12月に入ると、2人の家には大きなツリーが飾られた。共に迎える2回目のクリスマス。去年はまだ付き合い初めて間もない頃だったので、今年は特別な夜にしようとトニーは張り切ってきた。が、スターク・インダストリーズは毎年クリスマスにパーティーを開催している。主催者はもちろんスターク家。たった1人の『スターク』であるトニーは、ホストとして出席せねばならない。去年もそれでペッパーとは過ごせなかったのだ。
一瞬頭を悩ませたトニーだったが、すぐに名案を思いついた。簡単なことだ。ペッパーもパーティーに連れて行けばいいのだと…。
ということで、クリスマス当日、トニーはペッパーを連れて実家へと戻った。
今では常時住む者のいない屋敷も、ジャーヴィス夫妻のお陰で、亡き両親が住んでいた頃のようにきちんと管理されていた。
車から降りたペッパーは、初めて来るスターク邸のあまりの大きさに口をポカンと開けている。
「す、凄いお家……」
広大な敷地にそびえ立つ家には、これまた広大な庭が広がっている。トニーの話だと、馬やヤギばかりか、アルパカまでおり、さながら動物園のようだと聞き、ペッパーは再び目を丸くした。
「後で案内す…」
と、トニーの言葉は鳥の鳴き声に遮られた。見るとピンク色の鳥がこちらに向かってバタバタと小走りでやって来るではないか。
「に、庭にフラミンゴがいるの?!」
動物園でしか見たことない鳥に、ペッパーはあんぐりと口を開けたままだ。
「あぁ、親父がロスに来た時から飼ってる鳥で、バーナードって言うんだ。あいつ、俺より長くここにいるからか知らないけど、生意気なんだよな」
近づいてきたフラミンゴは、トニーの側で澄まして佇んでいる。その頭を突いたトニーだが、バーナードと呼ばれるフラミンゴは、興味なさそうにそっぽを向くと、今度はペッパーのそばに歩み寄った。
「おい、バーナード。俺の奥さんになる人だ。追いかけ回して虐めるんじゃないぞ」
トニーをじっと見つめたバーナードだったが、ペッパーにすり寄ると、撫でてくれというように首を伸ばした。
「あら、可愛いじゃない。よろしくね、バーナード」
頭を撫でられ気持ちよさそうに目を閉じたバーナード。いつも逃げるか威嚇されるばかりのトニーは、思わず苦笑した。
「…なんでペッパーにはすぐに懐いてるんだよ…」
片目を開けたバーナードは、『ざまあみろ』というように、小さく鳴き声を上げた。
「おかえりなさいませ、トニー様、ペッパー様」
リビングでは、ジャーヴィス夫妻が待ち構えていた。優しげな老婦人はペッパーの姿を見ると顔を輝かせた。
「ペッパー様!ずっとお会いしたかったんですよ!」
歓声を上げた老婦人は、ジャーヴィスの妻アナ・ジャーヴィス。熱烈な歓迎を受けたペッパーは、すぐにアナとも打ち解け、パーティーの準備を始めた頃にはまるで親子のように仲良くなっていた。
「ペッパー様のおかげでトニー様は変わられました。本当にありがとうございます」
ヘアメイクをしながら、アナは鏡の中のペッパーに微笑んだ。
「私こそお礼を言いたいんです。トニーは私を過去の呪縛から解き放ってくれましたから…」
肩に置かれたアナの手は温かく、その手をそっと握り返したペッパーはニッコリと笑った。
準備が整ったペッパーはリビングへ向かった。トニーはまだ降りてこない。暖炉の上にはスターク家の写真が沢山飾ってあり、その中には幼い頃のトニーを抱いた家族写真もあった。3人とも笑顔のその写真の中には、幸せ以外何もなかった。
「お父様、お母様、初めまして。ヴァージニアです…。トニーのことは、これからも私が守ります…。だから安心して下さいね…」
ペッパーの言葉に、写真の中のハワードとマリアはかすかに笑みを浮かべた気がした。
パーティーに向かうと、予想通り2人は注目の的だった。同伴している女性は誰だと周囲がざわめき立つ中、挨拶にとステージに立ったトニーは、決まりきった文句を一通り言った後、ペッパーをステージに引っ張りあげた。
「今日は皆さんに紹介したい女性がいます。ヴァージニア・ポッツさん…僕の婚約者です」
