Love Death Birth(2012ハロウィ ン企画第二段。吸血鬼社長×人間ペッパー)

トニーが目を覚ますと、薄暗い見知らぬ部屋に寝かされていた。
ズキズキ痛む頭を押さえ起き上がる。
「ここはどこだ…」

昨晩は一人でパーティーに出かけ(ペッパーは体調が悪く家で留守番していたのだ)、いつの間にか盛り上がり…浴びるように酒を飲んで…絶世の美女に声を掛けられて…カウンターで飲んで…。そこからの記憶が曖昧だ。

時計を見ると昼近くだ。
しまった…連絡もせずにペッパーはさぞ心配しているに違いない…。
とにかく帰ろうと立ち上がったトニーだが、激しい眩暈に襲われ座り込んでしまった。
「二日酔いにしては…ひどいな」
ふと視線を感じたトニーは、後ろを振り返った。すると、昨晩トニーに声をかけたあの美女が、窓際に立っていた。
「トニー・スターク。気分はどう?私はリラよ。最初はあまり気持ちのいいものではないかもしれないけど。そのうち収まるわ。私ね、あなたが欲しいの。極上たって噂だし…。だから仲間になってもらったわ。さあ、私といいことしましょ?」
リラと名乗ったその美女はトニーに近寄ると唇にキスをした。
トニーは氷のように冷たいその唇に身震いしたが、何かの魔法にかかったように身体は動かない。
美女のなすがままに口腔内を貪られるトニー。
トニーの口の端から流れ落ちた涎をペロリと舐めると、リラはキスをしながらベッドにトニーを押し倒した。
シャツのボタンを開けトニーの胸元を開いたリラは、逞しい胸板に手を這わせた。
「あら?まだ人間なの?意外と時間がかかるわね…。これでは思いっきりあなたのこと愛せないわ…。だって、あなたの身体、壊したくないから…。残念だけど、もう少し待ってね…」
トニーの上から降りたリラは、軽やかな足取りで部屋を出て行った。

まだ人間?仲間になる?一体どういうことだ?
だが、ここにいてはあの美女に襲われてしまう…。

トニーは見つからないように部屋から逃げ出した。

真っ青な顔で身体を引きずるように歩くトニーを道行く人はみな心配そうに振り返った。
身体が燃えるように熱い…。
呼吸するたびに肺が焼けるような感覚を覚え、トニーは胸を抑え座り込んでしまった。
聴覚が異常に冴え、道を行く人々の話し声が全て頭の中に響き渡り、トニーは耐えきれず耳を塞いだ。

「大丈夫ですか?」
明らかに具合が悪そうなトニーに、一人の男性が声をかけた。
「…あぁ…大丈夫だ…。ありがとう…」

リアクターの調子が悪いのか?
声をかけてくれた男性にお礼を言うと、トニーは家へと急いだ。

歩いているうちに灼熱の業火にいるような感覚が落ち着き、トニーは大きく息を吐いた。だが、ジリジリと照りつける真夏の太陽の光に肌が焼けるように痛みだした。

一体何なんだ!
あの女は私に何か変なものでも飲ませたに違いない!

やっとの思いで家へ辿り着いたトニーは、寝室に向かった。
まぶしすぎる日の光を遮るように、カーテンを引くと、部屋は闇に包まれた。
あれほど熱かった身体なのに、今度はまるで冷凍庫に放り込まれたような寒気に襲われ始めた。ガタガタと震える身体を抑えながらトニーは毛布を何枚も引っ張りだした。頭から毛布を被ったトニーはベッドに倒れこみ、そのまま死んだように眠り始めた。

トニーからの連絡が途絶え丸一日。何度電話しても繋がらない。パーティー会場から出るトニーの姿は目撃されたが、その後の足取りは全く掴めない。
何か事件に巻き込まれたのかしら…。不安に押しつぶされそうなペッパーは、もしかしたら…という淡い期待を胸に、一度家に戻ることにした。

『ペッパー様、トニー様がお戻りになりました』
家へ着くなりジャーヴィスに言われたペッパーは、急いで寝室へ向かった。

トニーはベッドの上で眠っていた。
真夏なのに何枚も毛布をかぶっているトニーを見たペッパーは、具合が悪いのでは…と心配になった。
青白い顔をして眠るトニー。額を触ると、その肌は氷のように冷たい。
「こんなに体温低かったかしら…」
毛布をかけ直そうとしたペッパーは、トニーの首筋に小さな赤い斑点のようなものを見つけた
「何これ?」
不思議に思い指で触ると、何か鋭いものに噛まれた痕のようにも見える。ペッパーが顔を近づけ見ようとすると、トニーが目を覚ました。

