「何だか緊張するわね…」
隣に並んだトニーの手をギュッと握ると、トニーは笑いながら
「捕って喰われるわけじゃないだろ?」
と言いつつ、そっと頬にキスをおとした。
「さぁ、行くぞ…」
トニーはペッパーの手を握り直すと眩い光に向かって歩き出した。
「スタークさん!式はいつですか?」
「ミス・ポッツ、プロポーズの言葉は?」
プロポーズから1週間。最初は会見なんてするつもりはなかった。だが、何かと注目されるこの二人。世間が放っておくはずもなく、プロポーズの翌朝からマス コミに追いかけられその度に質問攻め。質問と言っても笑って過ごせるようなものばかりではなく、言葉を失うような質問もあり、それが日夜問わず続くのだか ら、二人とも…特にペッパーが参ってしまい、こうして会見を開くことになったのだ。
「まぁ、待ってくれ。順番に答えるから」
矢継ぎ早に浴びせられる質問を沈めるように大声を出したトニーに大勢の目が向けられ、あたりは静まり返った。
「それでは、始めようか。まずは、私から一言。このたび、ここにいるミス・ポッツと婚約した。式の日取りなどはまだ未定だ…。以上だ」
トニーの言葉にフラッシュが一斉にたかれると同時に記者たちは我先に質問をし始めた。
「スタークさん、おめでとうございます。ありきたりの質問なのですが、ミス・ポッツを選ばれた理由は?」
「ミス・ポッツ。プロポーズの言葉を教えてくれませんか?」
「指輪も見せてください!」
「お互いどんなところに惹かれたんですか?」
「お子さんは何人くらい欲しいですか?」
こういう会見に付きもののありきたりな質問に答えていく二人。トニーがジョークを言い、真っ赤になったペッパーがトニーの肩を叩くという微笑ましい光景もあり、その場が幸せな笑いに包まれたまま会見は終了すると思われたのだが…。
「では次で最後にさせていただきます。他に質問は…。そちらの方どうぞ」
司会をしていた女性が一番後ろに座っていた男性を指差した。
ゴシップ誌の記者だろうか。ニヤニヤと下衆な笑いを浮かべた男はゆっくりと立ち上がるとよく通る声で質問し始めた。
「スタークさん。夕方のトップニュースは独占ですね」
「は?なぜだ?」
「あのトニー・スタークが婚約ですよ!プレイボーイで常に違う女性といらっしゃったのに。そのスターク氏のハートを射止めたミス・ポッツに質問です。不安じゃないんですか?」
「ふ、不安って…?」
「スターク氏が浮気をしないかですよ!」
「そ、そんなことありません!トニーは私のことをとても大切にしてくれるんです!」
「でも、あなたじゃ満足できなくなるかもしれませんよ?それとも…ミス・ポッツの抱き心地は最高なんですか?スタークさん?」
「…」
何と答えていいか分からないペッパーは黙ったままのトニーの横顔を見つめた。トニーはサングラスで目元を隠しているが…。眉間に皺を寄せたトニーは、口をへの字に曲げ耳は赤くなっている。
(怒っているわ…それもとてもね…)
「トニー…ダメよ。怒ったら…。思うツボよ…」
「分かってる…」
大きく深呼吸したトニーは立ち上がると先ほどの質問をした記者の方を向いた。
「なぜ君たちに私たちの極秘事項を話さないといけないんだ?それとも…ここで私がどれだけ彼女を愛しているか、実践しようか?」
ペッパーの方にくるりと向いたトニーは、ペッパーの腰を引き寄せると、
「愛してる…」
と囁き、唇を奪った。
軽く触れるようなキスではない。逃げまどうペッパーの舌に自分の舌を絡めたトニーは、ペッパーを抱きしめた。トニーの甘い囁きと口づけに、最初は抵抗していたペッパーもいつしかトニーの頭を両手で抱きしめ髪を指で梳いた。
最初はスクープだと言わんばかりに写真を撮っていた記者たちも、あまりに長い二人だけの時間にいつしか写真を撮ることもやめ、お互い顔を見合わせると真っ赤になった。
やがて、甘く情熱的なキスにペッパーの身体から力が抜けたのに気付いたトニーは、腰が砕け一人では立っていられなくなったペッパーを抱きしめた。
やりすぎたか?
上気した顔で目を潤ませたペッパーはとても他の人間…特に男性に見せられるものではなく、トニーは背後にペッパーを隠すように立ちはだかった。口を開け真っ赤になっている記者たちをぐるりと見渡したトニーは、手をポンポンと叩くと
「質問はないな。以上で会見は終了だ」
と言い放ち、動けないペッパーを抱きかかえ、颯爽と会見場を後にした。
*****
その夜、途中で気絶してしまったペッパーをベッドに残し、トニーはリビングへと降りて行った。ソファーに座りテレビを付けたトニーは新聞を読み始めた。
『…トニー・スターク氏の婚約会見が行われました』
名前呼ばれ顔をあげたトニーの目に、今日の会見の様子が飛び込んできた。しかもご丁寧にノーカットで…。
しまった…お茶の間にペッパーのあの表情が流れてしまった…。
理由はどうあれ、青くなっているトニーにジャーヴィスがからかう様に声を掛けた。
『トニー様、やりすぎましたね』
「ジャーヴィス…ペッパーには見せるなよ」
『…無理だと思いますが、努力します』
「お前に不可能はないだろ?絶対に見せるな」
頭を掻きながら立ち上がったトニーは、愛する女性を抱きしめるために寝室へと戻って行った。
この後、ペッパーに見つかって怒られるトニー