Fall④

数日後、ペッパーから『トニーが喋れるようになった』と連絡を受けたナターシャとクリントは、早速病院へと向かった。

「よう、スターク。喋れるようになったって本当か?」
背中に置いた枕に寄り掛かったトニーは、二人の姿を見ると眉を潜めため息をついた。
「煩いのが来たぞ、ペッパー」
わざとらしく顔を顰めているが、その目は煌めいており、そして声も小さいが、そこにいたのは軽口を叩くいつものトニーだった。
「よかったわ。一つずつだけど、良くなってきてるって証拠よ」
笑みを浮かべたナターシャは、ペッパーに土産にと持ってきたケーキを渡すと、ソファーに腰を下ろした。

ベッドサイドの椅子に腰を下ろしたクリントは、ちらりとトニーの右腕を見た。
だらりとベッドの上に置かれたトニーの右腕。その指先は先程から全く動いていない。
「どうだ…その…」
視線を上げたクリントは言いにくそうに口籠ったのだが、トニーは肩を竦めた。
「まだだ…。相変わらず自分の手足ではないようだ。困ったものだ。ペッパーを可愛がってやれないからな」
「トニー」
ペッパーに可愛らしく睨まれたトニーは、彼女に見えないように舌を出した。

暫くの間、チームの近況を語っていたクリントだったが、トニーがペッパーに手伝って貰いながらケーキを食べ終わった頃、思い出したように話題を変えた。
「キャプテン、来たか?」
クリントの言葉にトニーは首を傾げた。そういえば、全員で見舞いに来て以来、スティーブだけが姿を見せていない。
今まで何度も入院したことはあるが、見舞い如きで遠慮するようなスティーブではない。あまりに遠慮がなさすぎて、ペッパーと良いムードになっている時ですらも、ズカズカと乱入されたことは幾度もあるくらいだ。
「そう言えば、じいさんが来たのは1度だけだ。ブルースは1日ごとにやたらと来る。別に何をする訳ではないが。来るのはいいが、私が気を利かせて話をしていてもすぐに居睡りを始める。そうだ、あの神様ですら2日に1回は来る。神様は、見舞いの品を根こそぎ食べに来るんだが…。だが、じいさんはお前たちが揃って来た時以来、見ていない」
クリントとナターシャは顔を見合わせた。二人の間の微妙な空気を感じ取ったトニーは訳が分からず目をクルリと回した。
「何か理由があるの?」
気になっているのに理由を聞かないトニーにしびれを切らせたペッパーは、目の前に座っているナターシャに尋ねた。
珍しく迷っている様子のナターシャだったが、クリントに白状する気がないと悟ると、重い口を開いた。
「スターク、キャプテンは後悔してるの。あなたに合わせる顔がないって…」
「は?後悔?じいさんがか?」
一体あの堅物は何を後悔しているのだろうか。ますます訳が分からなくなったトニーは眉間に皺を寄せた。
「そう、後悔してるの。あの時、あなたと最後に会話をしたのはキャプテンでしょ?だから…」
口ごもったナターシャの言葉を続けるように、今度はクリントが話し始めた。
「キャプテンはお前に止められていても、あの時行けばよかったと思っている。自分があの時駆けつけていれば、お前は死にかけることはなかったと…。だから今お前が寝たきりになっているのを見るのは、お前やペッパーに申し訳が立たないと、責任を感じているんだ。」
(あれは誰のせいでもないと言ったはずだ…)
気付かれないようにため息を付いたトニーは、困惑した表情で自分を見つめているペッパーの手をそっと握った。その手を握り直したペッパーは小さく頷くと、トニーの気持ちを代弁し始めた。
「スティーブのせいじゃないわ。いいえ、今回の件は誰のせいでもないわ。それはトニーもずっと言ってることだし、あなたたちが最初にお見舞いに来てくれた時に言ったはずよ?誰もこの件で責任を感じる必要はないって。そうよね、トニー?」
泣き出しそうなペッパー、そして視線を伏せてしまったクリントとナターシャ。それらを捉えたトニーは、
「…じいさんらしいな…」
と呟くと、何か考え込むようにそれっきり口を閉ざしてしまった。

⑤へ

最初にいいねと言ってみませんか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。