目を覚ますとペッパーが目の前にいた。
「トニー?大丈夫?」
心配そうなペッパーの声がいつもより鮮明に頭に響く。いや、ペッパーの声だけではない。階下の洗濯機の音や近くのビーチではしゃぐ子供の声まで聞こえる。そして、ペッパーの心臓の鼓動がやけにはっきりと耳の奥で鳴り響いていた。
今まで経験したことのない感覚に、トニーは頭を抱えた。
「トニー?頭が痛むの?」
頭を抱えながら顔を歪めたトニーをペッパーは抱きしめた。
彼女から醸し出される匂いは媚薬のようにトニーの心を激しく揺さぶった。
ペッパーを抱きしめながら、トニーはなぜか分からないが、無性に首筋に噛みつきたくなった。
「大丈夫だ…。だが…」
ペッパーから放たれる香りを思いっきり吸い込んだトニーは、身体の奥底から湧き上がる欲望を抑えることができず、ペッパーを押し倒した。

ペッパーの服を乱暴に引き裂くトニーにペッパーは驚いた。
「トニー?!どうしたの?」
いつも優しいトニーなのに…。何かあったのかしら…。
目を白黒させているペッパーの唇をトニーは奪うと、ペッパーの舌を探し当て自分の舌と絡めた。ペッパーもいつものようにトニーの口内に舌を入れたが、トニーの歯に当たった拍子に舌が傷つき血が滲み出た
トニーの舌にペッパーの血が触れた。ほんのわずかな量だったが、それはトニーの新たに生まれた本能を掻き立てるのに十分だった。
ペッパーの傷口からにじみ出る血を求めるようにトニーは舌を吸い始めた。いつもとは違うトニーの行為に、ペッパーはトニーの胸を叩き抵抗した。だが、トニーは出血が止まるまで舌を吸い続けた。

トニーが唇を離すと、ペッパーはその先を求めるように欲情した視線をトニーに送ったが、トニーの目は燃え上がる炎のようにギラついていた。
トニーはペッパーの全身を舐め回すように見つめるとペッパーの中へ入り込んだ。
「?!」
いつもは燃えるように熱いのに、今日のトニーは凍えるように冷たい。ペッパーは抱きついたトニーの身体の冷たさと自分の中に入り込んだトニーの冷たさに身震いした。だが、いつもとは違うその感覚のせいか、いつも以上に激しい動きのせいか、ペッパーは今までに感じたことがないほどの快楽を味わっていた。

ペッパーの甘く妖艶な声とお互いの身体のぶつかり合う音は、トニーの脳内に響き渡り、トニーの欲望をさらに駆り立てた。

身体が耐えきれないほどの快楽を与えられたペッパーが意識を手放しても、トニーは執拗にペッパーを攻め続けた。何度も彼女の中に放っても、トニーの欲望は尽きることがなかった…。

数時間後…
トニーは気を失ったペッパーに毛布をかけると、床に散らばった服を着た。

私の身体はどうなってしまったんだ…。

喉の渇きを覚えたトニーはキッチンへ向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し飲み始めた。だが、いくら飲んでも渇きが癒されることはない。何本もあったはずのボトルを全て飲み干したトニーはバスルームへむかった。
水が張られたバスタブを覗いたトニーは、自分の顔に違和感を覚え、横にあった鏡を見た。鏡にうつしだされた自分の姿を見たトニーは悲鳴をあげた。
血の気のない青白い顔、犬歯は牙のように尖り、飢えた獣のように目をギラつかせた自分は…まるで…ホラー映画に出てくる……。
「あら?やっとお目覚め?」
聞き覚えのある声に振り返ると、リラがチェストの上に座りトニーの方を見ていた。
「どういうことか説明しろ!」
怒りに任せ手元にあった石鹸を投げると、それは壁にのめり込んだ。
「あら、ヤダ。もっと喜んでくれると思ったのに…。あなたは永遠の命を授かったのよ。それに人間では考えられないほどの力もね…」
「どういうことだ…」
青白い顔をさらに青くしたトニーに、リラはニコッと微笑んだ。
「あなたはもう逃れられないわよ。だってあなたはヴァンパイアに生まれ変わったんだもの…」

