Misfire(キリサヴィ)

「おい、どうだ?これならいいか?」
鏡の前でポーズを取るのは、俺のボスであるアルドリッチ・キリアン。
あいつにしては珍しく、かれこれ3時間も鏡の前で一人ファッションショーをしている。
「どーでもいいだろ?さっきと変わらないじゃないか?」
「いや、よく見ろ。今度は靴下を履いていない。彼女、気付くだろうか?」
(そんなもん、気付くわけねーじゃないか。大体、彼氏でもなんでもないだろ?)
と、内心思ったが、そんなことを口に出すほど俺もバカじゃない。

あいつがこんなにお洒落に余念がないのは理由がある。
それは、これから会いに行く女のため。
俺は手元に転がっている何冊もの雑誌を一部取った。
表紙を飾っている女…ヴァージニア・ポッツ、通称「ペッパー・ポッツ」。
スターク・インダストリーズのCEO。そして、アイアンマンであり、SIの会長であるトニー・スタークのオンナ。
美人だが、人を射抜くような視線をしている女。だが、あの女好きのスタークのモノだけあって、抜群のスタイルをしている。
高嶺の花って言う奴かどうかは知らない。
ただ、キリアンはこの女と知り合いだったらしい。俺があいつに出会う何年も前、彼女はA.I.M.に勤めていた。それが急にスタークの元へ逃げたらしい。 スタークとのことは知っている。あのミレニアムの夜に何があったか…そしてそれはあいつの目を開かせてくれたということも。それにもう一つ。彼女に会いに 行くのは、ビジネスの話をしに行くだけではない。十数年待ち続けたあいつがスタークへ復讐するための足がかりとなるのだ。

「こんな女、どこがいいんだ?」
雑誌を乱暴に放り投げた俺をあいつはジロっと睨んだ。
「お前には分からないだろう。彼女は最高だ。だが、あいつといると彼女はつぶされてしまう。私なら、彼女を完璧な存在にできるんだ。それに、彼女を手に入れるのは、あいつに勝利した証になるんだ」
(要するに、彼女を抱きたいだけなんだろ?)
目をぐるりと回すと、呆れている俺に気が付いたのだろう、あいつはムッとした顔で睨んできた。
「そろそろ時間だ。おい、運転しろ」
車のキーを投げつけたあいつは、鼻歌を歌いながら助手席に乗り込んだ。

辺りが夕日に染まり始めた頃。
それまで笑みを浮かべていたあいつは、車に乗り込むなり眉間に皺を寄せ黙りこくってしまった。
成果?そんなものはなかったのさ。
我々のプロジェクトにSIを参加させようという目論見は崩れ、彼女との十数年ぶりの再会も、返って彼女がいかにトニー・スタークを愛し信頼しているか見せつけられただけだった。
「…」
「ダメだったな?」
「何も言うな」
「口を開けば彼氏の名前を言ってたじゃないか?」
「うるさい」
「相手はあのトニー・スタークだぞ?」
「黙れ!」
ギリっと歯ぎしりしたキリアンは、悔しそうに唸ったが目を閉じると抑揚のない声で言い放った。
「次の作戦だ。ペッパーは何としても手に入れる」
「はいはい」
おいおい、元々はエクストリミスのプロジェクトにスタークを参加させるためじゃなかったのか?…建前上はそうなのかもしれないが、こいつの本音はあの女を手に入れることなのかもしれないな…。

気付かれないようにため息をついた俺は、次の作戦に向け車を走らせた。

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