¥「シャワーを浴びてくるわ…」
子供のようにペッパーの胸元に顔をうずめていたトニーはくぐもった声を出し、顔を離した。
『私が守りたい唯一の物は君だ』
眠れないと告白したトニーは、同時にペッパーがいなければ生きていけないと告白した。
嬉しい言葉には違いない。だが、ペッパーは不安だった。
愛されていることではない。トニーは何か追い詰められているような…そして不安を一人で抱えきれなくなっているような表情をしているのが、ペッパーは気がかりだった。
(とにかく、眠らせなきゃ…)
目の下に隈を作ったトニーの顔色は悪く、一刻も早く眠らせなければ…とペッパーはラボの入り口へ向かった。
なかなか動かないトニーに、階段を上がりかけていたペッパーは声をかけた。
「一緒に」
その言葉にトニーは子犬のような目をペッパーに向け、嬉しそうに笑い立ち上がった。
バスルームに入った二人。シャワーの前に立ったペッパーは、栓を捻り熱いシャワーを浴びながらトニーに声をかけた。
「ねぇ、トニー…」
話をしようと口を開いたペッパーを背後に立っていたトニーが抱きしめた。
「と、トニー?!」
文句を言おうとするペッパーの口を塞いだトニーは、壁にペッパーを押し付けた。
シャワーが降り注ぐ中、トニーは有無を言わせずペッパーの身体に指を這わせていく。
やがて、ペッパーの身体が朱色に染まり、唇で塞がれた口から甘い吐息が漏れ始めると、トニーはペッパーの片足を持ち上げ、お湯とは別のもので濡れた部位から入っていった…。
「なぜ黙ってたの?」
何度も愛し合った後、ジャグジーに入るとペッパーは先ほどの話の続きを切り出した。
「君に心配かけたくなかった」
ペッパーの目を見ずに答えるトニー。その横顔は精神的にも肉体的にも追い詰められているようで、ペッパーはますます心配になった。
(どうしてこういうことは、抱え込むのよ…)
気づかれないようため息を付いたペッパーは、トニーの正面に移動し、膝の上に座った。
「いつも心配かけてるでしょ?」
「そうか?」
相変わらず視線は他所を向いている。ペッパーはトニーの頬を両手で優しく包み込み、軽く口付けした。
「そうよ。それに、ずっとラボにこもって何をしてるの?」
「アーマーの開発だ…」
「でも、もう何ヶ月もでしょ?そんなに作ってどうするの?」
「…」
黙ってしまったトニー。
(これ以上聞いても、かえってよくないかしら…)
そう思いつつも、解決しなければ前に進めないと思ったペッパーは、話を続けることにした。
「ねぇ、トニー。あなたの仕事は、アーマー作り?」
「あれは趣味だ」
「でしょ?だったらたまには…」
外に出て…という言葉をペッパーは言えなかった。トニーの表情は硬く、ペッパーの方を見ようとしないのだ。
トニーは以前よりもずっとアーマーに固執している。自分の一部だ…だから四六時中手元に置いておきたいと言うほどだ。それは、あの事件から酷くなった。トニーが先ほど告白したように、アベンジャーズの後から。
あの事件に関しては、トニーは特に何も話してくれない。
話したくない何かが…思い出したくない何かがあるのかもしれない。
私になら…唯一心を許してくれている私になら…話してくれるかもしれない…。そう感じたペッパーは、勇気を出して聞いてみることにした。
「眠れなくなったのは、NYの事件からでしょ?きっと何か原因があるのよ。話してみて…。少しは楽に…」
だが、トニーからの返事がなく不安に思ったペッパーが顔を上げると、真っ青な顔をしたトニーは、ペッパーを膝の上から下ろすと立ち上がった。
「トニー?」
ペッパーの呼びかけにも応じず、トニーはそのまま走ってバスルームを飛び出していった。
トニーの異変に気づいたペッパーは、慌てて後を追った。
