「それは無理だぞ、ペッパー?」
振り返ると、檻越しに一人の男性が立っていた。
見覚えのない顔をしばらく凝視していたペッパーだが、その声と口調に一人の人物が頭を過ぎった。
「…キリアン?」
十数年前、一度は仕事仲間だった男。当時とは風貌も雰囲気もすっかり変わってしまったキリアンを、目を丸くして見つめていたペッパーだったが、この男がト ニーを襲ったのかと思うと怒りが込み上げてき、唇をギュッと噛みしめた。
幼いながらに母親を守らなければ…と思ったのだろう。小さな腕を広げたリックがペッパーの前に立ちはだかった。
「ダメ!」
「リック!」
慌ててリックを抱き寄せたペッパーは、キリアンに向かって叫んだ。
「あなたが…あなたがトニーを攻撃したのね!」
睨みつけるペッパーを一瞥すると、キリアンはリックを指さした。
「スタークの子か?顔は君に似て可愛らしいが、目があいつにそっくりだ。それに、腹の中にもいるのか?」
「そうよ!トニーの子供よ!あなたには関係ないわ!」
リックを守るように背後に隠したペッパーだが、キリアンはニヤニヤと笑うばかり。
「あいつはどうするかな?自分の妻や子供が死ぬのを見たら?」
「…どういうこと?」
顔色を変えたペッパーに笑いかけたキリアンが指を鳴らすと、手足を拘束され全身痛めつけられたトニーが引きずられるように連れて来られた。
「トニー!!」
ペッパーとリックの姿を見たトニーは目を見開き何か言おうとしたが、キリアンはトニーの腹を力いっぱい蹴り上げた。
ずっと暴行されていたのだろうか、苦しそうに咳き込んだトニーは血を吐きながら蹲ったままだ。
「さあ、スターク。お前の大事な物は、私の命令一つでどうとでもなるんだぞ?これで協力する気になっただろ?」
顔を上げたトニーは、キリアンを睨みつけた。
「…妻と息子を解放しろ。協力はしない。だから私を殺せ」
その言葉にキリアンは大げさにため息をついた。
「おい、話を聞いてたか?お前を殺したら元も子もないだろ?協力してくれたら、助けてやろう。ただし、彼女か息子かどちらかだ。」
悔しそうに唇を噛みしめたトニーと目が合ったペッパーは、微笑んだ。
「トニー、リックを助けて。あの子が助かるなら、私は…」
ペッパーの言葉を遮るようにトニーは叫んだ。
「分かった!頼む!妻と息子を解放してくれ!その代わり、私はどうなってもいい!二人に手を出さないと約束してくれたら、何でも協力する!君の実験台に なってもかなわない。頼む…頼むから……」
頭を下げ続けるトニーをおかしそうに眺めていたキリアンだが、目的であるトニー自らが一生自分のモノになると宣言したのだ。満足そうな笑みを浮かべたキリ アンは、トニーの頭を撫でた。
「…分かった。二人は解放しよう。その代わり、スターク。お前は一生私のものだ。一生私のために働き、私たちと同じようになってもらおう。家族とお別れが 必要だろ?明日まで待ってやる。明日になったらお前たちは二度と会えないんだから…」
トニーの拘束を解いたキリアンは、ペッパーとリックのいる部屋にトニーを放り込んだ。
「パパ!」
「トニー…」
鍵が閉まるなり抱きついてきたペッパーとリックを、トニーは身体の痛みを隠すように目をぎゅっと閉じると抱きしめた。
「二人とも…無事でよかった…」
トニーの額から流れ落ちる血を拭き取ったペッパーは、真っ赤に腫れあがった頬をそっと撫でた。
「大丈夫?酷い怪我よ…」
リックを膝の上の乗せ座りなおしたトニーは、全身がひどく痛み思わず顔をしかめた。が、泣きだしそうなペッパーに気づくと、無理やり笑みを浮かべた。
「大したことない。心配するな。それより、君たちをここから逃がさなければ…」
「でも、どうやって…」
リックの頭を撫でながらチラチラと腕時計を見るトニーにペッパーが尋ねた時だった。トニーの腕時計のアラームがけたたましくなり始めた。
「よし、時間だ」
リックをペッパーに渡したトニーは、大きく息を吐くとゆっくりと立ち上がった。
部屋の中央に立ったトニーは、ペッパーに部屋の隅に移動するように言うと、窓の方をじっと見つめた。
すると、窓ガラスを突き破り何かが部屋の中に飛んできた。
思わずリックを抱きしめ目を閉じたペッパーだったが、それは次々とトニーの身体を覆っていく。
ペッパーがあっけにとられて眺めていると、最後に金色に光るものが飛んできた。それを手で受け止めたトニーは、顔に装着すると振り返った。
「パパ、アイアンマン!」
そう、そこにいたのはアーマーを装着したアイアンマン。アイアンマンが大好きなリックは、嬉しそうに手を叩き続けている。
自ら飛んでくるアーマー。一体トニーはいつ作ったのかしら…と、口をポカンと開けているペッパーに頷いたトニーは
