(ペッパー…)
顔を上げると、目の前にトニーがいた。
「トニー…」
(ペッパー…ありがとう…。君に嫌われたままかと思った…)
「あなたのこと、嫌いになんてならないわ。愛してる。トニー、私が愛するのは、あなただけだもの…」
(良かった…。これで…思い残すことはない…)
「思い残すって…」
(ペッパー…、ずっとそばにいる…。何があっても、私は君の味方だ…。今までありがとう…)
「トニー…。これからもずっと一緒にいてくれるんでしょ?」
(あぁ…)
そう言うと、トニーはペッパーと傍らで眠る息子に触れた。
(君は私に愛を与えてくれた…。十分だ…。ペッパー…今さら遅いが…愛してる…)
「トニー…待って!私…私…」
(あぁ…。かわいい男の子だな…。抱いてやれなくて…すまない…。だけど…いつもそばにいると…伝えてくれ…)
「トニー…嫌…私を一人にしないで…お願い…。もう二度と離れないから…お願い…」
トニーの手に縋り付こうとしたペッパーだが、彼の身体は透き通り掴むことができない。触れ合うことのできない身体。トニーはペッパーの身体を包み込むように腕を回した。感じることのできないはずの温もりが、ペッパーの涙が、消えかかったトニーの身体に降り注ぎ、トニーはこんな別れ方しかできない自分を…そして最期まで彼女を悲しませることしかできなかった自分を恨んだ。
(さよなら…ペッパー……永遠に…愛して…る…)
震える手でトニーの身体を掴もうとしたペッパーの手が空を切った。
目の前にいたはずのトニーはいない。だが、背後には彼の気配を感じる。
「トニー……また逢えるわよね?」
病室に無機質な音が響き渡る中、天を仰いだペッパーの目からは涙が止めどなく零れ落ちた。
***
一年後。
「ねぇ、トニー。嬉しいお知らせよ。この子ね、あなたの写真を見て、この間、『パパ』って言ったのよ」
海辺に建つ墓の前で、ペッパーは抱き上げた子供の頬を撫でた。
「あなたにも抱かせてあげたかった…。きっと今もそばにいてくれるんでしょ?でも…」
「まま?」
「どうしたの?」
「ぱぱ!」
嬉しそうに隣に手を伸ばした小さな息子。
その瞬間、強い風が吹き、大きく温かい何かが二人を包み込んだ。
(トニー…離れてても、私たちはいつも一緒よね?)
背中に感じる温もり。肩越しに振り返ると、トニーがニヤりと笑った気がした。
「さぁ、アンソニー・エドワード…行きましょ?今日は、パパの好きなチーズバーガーを食べましょうね?」
【END】