「パパ!おたんじょうびおめでとう!」
3歳の娘が差し出したのは、私がよくTシャツを買う店の紙袋だ。
「何が入ってるんだ?」
袋の中身は容易に予想がつくが、わざと眉を顰め分からないふりをする。
「パパのすきなものよ」
澄まして答えるその顔は、まるで母親そのもので、ペッパーはどこに行ったのだろうかと頭に浮かんだ考えを追い払うかのように、私は袋を豪快に開けた。
娘が私の誕生日プレゼントにくれた物、それは私が好きなバンドのTシャツ。偶然か、それとも店員の入れ知恵なのか、Tシャツはつい先日私が店で購入しようか迷っていた物だった。
「おい、エスト。これはパパが欲しかったTシャツじゃないか!エストが選んでくれたのか?」
大袈裟にではなく、本気で喜んでいるのを感じ取ったのか、娘はこれ以上ないような満面の笑みを浮かべ、私に抱きついてきた。
「そうよ。あたしがそれがいいってママにいったの」
ニヤニヤと笑ったその顔は、ペッパーではなくやはり私に似ている。
「そうか。さすがパパの娘だな」
柔らかな頬を撫でキスをすると、娘はクスクスと笑い声を上げ、お返しと言うように私の頬にキスの雨を降らしてくれた。
***
「トニー、お誕生日おめでとう」
ようやく2人きりになれたのは、3ヶ月になった息子を寝かしつけたペッパーが寝室に戻って来てからだった。
「ハニー、君からの誕生日プレゼントをまだ貰ってないぞ?」
形に見える物は貰った。娘からは欲しかったTシャツを、そしてペッパーからは家族4人の名前の彫られた腕時計。だが、この時間帯なのだ。そんなことを言っているのではないことは、ペッパーも重々理解しているはずだ。
「まだ29日よ?焦っちゃだめよ」
クスクスと笑ったペッパーは、身体をわざとらしくくねらせると、手早く服を脱いだ。衣服の下から現れたスレンダーな身体は、布切れと言ってもいいだろう、隠す気があるのだろうかと思うような下着のみで、私は思わず口笛を吹いた。
「ペッパー、そんな下着は着ている意味がない。私が脱がせてやろう」
眉を吊り上げた私の隣に横たわったペッパーは、私の胸板に指を滑らせた。
「あなたの誕生日よ?好きにして?」
ようやく誕生日プレゼントを頂けると、ニンマリした私がペッパーを押し倒し、胸を掴んだ時だった。
『トニー様、ペッパー様、エリオット様が目を覚まされました』
非情にも響き渡るJ.A.R.V.I.S.の声に、ペッパーは私を押しのけ起き上がった。先程までのオンナとしての顔ではなく、母親の顔をしたペッパーは、唖然としている私の唇にキスを落とすと、足元に散らばっている服を身につけた。
「トニー、すぐに戻ってくるわ。だから待ってて」
足早に部屋を後にするペッパーを見送りながら私は、分かってはいるが、息子に小さな嫉妬心を抱かずにはいられなかった。
その嫉妬心は満更間違いではなかった。というのも、その夜息子は2時間毎に目を覚まし、結局私たちは愛し合うことが出来なかったのだから…。
***
翌朝。
「何てことだ…」
ベッドに座り込んだトニーは、一人頭を抱えていた。
「仕方ないでしょ?」
一方、ペッパーはと言うと…額に手を当てると呆れたように目を回した。
「だが…エストは泣きもせず眠っていた!どうしてだ…」
せっかく妻と2人きりの誕生日の夜を過ごす予定だったのに、それを妨害したのは息子の夜泣き。相手は3ヶ月の乳児だ。しかも目に入れても痛くない程溺愛している息子だ。長女は夜泣きもほとんどなかったのでつい比べてしまったが…。まだ泣くことでしか表現できない年なのだ。仕方ないことだと分かっている。
「トニー、お願いだからエリのこと、叱ったりしないでよ?!」
トニーのイラついた様子に、ため息混じりにペッパーが告げると、トニーは肩をびくつかせ叫んだ。
「そんなことする訳ないだろ!いくら私でも、息子に嫉妬する訳がない!」
やけにビクビクしているトニーに、ペッパーは思った。嫉妬しまくってるわね…と。
***
その夜…。
「寝たか?」
