IM3EDのおまけ映像後。
「…いうことだ。おい、今度は聞いていただろうな?」
「…あぁ」
寝ぼけ眼を擦りながら、彼に見つからないように欠伸をする。だが、意外と目ざとい彼は、僕がまたしても眠ってしまったのを見抜いていた。
「…では、私の話を要約してみろ」
不機嫌そうに唸った彼は、大きな目を細めて僕を睨んだ。
「君は…トニー・スタークは、結局のところアイアンマンだってことだろ?」
大きく伸びをし、目の前の男を見つめる。彼―トニー・スタークは、目を見開いて僕を見つめていたが、腑に落ちない顔をして頭をかいた。
「まぁ…そういう事だが…。おい、ブルース。君は最後のところしか聞いていなかったんだろ?」
せっかく胸の内を話したのに…とブツブツ文句を言うトニーを宥めながら時計を見ると、すでに夕方の6時を示していた。
そろそろ小腹が空いてきたな…と、まだぼーっとする頭で考えていると、タイミング良く一人の女性がラボに入って来た。
「二人とも、夕飯にしましょ?」
艶やかな笑顔を向けたトニー・スタークの恋人…いや、婚約者のミス・ペッパー・ポッツは、手招きするトニーの元に歩み寄ると首筋に腕を巻きつけ彼にキスをした。
「トニー、悩みは解決できた?」
「それがだな…ブルースの奴、すぐに眠ってしまって聞いていなかったんだ。そうと知らずに私は何時間も一人ベラベラと喋り続けたんだ。まったく酷い奴だ」
文句を言いながらも嬉しそうなトニー。クスクスと笑ったペッパーは、僕の方を向き苦笑い。
「ごめんなさいね、ブルース。トニーの話は長くてつまらないでしょ?でも、彼もあなたに聞いてもらえてよかったって思ってるわ。そうでしょ、トニー?」
心を読まれて照れくさいのだろう。仏頂面をしたトニーは立ち上がると、ペッパーの手を取った。
「ほら、せっかくの君の料理が冷める。早く食べよう」
***
あのNYでの出来事の後、宿なしだった僕はそのままスターク・タワーに居候させてもらっていた。マリブの家へ帰る時も、トニーとペッパーは僕に出て行けとは言わず、むしろ自由に使ってくれと言ってくれた。その言葉に甘えて僕は実験をし、過ごさせてもらっていたんだけど…。
あのマンダリンの事件で、トニーは全てを失った。いや、全てではないな…。
大切な物を取り戻した彼は、あの事件を機に生まれ変わることができたらしい。
あの後、二人は元の自宅が再建されるまでビバリーヒルズに家を買ったけど、時折NYにも戻ってくる。
今日も突然戻って来たかと思ったら
「おい、ブルース。聞いてくれ。暇だろ?」
と、いきなり話し始めたんだから…。
とは言っても、こっちへ来ると最低でも一週間は滞在するから、僕もトニーといろいろ話をしたり、ペッパーの手料理を食べられたりと、有意義な時間を過ごせるから楽しみなんだけどね。
今回もいつものように、ペッパーの料理を堪能しながら、三人で他愛もない話で盛り上がった。そして、深夜近くになり僕たちはそれぞれの部屋に戻って行った。
だけど、久しぶりに飲みすぎたためか、目が冴えてしまいなかなか寝付けない。読みかけの本でも読もうかと起き上がった僕ははたと気づいた。あの本は、リビングに置きっぱなしだという事に…。
「しまった…」
リビングへ行くには、彼らの寝室の前を通らないといけない…。
別に夫婦…いや、まだ夫婦じゃないか…だからいいんだけど、あの二人…というよりもトニーは若干羞恥心が欠けているところがあるのか、時折オープンすぎる ことがある。いつだったか、うっかり寝室の前を通りかかったら、ドアが少しだけ開いていて…僕は二人の情事の声を聞いてしまったことがある。それ以来、あ の二人がいる時には、できるだけ寝室の前は通らないようにしているんだ…。
しばらく悩んでいたけど、やはり本の続きを読みたいという誘惑には勝てず、僕はそっと部屋の外へ出た。
幸いと言うべきか、廊下は静まりかえっていた。
やれやれと胸を撫で下ろした僕は、件の部屋の前を通り過ぎリビングへと向かった。
リビングのソファーの上に置かれた本を手に取った僕は、ついでにトイレへ行こうとバスルームへと向かった。
「あれ?使用中か?」
バスルームのドアが開いているのか、廊下に明かりが漏れている。
頭の隅でもう一人の僕が近づくなと警鐘を鳴らしていたけど、僕はその声を無視してバスルームへ近づいた。すると、シャワーの音とともに、何かぶつかりあう音が聞こえてきた。
(しまった…)
そこで足を止めればよかったんだ…。でも、僕の足は意に反して扉の前へ向かっている。
僕が扉のすぐそばまでたどり着いたその時だ。
「ペッパー…ほら、イケよ」
という、いつになく甘いトニーの声が聞こえたと思ったら…。
「い…いやぁ…と、トニー…も、もうダメぇ!!いっちゃうぅぅ!!!」
妙に艶めかしいペッパーの声が廊下にまで響き渡った。
それが何を意味するのかもちろん理解している僕は、トニーの嬉しそうな声が聞こえる中、一目散に部屋へ戻った。
