Everything Is For You ⑮

6月。今日はトニーが戻ってくる日だ。
夕方に到着する彼のために、好きな物を沢山作ってあげようと、朝からキッチンへ立っているペッパーだが…。
吐き気を催したペッパーはトイレへ駆け込んだ。
ここ数日、気分が悪いし、アレも遅れている。
最後に身体を重ねて3ヵ月。あの時、避妊もそして薬も飲んでいなかったから、当然の結果なのかもしれないが…。
もしもの時のために買っていた検査薬を手に再びトイレへ向かったペッパーだったが…。
結果は陽性。つまり彼女は妊娠していた。
「大丈夫よね…」
心配なのはトニーの反応。彼は卒業したら結婚しようと言っていた。だが、子供に関する話を彼は一切したことがなかった。もしかしたら子供は嫌いなのかもしれない…。そう思ったことも何度かある。
不安に押しつぶされそうになったペッパーだが、『大丈夫…きっと大丈夫…』と何度も自分に言い聞かせると、再びキッチンへと向かった。

夕方になり、ついにトニーが戻ってきた。満面の笑みを浮かべたトニーは、玄関先にも関わらずペッパーを抱きしめるとキスをし始めた。そしてペッパーを抱きかかえたままリビングへ向かうと、彼女をソファーに座らせたのだが、ポケットに手を突っ込んだトニーは、何か告げようとしているのか、真剣な表情になると大きく息を吸った。
(今がチャンスよ!)
何を言おうとしているのか分からないが、こうなったら早い者勝ちだ。
「と、トニー!あのね…」
と切り出したペッパーは、トニーが口を開く前に叫ぶように告げた。

「に、妊娠したの!!」

何か言おうとしていた口をあんぐり開けたまま、トニーは目をパチパチさせた。しばらくしてようやく我に返ったトニーだが、
「しまった。予想外だ…」
と呟くと頭を掻いた。
子供が出来たと告げたのに、予想外という反応しか返ってこないのだ。やっぱりダメだったのかもしれないと、ペッパーの胸に一気に不安が押し寄せた。
「予想外って…」
泣き出しそうなペッパーに気づいたトニーは、安心させるように彼女をギュッと抱きしめた。そして、飛びっきりの甘い声で囁いた。
「ペッパー、結婚しよう」
(結婚…。今…結婚って言った?!)
確かに卒業したら結婚する予定ではあったが、まさか帰宅してすぐにもう一度プロポーズされるとは思ってもいなかったペッパーは、目を白黒させている。
「会って一番に言って、俺が君を驚かせるつもりだったのに…。予想外だ…。先を越された…」
しょんぼりとしていたトニーだったが、ようやくペッパーの言葉の意味を理解したのか、今度は彼が目を白黒させ始めた。

「ちょっと待て…。妊娠って……子供が出来たのか?!」
「えぇ…」
一体彼は私の話を聞いていたのかしら…と思ったペッパーだったが、トニーは「俺が…父親…」と一人ぶつぶつと呟いている。
そして、ハッと我に返ったトニーはペッパーの肩を揺さぶった。
「い、いつ産まれるんだ?!男か?女か?!た、大変だ!色々準備しないと!!」
どれだけパニック状態なのか知らないが、こんなに慌てふためくトニーを見たのは初めてだ。大きな目をさらに見開いているトニーを落ち着かせるようにペッパーは彼の腕をさすった。
「まだ病院へは行ってないの。今朝、検査薬で調べたら陽性だったから…。あなたが帰って来てから一緒に行こうと思って…」
「そうか…」と呟いたトニーは時計に視線を送った。そして勢いよく立ち上がるとペッパーの手を握りしめた。
「まだ病院は開いてるだろ?今すぐ行くぞ!」
「え?!明日の朝でも…」
そんなに急がなくても…。それにせっかくの料理が冷めてしまうわ…と現実的なことを考えるペッパーを余所に、トニーは唾を散らしながら叫んだ。
「明日は予定がある!大事な予定があるからダメだ!」
(大事な予定って何よ!)
サプライズにしておきたいのだろうが、トニーの考えていることがさっぱり分からないペッパーは、慌てて用意をするとトニーの後を追いかけた。

「おめでとうございます。妊娠3ヶ月目に入られてますよ」
診察を終えた医師からそう告げられると、2人は顔を見合わせた。
「ペッパー…」
震える声でそう呟いたトニーだが、次の瞬間…。

「やったぞ!!!!」

病院中へ響き渡るような大声で叫んだトニーは、ペッパーを抱き上げるとキスをし始めた。
「と、トニー!!」
真っ赤になったペッパーは何とか身体を引き離したが、すっかり舞い上がっているトニーは聞いていない。そのまま診療室を飛び出して行ってしまったトニーの後を、医師にお礼を言ったペッパーは、またしても慌てて追いかけて行った。

⑯へ…

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