子供たちを寝かしつけたペッパーは頷くと、ベッドの脇に立った。そして、ナイトガウンを肩から滑り落としたペッパーは
「昨日のプレゼント…渡していい?」
と、可愛いらしく小首を傾げた。
そんなペッパーの仕草に下半身が熱くなったトニーは、ペッパーの腕を引っ張るとベッドに押し倒した。
「お預けくらったんだ。覚悟しろ」
あっという間に下着を剥ぎ取ったトニーは、ペッパーの胸にむしゃぶりついた。
左手で胸への愛撫を加えながら、立ち上がった胸の先端を甘嚙みすると、ペッパーの口から甘い吐息が漏れた。妻の反応に気を良くしたトニーは、右手で茂みを掻き分けると、くちゅっという水音を立てながら中へと指を進めていった。
暫くトニーの指使いを堪能していたペッパーだが、実は彼女も昨晩から待ち望んでいたのだから、一刻も早く彼と一つになりたくて仕方なかった。そこで、両足でトニーの身体を挟み込んだペッパーは下唇を噛むと、甘えた声で囁いた。
「プレゼントよ…。あなたの好きにして?」
ふんっと鼻を鳴らしたトニーは舐め回すようにペッパーの身体を見つめると、身体を屈めてねっとりとしたキスをした。
「では、頂くとしようか…」
両足を割ったトニーは暴れる自身を掴み、うっとりとしているペッパーの蜜の滴る泉へ………。
「うぇぇぇーん!!!」
スピーカーから聞こえてきた泣き声に、トニーは目を見開いた。
「おい!このタイミングか?!」
よりによってこの絶妙なタイミング。欲しくて堪らないものは目の前にあるのに、どうして手に入れることができないのかと、トニーは頭を抱えた。だが、昨日に引き続き今日も…と言うわけにはいかない。これは息子を説得するしかないと考えたトニーは、物凄い勢いでベッドから飛び起きると、そのままドアに向かって突進した。
「私が行ってくる!」
「ちょっと!トニーったら!」
裸で飛び出していった夫は止めることができない。シーツで身体を隠したペッパーはため息をつくと、ころんとベッドに横になった。
ベビーベッドの中で顔を真っ赤にして泣き叫ぶ息子をトニーは抱き上げた。
「オムツ…ではないな?おい、エリ、どうした?」
小さな身体を抱きしめると、エリオットはピタリと泣き止み、涙に濡れた瞳を父親に向けた。これはチャンスとばかりに、小さく咳払いしたトニーは、息子に向かって話し始めた。
「なぁ、息子よ。頼むから今夜は静かに眠ってくれ。昨日はパパの誕生日だった。お前は知らないかもしれないが…。パパはママからプレゼントを貰う予定だった。だが、昨日のお前は不機嫌で、パパはお預けくらったんだ。だから今夜、ママからのプレゼントを貰うことになっている。ママからのプレゼントは、パパとママ、2人きりでないと貰えない特別な物だ。つまり何が言いたいかというと……。頼むから、今夜だけは…いや、5時間くれ!5時間でいいから、ゆっくり眠ってくれ!言う事を聞いていい子にしていてくれたら、車を…いや、車はまだ早いな…。そうだな…特大のアイアンマンのぬいぐるみを買ってやる!分かったか?」
唾を散らしながら力説する父親をキョトンと見ていたエリオットだが、トニーがじっと見つめると、「あーあー」と声を出し、ニッコリと笑った。
「さすが私の息子だ!よし!頼むぞ!」
ご機嫌なままウトウトし始めた息子をベッドに下ろしたトニーは、急いで寝室へと戻っていった。
「ハニー、待たせたな!」
ベッドに向かって突進したトニーは、そのままダイブすると、ペッパーの身体からシーツを剥ぎ取り、両足の間に身体を入れた。そして、おかえりと言う暇もなく、ペッパーは身体を貫かれ、悦びの声を上げた。
「と、トニー……んっ…え、エリ…は……あぁぁ…」
リズミカルに打ち付けられ、身体を跳ね上がらせるペッパーに、トニーはニンマリと笑みを浮かべた。
「5時間くれと言ってきた。だから、ペッパー、5時間は君と愛を交わせる」
5時間も?!と、目を白黒させたペッパーだが、結局翌朝までエリオットは目を覚ますことがなかったため、トニーは一晩かけてじっくり誕生日プレゼントを堪能することができたのだった。