Back To The Start

「トニー?これからどうするの?」
あの闘いで全てを失った。
家もアーマーも…。だが、唯一残ったものこそ、彼が最も大切に思うもの。
一時は失ったと思ったが、彼女は強かった。そして今まで以上に彼女は強くなっていた。

折れた足をかばうように松葉杖をついて歩くトニーは、全身ボロボロだった。だが、ペッパーは…。あの驚異的な力を…それは彼女が望んで手に入れた力ではな いのだが、結果的に彼の命を救うこととなり、そしてペッパーはアーマーを身に付け闘うトニーの気持ちもちょっぴり理解することができたし、これから彼のこ とを守ることもできると少々喜んだのだった。

「どうするかなぁ…」
幸いにも、マリブ以外にも居のある二人は、トニーの退院後、NYに来ていた。
NYという街をそして出来事を思い出すとパニックになっていたトニーだったが、あの闘いを通して乗り越えることができたのであろう。発作に襲われることなく、タワーの下に広がる街をペッパーと見下ろしていた。

「ジャーヴィスは無事だ。ここにもシステムを構築していてよかった。だが…」
そこまで言うとトニーは黙ってしまった。あの攻撃のことを思い出したのであろう。顔を顰めたトニーは、ひょこひょこと足を引きずりながら歩き出した。肩を支えるように寄り添ったペッパーは、トニーをソファーに座らせた。

トニーが気にしているのは、もう一人の相棒。自身が作り上げ賞まで獲得した最初のロボット。
「ダミーは?」
トニーの代わりに口に出されたペッパーの言葉。その名前を聞いたトニーは、思わず顔を伏せた。
最後に見た相棒の姿…。悲痛な悲鳴をあげ、海に沈んだダミー…。
いや、ダミーだけではない。コレクションだった車も、ペッパーと共に集めた美術品も…今まで築き上げたものが何もかも海の藻屑と化してしまった…。
だが、どれも時と金があれば再び元に戻せるだろう。それに思い出は胸に残っている。感傷に浸るつもりはない。だが、あいつだけは…。

トニーの気持ちが痛いほど分かるペッパーは、トニーの腰に手を回し抱きついた。
「仕方ない。過去は振り返らない主義だから。だが、あいつは…足が治ったら、迎えに行ってくるよ」
しばらくペッパーの頭と背中を撫でていたトニーだったが、彼女の肩を掴むと顔をあげさせた。
「君は大丈夫か?その…」
あの時見たペッパー…。燃えるような瞳をした彼女は怒りに満ちた表情をしていたが、それはそれでいつもは身を潜めている強さと凛々しさが溢れ出し魅力的だったのだが…すっかり身を潜め、目の前にはいつもの彼女の静かな瞳があった。

心に決めた女性。そして強い心を持ち、トニーの心を魅了してやまない唯一の女性は、ぎこちない笑顔を浮かべた。
「えぇ…。大丈夫だと思うわ…。でも…あなたは平気?私は…その……とても変わってしまったわ…」
恐ろしい姿を見せてしまった。彼を守るためと雖も…。
泣き出しそうな瞳は不安でいっぱいだった。
ペッパーの目に浮かんだ涙を指先で拭ったトニーは、額に口付けをし、潤んだ瞳をまっすぐ見つめた。
「ペッパー…君は変わらないさ。君は昔から強かった。それがほんの少し強くなっただけさ…。私は構わない。人間は進化するものだ。その過程だと思えばいい のさ。だが、もし君が以前の君に戻りたいなら…。この間も言ったが、必ず解決策はある。必ず見つける。私の得意分野だから。心配するな。大丈夫だ…」
自分も人とは違う部分を持っている彼…そしてそのために苦しんできた彼の言葉だからこそだろうか、ペッパーの胸に染み渡った。
「うん……」
抱き合った二人は自然と唇を近づけた。
しばらく唇と触れ合う身体の温もりを堪能していた二人。
銀色の糸を引きながら唇を離すと、トニーはペッパーの華奢な身体を抱きしめ耳元で囁いた。
「ペッパー…君が欲しい…」
最後に身体を重ねたのは、あの事件が起こる前。久しぶりの逢瀬に、二人ははやる気持ちを押さえきれなかった。

