048.色仕掛け(ナターシャ視線のトニペパ)

「聞いた?あのトニー・スタークが来るらしいわよ!」
「うそ!何とかお近づきになれないかしら!」
アイアンマンことトニー・スタークがS.H.I.E.L.D.の相談役になった数日後。
スタークの内偵という仕事を終え、次の任務の準備をしていたナターシャ・ロマノフは、同室の女子職員が色めき立ったのを聞くと、肩をすくめた。
トニー・スターク。天才・金持ち・プレイボーイと名高い彼は、自己中心的で協調性がなく、とてもじゃないが組織の一員としてはふさわしくない。だが、アイアンマンとしての彼は、S.H.I.E.L.D.にとって役立つ…。
そう結論付け、ボスであるニック・フューリーに報告したのは、他でもないナターシャだった。
そしてもう一つ。新たにスターク社のCEOとなったペッパー・ポッツの秘書として潜入していたナターシャは、任務を終えそのまま去るつもりだったのだが…。

「え!!あなた、エージェントなの?!」
彼女の元上司であるペッパー・ポッツは、目を見開き口をポカンと開け固まってしまった。
「そうだ。S.H.I.E.L.D.のエージェントだ。私を見張りに来ていたんだ。結婚するから辞める?そんなのウソだ。調査は終わった。だから辞める…そういうことだ」
ペッパーの隣に座ったトニー・スタークは頭を掻くと大あくびをした。
「調査?トニー、どういうことなの?」
どうしてそういうことになっているのか訳が分からないペッパーは、困惑した表情をしている。
「話せば長くなりそうだ。それは後でゆっくり話す。ベニス行きの飛行機の中か…それともベッドの中がいいか?とにかく、ロマノフくん…彼女はナターシャ・ロマノフだ。ナタリーなんて名前は嘘だ。いや、そのことはいい。ロマノフくんは今日限り辞める。いいな、ペッパー。新しい秘書は候補をリストアップさせている。休暇から帰って来たら、選べばいい」
ペラペラと喋ったトニーは何か言いたげなペッパーにキスをすると、立ち上がった。
「では、ロマノフくん。失礼するよ。これから二人きりの休暇なんだ。世界を救ったんだ。1週間くらい休んでも許されるだろ?それに、あのハゲ親父に伝えておけ。彼女との関係は良好だと。良好すぎて彼女なしでは私は生きていけないと」
ニヤッと笑ったトニーは、顔を真っ赤にしたペッパーにキスをしながら部屋を出て行った。

あの時のやり取りを思い出したナターシャは、自然と笑みを浮かべた。
お互い気持ちは一緒なのに、不器用な二人は素直になれなかった。それがあの事件で、二人はお互い素直になり、そしてトニー・スタークも変わった。彼がふさわしくないと評価したのは、アイアンマンという重圧を背負っていない時は二人きりにさせてあげたいという気持ちが少しはあったのかもしれない。

遠くから黄色い声が聞こえてきた。どうやら噂の彼が到着したらしい。
顔を合わせる前に出発しようと、ナターシャは腰を上げた。

「今のスタークに色仕掛けは通用しないわよ。ご愁傷様」
すれ違いざまに呟くと、興奮していた女性陣はがっくりと肩を落としたのだった。

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