ヴァンパイア?!そんなものは想像の産物だと思っていた…。

「何てことをしてくれたんだ!誰がそんなものになりたいと頼んだ?!元に戻せ!!」
激怒するトニーを面白そうに見つめたリラは、手に持っていた物をトニーに投げた。
「残念ながら、元には戻れないわ。あなたは永遠にこのままよ…。それはそうと…そろそろ喉が渇いたんじゃない?その喉の渇き…血を飲まないとダメよ。飲んでみる?病みつきになるから…。」
「血だと?!だ、誰がそんなもの…」
リラはこれ見よがしに輸血用の血液を音を立てて飲み始めた。その甘い匂いはトニーの鼻腔をくすぐり、知らず知らずのうちにトニーは喉を鳴らしていた。
「ずいぶん物欲しそうな顔をして…。分かった!自分では飲めないのね?困った子…」
軽やかにトニーに近づいたリラは、血液を口に含むと、トニーに口づけをした。半開きになったトニーの唇の隙間から口の中の血液を流し込むリラ。
トニーの口腔内に入り込んだ血液は喉を潤し、その滑らかな喉越しの続きを求めるようにトニーは無意識の内にリラの口内を舌で舐めまわした。

甘い吐息を吐きながらトニーから離れたリラは、トニーの頬を撫でながら妖艶な微笑みを浮かべた。
「まだ欲しいんでしょ?一度味わったら抜け出せないわよ。人間の血は麻薬のようなものだもの。欲しかったら人間を襲いなさい。生きている人間の血は温かくて最高よ。特に愛する者の血はね…。そういえば、さっき少しだけど味わったんじゃない?極上でしょ?性欲も湧くしね…。だけど…」

耳元で囁かれたリラの言葉に目の前が真っ暗になったトニーは、変わり果てた自分を拒絶するように鏡に拳を叩きつけた。

粉々に割れた鏡の破片が降り注ぐ中、煙のように消えてしまったリラの笑い声だけがバスルームに残っていた。

「ん…」
目を覚ましたペッパーが辺りを見回すと、トニーはいなかった。

トニーったらどうしたのかしら…。元々激しい方だけど…今日の彼は明らかに様子がおかしい。
それに、あの氷のように冷たい身体…。

シャワーを浴びようとバスルームへ向かったペッパーは、目の前の光景に言葉を失った。
壁はひび割れ、鏡は叩き割られたように粉々になっている。そして床に点々と残された血痕…。
「トニー?!」
トニーに何かあったの?
家の中を探し回ったペッパーは、真っ暗な書斎の片隅に座り、震えるトニーを見つけた。

「トニー…?」
手探りで近づくと、何か柔らかいものを踏みつけてしまった。
「何これ…」
床に無数に転がる物を拾い上げたペッパーは息を飲んだ。
それは、中身のない輸血用の血液のパックだった。
「な、何でこんなものがあるのよ…」

トニーの元へたどり着いたペッパーは、頭を抱え丸くなっているトニーの肩を揺すった。
「トニー?ねぇ、何があったの?!」
ふと見ると、トニーの手には中身が半分ほどになった血液のパックが握られているではないか。

どういうこと?
なぜ彼がこんなものを持ってるの?

「ねぇ?トニーったら!何があったのよ!答えて!!」
黙ったままのトニーの肩を何度も揺さぶると、トニーは小声で呟いた。
「…ペッパー…この家から出ていけ…」
「え?」
「頼む…。二度と私に近づくな…。君を…危険な目に合わせたくないんだ…」
トニーの言葉を聞いたペッパーはショックのあまり倒れそうになった。
「…何でそんなこと言うの?私のこと…嫌いになったの?ねぇ!私のこと、見てよ!!」
やっとのことで声を絞り出したペッパーの目からは、大粒の涙が次々とこぼれ落ちた。
「嫌いになるものか!君のことは…世界一愛している!」
声を荒げたトニーは涙に濡れた顔をあげた。その顔を見たペッパーは悲鳴をあげそうになり、口を手で覆った。