「と、とにー……」
ペッパーの息が荒くなり始め、怪我をしているトニーの負担にならないように、ペッパーはトニーの上になった。
「は、はやく…」
久しぶりに触れる彼女の身体は熱く…いつも以上に熱いのが気になったトニーだったが、自分の熱い塊を秘部に押し当てた。
目をキュッと閉じて押し寄せる波に耐えようとするペッパー。ペッパーの腰に触れた手が燃えるように熱く感じたトニー。
(ん?いつもより感じてるのか?)
ふと疑問に思ったトニーだが、ペッパーはすでに息絶え絶え。
「ペッパー…い、いつもより…きついな…」
トニーのものを咥え離さないペッパーは、腰を振り始めた。
「す、すごいの…あぁ!!」
パッと目を開いたペッパーの瞳は赤く燃え上がっており…それはあの時見た目と同じだった。
「ぺ、ペッパー?!」
腰に当てた手が燃えるように熱い。掌を見ると皮膚が赤くなっている。ペッパーの頬も首筋も赤く燃え上がっており、トニーが少々危機感を覚え始めたその時…。トニーの右胸と左肩に置いていたペッパーの手に力が入り、グッと圧迫した。

ボギっ!!
鈍い音と共に、トニーの口から悲鳴があがった。
「と、トニー?!」
トニーの悲鳴で我に返ったペッパー。赤く燃え上がった自分の腕を見たペッパーは、慌てて身体を離した。
「…す、凄い力だな…」
肩を押さえたトニーは、身を縮め脂汗をかいている。
「ご、ごめんなさい…」
怒りさえ抑えれば大丈夫だと思ってたのに…。感情が高ぶるとダメなの…?
それなら…私はこれからも、彼のことを傷つけてしまう…。

ヒビどころか、ポッキリと折れてしまった骨。翌日、手を吊って病院から戻ってきたトニーにペッパーは涙を流しながら謝った。
「トニー…やっぱり私……」
元に戻るまであなたのこと触れない…その言葉をいう前に、トニーはペッパーの唇を奪った。
「なぁ、ペッパー?言ってなかったかもしれないが、私は強い女性が好きなんだ」
ニヤッと笑ったトニーに、ペッパーは泣きながら微笑んだ。
「あなたのこと守りたいの。今までは守ってもらってばかりだったけど…。これからは…あなたの力になりたい…。だって…私にはあなたしかいないの…。でも…あなたを傷つけたくない…だから…」
「そうか…」
とつぶやいたトニーは、嬉しそうに笑った。そしてトニーもペッパーに伝えることがあった。
「私も決めたんだ」
そう言いながら、トニーはペッパーの手を取り、リアクターの上に乗せた。
「君を治したら、これを取るよ」
それは、トニーの心臓を守るべき装置。
「え?リアクター?で、でも…それがないと、あなたは…」
死ぬのよ?その言葉をペッパーは言えなかった。
ペッパーの頬を撫でたトニーは、ニッコリ微笑んだ。
「手術を受ける。胸に残った破片を取る手術を。香港に知り合いの心臓外科医がいるんだ。一度勧められたが、これは私の一部だ、生きる術であり証だからと、突っぱねたんだ。だが、もうなくても大丈夫だ。これがなくても、君がいるから生きていける…。前へ進もう、ペッパー」
「トニー…」
彼は変わった。
スーツに囚われていた彼を解き放ったのは、何だったのだろう。全てを失ったから?何が一番大切なのか気づいたから?そしてそれは…永遠に私であり続けたい…。
「一緒に来てくれるか?」
「もちろんよ…」
まるで二度と離れないというように、固く手を握り合った二人は、NYの街を見下ろしいつまでも抱き合っていた。

