「もうすぐ母の日です。そして来月は父の日。そこで、みんなの家族について調べてみましょう」
一年生のエストに出された宿題。みんな、誰に聞けばいいのかと頭を悩ました。
「おじいちゃんとおばあちゃんに聞けばいいよね」
と、口をそろえていうクラスメイト。だが、エストは困った顔をした。なぜならば、母親の両親は健在だが、父親の両親はとうの昔に他界しており、エストは会ったことすらないのだから…。
「どうしよう…。パパのこと、分かんないや…」
うーんと頭を捻ったエストだが、とあるクラスメイトが名案を思い付いたと言うではないか。
「エストちゃんのパパは有名人だから、新聞とかインターネットで調べればいいんだよ!」
それもそうだと顔を輝かせたエストは、そのクラスメイトにお礼を言うと、一目散に家へと帰った。
「ママ、パソコン貸してね!」
おやつもそこそこに両親の書斎に向かったエストは、早速検索し始めた。
「えっと…まずはママね…。えっと…ママの昔の名前は…。そうよ!『ペッパー・ポッツ』と…」
1秒もしないうちに、偉大なグーグル大先生は、何万件という結果をはじき出した。だが、情報量が膨大過ぎた。どれを見たらいいのか分からなくなったエスト。
「ママのことは、おじいちゃまとおばあちゃまに聞けばいいわね」
と一人納得すると、聞く相手のいない父親を検索し始めた。
母親よりも膨大な検索結果に、エストは目を白黒させた。
「パパ…すごいね…」
感心したエストは、最初に出てきたWikipediaを見始めた。
そこには、父親の誕生日や身長・体重に学歴や経歴など様々な情報が掲載されていた。
ノートを開いたエストは、とりあえず主な情報を書き取り始めた。
「えっと、パパは…アンソニー・エドワード・スターク…あれ?トニー・スタークじゃないの?…変なの…。お誕生日は1970年5月29日。パパのパパは、ハワード・アンソニー・スターク、ママはマリア・コリンズ・スターク。ふーん、おじいちゃまとおばあちゃまってこういうお名前なのね…。『15才でMIT に入学し、17才で主席で卒業、19才で2つの修士号を』…。よく分かんないけど、パパってすごいんだね。『20才時、両親が事故死し21才で社長』。パパ…かわいそう…。いっぱい書いてあるね…あ、アイアンマンって書いてある!『アイアンマンとして活動を始めたトニー・スタークは、その後キャプテン・アメリカらと共にアベンジャーズを結成』。そうだ、スティーブおじちゃんにもパパのこと聞いてみよう!それから…あ、ママ!『秘書だったペッパー・ポッツと 結婚し、現在では二人の子供に恵まれている』。あたしとエリのことだ!ちゃんと書いてあるんだね。すごいね…」
母親と出会った後のことは、母親に聞けばいいだろうと思ったエストは、別のページを見始めた。
「あれ?なんだろう、これ…」
エストが見始めたのは、いわゆるゴシップサイト。
「あれ?ママじゃない女の人がいっぱい写ってる…。なんだろう、これ…。『トニー・スタークとオンナたち』って何?」
母親のことが大好きな父親しか知らないエストは戸惑いつつもそのページを開いた。
すると、そこには明らかに若い父親が母親ではない女性とキスをしたり抱きついたりしている写真が何百枚…いや、何千枚と掲載されているではないか。中には裸で抱き合っている写真もあったが、幸いなことにエストは気付かなかった。
「パパ…」
母親ではない女性とキスする父親を見たエストの目には涙が浮かんできた。
カチカチとクリックしていると、やたらと文章の書かれたページにたどり着き、エストは涙を拭うと読み始めた。
「えーっと…『現在はペッパー・ポッツの元で落ち着いているトニー・スタークだが、数年前まではプレイボーイとして有名だった。彼と一夜を共にした女性は星の数ほどいる。女性を虜にしてきた彼の魅了を解明してみよう。彼の元セックス・フレンドに、話を聞いた』。…ぷれいぼーいって何だろう…。せっくす・ふれんどって???」
聞いたこともない単語が並ぶそのページ。エストが頭を捻らせていると、エリを抱き上げおやつを持ったペッパーが様子を見に入って来た。
「エスト?何やってるの?」
「あ、ママ!あのね、宿題よ。パパとママについて調べるのが宿題なの」
「そんな宿題が?」