「トニー?待って!」
バスルームを出た所にトニーはいた。
隅にうずくまり、顔にタオルを当て、震えている。
「トニー?トニー!大丈夫なの?!」
肩を揺するが、トニーはぎゅっと目を閉じたまま返事をしない。
息ができないのか、苦しそうに息を吸おうとするトニー。
「大丈夫よ、トニー。大きく息をして…」
パニックを起こしているトニー。ペッパーは何も言わずそっと背中を撫で続けた。
しばらくして、息の整ったトニーは、ペッパーを振り返った
「もう大丈夫だ…。心配かけて悪かった」
(何が大丈夫よ…。もしかして…パニック障害?それも重度の…)
まさかとは思うが、以前同じような状態に陥った友人がいたことを思い出したペッパー。
「トニー…。ねぇ、病院へ行きましょ?あなた…」
「君が行けと言うなら、そうするか…。近いうちに行ってくるよ…」
ペッパーの言葉を遮るようにトニーは大きく深呼吸すると、腰にタオルを巻きつけ立ち上がった。
「今日は早く休みましょ?」
いつもはここで、再びトニーに組み敷かれ、先に気絶してしまうのだが…。『君が眠った後で機械いじりをしている』と言われたペッパーは、今日こそはトニーが眠ったのを見届けてから眠ろうと決意した。
顔色は悪いのに、まだペッパーを求めようとするトニーを、さっき愛し合ったでしょ?と軽く睨むと、ペッパーは子供を寝かすようにトニーの背中を撫で始めた。
「トニー、眠って?大丈夫よ…私がそばにいるから…」
その心地よさにウトウトとし始めたトニー。しばらくすると、トニーはイビキをかいて眠り始めた。
(どうして気づかなかったの?彼がこんなに苦しんでいるのに…。私はずっとそばにいたのよ…)
唇を噛んだペッパーは、零れ落ちた涙を拭うと、背を向け眠るトニーのシャツを掴み、目を閉じた。
どれくらい眠ったのだろう。
呻き声に気付きふと目を覚ましたペッパー。隣で眠るトニーは、時折身体を震わせ苦しそうに呼吸しているではないか。
「トニー?」
悪夢でも見ているのか、大粒の汗をかき、うなされるトニー。
「トニーったら?ねぇ…」
肩を揺さぶり起こそうとしたその時、それは暗闇から現れた。
ぬっと近づいてきたものに、ペッパーは驚き叫び声をあげた。その声に目を覚ましたトニーは、両手をサッと掲げた。と、同時に、ペッパーにまるで襲いかかろうとしていたアーマーが、音を立てて崩れ落ちた。
「な、何よ!」
恐怖と衝撃のあまりパニックになったペッパーは、ベッドから立ち上がった。
「すまない。きっと寝ている間に命令したんだ…。プログラムを見直す…」
(そういうことじゃないでしょ!)
自分と同じくらい青い顔をしているトニーに思わず声を荒げそうになったペッパーだったが、その言葉をグッと飲み込むと、寝室の出口に向かった。
「下で寝るわ」
何か言いたげにしているトニーにそう一言告げたペッパーは、階下のゲストルームへ向かった。
部屋のドアを閉めたペッパーは、その場に座り込んでしまった。
トニーは追いかけてこなかった。
(何があったの?何を隠してるの?私はあなたの何?ちゃんと言って…話をして…。あなたの苦しみを分かち合わせてよ…)
ポロポロとこぼれ落ちる涙を隠すように、ペッパーは膝を抱え、声を押し殺して泣き続けた…。
IM3のトニペパ。
トニーがペッパーに「アベンジャーズの後、眠れない」と告白した後、ペッパーが「シャワー浴びてきて」と言うシーンで、なかなか動かないトニーに「一緒 に」と誘うシーンがありますが、その後すぐにベッドで眠るシーンになるんで、その合間を妄想。(実際、シャワーシーンの撮影もしたらしいですし…)多分 ペッパーはその後、トニーがパニック障害になっているのに気付いたのでは…と、そのあたりも入れてます。