二か月後。バナーに協力を求めたトニーは、マヤの研究を夜通し解析し、ついにペッパーの治療法を見つけた。
『彼女はすでに完璧なんだ』
あの時、キリアンに向かって言った言葉。トニーのその言葉通り、パワーを失ってもペッパーはトニーにとって完璧だった。
彼女を抱きしめたトニーに、ペッパーは恐る恐る尋ねた。
「もう恐れなくてもいいのよね?あなたを傷つけることもないわ…」
目に涙を浮かべたペッパーは、トニーのリアクターに口付けし囁いた。
「思いっきり愛して…」

***

そして二人は、一カ月後香港にいた。
オペ台に横たわるトニーを、ペッパーとそして心配になり付いて来たローディは見つめている。
二人の視線に気づいたトニー。麻酔をかけられる前に、安心させるように親指を立てた。
(新しい人生への旅立ちだ…。大丈夫…必ず戻るから…ペッパー)
目を閉じたトニーの胸元からリアクターと、そしてあの忌まわしい破片が取り除かれた。

トニーは、あの日-生まれ変わった日以来ずっと胸にあった恐怖を、やっと克服することができたのだった。

***

そして一か月後。退院したトニーは、100万ドルの夜景と言われる香港の夜を見ながらペッパーにプロポーズした。
首にかけたハートのネックレスには、赤く燃えるようなルビーが光っていた。そしてその周りには…彼の中にあった欠片。
「私の全ては君だけのものだ…」
夜景が写りキラキラと輝くペッパーの瞳を見つめたトニーは、腕の中に最愛の女性を閉じ込めた。
「愛してる…ペッパー…。ずっとそばにいてくれ…。私が帰るべき場所は…君だから…」
胸元に押し当てた耳に、トニーの心音が聞こえた。初めて聞くトニーの鼓動。それはトニー・スタークが生まれ変わった…そして生きている証。
「ドキドキしてるの?」
顔をあげたペッパーの目から涙がすっと零れ落ちた。
「あぁ…君が抱きついているから」
涙を指で拭ったトニーは、ペッパーの頭を再び胸元に押し付けた。
シャツの隙間からは、胸元に残った大きな傷跡が覗いている。
唇をそっと寄せたペッパーは、囁くような声でトニーに告げた。
「トニー…愛してるわ…。私は永遠にあなただけのものよ…」

***

それから数ヶ月後。
マリブには、すっかり整備された元の邸宅に佇むトニーの姿があった。
地下の格納庫への入り口だった場所には、草が生い茂り、トニーはそっと硬いコンクリートを撫でた。
岸壁へ向かったトニーは、手に持っていた袋から、大切だった物を取り出した。今まで命を繋いでいたリアクター。自分の一部だったリアクター。生きる術であり、自分の存在を誇張する証でもあったリアクター。
だが、もうこれは必要ない。
私は感傷に浸らないんだ…。

トニーは、リアクターを思いっきり海へ向かって投げた。キラキラと光る海に…トニーの築き上げてきた物が眠る海に、それは弧を描きながら消えて行った。

「ここも建て直すか…」
だが、その前に…あいつを連れて帰らないと…。
片隅に置かれた瓦礫の中に彼はいた。
「ダミー、迎えに来た。遅くなって悪かったな」
愛おしそうに撫でるが返事はない。
「すぐに直してやるぞ。また手伝ってくれ。お前の力が必要だ」

ダミーだったものを抱えると、トニーは車の後ろの台車に乗せた。

全てを失ったが、必ず全て元どおりにしてみせる。
なぜって?
私は、アイアンマンだからだ。

初見時に書いたアイアンマン3のラストシーン~のトニーとペッパーの妄想話です。

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