「うん。ママのことはね、おじいちゃまとおばあちゃまに電話して聞けばいけどね、パパのパパとママはいないでしょ?だから、調べてたの」
エストの手元のノートには、インターネットで調べたのであろう、トニーの経歴について書き出してあった。
だが、ペッパーには気がかりなことがあった。それは、昔からトニーがゴシップ誌のターゲットにされていること…。
「パパのことならママに…」
と言いつつパソコンの画面を見たペッパーは、手に持っていたドーナツの皿を落としてしまった。
画面を見つめたまま固まっている母親。
「ママ?どうしたの?」
エストに突かれ我に返ったペッパーは、急いでパソコンの電源を落とした。
「え、エスト!パパのことはママが教えてあげるから!それに、ジャーヴィスに聞いてみなさい?いろいろ教えてくれるから!」
真っ赤になった母親を不審な目で見つめたエストだが、自分で調べるよりもそのほうがはるかに早い。それもそうよね…と考えたエストは、ペッパーの手を引くとリビングへと向かったのだった。
その夜、仕事から帰ってきたトニーが息子と遊んでいると、風呂上がりのエストが飛び掛かって来た。
「パパ!おかえり!」
顔中にキスをする娘を抱きしめたトニーは、嬉しそうに目じりを下げた。
娘と息子を膝に座らせたトニーは、毎日恒例になっている子供たちからの今日の出来事を聞き始めた。
「あのね、今日ね、パパとママのことを調べる宿題がでたの。それでね、ママにパパのこと教えてもらったのよ」
そうかと嬉しそうに話を聞いていたトニーだったが…。
「ねぇ、パパ。パパのこと調べてたらね、変な写真が出てきたの。パパがね、ママじゃない女の人とチューしてる写真!それもね、いっぱい出てきたのよ」
変でしょ?と言う娘だが、何と言っていいか分からないトニーは、引きつった笑いを浮かべた。そっとペッパーの様子を伺うと、彼女もやはり引きつった笑みを 浮かべている。
そんな両親に気付くことなく、エストは気になっていたが母親には聞けなかったことを口に出した。
「それでね、パパのことをね、『ぷれいぼーい』って書いてあったの。それからね、『せっくす・ふれんど』がいっぱいいるって…。ねぇ、パパ?『せっくす・ ふれんど』って何?」
無邪気な顔をして恐ろしいことを言い始めた娘。だが本人はいたって真剣なのだ。
父親の顔がどんどん青ざめていくのと対照的に、母親の顔は真っ赤になり始めた。
「え、エスト…そ、それはだな…。ぱ、パパがママと結婚する前の大昔の話で…」
急にしどろもどろになった父親を不思議そうに見つめたエストだが、怒り狂った母親が父親に突進してくるのに気づき、ぽかんと父親を見上げている弟の手を引くと、父親の膝の上から避難した。
「トニー!!もしかして、まだそんな女がいるの?!」
「そんなわけないだろ!!君と付き合い始めてから、オンナは君だけだ!それに、セックス・フレンドなんて必要ないだろ?君と毎日セックスしてるんだから、そんな暇はないし、他のオンナとする気もない!」
「そんなこと大声で言わないで!エストとエリが聞いてるでしょ?!」
「君が言い始めたんだろ!」
喧嘩になり始めた両親の様子に、逃げた方がいいと判断したエスト。
「ねーね、どちたの?」と指をくわえ両親を見つめる弟の手を引くと、自分たちの部屋へと駆け上がっていった。
エリを寝かせたエストは、自分も部屋に戻るとベッドに潜りこんだ。
自分のせいで両親が喧嘩になったと落ち込んでいたエストだが、しばらくすると部屋のドアが開き、慌てて目を閉じた。
「眠ったか?」
「えぇ…二人とも」
こそこそと話す両親の声には、先ほどまでの険悪な様子はない。
「しかし、娘の口から昔の話が出るなんて、思いもしなかったよ」
「ホントね。きっとこれからもこんなことがあるんでしょうね」
クスクスと笑った母親は、嬉しそうに父親と話しをしている。
「なぁ、ハニー。今日もいいだろ?ほら…セックス」
「えぇ、思いっきり愛してくれる?」
「お安い御用さ…」
微かな水音が聞こえ、エストがそっと目を開けると、父親と母親はキスをしながら部屋を出ていくところだった。
結局、『ぷれいぼーい』も『せっくす・ふれんど』もよく分からなかったエストだが、両親はお互いに愛し合っていることだけは理解すると同時に、どうやら父親の昔の話は禁句らしいと理解したのだった。
昔のネタでビクビクするような社長じゃなさそうですが^_^;