急いで部屋に戻った僕は、すぐにベッドに入り頭からシーツをかぶった。が、先ほどのペッパーの声が頭から離れない。そればかりか、二人がバスルームで抱き合いコトに及んでいる姿を思い浮かべてしまい…。結局僕は一晩中眠れなかった。
翌朝、眠い目を擦りながら自室にあるバスルームへ向かった僕は、髭を剃ろうとクリームへと手を伸ばした。クリームを塗り寝ぼけ眼で剃刀を当てると顎下と頬 を剃っていく。だけど、頭がぼーっとしている状況での髭剃りは危険極まりない。あっ!と思った時には時すでに遅し…。僕の頬には大きな切り傷が残ってい た。
思ったより深く傷つけたのか、ポタポタと血が流れ続け、僕は慌ててタオルで押さえると、手当をするためにリビングへと向かった。
「あら、おはよう、ブルース」
リビングではペッパーが膝に乗せたパソコンで仕事をしていた。
「おはよう、ペッパー。朝早くから仕事かい?トニーは?」
「えぇ、メールだけチェックだけは毎日しておかないとね…。トニーはまだ寝て……。あら?ブルース。どうしたの?」
画面から顔を上げたペッパーの目が、僕の顔にくぎ付けになった。
血に染まったタオルを見たペッパーは、パソコンを机の上に置くと、心配そうに僕に駆け寄って来た。
「あぁ…朝からしくじってしまってね」
苦笑する僕の手を握ったペッパーは、ソファーへ僕を座らせた。
「大変。手当するから待ってて」
そういうと、バスルームから救急箱を持ってきた彼女は、僕の血に触れないようにしながらも、手際よく手当てしてくれた。
頬の傷を消毒したペッパーは、大きなバンドエイドを貼ってくれた。
「はい、できたわよ」
無意識だろうが、彼女は僕の頬を撫でるとニッコリと笑った。
その笑顔に、昨晩聞いた痴態を思い出してしまった僕は、真っ赤になった顔を隠すようにタオルで覆った。
「うまいね」
「えぇ、トニーがよく怪我をして戻ってきていたから…それで上手くなったのかしら?」
小さく笑ったペッパーは、いまだに顔を赤らめている僕に気付いたのだろう。不思議そうな顔をして僕をじっと見つめた。
「あら?ブルース、顔が赤いけど、熱でもあるの?」
そう言うとペッパーは僕に顔を近づけ、額を手で触れた。
きっとトニーにそうしているんだろうが…。鼻先が付きそうなくらいの近距離。こんな場面を彼に目撃されたら…と、身を引こうとしたその時…。
「おい、何してるんだ?」
頭上から響き渡ったのは、やけに低音の恐ろしい声。
恐る恐る顔を上げると、眉間に皺を寄せ不機嫌なトニーが仁王立ちで僕たちを見下ろしている。
「と、と、トニー…」
やましいことがある訳ではない。ただ、彼の全身から発せられるオーラは、あのNYを襲ったチタウリ軍よりも恐ろしく、僕はロキの魔法にかかったように身動き一つ取れず固まってしまった。
そんなトニーをもろともせず、ペッパーは立ち上がると彼に抱きつきキスをした。
「あら、トニー。おはよ。ブルースが髭剃りに失敗したみたいで、手当てしてたのよ」
ご機嫌斜めなトニーに気付いたのだろう。胸元に顔を擦り寄せたペッパーは甘えた声でトニーに囁いた。
「ねぇ、ご飯出来てるわよ。あなたの好きなハンバーガーを作ってみたの。食べてくれる?」
愛する女性に上目使いで囁かれ、不機嫌だったトニーもさすがに嬉しそうに笑った。
「あぁ。それと、後で君を頂いてもいいか?」
にやりと笑ったトニーに、ペッパーは恥ずかしそうに抱きついた。
「もう…仕方ないわね…」
はっきり言って声をかける隙すらない。抱き合ったままの二人は、そのままキッチンへと消えていった。
(僕は退散した方がよさそうだな…)
近くでコーヒーとサンドイッチでも買って、散歩がてらセントラルパークへでも行こうか…と腰をあげると、さっきとは打って変わって上機嫌なトニーが、僕の方へ駆け寄って来た。
「おい、ブルース。早く来い。君の分のハンバーガーがなくなるぞ?」
「いや、僕はお邪魔だろ?外で食べるよ」
遠慮して言ったつもりなのに、トニーはしかめ面をした。
「おい、何を言っているんだ?邪魔だと?そんなことあるわけないだろ?もしかして私とペッパーの邪魔をしないようにと思っているのか?別に遠慮するな。それに、昨日は君に話を聞いてもらっただろ?まぁ、君はずっと寝てたが…。お礼ではないが、今晩外へ食べに行こう」
ベラベラと喋ったトニーは、僕の手を引っ張るとキッチンへと向かった。
さっきの会話だけではない。昨晩のペッパーを思い出すと、心拍数が上がって『もう一人の僕』が登場しそうなんだ…とは、口が裂けても言えない僕は、結局その日一日中、ペッパーの顔をまともに見ることができず、二人に不審がられたんだけどね…。
その後、マリブに帰る二人に一緒に行こうと誘われたけど、僕は丁重にお断りした。だって、毎日あんなことを見せられたら、僕の身がもたないから…。
フォロワーさんに献上したSSです。トニペパ前提の科学組の話です。アベンジャーズ後、博士はスタークタワーに居候させてもらっている設定です。