6月のある日。久しぶりに地元に帰って来たペッパーは、高校の同窓会にやって来た。
子供は実家でトニーと留守番中。
20年ぶりに会う同級生だが、みなの興味はやはり彼女の旦那であるトニー・スターク。
テレビで本当か嘘か分からないような数々の話が報道はされているが、やはり本人の口から聞きたいと、ペッパーの周りには人だかりができていた。
ひとしきり話が終わった頃には、同窓会はお開きの時間になっていた。
携帯を見ると、メールが一通。
『もうすぐ終わるだろ?迎えに行くから待ってろ。T』
というメッセージと共に、写真が一枚。母親が撮影したのだろう。実家の庭で泥だらけになって遊ぶ夫と娘の姿に、ペッパーは思わずくすっと笑った。
「そういえば、あなたたちって、結構な年の差よね?」
席を立ち上がろうとしたペッパーに、隣に座っていた同級生が声を掛けた。
「え?そうね…そう言えば…」
(言われてみると、結構離れてるわね…あまり意識したことはなかったけど…)
と、ペッパーが思っていると、同級生たちは驚きの声を上げた。
「ご主人、若く見えるわよね」
「下手したら世代が違うでしょ?話が合わなかったりしないの?」
世間から見るトニーって、そんなに大人の男性なのかしら?
確かに大人な面もあるけれど、どちらかというと私の前では子供っぽい面ばかり見せている気がする。
私がいないと眠れないと言うし、好き嫌いは多いし、病院は嫌いだし、ドーナツや所謂ジャンクフードが好きだし、平気で子供と張り合うし…。
それに、話が合わないなんてとんでもない。付き合いが長いせいか、お互いの好みも知り尽くしている。それにお互いに自分の世界を大切にしているし、共有できることは共有するが、相手に無理強いするようなことは決してない。
「そうかしら?そんなことないわよ」
小首を傾げながら言うペッパーに、女性陣は口を揃えて言った。
「いいわねー、仲が良くて。羨ましいわ…」
喧嘩なら山ほどした。でも、失いかけるたびにお互いがかけがえのない存在だと再確認してきた。
(夫婦ってそういうものじゃないのかしら?)
そんなことを考えながら会場の出口へ向かっていたペッパーだが、
「ポッツさん!」
と呼ばれ振り返った。
「えーっと……」
おそらく…いや、この場にいるのだから間違いなく同級生なのだが…見覚えのない三人の男性がペッパーに近寄ってきた。
「20年ぶりだろ?せっかくだから飲みに行かないか?」
馴れ馴れしくも肩を抱き寄せようとした男性から逃げるように身をよじったペッパーは
「ごめんなさい。主人が待ってるんです」
と、足早に出口へと向かった。だが、みんな一斉に帰ろうとしているのだから、出口は大混雑。モタモタしていると先程の男性たちが再び近寄ってきた。
実は彼らは高校時代、ペッパーのファンだったが告白どころか存在すら認識してもらえぬまま卒業。その後何とかしてスターク・インダストリーズと取引のある 会社に就職したが、社長秘書であるペッパーと会えるはずもなく、そうこうしているうちにスターク・インダストリーズとは取引がなくなってしまったのだ。別 にトニー・スタークから奪おうという気はさらさらない。自分たちも結婚しており、ペッパーにも家庭があるからだ。ただ、話しをして友達になりたかった。高 校時代のマドンナであるヴァージニア・ポッツと…。
「ポッツさん、冷たいこと言うなよ。久しぶりの同窓会なんだから遅くなってもいいってご主人も言うさ」
さりげなくペッパーの腰に手を回した男の一人は、半分酔っ払っているのか、鼻の下を伸ばしてペッパーに顔を近づけた。
酔っ払ったトニーがよく同じようにキス…いや、それ以上のことを求めてくるが、それとこれとは話は別。しかもペッパーにはもう一つ不安なことがあった。それは彼女の夫は非常に独占欲が強いこと…。
人混みに押されるように外へ出たペッパーたち。こんな時こそアーマーがあればいいのに…と、何とか男を引き離そうとペッパーは奮闘した。
「主人が迎えに来るんです!だから…」
その時、ペッパーの目の前に怒り狂ったエンジン音を響かせながら、一台の車が急停車した。まだ市場には出回っていない真っ赤な最新型のAudi。こんな間近で見れるなんて!と、車好きな連中は慌てて携帯を取り出した。
「あ、危ないなぁ…。ポッツさん、大丈夫か?」
「えぇ…」
大丈夫もなにも、この会場に来る時も…いや、その前のLAから来る時も自分はこの車の助手席に乗っていたのだ。そう、その車の主は……。
「ママー!」
後部座席の窓が開き、小さな女の子が顔を覗かせた。
「あら、エストも迎えに来てくれたの?」
「うん!」
チャイルドシートに乗っているため動けないエストだが、馴れ馴れしくも母親の腰に手を回している男を笑顔で睨みつけると運転席の人物に向かって何事か囁いた。
すると、運転席のドアが勢いよく開き一人の男性が姿を現した。途端に辺りは黄色い歓声に包まれた。
そう、ヴァージニア・スタークの夫であるトニー・スターク。
見るからに高級なスーツを着た彼はサングラスを掛けているが、それを通り越して不機嫌なのが分かるほど。
男たちはその迫力にペッパーから手を離すと後ずさりした。
「トニー!」
嬉しそうに駆け寄ったペッパーは腕を広げたトニーの胸元に飛び込んだ。軽々と妻を抱き上げたトニーは、彼女の頭を抱え込むと、普通の人なら公衆の面前では しないような濃厚なキスをし始めた。手慣れたもので、ペッパーも夫の頭を抱きしめると、身体をすり寄せそれに応える。いつものことなのか、小さな娘はニヤニヤしながら眺めている。
周りのギャラリーが呆気に取られていると、やっと唇を離した二人は見つめ合った。
「あら?どうしたの?スーツなんか着て?」
「あぁ、そのことだが…」
打ち合わせでもしていたのか、トニーが目配せすると窓から顔を覗かせたエストが大きな声で叫んだ。
「あのね!ごはんたべにいくの!それからね、ほてるにおとまりするのよ!」
「そうなの?あら、楽しみね」
平然と応える母親と親子揃って同じようにニヤニヤと笑う父と娘。
メディアを通して見るトニー・スタークは、大人な男性だと思っていたが、これでは子供が二人いるのと変わりない…ポッツさんは大変ね…と、その場にいた全員が思ったとか思わなかったとか…。
誰一人帰ろうとしない中、助手席に妻を押し込んだトニーはそそくさと運転席に乗り込み車を発進させた。
だが、トニーもペッパーも忘れていた。後部座席の窓が開きっぱなしであることに…。
「エストははやくねんねするからね、パパとママ、なかよくしてね!」
大きな声で嬉しそうに言う子供の声をバックに、真っ赤なAudiは某然と立ちすくむ人々を残し立ち去ったのだった。
***
ペッパーは同窓会へ行っても、もれなくトニーが付いてきそうです