その場が一気にざわついた。トニー様はまだ高校生のはず…。それなのにいつの間にか婚約とはどういうことなのだ…。ハワード様とマリア様はご存知なのか…。そもそも、お2人は今年も姿を見せないのだろうか…。
ざわつく会場をステージから見渡していたトニーだが、誰かが声を上げた。
「ハワード様とマリア様はご存知なのですか?」
一瞬トニーが息を飲んだ。繋がれた手に力が入りペッパーは思わず彼を見つめたが、そんなことはおくびにも出さないトニーは
「父と母にも紹介しました。2人とも喜んでくれました」
と静かに答えると、ペッパーの手を引きステージを降りた。2人が席に着いたのを確認すると、司会をしていた社員が口を挟んだ。
「トニー様、ヴァージニア様、ご婚約おめでとうございます。お2人のご婚約に関して、ハワード様とマリア様からお手紙を預かっておりますので、読ませて頂きます」
「手紙?」
さすがにトニーも眉を顰めた。両親は手紙を書くなんて出来ないのだから、きっと事情を知っている重役の誰か…おそらくオバディア辺りが適当に書いたのだろうとトニーは思ったのだ。
咳払いをした社員は、よく通る声で手紙を読み始めた。
「愛するトニーへ
本当なら、今この場であなたのことを抱きしめてあげたいけど、それが出来ない私たちを許して。
思えばあなたには小さい頃から寂しい思いばかりさせてきました。どんなに遠く離れていても、あなたは私たちの可愛い息子…。だからハワードも私もいつもあなたのことばかり考えていました。
そんなあなたから、結婚したい女性がいると言われたのは、あなたがアカデミーに入学して間もない頃。私もハワードも正直、まだ早いと最初は反対だったわ。でもあなたは頑として譲らなかった。あなたがこんなにも意見を曲げなかったのは、初めてのことだったわ。それだけに、あなたの決意が揺るがないものだと感じました。そしてあなたの話を聞いているうちに、ヴァージニアさんがあなたのことを本当に大切に考えてくれているのだと分かりました。
ヴァージニアさん、トニーのことをよろしくお願いします。トニーは本当に心の優しい子です。でも、そのせいで、自分を押さえ込み我慢するところがあります。でもあなたなら、安心してトニーのこと任せられます。あなたなら、何があってもトニーのことを支えてくれると、あなたに初めてお会いした時、確信しました。ですから、私たちの代わりに、あの子のそばにずっといてあげて下さい。私たちもあなたたちの幸せを願っています。
それから社員の皆様。トニーと、そしてヴァージニアのこと、これからも温かく見守ってやって下さい。よろしくお願いします。
ハワード・スターク、マリア・スターク」
目をぱちくりさせていたトニーだったが、会場はいつの間にか拍手と涙で溢れかえっていた。
司会者から手紙を渡されたトニーは慌てて立ち上がると、ゲストに向かって頭を下げた。
そして涙に暮れるペッパーと共に手渡された手紙を開いたトニーは息を飲んだ。それはアナ・ジャーヴィスの筆跡…つまり…。
「ジャーヴィスさんとアナさんからの手紙だったのね…」
2人とも、幼い頃からトニーの親代わりだった。それだけに、今は亡きハワードとマリアの心境を一番理解しているジャーヴィス夫妻からの手紙は、本当に亡き両親から届いた手紙のように感じたのだろう。
小さな涙を流したトニーは、黙ったまま頷くと、大切そうに懐に手紙を収めた。
帰宅するとジャーヴィスとアナが2人を出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、トニー様、ペッパー様」
出迎えてくれたジャーヴィスに、トニーは何も言わず抱きついた。
「坊っちゃま…」
小さく嗚咽を漏らすトニーを小さい頃のようにギュッと抱きしめたジャーヴィスは、黙って彼の背中を撫でた。
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ジャービスの嫁が「アナ」なのと、バーナードくんネタは、Agent Carter S2から。