「ペッパー…この姿を見ろ…。変わり果てた私を見ろよ…。これでも私を愛していると言えるか?私のそばにいることができるか?」
立ち上がったトニーは歩きながら手に持っていた血液を音を立てて飲み干した。トニーの口の端から流れ落ちた血液を、トニーは舌でゆっくりと舐めた。まるで、ペッパーに拒絶されることを望んでいるように…。
亡霊のようなトニーの姿に言葉の出ないペッパー。黙ったままのペッパーにトニーは自虐気味な笑みを浮かべた。
「当然だな…こんな姿の男には愛されたくないだろう…。ペッパー…お別れだ…」
さみしそうに微笑んだトニーの目には涙が浮かび、ペッパーに背を向けると先ほど座っていた場所に戻ろうとした。

待って…トニー…。私は…あなたを…。

気が付くとペッパーはトニーの背中に抱きついていた。
「そんなこと言わないで…。どんな姿でも…あなたが私の愛するトニー・スタークであることに変わりないでしょ?」
「…ペッパー…」
トニーは腰に回しされたペッパーの手をそっと握った…。

「ねぇ、トニー…。一体何があったの?」
外は朝日が登り始めていたが、太陽の光を極度に嫌がるトニーのために、分厚いカーテンを引いた薄暗い部屋の中、膝を抱えて座るトニーをペッパーは抱きしめていた。

最初は黙っていたトニーだが、あのパーティーの晩からの出来事をポツリポツリと話し始めた。
話を聞き終わったペッパーの顔は、溢れ出る涙で濡れていた。
「そんな!トニー…きっと元に戻る方法が…」
「ないんだ…。ジャーヴィスに調べさせた。だが…ないんだ…。いくら探しても見つからなかった…」
頭を抱え涙を流すトニーをペッパーはギュッと抱きしめた。
「トニー…。大丈夫…。私がついてるから…。あなたを愛する気持ちは変わらないわ…。だから…そばにいさせて?」
「ありがとう…。君の気持ちは…嬉しい…。だが…」

トニーの耳に、バスルームでのリラの言葉が蘇った。
『人間相手じゃ満足できないのよ…。あなたの欲望を満たそうにもあなたの愛する女性は人間。あなたの愛は…欲望は、命ある人間には重すぎるの…。いつかあなたの愛は彼女を壊してしまうわ…。』

「あの女に言われた…。私はいつか人間である君を壊してしまうだろと…。愛しているのに…君を愛することができない…。そばにいると…いつか君を襲ってしまうかもしれない…。ペッパー…人間である君を…私は…」

言葉を詰まらせたトニー。
トニーの頭を優しく撫でていたペッパー。彼女の心は一瞬揺れた。トニーへの愛を取るか…今までの自分であり続けるか…。だが、今の自分を捨ててでも護りたいもの…それがトニーへの愛だった。

簡単なことじゃない…。
何も悩むことなんてないじゃないの…。
彼が元に戻れないなら、私が彼と同じになればいいのよ…。

ペッパーはトニーの目をじっと見つめた。
「…トニー。ねぇ、私もあなたみたいになればいいのよ…。お願い…あなたと同じにして?」
まさかペッパーがそんなことを言うと思ってもいなかったトニーは驚き、声を荒げた。
「ペッパー!何を言ってるんだ!君は…人間ではなくなるんだぞ?!それがどういうことか…」
「分かってる!分かってるけど…あなたを失いたくないの…。私はあなたを失うのが一番怖いの…。あなたとなら…怖くない…。あなたとなら…どんな闇も乗り越えられる…。あなたに愛されるなら…私の魂は燃え尽きてもいい…。あなたと永遠にいられるなら…命なんか惜しくないわ…」
トニーの声を遮るように叫んだペッパーは、トニーの首に手を回し冷たい唇を奪った。
「愛してる…トニー…。これからどんなことが待ち受けていようと…私はあなただけを永遠に愛するわ…。だから…お願い…」
ペッパーはトニーの肩に頭を置き、首筋にキスを繰り返しした。

ペッパーのされるがままになっていたトニーだが、やがて重い口を開いた。
「本当にいいんだな?」
トニーの問いかけにうなずいたペッパーの唇に甘いキスを落とす。唇を首筋に移動させ、トニーは舐めるようなキスをした。
「永遠に…一緒にいよう…。ペッパー…。これからも永遠に愛してる…」

トニーはペッパーの白く美しい首筋にかぶりついた…。

ハロウィン2012年企画第二段。
吸血鬼社長×人間ペッパー。某ヴァンパイア映画の影響受けまくりです…。

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