「ここに隠れておけ」
と言い残すと、部屋を出て行った。
部屋の外は銃声と悲鳴が飛び交っていた。
(援軍も来たな…)
「いいか、ジャーヴィス。敵のパワーの源は熱源だ。そこを狙え」
『了解しました』
襲いかかる敵を次々と倒すトニー。狙うはただ一人……キリアンだ。
あちこち探しまわったトニーは、大きな部屋にやってきた。部屋の中央にはキリアンが立っており、その目は赤く燃え上がっていた。
「スターク、ケリをつけようじゃないか」
そう言うと、キリアンはトニーに飛びかかってきた。
エクストリミスの力で強化されたキリアンは強く、トニーは太刀打ちできない。
(どうすれば…)
まともにぶつかってかなう相手ではない。狙い所が悪ければ、こいつらはまた戻ってくるのだから…。完全に息の根を止めるには、木っ端微塵に吹き飛ばすしか ないだろう。
先ほどから機会を伺うトニーだが、キリアンに隙はなく、トニーは追い詰められていた。
(…ペッパー…)
部屋の隅でリックを抱きしめていたペッパーは、名前を呼ばれた気がし顔を上げた。
「トニー?」
だが、トニーの姿はなく、胸騒ぎがし始めたペッパーは立ち上がるとリックを抱き上げた。
「リック、行くわよ。トニーが…パパが呼んでるわ」
部屋の外に出ると、周りにはトニーが倒したのだろう、たくさんの敵が倒れていた。
果たしてトニーはどこにいるのだろう。検討もつかないペッパーは途方に暮れた。
「トニー…どこ?」
キョロキョロと辺りを見渡す母親をリックがじっと見つめた。
「ママ、パパ、あっちよ」
まるでトニーに見つめられているように感じたペッパーは、リックが指差した方へ走った。
大きな部屋にたどり着いたペッパーは、目の前の光景に叫びそうになった。
ボロボロのアーマーはトニーの足元に落ちており、キリアンに首を掴まれたトニーは全身血塗れでグッタリとしているではないか。
ペッパーに気づいたキリアンは、空いている手を挙げると笑みを浮かべた。
「やあ、ペッパー。こいつが死ぬところを見に来たのか?」
その声にトニーは何か訴えるように視線をペッパーに向けた。トニーの首を締め上げたキリアンは、トニーの顔がペッパーとリックに見えるように向きを変え た。
「スターク、見られてるぞ?息子の前で情けないところは見せられないぞ?」
首元に置かれたキリアンの指に力が入り、トニーは息を詰まらせた。
「ぺ…ぱ………」
かろうじて口から出た言葉をかき消すように、キリアンは父親をいじめる悪い奴だと言わんばかりに睨みつけてくるリックを指差した。
「スタークの息子、お前の父親はダメな男だな?そうだ、親父の死に様をしっかり見とけよ?」
ニヤっと笑ったキリアンのオレンジ色に燃える腕がトニーの身体を貫いた。
「いやぁ!!!」
ペッパーの叫び声と共にトニーの血が辺り一面に飛び散った。
キリアンが手を離すと、トニーの身体は血飛沫を上げながら地面へ落ちた。
「トニー!しっかりして!!」
駆 け寄ったペッパーが手を握ると、閉じそうな目を二人に向けたトニーは何か言おうと必死に口を動かした。だが、口からは大量の血が溢れ、トニーは苦しそうに 咳き込んだ。トニーが身体を震わせるたびに、傷口からは血が溢れ出ている。少しでも止血しようと傷口を押さえたペッパーだが、血は止まることなくペッパー の服までも真っ赤に染めていく。
泣き叫ぶ母親と苦しそうな父親を交互に見つめたリックは、
「パパ…」
とつぶやくと、トニーの足に顔を埋めた。
「美しい光景だな?スターク。良かったな。最期に妻と息子に看取られて」
ハハっと笑ったキリアンは、背中を向けると腕を広げて天を仰いだ。
その隙をトニーは見逃さなかった。
トニーが手を動かすと、周りに散らばっていたアーマーがキリアンの身体を覆い始めた。
「な、何だこれは!!」
あっという間にアーマーで覆われたキリアンは、大きな機械に張り付けにされた。それを確認したトニーは苦しい息の中、声を絞り出した。
「J……ばくは……しろ……」
キリアンの絶叫が響き渡る中、アーマーはキリアンもろとも爆発した。
爆発の衝撃は大きく、炎が飛び散り周りのあらゆる物が次々と爆発していく。破片が辺りに飛び散り始め、ペッパーはリックを抱きしめるとトニーの上に覆いか ぶさった。
自分はもうダメだろう…。だか、ここにいれば助かるはずのペッパーとリックとそしてお腹の子供までも巻き込んでしまう…。トニーは、潰えそうな意識を手繰 り寄せると、必死に声を絞り出した。
「ぺ…ぱ……にげ……ろ……」
あの時…マリブの家が攻撃された時、一人にしてしまった。だから今度は何があっても一緒に逃げる…。それに、今にも命が消えそうな彼を置いて行くことなん てできない…。
