彼女と指輪と僕と嫉妬

嫉妬のあまり酷いことをする社長

「トニー…もう…許して…」

涙を浮かべて懇願する彼女を私は無表情に見つめ続けた。

***

彼女が悪いんだ…。
その噂を聞いたのは偶然だった。彼女に結婚を考えている恋人がいる。その恋人とは当然私のことだと思った。

しかし、女性社員が彼女のお相手の話題で盛り上がっている場面に出くわしてしまった私が聞いたのは残酷な内容だった。
『ペッパー・ポッツには婚約者がいるらしい。お相手は、スターク社長ではなく別の男性。先日、某女性社員が宝石店で指輪を探している2人を目撃したそうだ。どうやら女遊びが激しかった社長に愛想をつかせたらしい』

所詮、噂は噂だ。真偽のほどは直接確認すればいい。

だが、行く先々でその噂を耳にし、哀れみの目で見られ続けていると、段々と冷静ではいられなくなり、帰宅する車中で彼女と顔を合わせた時には、すっかり噂を信じきってしまっていたのだ。

顔を強張らせ何も喋らない私に異変を感じたのだろう。
「トニー?何かあったの?」
帰宅しソファーに座るやいなや、ペッパーが心配そうに私の手を握り尋ねた。
私に触れた手を見ると、件の指輪ではなく、私が彼女に贈った指輪だけが光っていた。
「私が贈った指輪だな。」
その指輪を撫でながら、無表情に言うと、彼女は「当たり前でしょ?大好きなあなたがくれたものだから…」と不思議そうに答えた。
「大好きだと?私のことが?本当はあの男の方がいいのだろう!」
何も知らぬ風情を装った彼女の態度に思わず頭に血がのぼった。ギュッと彼女の頬を掴むと口腔内を貪り、ジャケットのボタンを引きちぎった。
「と、トニー!ちょっと!どうしたのよ!」
突然の私の暴挙に最初は抵抗していたものの、激しいキスを繰り返すうちに身体の力が抜け、そのうち抵抗しなくなった。

彼女は私のモノだ。いや、私だけのモノだ…。
心の底からフツフツと湧き上がるどす黒い感情を抑えることができず、彼女の心と身体に私だけを刻み込めば、彼女は私から離れていかないだろう…嫉妬という名の嵐の渦中にいる私は、もはや冷静に物事を考えられなくなり、私は一晩中嫌がる彼女に私を刻み続けた。

***
外が明るくなったころ、気を失った彼女を残しバスルームへと向かう。熱いシャワーを浴びながら鏡を見ると、そこには嫉妬に狂った男の顔があった。
「私は何をやってるんだ…」
例え彼女が選んだのが私ではなくても、彼女の幸せを願うなら潔く手を引くのが筋ではないか…

謝らなくては…すっかり冷静になり、昨晩彼女に行ったことに対する後悔の念を抱きながら寝室に戻ると、身体中に刻み込まれた昨夜の暴挙の証をシーツで隠すように座り込むペッパーの姿があった。
「ペッパー…」
静かに呼びかけ彼女に触れようとすると、彼女は肩をビクッと震わせ後ずさりした。その目は赤く腫れ、新たに涙が浮かんでいた。
「トニー…何でこんなこと…。私、何かあなたが怒るようなことした?」
身に覚えがないというのか…!高ぶる気持ちを抑えるように両手の拳を握り締め、何度か深呼吸をした。
「ペッパー、無理強いをしてすまなかった。だが、隠し事はよそう。私は君のことを愛しているが、君が私ではなく別の男性を選んだとしても、祝福するつもりだ。私が願うのは…」
「ちょっと待って、トニー!あなた何を言ってるの?」
大声で私の発言を遮ると、彼女は目を丸くして私を見つめた。
「誰かから何か吹き込まれたんでしょ!言ってよ!早く!」
何かがおかしい…。彼女に詰め寄られ、目を白黒させながらしどろもどろに噂について説明した。
「社員がみな噂していたんだ。ペッパー・ポッツは婚約者と指輪を買いに行っていた…と。トニー・スタークは彼女に捨てられたと…。行く先々でそれを聞い て、私を愛していると言いながら、君が他の男のモノになると思うと、嫉妬で頭がおかしくなったようだ。本当にすまなかった…」

床に手を付き、頭を深々と下げる私を、口をポカンと開け見つめていた彼女だったが、次の瞬間ケタケタと笑いだした。
「ペッパー、笑い事じゃないぞ!」
ムッとして言う私に彼女は、今度は笑いすぎて浮かんだ涙を拭いながら
「トニー。もう、トニーったら!あれはハッピーよ!実はね、あなたへのプレゼントを買いに行ってたの!もうすぐハッピーがあなたの運転手になって何年目かなんでしょ?日頃の感謝を込めてあなたに何かプレゼントしたいけど、どんなのがいいか分からないって言うから、品定めしてあげてたのよ。…もう、せっかく 内緒にしとこうと思ったのに…それにしても、ホント誰が見てるか分からないわね…。」

何てことだ…私は完全に根も葉もない噂を信じて、彼女を傷つけるところだったのか?
床に座り込んだまま唖然とする私の頭を抱きしめると、
「トニー、私も軽率だったわね…疑われるようなことしてごめんなさい。でも、これだけは信じて。私が愛してるのはあなただけよ。私は永遠にあなたのものだから。
…それにしても私ってかなりあなたに愛されてるわね。悔しいけど実感しちゃったわ…。それと、あなたの嫉妬は怖いから、これからは気を付けないと。」
と言うとクスっと笑い私の唇に優しくキスをした。

「ペッパー、本当にすまなかった。君のことを信じなかったこの馬鹿な私を許してくれてありがとう。この償いは何でもする。だから許してくれ…」
彼女に頭を抱きしめられながらモゴモゴ言うと、彼女はニヤリと笑った。
「そうねー、何してもらおうかしら…♪2人でどこか行くのもいいし…あ、それとも何か買ってもらおうかしら…」
何やら楽しげに考える彼女の様子に許しを得たことに胸を撫で下ろした。

だが、さっきから顔が…彼女の胸にギュウギュウと押し付けられていて…正直あちこちが苦しいんだが…。この雰囲気でそんなことを言おうものなら、正義の鉄拳を喰らいそうなので、私は彼女から開放されるまで必死に理性と格闘したのだった…。

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