もうすぐリレーが始まる。
だが、トニーは姿を見せなかった。
「パパ…やっぱり来たくないのかな…」
ポツリと呟いたエドワードだがら母親と妹とハッピーとそしてハーレイが手を振っているのに気づくと、零れ落ちそうな涙を乱暴に拭くと無理矢理笑顔を作った。
一年生のエドワードは、第一走者だ。
スタートラインに並んだその時、観客席が突然どよめき始めた。みんな頭上を指差し、必死で写真を撮っている。
どうしたんだろうと、空を見上げたエドワードの目に、アイアンマンの姿が飛び込んできた。
「アイアンマンだ!」
目を輝かせ喜ぶ生徒たちだが、あの中には誰も入っておらず、父親が遠隔操作をしていることを知っているエドワードは顔を伏せた。
地上に降り立ったアイアンマンは、黄色い声を上げる観客席に向かって手を振りながらエドワードに近づいてきた。
「エドワード。間に合ってよかった」
頭上から聞こえる父親の声に顔を上げたエドワードは、驚きのあまり言葉を失った。目の前にはマスクを脱いだアイアンマン…即ち、父親がいたのだ。
「パパ……どうして……」
父親は二度とアーマーを着られないはず。それなのにどうして目の前にいる父親はアーマーを着ているのかと、目を白黒させるエドワードの頭をトニーはくしゃっと撫でると、アーマーを脱いだ。小さなブリーフケースとなったアーマーを持った父親は、ポロシャツとクロップドパンツを着ており、そしてあの事故の前に家族4人で作った揃いのスニーカーを履いているではないか。
父親は義足を付けていない。どうしてかは分からないが、父親の足は元に戻っている。
「パパ…足……」
次第に浮かんできた息子の涙を拭ったトニーは、鼻を擦るとニヤリと笑った。
「何もしないで諦めるなんて、パパらしくないだろ?パパに奇跡が起きたんだ。ママとお前とマリアが毎日お祈りしてくれたおかげだ。エドワード、パパはもう大丈夫だ。元気になったぞ。この後、パパと走るんだろ?でもまずはリレーだな?お前がどれくらい早く走れるのか、パパにしっかり見せてくれよ?」
「うん……」
抱きついてきたエドワードの背中を撫でたトニーは、駆け寄ってきた子供たちに握手をすると、小走りでペッパーたちの元へ向かった。
「トニー…」
成功したのねと泣きじゃくるペッパーを抱き締めたトニーは、マリアを抱き上げると、席に着いた。
横にいるハーレイも泣きながらトニーの背中をポンと叩いた。本当なら感謝の言葉を口にすべきだろう。あの時、7年前と同じようにハーレイの言葉に救われた。あの言葉がなければ、自分は今こうやって家族と一緒にいなかっただろう。だが、言葉にしなくても伝わっている。なぜなら自分たちは繋がっているからだ…。
スタートの合図と共に、エドワードが走り出した。
颯爽と走る息子の姿に、トニーの胸は熱くなった。
「ハニー…よかった…この場にいることができて…」
「うん…」
トニーの涙ぐんだ声に新たに小さな涙を零したペッパーは、そっと彼の肩に頭を寄せた。
その後、障害物競走に出場したトニーだが…。
スタート時には1位だったのに、指定された物を『手渡しは嫌いだ』と受け取らず駄々をこね、結局最下位。
ママと走ればよかったと口を尖らせたエドワードだが、順位はどうでもよかった。以前のように父親と一緒に走れたこと、父親が心から楽しそうに笑っていること、それがエドワードにとって何よりのことだったのだから…。
【後書き】
『IM3後、トニーとハーレイの話』でリクエスト頂いたお話です。
トニーとハーレイと言うと、『トニーがどん底、エクストリミス、ポテトガン、「トニーはメカニックだろ?何か作れば?」』というキーワードが思い浮かんで、トニーどん底がこういうお話になってしまいました(汗)