「いや!あなたを置いてなんか行けない!」
ペッパーの目から零れ落ちた大粒の涙がトニーの顔を濡らしていく。その感触すらも感じることが出来なくなったトニーは、ぼんやりとしか捉えることができな い目に愛する家族の姿を焼き付けようとペッパーとリックを見つめた。
その時、燃えさかる天井が落下し始め、ペッパーは悲鳴を上げた。が、落下しきる前に、何か大きな物が三人の上に覆い被さった。
恐る恐る顔を上げたペッパーが見た物…それは大型のアイアンマンだった。
トニーは自分と共にいるのに、どうしてアイアンマンが…と、ペッパーが目を白黒させていると、たくさんのアーマーが次々と現れた。
「アイアンマン!!」
大好きなアイアンマンが何十体と目の前に現れたのだ。両手を叩いて大喜びのリックと某然としているペッパーをアーマーが抱き上げた。
状況がよく分からないペッパーは、自分たちの周りにいるたくさんのアイアンマンを見渡すと、同じくアーマーに抱き上げられているトニーに向かって一言発す るのが精一杯だった。
「あなた……これを作ってたの?」
ペッパーの言葉に小さく口の端を上げたトニーは、ゆっくりと目を閉じた。
トニーが目を開くと、真っ白い世界が広がっていた。
(あぁ、私は死んだんだ…。ペッパーとリックは無事だろうか…)
ぼんやりとする頭でそんなことを考えていると、右手に温もりを感じ、見慣れた顔が目の前に現れた。
「トニー?気がついたか?」
手を握っていたのは、ローディだった。
(私はまだ生きているのか…。…ペッパーとリックは…)
キリアンに貫かれた腹どころか、頭の先から足の先まで全身に痛みを感じたトニーは、何度も息を吸うとやっとの思いで声を絞り出した。
「ぺ……ぱ…」
か細く掠れた声だが、それはきちんとペッパーの耳に届いていた。
「トニー、ここにいるわよ」
愛しい女性の声に、トニーはゆっくりと頭を動かした。隣にはベッドが置かれており、ベッドの上にはペッパーとリックがいた。そしてペッパーは腕に何か抱い ており、リックは嬉しそうにそれを覗き込んでいる。
「リック、パパが目を覚ましたわよ?」
ペッパーに突かれたリックは飛び上がると、トニーの方を振り向き
「パパ!」
と、可愛らしい声で叫んだ。
手を伸ばしたリックを抱きかかえたローディが、トニーのベッドサイドにある椅子にリックを座らせた。
「り……く……」
息子の元気な姿を見たトニーの目からは涙が零れ落ちた。その涙を小さな手で拭ったリックは、ペッパーを指差した。
「パパ、あかちゃん!」
赤ちゃんと言われ、トニーは必死で首を伸ばした。
(確か予定日は年明けのはず…。私はそんなに眠っていたのか…)
目を見開いて自分を見つめているトニーに気づいたペッパーは、ゆっくりと立ち上がると、トニーのベッドサイドに置かれたリクライニングチェアに座った。
「あのね、今朝生まれたの。予定日より早かったわね。女の子よ。あなたにそっくりよ」
にっこりと笑ったペッパーは、腕に抱きかかえた娘をトニーに見せた。生まれたばかりの小さな娘。自分とよく似ている娘を見たトニーの目からは、再び涙が零 れ落ちた。
ペッパーと娘を見つめたトニーは必死で手を伸ばすと、娘を抱いているペッパーの手に触れた。その手をそっと握り返したペッパーの目にも涙が溢れている。
「トニー、よかった…。おかえりなさい」
何度も頷いたトニーは、涙を堪えるように目をギュッと閉じた。
「パパ?いたいいたい?ママも?」
涙を流す両親を見上げたリックは心配そうにトニーの手に触れた。息子の小さく温かい手をそっと握ったトニーは、口元を緩めると目を細めた。
「いいえ、リック。パパもママも嬉しいのよ。リックがお兄ちゃんになったから」
涙を拭ったペッパーが頭を撫でると、リックは満面の笑みを浮かべた。
「よかった。パパ、あかちゃん、かわいいね」
「あぁ…」
か細い声を発したトニーだが、一瞬眉間にシワが寄ったのに気づいたペッパーは、ナースコールを押すと苦しそうに顔を歪めているトニーの額を撫でた。
「ありがとう、トニー。あなたとリックとこの子と私と…家族が揃ってる…。あなたのおかげよ。最高のクリスマスプレゼントね…」
ペッパーの言葉に頷いたトニー。妻と息子の温かい手の感触は、自分がまだ生きているという証拠。そして、生まれたばかりの小さな命の存在は、守るべきもの がまた一つ増えたということ。
(早くこの腕で大切なものを抱きしめたい…)
トニーは大きく息を吐くと目を閉じた。
if話です。アベまでに結婚して子供も生まれていれば、また違った展開になったでしょうに…という妄想です。